○国道 夕方
走っている黒い車。
○黒い車 車内 夕方
運転している歴史家。後部座席で善知鳥は窓の外を見ている。
善知鳥「……浅慮だな。リスクヘッジが甘い。ミスター・アトロフスカは御子息の反抗を我らに言うべきだった」
歴史家はバックミラー越しに善知鳥を見る。
歴史家「お前はあれに何を求める?」
善知鳥は歴史家に目を向ける。
善知鳥「……現状、ミスター・アトロフスカに求めることなど何もない。むしろ彼は我々の期待通りに動いている」
歴史家「そうだ。セオドア・バリュエレータ・アトロフスカは己が慢心で身を滅ぼす。 ……そういう筋書きのはずだ。なのにお前の発言には彼に危機管理を促すようなものがあった。どういう意図がある?」
善知鳥「(鼻で笑う)意図などあったものではないよ。ただの気まぐれだ。彼には早々に舞台から降りてもらうことに変わりはない。 ……そうだな。どういう理由であれ、親族で争うのは忍びないと思った。 ……ということにしておこう」
歴史家「……おかしな男だ。そもそもアトロフスカの子を唆したのはお前だろう」
善知鳥は微かに笑う。
◯ルイスの家 庭
小雨が降っている。
雨空を見上げているなずな。
切能の声「良い庭です。細部まで手入れが行き届いている」
雑草一つない庭。遊具は雨にさらされている。
傘を差したなずなと切能。
なずなは黙って庭を見ている。
切能「……先ほどは申し訳ございませんでした」
なずなはちらりと切能を見る。
切能は庭を見ている。
なずな「……どうして貴女が謝るんですか?」
切能はなずなに目を向ける。
なずな「……リュカくんは間違ってないんです。私は笑うべきだった。……どうして笑えなかったのか逆に不思議なくらいで……」
なずなは暗い笑みを浮かべる。
切能「母の死を悼む。それは人の子として当前のこと。決して間違ったことではありません」
なずな「だからそれは家族の話でしょ?」
切能を見つめるなずな。
切能「そう、これは家族の話です。……そして、貴女の話でもあるのです」
なずな「貴女は私の何を調べたんですか? ……私には母親なんていない。わからないはずがないですよね!?」
語気を荒らげるなずな。
切能はなずなに顔を向ける。
切能「貴女に家族などいないと?」
俯くなずな。
なずな「(消え入りそうな声で)……いないに決まってるじゃないですか……」
切能「……では、何故貴女はそんなにも心を乱されているのです?」
なずなは目を見開く。
切能「御自分の心に耳を傾けなさい。どんな理由があるにしろ、貴女は母君との繋がりを掴み切れていないのです。母の死を笑うなど答えが出てからでも遅くはありません。今はただ、考えなさい。貴女にはそれが必要なのです」
なずなは黙っている。
雨が強くなる。
切能「……雨が強くなってきましたね。お体に障ります。戻りましょう」
○同 客室 夕方
ルイスはしゃがみ込んで血の染み付いたカーペットを見ている。ため息をつく。後方にはダグマル・クリューガー(六一)が控えている。
ルイス、ソファで寝そべり欠伸をしているリュカを横目で見る。
○同 客室前 夕方
ドアに背を預けアーサー・ペンドラゴンは腕を組んでいる。
○同 客室 夕方
雨の音が聞こえる。
椅子に体を丸めて座っているなずな。
○グレアムホテル スイートルーム 夜
卓上には駒(ポーン)が二つ倒れている。
使い魔のコウモリを通した都内各地の映像が宙に映し出されている。
セオドアは映像を見つめている。
映像の一つにリュカを連れてルイス邸を出ていくヘレンとエイプリルの姿が映し出されている。
○ルイスの家 夜
コウモリが飛んでいる。体が不規則に揺れ、瞳は虚ろである。
コウモリを見上げるルイスとリュカ。
その隣でコウモリに手を向けているエミリア。
○インサート
夜空に月が浮かぶ。
○東京都庁第一本庁舎 屋上 夜
外套に身を包んだなずな、ルイス。
視線の先では毅然としたアーサーが眼下に広がる庭園を睨んでいる。
T「新宿御苑」
ルイス「……大丈夫」
なずなはルイスに目を向け、頷く。
ルイスは微笑む。
ルイス「では、お願いします」
ルイスの視線の先にはアーサーがいる。
○母と子の森 夜
森の中の遊歩道を歩くリュカ。
並び立つラクウショウの木の間から月が見える。
○東京都庁第一本庁舎 屋上 夜
アーサーは頷き、右手を高らかに上げる。右手の周辺に光子が集まり、両刃直剣が姿を現す。
アーサー「始めますわよ」
アーサーはエクスカリバーを手に取り、切っ先を天に向ける。
アーサー「……束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流」
眩い光が周囲を照らし、切っ先から放たれる光の帯が夜空に向かって伸びていく。
アーサー「
アーサーは剣を振り下ろす。
光は奔流となって庭園に流れ込んでいく。
○タイトル
黒み
T「雨:母と子」
了