夕暮れ、砂浜にて。上条当麻と上条刀夜の親子がいた。
「帰ってきたのか?母さんも一緒か?」
俺がなにも知らないと思って父さんは普通に話しかけてきた。
「・・・どうしてだよ」
「?。それより新しい家どうだ?前より広くなっただろう」
「・・・すっとぼけてんじゃねえよ!」
「何を言ってるんだ?当麻」
「分かってんだよ!父さん!どうして魔術なんていうものに手を出したんだ!?」
「・・・」
俺が言った事に父さんは少し驚いた表情をして空を見上げた。
「なんで!?どうして!?何かに悩んでいたんなら俺に一言言ってくれればよかったじゃないか!」
「・・・そうか。知ってしまったんだな・・・当麻、お前が小さい頃周りからなんて呼ばれていたか覚えているか?」
「?」
「厄病神。何故だか分からないがお前の周りで不幸なことがたくさん起こったんだ。お前はただその場所にいただけなのに周りの人間はそういう事に迷信を感じてなお前のことを厄病神と呼んでお前のことを忌み嫌っていた。お前を学園都市に入れた理由もそれだよ。迷信とかのオカルトとは無縁の科学の街ならお前のことを忌み嫌う存在もなく、暮らせるだろうと思ってな。でも科学でさえお前を拒んで不幸体質は変わらなかった。だから私は世界中のお守りやオカルト的なものを調べてお前の不幸をなんとかしようとしたんだ。皮肉なもんだ、オカルト的迷信からお前を離したのに、再びオカルトに頼っているなんて」
話をする父さんの顔には長年の苦労を感じさせるような哀愁が漂っていた。
「・・・・勝手に決めつけてんじゃねえよ。上条当麻が不幸な人生を生きていたなんて勝手に決めつけてんじゃねえ!!」
「当麻」
「俺は幸せだったんだ!父さんがいて母さんがいる、それだけで幸せだったんだ!そんな勝手な思い込みでオカルトなんか手を出してんじゃあねえよ!!」
「・・・・」
俺は前の俺を知らない。だから幸せだったかもちろん覚えていない。でも残っているんだ、俺の心に。上条当麻は優しい両親に愛されて育った、沢山の愛情を受けて幸せに生きていた、それだけは心にあるんだ!
「はは、何を俺は悩んでいたんだろうな。愛する息子に気づかせてもらうなんて、ああもうこんなバカらしいことやめるよ」
父さんに俺の思いが伝わったようだ。
「父さん、じゃあ
「?なんのことだ、それは」
「とぼけるなよ父さん。さっきやめるって」
「ん?お土産で買っているお守り集めのことだろう?」
え?どういうことだ?父さんが術を発動させたんじゃないのか?
「ひとつ聞く、母さんは今どこにいるか分かるのか?」
「母さんはお前と一緒だったんだろう。お前の方が知ってるんじゃないのか?」
入れ替わりに気づいていない?
「あ、ミーシャちゃん。さっきは母さんに付いてってくれてありがとう」
するとミーシャが現れた。だがミーシャの様子は世間話をする感じではなかった。
「ミーシャ!少し待ってくれ!父さんも入れ替わりに気づいていないんだ、これって!?」
「回答1、標的を捕捉。私見1、まったく無駄なことだった」
ミーシャは俺の話を聞かず懐から鉈を取り出した。
「あなたは神の命なしに人を殺められる立場にいつなったんでしょうか」
神裂が現れた。
「神裂!ミーシャは誤解しているんだ!」
「上条当麻!上条刀夜氏を連れてここから直ちに去りなさい!」
「神裂!」
神裂が戦闘態勢でミーシャの前に立ちふさがった。
「神裂、ミーシャに父さんは術者じゃないって言ってくれ!」
「いいえ、言っても無駄です。状況はそう単純なものではなくなったようです」
「どういうことだ!?」
「先程、ロシア正教会に問い合わせたところミーシャ・クロイチェフという人間は所属していないことが判明しました」
「じゃあ彼女は誰なんだ?」
「彼女の本当の名前はサーシャ・クロイチェフ。まったくミーシャなど分かりやすい天使の名前を使うなど、堂々としていますね」
「天使だって!?・・・・そうか、
「その通りです。本来なら天使という人外の代物が人間の体に宿るなどあり得ませんが、今目の前に存在し我々に牙を向いている。そして彼女は術者の命を狙っていた。だから上条当麻、ここから上条刀夜を連れて離れてください!」
「そんなことできねえ!俺も戦う!あいつは俺の右手を避けた、だったらイマジンブレイカーが使える!」
「ふふ、やはりあなたはそういうと思いました。しかし聖人の私でさえ天使に勝てるほどの力はありません。せいぜい時間稼ぎが限界でしょう。だから上条当麻、
神裂は何かを覚悟したように言った。
「分かった!勝手に死ぬなよ!」
☆☆☆☆☆☆
空が一瞬にして暗闇に変わった。
神裂はミーシャと対峙している。
「なるほど自身の属性強化のための夜ですか。水の象徴にして青を司る、月の象徴にして後方を加護するもの。その名は《神の力》」
ミーシャの背中から氷のような翼が生えて空中に移動した。そして夜空一面に術式が張られた。
《一掃》。かつて堕落した文明の国を滅ぼすため、構築された広範囲に破壊を行う火矢を放つ術。
ーーーまともに食らえば私でさえ致命傷でしょう。あなたは天上に帰るという命のために国一つ滅ぼすつもりなのですか。
神裂はこれからの戦いに覚悟を持って己の魔法名を言った。
「
☆☆☆☆☆
夜空を見上げる金髪サングラスの胡散臭い少年、土御門が立っていた。
「さーて、まずいことになってきたぜいカミヤン。どーもこの事態を収拾するには誰か一人を生贄にしなくちゃならないみたいだ」
☆☆☆☆☆
神裂火織は十字教の信徒である。それ故に己が信仰する神の使いである天使に攻撃はできない。
しかし日本にはかつて隠れキリシタンという独自の方法でキリストに祈りを捧げていた団体があった。
その名は《天草式十字正教》、その真髄は多角宗教融合型。弾圧を逃れるため仏教などの日本古来の宗教を取り入れたいわばオリジナル。
そして彼女はその団体の女教皇。
「日本神道の術式には対神格用の術式さえもあるのです。その戒めの中に『神を傷つけてはならぬ』というのがありますが。さていったいどうしてそんなものを作る必要があったのでしょうね」
ミーシャは神裂の言葉を切るように巨大な氷をメイスのような形にして放ってくる。
それをギリギリのところで七天七刀で切り落とす。
だが攻撃は一つだけではない何十も何百もの氷の矢が放たれる。
ーーーっく。天使に立ち向かうなど無謀でしたか。しかしここで止めなくてはいけません。上条当麻、一刻も早く
そこにまた一つ人外の影が現れた。
「《暴食者》発動」
放たれた数百の巨大な氷の矢をそれは飲み込んだ。
☆☆☆☆☆
上条当麻は上条刀夜を連れて旅館に帰ってきてきていた。旅館にいる人々が倒れて眠っていた。
俺は父さんに
「言っても無駄ぜよカミやん」
土御門が部屋に入ってきた。
「どういうことだ土御門。じゃあ父さんは発動しせていないのか?」
「いいや発動させたのは上条刀夜で間違いない。本人は自覚ないけどな。儀式場はカミやんの家ぜよ。見ただろうあの沢山のお守りやオカルトグッズ。お守り一つで力はないが、一つ一つがそれぞれ適切な位置に配置され相乗効果を生み出し儀式場が完成された。そして上条夫妻が家を出た際に
「そんな偶然て」
「そう偶然だ。一つ間違っていたらさらに悪い状況になっていた」
「でもそしたら」
「
「土御門・・・お前何をしようと」
「止められるものなら止めてみろカミやん。ここからは素人が出る幕じゃない」
☆☆☆☆☆
ミーシャと神裂との戦いに乱入者が入った。
超巨大な口のようなものがミーシャが放った攻撃を残らず吸収?した。
「あなたは・・・・リムル・テンペスト!?」
「お邪魔するよ火織っち」
この戦場に人外、いや魔物に分類されるスライムが現れた。
「あなたは上条当麻から半径3メートル以上離れられないはずでは?」
「その《設定》なら事情があって今はoffにしているよ」
「設定?」
「うん。この世界でオレが自由に動くと色々な奴から狙われる可能性があったから、当麻っちのイマジンブレイカーの特性を利用させてもらっていたんだ。オレの中にいる《大賢者》に頼んで自動設定で当麻っちの側にいたんだけど、今ならオレを狙う奴も手を出して来ないし自由に動き回れる」
「・・・・」
「騙したなんて考えないでくれよ。知らない土地に来たら誰だって警戒ぐらいするさ」
「分かりました。しかし後で詳しく聞きますからね」
「いいよ、オレもあんたらに話があるしね。今は協力してこの状況を止めよう」
☆☆☆☆☆
上条当麻と上条刀夜は土御門からの猛攻に手も足も出なかった。二人は床に突っ伏し起き上がれなくなってしまった。
「ぐっ・・・土御門てめえ」
土御門は倒れている俺を無視して懐からカプセルを取り出した。
その中には細切れになった紙が入っている。
「さてと、それでは皆さんタネも仕掛けもあるマジックショーの開幕です」
土御門はカプセルから紙を撒いた。
「まずはめんどくセー下拵えから」
撒かれた紙からチラチラと光を放った。
「それでは我がマジック一座のご紹介です。働け馬鹿ども。朱雀、白虎、青龍、玄武」
規則正しい位置に4種類のカプセルが置かれる。それはまさに儀式場を作るような作業に見えた。
そして土御門は何かを唱え始めた。
「おい・・・・土御門。お前・・・・魔術が使え・・・ないんじゃ」
その瞬間、土御門は多量の血を吐いた。
「言っただろカミやん。
「やめ・・・ろ」
「カミやん。俺って実は嘘つきなんだぜい」
土御門の周りから光の集合体が発生しどこかへ飛んで行った。それと同時に土御門の身体中から血が吹き出して彼は屍のように倒れる姿を俺は意識が遠のく中で見た。
☆☆☆☆☆
第七学区、いつもの病院にて。上条当麻は今日も入院していた。
「土御門、お前がいないんじゃ意味ないだろ」
世界の危機が救われたのに俺は友人をなくした思いで悔しかった。
「かみやーん!元気にしてるかー?」
金髪サングラスにアロハシャツを着た胡散臭い少年、土御門元春が病室のドアを軽快に開けて元気よく現れた。
「土御門!?」
「なんだその幽霊でも見た顔は?」
「だ、だってお前魔術を使って死んだんじゃ」
「あーあれ嘘!」
「はあ?」
「俺の能力は貧弱ながら肉体再生ってやつでね。後何回かは魔術を使っても大丈夫なんだけど、いちいち説明するのもめんどいしー」
「はあ!?」
「土御門さんは基本的に嘘つきぜよ。学園都市に紛れ込んだスパイってのも嘘。実はイギリス清教を調べる逆スパイ。しかもそれも嘘で実は様々な機関から依頼を受ける多重スパイだったんだにゃー」
「あのなー!!」
「終わりよければ全て良し!」
それから父さんと本物の母さんがお見舞いにやってきた。本当の姿の母さんに会えて良かったが、俺の新居がいきなり消滅したらしい。土御門を探したがもう病室にはいなかった。そのあとインデックスがやってきて俺が首を絞めたり土に埋めたりした件についてお怒りをぶつけて俺の頭を噛み砕いた。
「不幸だー!!」
☆☆☆☆☆