偽ブロリー《新》となって異世界に渡りました 作:ゴールデン
ブロリーがベッサーラの縄張りを奪った、その夜。
ベッサーラ家が消滅という大事件で客が取れなくなった、娼婦達は不満顔で娼婦専用の集会所として使われている小屋に集まっていた。
掘っ立て小屋の様にボロく、壁の所々に穴が空いており、中へ隙間風が入って来るのだが、そんな事は知らんとばかりに中はヒートアップしていた。
「まったく!!ベッサーラを消した奴のせいで、碌に外にも出られなくなるし客も減って最悪だよ!!」
「せめてもの救いが、消えたのは顔役の中でも最悪のベッサーラだったってことだよねぇ」
「何言ってんだい、収入がないんだよ!!明日からどうすればいいのさ!!」
「あんたら落ち着きなっ!!」
顔役が一人、消えると言う大事件は娼婦達の営業に多大なる打撃を与えた事によって、臨時に開かれたこの集会。
始めた時から今の今まで怒りの怒号が飛び交うだけの会場であったが、我慢の限界を迎えた姐と呼ばれる代表娼婦ミザリィが一喝する。
しかし、口では他の娼婦に落ち着けと言う彼女だったが、内心は激しく動揺していた。
街中で話題沸騰中のベッサーラ家を壊滅させた、鎧と緑の毛皮の腰巻をした男の正体を彼女は知っているのだ。
勿論、彼女とブロリーとの間に特別な関係や娼婦と客としての肉体関係はない。
ただ、命を救われた対価に田舎者へ誰でも手に入る情報を渡してやっただけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
しかし、周りはそうは見ないだろう。
悪所とは能天気な一般の帝都市民と違って、親や恋人であろうとも平気で疑い、自身がのし上がる為ならどんなことでもする人間が非常に多い。
自身の経験上ブロリーの利用、もしくは殺害に自分が何かをされる可能性は非常に高い。
急遽開いたこの集会も、自身の後継と自分との関りはない事を明日から周囲に示す為に娼婦達に口裏合わせをさせる為だ。
様々な感情を押し殺した彼女の怒鳴り声で、時が止まったかの様に静かになる集会所。
そんな中で一人のハーピィの少女が、恐る恐るカギ爪の手をした翼の様な右腕を上げた。
「どうしたんだい、テュワル?」
落ち着きを取り戻した一同を見て、ミザリィがハーピィーの少女に質問をする。
「あたい……客を探しに街を歩いていた時に見たんだ。
ミザリィ姐さんの客が、ベッサーラ家の人間やゴロツキ共を一撃で沈めた所を……」
緊張気味の彼女の発言によって空気が凍る集会所。
ミザリィに集まる娼婦たちの目。
(まさか、見られていたなんて……。
まあ、話を切り出しやすくなったし、ティワルには感謝かね?)
意を決して、正直に娼婦たちに話をしようとするミザリィだったが……。
「え?じゃあ、ミザリィ姐さんの
「うん。ベッサーラのゴロツキ達がミザリィ姐さんを探している様な事を口にしたら、鎧の男が出てきて、あっという間に倒したんだよ!!」
「愛する女の為に戦う、強くて逞しい男……まるで御伽噺の英雄様だね。
一度でいいからそんな男に抱かれたいにゃあ」
「駄目だよ、姐さんの
ちゃんと姐さんの許可を取ってからにしな!!」
「姐さんの
もしかして、あたい達の生活が楽になるんじゃない?」
衝撃を与えた空気から一転、自分たちが慕う姐の様な人の恋バナと自分たちに訪れるかも知れない未来の話に花を咲かせる娼婦たち。
ブロリーが居た日本であろうと、異世界であろうとも、女性が恋の話が好きと言うのは万国共通の様だ。
「あ、あんた等いい加減にしな!!そんなわけないだろう!!」
「で、でも、あたいは見たんだよ?姐さんの部屋から男が出てくるのを……。
顔は良かったけど……見た感じ田舎者っぽかったし、あの人は客には見えなかったよ?」
テュワルの言葉に頭を痛めるミザリィ。
「あの男は私が襲われそうになった所を助けてくれたお人好しで、それ以上でもそれ以下でもないんだよ!!」
「いやいやいや、姐さん。それって十分に脈ありだからっ!!
助けておいて、金の請求や体の要求がない男なんていないから!!」
「そいつ絶対に姐さんの事を狙っているにゃあ!!」
猫獣人の娼婦の言葉にウンウンと頷く他の娼婦達。
治安が最底辺である悪所ではあるが、悪所以外でも暴力や理不尽は星の数ほどに溢れている弱肉強食の世の中だ。
そんな世界で人を助けるには、悪意や善意といった理由が必ず存在する。
現にミザリィも助けられた当初は、ブロリーの事を体目当てのクソ野郎と思っていたのだが、そこいらに住んでいる子供でも手に入れる事の出来る情報を聞くだけで何もしなかった。
だから、ミザリィはブロリーの事を何か恐ろしい事を考えて居る怪物から、話をするうちに田舎者のフニャチン男か、没落した貴族で軍人のお坊ちゃんと考え、ベッサーラの人間に近づかないように忠告をしたのだ。
それに、悪所の様な場所でそれなりに生きて来て、冷めた考えを持つミザリィには他の娼婦達がはやし立てるような、愛や恋などの発想は皆無だった。
「きっと、恋した姐さんを養う為にベッサーラ家を潰したのにゃ~」
「ベッサーラは集めた金を街に落とさないケチ野郎として有名だからね。
顔役の中でも資産
「だから、そんな事はないって!!きっと、金欲しさにベッサーラを狙ったんだよ!!」
妄想の止まらない娼婦たちに、現実的な発言をするミザリィ。
実際に彼女の言っている事の方が、正解だ。
しかし、娯楽の乏しくて環境も最悪な悪所に生きる彼女達にとってはそんな事はどうでもよかった。
「じゃあ、姐さん!今から会いに行こう!!」
「はぁ!?いきなり、何言ってんだい!?」
「そうだよ、行って確かめればいい!!
間違いでも、そいつはお人好しなんだろ?
居なくなった客について、あたい達のヤリ方で責任を取って
「アンタ達ね……」
娼婦達の言葉に頭を抱えるミザリィ。
どうやら、娼婦達は自分達なりに妄想を楽しみつつ、現実的な事を考えて居たようだ。
「姐さん、ここはその娘達の言う通り、今から男の元に行こう。
4勢力の力関係が崩れた今、ここに居たら力のない私たち娼婦が犠牲になる可能性が高い」
「そうだよ。もしかしたら男の弱点になると思い込んだ奴らが、姐さんを狙ってこっちに向かっているかもしれないよ?」
「行こうよ、ミザリィ姐さん」
ミザリィの手を引く娼婦たち。
彼女達はミザリィが思う以上に彼女の事を大切に思っていたのかもしれない。
勘違いや思い違いかもしれないが、ぎゅっと繋がれた彼女達の暖かな手からは、そんな思いがあふれている様な気がした。
「……まったく、しょうがないねぇ」
こうして、娼婦達は元ベッサーラ家の縄張りから逃げる為に移動する住民達に紛れ、ブロリーの居ると噂のベッサーラの屋敷へと向かったのだった。