偽ブロリー《新》となって異世界に渡りました   作:ゴールデン

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おにぎりと栄養ドリンクの奇跡

 大きな騒動が起ろうとしている元ベッサーラ家の縄張り。

 ブロリーは捨てられた奴隷達を部下として雇う事を決めて、彼らを屋敷へと招き入れたのだった。

 

 数は大体30人で子供や男の割合が大きく、大人の女は5人程度。

 屋敷の広々とした居間にある、お気に入りのソファーに座ったブロリーは全員を一度に見渡しながら、口を開いた。

 

 「この中で知識に自信がある奴は居るか?」

 

 ブロリーの質問に答える者は居なかった。

 当然だ。知識ある奴隷には価値があり、貴族向けの奴隷として扱われている。

 価値があるが故に、昼間に彼等を拾った奴隷市に商品として出されて居と思われる知識奴隷は全て商人と共に姿を消してしまったのだ。

 

 黙ったままの彼らの反応に頭を痛めたブロリーは、この世界の知識を学ぶのはひとまずは諦め、拠点となった屋敷での生活向上を図る事にした。

 彼等の痩せ細った体でも、簡単な仕事は出来るはずだ。

 

 「じゃあ……お前達に仕事を与えるから自分に出来る事をお前から順番に言え」

 

 ブロリーは一番左に立っている男を指さして、順番に得意な事を言う様に命じた。

 

 「俺は……掃除と畑仕事ができます」

 

 「僕は、掃除と洗濯です」

 

 「私は、炊事洗濯が……」 

 

 一人、また一人と自分達の出来る事をブロリーに話す、元奴隷たち。

 計算が出来る者が居なかったのは残念だったが、自分の身の回りの世話ぐらいは出来そうだと安堵した。

 

 「じゃあ、子供は掃除と洗濯。

 女は炊事と子供のサポートをしろ、男は畑仕事だ」

 

 「さ、さぽーと??」

 

 ブロリーの言葉に疑問を抱いて、首を傾げる元奴隷達。

 どうやら、ブロリーの言ったサポートと言う単語が通じていないようだ。

 

 (ん?日本語は何故か通じているのに、サポートが分からないのか?)

 

 言葉の壁はないものとして認識していたブロリーだったが、どうやら彼に備わった翻訳能力にも限界があるようだ。

 

 「サポートとは、補助の事だ。

 俺はたまにこの言葉を使うから覚えておけ」

 

 「は、はいっ!!」

 

 言葉の意味を教えた、ブロリーは増えていく新たな課題に頭を悩ませる。

 

 (いずれはスムーズな情報伝達の為に、調べておく必要があるな……。

 くそっ、どんどんやる事が増えて来るぞ……)

 

 課題のせいで気分が落ち込んでしまったブロリーは、自身が空腹である事に気が付いた。

 どうやら、濃厚な一日を過ごしたせいで自分が空腹の状態にある事に気が付かなかったようだ。

 

 (さっそく、女達に飯を作らせ……無理だ。

 我慢が出来ない……)

 

 ブロリーが手早く何かを食べたいと思った瞬間、彼はアイテムボックスの存在を思い出す。

 彼は根っからの廃課金プレイヤー。

 アイテムボックスは無駄に拡張され、彼がガチャで引いた回復アイテムなどの消費アイテムから貴重なアイテムの全てが内包されている。

 このボックスからアイテムを取り出せば料理の百や二百は問題ではない。

 

 アイテムボックスのアイテムを思い浮かべると右手首から先が消失し、頭の中にアイテムボックスの表示が浮かび上がる。

 どうやら、空中に投影されるディスプレイが脳内に表示されるようだ。

 

 試しに毎日ログインすると必ず引ける無料ガチャのゴミアイテム《おにぎり》を取り出そうとしてみる。

 目的の《おにぎり》を掴み、消失した右手を引っ張り出すように動かすと右手には《おにぎり》があった。

 

 出て来た《おにぎり》を恐る恐る口へと運ぶ。

 

 ガブリと《おにぎり》に噛り付くと、海苔のパリパリとした触感から始まり、米の独特なモチモチした歯ごたえと中に入っていたであろう昆布の味が口の中に染みわたる。

 

 「うまい!」

 

 一人暮らしの強い味方であるコンビニの《おにぎり》を超える味に感動するブロリー。

 

 (海苔のパリパリ感に米の味!!サイヤ人になっても米が好きって言うのは意外と中身は日本人のままなのかもしれないな……)

 

 そんな事を思いながら、一心不乱に《おにぎり》を食べ続けるブロリー。

 しかし、ここで彼は自分に突き刺さる視線に気が付く。

 

 (おう、めちゃくちゃ見られてる……)

 

 視線に気になって顔を上げて見ると、そこには物欲しそうな顔をした元奴隷たちの姿が……。

 ここで、ようやくブロリーは空腹な彼等の前で一人だけ美味い飯を食べるという下衆な行為をしていた事に気が付いた。

 さすがに罪悪感を覚えたブロリーは急いで机の上に、《おにぎり》と無料ガチャで引ける最下級の異常状態回復アイテム《栄養ドリンク》を大量に取り出して、並べていく。

 

 並べ終えて、全員に行き渡っても余る程の量を確認したブロリーは、さっきに醜態を誤魔化すようにそっぽを向いて……。

 

 「好きに食って、好きな部屋で寝ろ」

 

 何処かのツンデレな《サイヤ人の王子》のような事を言って、彼は一番豪華な部屋へと向かって部屋の中に置いてある巨大ベットにダイブするのだが……。

 

 「くせぇ!?」

 

 ベットの感触はそこそこなのだが、シーツや枕は非常に臭かった。

 だが、それは当然だ。

 そのベットはベッサーラが長年愛用してきた至高のキングサイズのベットだ、シーツ・枕・布団を含めたすべてに彼の熟成された加齢臭と言う名の体臭が染みついている。

 

 鼻が曲がりそうな程に匂う加齢臭を至近距離で嗅いでしまった、ブロリーは慌ててベットから飛び出して、鼻を抑えて転げまわった。

 

 サイヤ人となって異世界に来た彼に、人類が大ダメージを与えた瞬間だった。

 

 ★

 

 一方その頃、奴隷たちは未知の味がする食べ物と飲み物に興奮していた。

 

 「すごく美味しいぞ!」

 

 「これ、なんて食べ物なんだろ!?」

 

 最初は遠慮がちの様子だった、元奴隷達。

 空腹に耐えきれなかった一人の男から始まり、最終的には全員が瞳を輝かせて夢中にブロリーの出した食料を飲み食いしている。

 

 「……これってなんて書いてあるんだ?」

 

 「さぁ……あの人の国の文字なんじゃないか?」

 

 「黒髪に黒い瞳……帝国周辺の国でも聞いたことがないぞ」

 

 「おいおい、お前は農家の出だろ。

 文字の違いなんて分かるのかよ?」

 

 「か、形が違うことぐらいは分かるぞ!!」

 

 久しぶりに食べたまともな食事で腹を膨らませた元奴隷の中には、日本語で《ビタンD》と書かれたラベルの付いた瓶を見てブロリーが何者かを探ろうとしてる者達が居たが、知識のない彼等には自分達とは違うとしか分からなかった。

 そもそも、異世界という概念がなければどんな知恵者でもブロリーの正体にはたどり着けないだろう。

 

 「おい……アレを見ろよ」

 

 「おぉう……」

 

 「……俺は夢でも見ているのか?」

 

 あーでもない、こーでもないと答えが絶対に出ない話題に興じる男達の中で狼の毛皮を持つ獣人が仲間達に声を掛け、唖然とした表情で指を刺す。

 獣人の態度が気になった男達は議論を辞めて、指先の方向へと指をさした。

 

 彼が指さす方向には数少ない女性の集団と子供たちの健康的(・・・)な姿があった。

 特に驚くこともない光景なのであるが、彼等は非常に驚いた。

 彼等が奴隷として販売されてから今日まで見て来た、彼女達は痩せていて非常に弱弱しい存在であった。

 

 それなのに、今は顔色が非常によくて、痩せていた体は少しふっくらしており、男達の距離からでも女達は女性らしい体つきをしている事が良く分かる。

 もし、商人が逃げる際に彼女たちが今の状態であったのならば、商人は捨てるか連れていくかで非常に頭を悩ませていただろう。

 もしかしたら、連れて行った何人かの女たちは彼女たちと立場が逆転していたかもしれない。

 

 子供達も棒の様に細かった腕が年相応に太くなっており、ブロリーが与えた《おにぎり》を元気よく食べている。

 

 彼女達も腹が膨れて、冷静になれば自分達の変化に気が付いて驚く事だろう。

 

 そして、男達は恐る恐る自分達の腕や、誰も居ない家からブロリーが盗んで与えられた服を捲って腹を見る。

 すると、自身の腕や肋骨がうっすら浮かび上がっていた腹は見る影もなく、健康な姿となってそこにはあった。

 

 「も、もしかしてこれって……ま、魔法の秘薬か?」

 

 「き……奇跡だ」

 

 「こんな事、聞いたこともねぇよ」

 

 「ああ、もしかしたらあの人は……」

 

 ゆっくりと自分達の変化に気づき騒がしくなる大広間で、男達は自分達の常識で唯一、ブロリーと共通するかも知れない見当違いな存在であると口にした。

 

 「間違いない、あの人は《亜神》だっ!!」

 

 彼らが口にしたのは、この世界に存在する神の使徒《亜神》。

 ブロリーが聞けば鼻で嗤うような事だが、この世界では神は実在しており、《亜神》は神に選ばれた元人間で不老不死となった上位存在だ。

 

 そして、男達の言葉は自身の変化に驚く他の元奴隷たちに浸透していき、僅かな時間で彼ら全員がブロリーは《亜神》であると思い込んでしまったのだった。

 

 

 


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