吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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011話 新学期、吸血鬼異変《序》 桜通りの吸血鬼

 

 

 

まだ桜が咲き誇る道中でもう夜だというのに一人の少女がなにかから逃げるように走っていた。

 

「は、はっ……はっ!」

 

だがそれは無駄なあがきのごとく少女は後ろから迫ってくる黒い何かに見えない力で足を転ばされた。

 

「きゃあっ!?」

 

そして少女は地面ではないが一本の桜の木に体を打ち付けてもう立ち上がる気力もなかった。

 

「出席番号16番、佐々木まき絵……お前の血液をいただく……」

 

黒い何かから声が聞こえ逃げていた少女、佐々木まき絵は恐怖に怯え、だが黒いなにかはお構いなしにまき絵に迫ってその口から生える牙を背後に回り噛み付いた……。

 

「あ、いや……イヤーーーーーンッ!!」

 

噛み付かれて気を失う直前で叫び声をあげた。だが、その叫びを聞くものは誰もいなかった。

噛み付いた何者か以外には……

 

「もう少しだ……」

 

黒い何かはそう呟き姿を消した。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

『3年!』

『A組!!』

『ネギ先生――――ッ!!』

 

新学期の始まりはクラスの半分以上が騒ぐ形で幕を開けた。

というか新学期早々テンションが高いクラスだなとあきれた表情をする。

なにげにタマモも参加しているので実は馴染んでいるのではないか?

 

(バカどもが……)

(アホばかりです……)

 

ああ、前席の綾瀬さんと長谷川さんからも呆れた言葉が聞こえてくるなぁ。

まぁいつものことだし気にしないけど。

ふとネギ先生が少し青い顔をしてある方向を見ている。

つられて私は(タマモも気づいたらしく)一緒に見てみるとそこにはネギ先生をこれでもかという風に凝視しているエヴァの姿があった。

視線に気づいたのかフッと視線を外しているけどなにかあったのかな?

 

(シホ様、シホ様。エヴァンジェリンはどうしたのでしょうか?)

(うーん…なんだろうね。そういえば最近よく桜通りの吸血鬼の噂を聞くけど、もしかしてエヴァがやっていることかな…?)

(おそらくそうでしょうね。シホ様と違い輸血パックは貰っていないようですし。ま、普段じゃ飲めないからいらないでしょうけど)

(そういえば昨日今日は満月だったわね。私もそれで余計吸血鬼の力を抑えているけどエヴァは満月の日だけ力を取り戻すって聞いたわね)

(封印されているのは大変ですねぇ…)

(違いない)

 

と、そこにしずな先生が教室に入ってきてネギ先生に身体測定の話をしている。

…なにか嫌な予感がするなぁ。今までの経験上…。

計らずもそれはすぐに起こった。

 

「あ、そうでした。ここでですか!? わかりました、しずな先生。で、では皆さん身体測定ですので……えと、あのっ、今すぐ服を脱いで準備して下さい!」

 

シンッ……と教室を一時の静寂が支配する。

 

(あぁ、やっぱり、ね…)

(あのお子チャマはもっと言葉を選ぶべきですね)

 

予想通りの展開と行動にまたため息を零す。

そしてそんな面白い事に黙っていないのが2-A、いやもう3-Aクオリティーなわけで、

 

「「「ネギ先生のエッチーーーーッ!!」」」

「わーーーーん! 間違えました!!」

 

そうして子供先生は颯爽と教室から退出していった。

ふぅ…本当に落ち着きがないな。

いまだ進歩は見られず、か。

それより今、私とタマモが危惧しているのは身体測定である。

なぜか数名が目を光らせながらこちらを見ている。

極力目に入れないようにして服を脱いでいこうとして―――胸を誰かに鷲づかみにされていた。

声を上げなかったのは褒めて頂きたい。これでも盛大に混乱しているのだから。

…無言ですぐに掴んでいる腕を解いて背後に回り羽交い絞めにする。

 

「これはなんの真似かな? 明石裕奈さん…」

「い、いやぁ…エミヤンの初身体検査じゃん? それでどんなものかなぁって、ね。だから許して?」

「許さない♪」

 

 

ギニャー…

 

 

少しお仕置きをした。

内容? 聞かないほうが幸せだろう。

 

だが、それでも挫けなかったのか、

 

「どうだったカ? 名誉の戦死を遂げたゆーな陸曹!」

「死んでないよ!? まぁしいていうなら、古菲。あんたは軽く抜いているのは確かだね~」

「な、なんと!?」

「具体的に言うとクギミーといい勝負だったよ。エミヤン意外に着やせするタイプみたいで身長以外はほぼ一緒と見た!」

「クギミー言うなー! って、いうかどうして私のスリーサイズを知っているの!?」

 

と、わいわいと騒いでいるのでもう放っておく事にした。

ちなみにタマモも餌食になっていたが逆にやり返していたりして楽しんでいたり。本当順応しているなぁ…。

 

「身体測定だけでここまで疲れるとは思わなかった…」

「同感ですね。エミヤはやっぱり常識人のようで助かります」

 

気持ちが重なったらしく長谷川さんが同類のような視線をよこしてくれた。

あー、この子なんか将来苦労人の相が出ているかも。

 

そんな中で外から亜子らしき声が聞こえてきた。

内容的に、

 

『ネギ先生! 大変やーーー!! まき絵が!!』

 

と、大声で叫んでくるのでここは女子学校ということもあり羞恥心が薄いのか「ガラッ!」と扉を開けて「何!? まき絵がどうかしたの!?」というみんなの声と「わあ―――――ッ!!?」というネギ先生の叫び声が響いてくる。

 

「まったくここは騒動が尽きないわね」

「まったくです」

 

私と長谷川さん、それに普段から落ち着いている面々は特に気にしていないようで身体測定も終わったようでもう制服に手を通している。

ちょうどいいからさっき『桜通りの吸血鬼』の話題が上がっていたのでエヴァに近寄って、

 

(ねぇエヴァ。例の話だけどやっぱり…)

(ああ。それは私に相違ない。これを聞いてお前はどう出る?)

(別に。私たち吸血鬼にとってそれほど深刻じゃないけど、血はある意味死活問題だから殺さないなら放っておくかな? 昔聞いた噂だけどエヴァは女、子供は殺さないって聞いたし)

(む…。そんなことまで知っているのか?)

(情報は命ですから。それに学園もなぜか黙認しているようだし…。最後に私も輸血パックとは言え血を吸っているわけだしエヴァの事はどうこう言えないよ)

(そうか。まぁ今は理由を聞くな。それと私がいいと言うまで別荘は使用禁止だから覚えておけ)

(了解)

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

その晩、シホはタマモと一緒に見晴らしがよく全体を見回すには絶好の高台の上まで登っていた。

 

「シホ様~、どうなされたんですか? こんな夜に…」

「ちょっと気になることがあってね。はい、タマモ」

 

シホは望遠鏡を投影してタマモに渡した。

 

「? これは…?」

「まぁそれで例の桜通りを見てみて」

「はいです。あ、アスナ達がいますね」

「見えるって事は感度良好ってところね」

 

二人はしばらく桜通りを見ている(タマモは望遠鏡に対しシホは裸眼でだが…)となにか用事でもあるのか宮崎のどかが一人で桜通りを歩いていることに気づく。

そこに黒衣をまとった謎の人物がのどかに襲い掛かった。

 

「あ! シホ様、宮崎さんにおそらくですがエヴァンジェリンが襲い掛かったみたいです」

「はぁ…やっぱり。今はちょうど満月の夜…私の吸血鬼の血も騒いでいるからエヴァもって思っていたけど正解みたい」

「そうですか。あ、お子チャマ先生が現れましたね」

 

そこからはエヴァも触媒を用いて応戦しているが、やはり力が封印されていることもあり防戦に徹している。

 

「なかなかやりますねー…。エヴァンジェリンに堂々と挑む姿といい少しは見直しましょうかね?」

「そうだね。まさかあそこまで出来るとは正直信じていなかったけど、やっぱり天才の異名は伊達ではないということか」

 

シホとタマモはのん気に二人の戦いを観察していたが武装解除で屋上に降りた光景を見て、

 

「そろそろ詰みかな? ネギ先生が…」

 

シホの言葉通り勝ったと思っているネギの前に突如として伏兵である茶々丸が姿を現した。

ネギも新手と思いすぐに応戦しようとするが呪文詠唱を途中で何度も遮られて打つ手なしの状況。

そしてついにネギは捕らわれてエヴァに血を吸われそうになったその時、

 

『コラーーーッこの変質者どもーーーっ!! ウチの居候に何すんのよーーーっ!!』

 

という言葉とともにアスナが現れ、茶々丸ならともかくエヴァを足蹴に吹っ飛ばした。

 

「「ええっ!?」」

 

これにはシホ達も驚きを禁じえなかった。

なにせエヴァは常時魔法障壁を展開しているはずなのにそれを無視して蹴り飛ばしたのだから。

 

「魔法障壁をただの蹴りだけで…普通ありえません」

「そうね。まぁ考察は後にして…」

 

シホはある準備をし始めた。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

…時は少し遡る。

 

アスナは気絶してしまっているのどかを木乃香に任せネギの後を追っている時のことだった。

 

「まったく…! 一人で事件を解決しようとして、カッコつけてんじゃないわよバカネギ!」

 

ネギが向かった方向は寮の方角だ。これを辿って行けばネギにたどり着けるだろうと予測したアスナは陸上選手も顔負けの速度を出してすぐに到着した。

そしてどこにいるのか周囲を見回して、ふと明るい満月が眼に入り、次いで寮の屋上に数人の人影が見えた。

 

「あ! ネギ!」

 

アスナは視力もいい方なのですぐにネギだと気づき、すぐに階段を上って屋上に出てすぐに屋根の上に到着するとネギがおそらく二人組みの人物に襲われているところを目にして、

 

「って、倒しに行ったのに逆にピンチになってんじゃない!?」

 

見れば片方がネギの首筋に歯を立てて血を吸っているではないか。その光景を見て噂の吸血鬼は真実のものだと悟り、そして怒りがこみ上げてきて気づいたときには、

 

「コラーーーッこの変質者どもーーーっ!! ウチの居候に何すんのよーーーっ!!」

 

と、エヴァと茶々丸を蹴り飛ばしていた。

それに驚いたのかエヴァは目を見開きアスナを凝視する。

アスナも二人が誰か気づいたのか、

 

「あんた達、ウチのクラスの……ちょっ、どーゆーことよ!?」

「ぐっ…神楽坂明日菜。貴様、どうやって私の魔法障壁を破った…!?」

「何のことか分からないけど…まさかあんた達が今回の事件の犯人なの!? しかも二人がかりで子供をイジめるような真似して……答えによってはタダじゃ済まないわよ!」

 

見事な啖呵を二人に浴びせた。

だがエヴァは少し動揺したがすぐに冷静になり、

 

「ぐっ…よくも私の顔を足蹴にしてくれたな神楽坂明日菜…許さん!」

「えっ…嘘、冗談よね?」

 

エヴァの手には魔力が集まっていく。

アスナはそれがなにかわからないが、とりあえず嫌な予感だけは拭い切れないでいて顔を青くした。

 

「マスター、一般人に魔法の行使はどうかと思われますが…」

「うるさい。一発仕返しでもしなければ腹の虫が収まらん!」

 

茶々丸の言葉にも怒り心頭のエヴァには届かなかったらしく今すぐにでも魔法を放とうとしていた。

 

「げっ!? ちょっと待って! そんな話聞いていないわよ!?」

「知るか! 飛び込んできた貴様が悪いのだ! くr『ドドドドドッ!』…む!?」

「えっ…? 今度はなに!?」

 

突如として二人の間になにかが打ち込まれてきた。

よく見ればそれは黒塗りの鉄製の矢で、アスナ達とエヴァ達のちょうど中間の地点に横一列見事に五本打ち込まれていた。

 

「これは、矢、か…?」

「マスター、狙撃地点が判明。ここから約三キロ離れた高台からだと思われます」

「えっ!? 三キロってそんな遠い場所から…普通ありえないでしょ!? どこの超人殺し屋よ!」

 

アスナは状況が理解できずハチャメチャな事を言っているがエヴァはそれによって冷静を取り戻し、

 

「なるほど。文字通り釘、いやこの場合は矢をさされたというわけか。茶々丸、撤退するぞ」

「イエス、マスター」

 

エヴァは茶々丸の肩に乗ってそのままどこかへと飛び去っていった。

 

「いったい、なんだったのよ…」

 

残されたのは呆然としているアスナと泣いてしまっているネギだけ。

当然ネギは恐怖から開放されたのかアスナに泣きついたのは当たり前だったりする。

 

 

 

 

…一方、高台の上で狙撃をしたシホは一息つくと、

 

「うん。なんとか暴動は収まったみたいね」

「はいです。エヴァンジェリンもどうやらこちらに向かってきているようですし」

 

しばらくしてエヴァと茶々丸がシホ達の前に下りてきて、

 

「感謝するぞ、シホ。もう少しで大事な魔力を失うところだったからな。しかし…さすが『魔弾の射手』という二つ名は伊達ではないな。見事に五本同時に一列に打ち込まれるとは想像もしなかったぞ?」

「感謝いたします、シホさん」

「別にいいよ。それより詳しい話を聞かせてもらっていいかな?」

「む…。そうだな。割り込んでこないという確信があるから話そう」

 

エヴァは語りだす。

過去、ナギに『登校地獄』という魔法をかけられここ麻帆良に封印されてしまった。

いつか解きに来るといったがその約束は果たされず逝ってしまったという話を聞き愕然とした。

そして馬鹿魔力での封印の為、解けるものも学園長を含めていない。

唯一の鍵はナギの血族であるネギの血を媒体にして無理やり封印を解こうと待っていたこと。

すべてを聞き終え、

 

「そっか…。故人を中傷するのは心が痛みけど、まったくナギはいい加減な仕事をするわね」

「まったくです。15年間も待たされたエヴァンジェリンの身にもなれというのです!…ここは必殺のき○てきでも…」

 

なかなかにカオスな話題になってきた。特にタマモが。

シホは顔を少し引き攣らせながらも、

 

「それより、ねぇエヴァ。少し聞いていい?」

「なんだ?」

「エヴァってずっと魔法障壁展開していたわよね?」

「ああ…。確かにしていた、はずだったのだが、な。どういう訳か神楽坂明日菜はそれを無視して私を蹴り飛ばしてくれた。あれは偶々なのか、それともなにかしら特殊な能力の持ち主なのか…」

「…今思えば学園長の孫の木乃香と同室の時点でおかしいと思うべきだったのかな?」

「そうだな。茶々丸、なにか検索に引っかからないか?」

「いえ、アスナさんのデータにそのようなものは存在しません。もしかしたらデータを書き換えられているのかもしれませんが…」

「そうか…。しかし厄介だな。雑魚とはいえもし坊やのパートナーにでもなられたら厄介だ」

 

 

満月の夜、エヴァは後の憂いをどうするか考えていた。

…一方シホは夜空に輝く月を見上げて思わず喉の渇きを潤したいと葛藤していた事は内緒だった。

とにかく、こうして子供先生と吸血鬼との初の邂逅は幕を下ろした。

 

 

 


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