吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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018話 修学旅行異変《弐》 西の刺客

 

しばらくしてまずタマモがやってきた。

 

「シホ様に刹那、もうばれてしまったのですか」

「うん、少し油断していたのかもね」

「すみません」

「いえ、この際知られている事で裏方に徹しれればやりやすいです」

 

タマモは笑いながらそう答えた。

そして少しするとネギ達がやってきた。

 

「あ、あの…刹那さんとシホさんにアヤメさんは僕達の敵ではないのですか?」

「はい。こうして話をしている以上信じてもらえると助かります」

「そうですか。よかった…」

「あ…ところで神楽坂さんには話しても大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です」

「もうすでに巻き込まれているようなものだし気にしていないわ。(……ただ、やっぱりオコジョが喋っても驚かない世界の人なんだなと思って……)」

 

アスナの呟き声が聞こえたのかシホは苦笑いを浮かべる。

昔は私もそうだったなぁ…と少し哀愁を漂わせていた。

 

「敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました。このままではこのかお嬢様にも及びかねません。それなりの対策を講じなくてはいけませんが…」

「?」

 

刹那はジトッとした目でネギを見やると、

 

「それにしても、ネギ先生は優秀な魔法使いと期待していたんですが、意外と対応が不甲斐なかったようなので敵も調子に乗ったようです」

「あう……すみません! まだ未熟なもので……」

「じゃやっぱりあんたらは味方って事か?」

「はい。先ほどからシホさん共々そういっているでしょう」

「俺っちも勘違いしていたようで謝るぜ、剣士の姐さんにシホの姉さん方!」

「はい、すみませんでした。僕も協力しますから敵について教えてください」

「とりあえずシホさん達はご存知だとお思いですが一応ネギ先生達には伝えておきましょう。私達の敵は関西呪術協会の一部の勢力で陰陽道の『呪符使い』です」

「その、ジュフツカイ? って一体なんなの?」

「呪符使いとは京都に伝わる日本の魔法『陰陽道』を基本としていて西洋魔法使いと同様、呪文などの詠唱時に隙が出来るのは同じです。ですから魔法使いの従者(ミニステル・マギ)と同じく、こちらには善鬼・護鬼といった強力な式神をガードにつけてその間に詠唱を済ませるものが殆どでしょう」

「タマモと比べるとどうなの?」

「アヤメさんに合わせますと今の時代ではあちらの方が下だと思われます」

「アヤメさんも呪符使いなのですか!?」

「はい。ご安心を。このタマモ、関西呪術協会のものではありませんから。別系統と思われて結構です」

「はぁ…」

「それで続きですが他には私の出である京都神鳴流がバックにつくことがあります」

「それなんですけど、刹那さんはなんなんですか?」

「京都神鳴流とはもともと京都を護り、そして魔を討つために組織された掛け値なしの戦闘集団のことです。きっと護衛についたら厄介な相手になることはあきらかでしょう」

「ええー!? それじゃやっぱり敵って事ですか?」

「はい、ですから彼らにとってみれば私は西を抜けて東についた裏切り者です」

「そういわないの。刹那は木乃香を守りたい一身でこっちについていてくれているんだから誇っていいわ」

「…はい。ありがとうございます、シホさん」

「それってどういうこと?」

「私はお嬢様をお守りする任についています。だからお守りできるだけで満足なんです」

 

刹那はそう言って笑みを浮かべる。

そしてしばらくしてネギ達は感心したような眼差しを刹那に向けていた。

 

「よーし、わかったわ! 桜咲さん! さっきのこのかの話を聞いても正直半信半疑だったけどそれを聞いてこのかの事を嫌ってないってわかったから!」

「はい! 誤解も含めて十二分に協力します!」

「神楽坂さん、ネギ先生……」

「それじゃ“3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)”結成です!」

「えー? なんか恥ずかしいわね」

「そうですか? ところでシホさん」

「なんですか?」

「正体を知ってから気になっていたんですけど、シホさんって魔法使いなんですか…?」

「んー…近からず遠からず、ですね。一応私も刹那と同じく京都神鳴流の資格を持っていますが魔法も使いますしそれに…」

「それに…なんですか?」

「内緒です。まぁタマモと一緒にサポート要員と思ってくださって結構ですよ」

 

シホは吸血鬼、それに赤き翼のメンバーだったという点を隠してはぐらかした。

まだ早いかな~と思った次第のことで。

それからネギは元気が出たのか見回りをしてくるといって出て行ってしまった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

ネギ先生が行ってしまったので私はこれからどうするかと考えていると、

 

「シホさんはこれからどうしますか?」

「これから? うーん、ちょっと屋根の上でタマモと涼んでくるわ」

「なるほど、屋根の上ですか」

「そ、屋根の上。それじゃよろしくね」

「はい」

 

後ろでアスナが「なんで屋根の上?」と刹那に問いただしているが気にしないことにした。

ふと私の近くに式の気配がするのでその方を見るとちびせつなが飛んできていた。

 

「あ、ちびせつなですか」

「はい。本体の変わりに私が通信代わりになります。ちなみに自立稼動ですのでよろしくお願いします」

「わかったわ」

「それじゃシホ様、屋根の上にいきましょうか」

「そうね」

 

私とタマモ、ちびせつなは屋上に来て警備をしていた。

 

「でもこの調子じゃ詠春に会いに行くのはまだ先かな?」

「そうですねぇー。まずは警備を徹底して行わないとどうしようもありません」

 

私とタマモがため息をついているとちびせつなが話しかけてきた。

 

「やはり長と会われるのは楽しみですか?」

「そうね…。うん、楽しみかな。今まで音信不通だったから今はこんなだけど元気なことだけは伝えたいし」

「そうですか」

 

それからしばらく無言で月を見て涼んでいるときだった。

ちびせつなが突然叫んで、

 

「シホさん! お嬢様が攫われました!」

「こちらでも確認したわ! タマモ、旅館の警備のほうお願いしていい?」

「わかりました!」

「それじゃいってくるわ」

「はいです!」

 

そうして私は屋根から地上に向かって飛び降りた。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

油断した!? まさかこのかさんがもう奪われていたなんて!

すぐにアスナさんと桜咲さんと合流してへんてこなお猿の格好をした人を追った。

 

「やはり! 人払いの呪符です! まったく人気が無いのはそのせいでしょう!」

「そ、そうなの?」

 

とりあえずなんとか猿が逃げ込んで発車しようとしてした電車に乗り込むことは出来たけど、いきなり水が僕達の車両の中を飲み込んで詠唱もうまくできない!

このままじゃ! その時、刹那さんが水の中で剣を振った瞬間、

 

「あれ~!?」

 

水がすべて流されて駅に着いた途端、ドアが開きお猿の人も一緒に流されてきたけどすぐに体勢を整えるとまたこのかさんを抱えて走り去っていった。

 

「見たか! そこのデカザル女。嫌がらせはよしていい加減お嬢様を返せ!」

「なかなかやりますなぁ。しかし誰がおとなしく聞くもんかいな! お嬢様は返しませんえ?」

「待て!」

 

それからお猿の人を追っている間、なんでこのかさんがお嬢様なのかを聞くと、

 

「おそらく奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうと考えていると思われます!」

「え!?」

「嘘!?」

「私も学園長もシホさん達も甘かったかもしれません。こんな暴挙に出るなんて思ってもいませんでしたから……!」

「そうだ! シホさん達は!?」

「そ、それが連絡したんですが連絡に出てもらえなくて……まさかもうシホさん達のことを嗅ぎつけた連中がいたなんて! きっと今頃は妨害を受けているのでしょう! 今は私達だけで対処するしかありません!」

 

そして大きい階段の広場に出たらそこにはお猿のきぐるみを脱いで嵐山の従業員の格好をした女の人が立っていた。

 

「ふふ、よぉここまで追ってきよったな。だけどやっぱりあの女を足止めしといて正解だったようや」

「やはり! しかしどこでシホさん達のことを!?」

「あるツテの情報で知ったんや。しかし今頃その女はやられている頃やろな~?」

「そんな!?」

「大丈夫です、ネギ先生! シホさんはそんな簡単にやられたりしません!」

「それはどうですかなぁ? せやけど、あんさん達だけでもやっかいや。早々に逃げさせてもらうえ!」

 

するとまたお札を女性の人は出して刹那さんはなにかに感づいたのかすぐに飛び掛ったけどそれは間に合わなくて、

 

「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす……喰らいなはれ! 三枚符術京都大文字焼き!」

 

お札から魔力が溢れて一気にそれは増大して炎で『大』の文字が浮かび上がったが、僕をなめていると怒るよ?

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け、一陣の風。『風花・風塵乱舞(フランス・サルタティオ・プルウェレア)』!!」

「な、なんやぁ!?」

 

女性の人が取り乱しているうちに僕はアスナさんの仮契約カードを出して、

 

「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で……大事なお友達です! アスナさん!!」

「ええ!」

「契約執行! 180秒間! ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 

そして一気に刹那さん達と駆け上がっていってふとさっきカモ君に聞いた仮契約カードの機能を思い出したので、アスナさんにそれを発動させて渡したけど、

 

「って、ちょっと!? なんでハリセンなのよ!!」

「あ、あれ? おかしいなぁ……」

「こりゃハズレかもな……?」

 

カモ君、今だけは喋らないで。僕、へこんじゃうから。

だけどアスナさんはそれに構わずハリセンを振り下ろしたら、いきなりお猿の人形が動き出して同時に攻撃を仕掛けていた刹那さんの剣も防がれてしまっていた。

 

「なに、こいつら!?」

「おそらく先ほど話した善鬼に護鬼です!」

「こんな間抜けな奴らが!?」

「外見で判断はしてはいけません! 見掛けに反して強いです!」

「ホホホホ! ウチの猿鬼と熊鬼をなめてかかったらあかんえ? 一生そいつらの相手をしていなはれ!」

 

そんな! いきなりそんな強い鬼が出てくるなんて……!

だけどアスナさんは我武者羅に振ったハリセンが鬼に直撃すると鬼は霧のように消えてしまった。

カモ君も驚いているけど、アスナさんが有利になったことで刹那さんが詰め寄った。

だけど、まだ伏兵がいたのかいきなり空から人が振ってきて刹那さんと打ち合った。

 

「まさか神鳴流剣士!?」

「月詠いいます~。先輩、少しお相手付き合ってもらいますね~?」

 

「兄貴、やべぇ! 剣士の姐さんが防戦一方でアスナの姐さんも捕まっちまってやがる!」

「え!?」

「なんや、意外に弱いんやな? さっきの威勢はどこへやら」

 

好きに言っていればいい。だけど僕を忘れちゃ駄目ですよ!

すぐさま僕は戒めの風矢を放ち女性を束縛しようとした。けど、このかさんを盾にされてしかたなく矢を逸らした。卑怯です!

 

「こいつはいいわ。これで攻撃できなくなってしもうたな」

「待て!」

「先輩、ウチを忘れてはいかんえ?」

「くっ! 邪魔をするな月詠!」

「そうはいかんよ~? ウチ、もっと先輩と打ちあいたいんや~」

「くそ! お嬢様!!」

「ほーほほほ! まったくこの娘は役に立ちますなぁ。さぁて、これからどういった事をしてあげようか……?」

 

くっ! 二人とも手が出せなくてアスナさんは捕まっちゃっている……! 僕も手出しができない!

もう打つ手がないと思ったその時だった。

……僕の隣を寒気がするような赤い何かが通り抜けていった。

その人は間違いなくシホさんだったんだけど、その雰囲気はいつもと完全に違いひどく冷めている。

アスナさんも、刹那さんも、カモ君も、そして敵の二人もそれによって動きを停止させられた。

まるで、そうまるで体が石になったんじゃないかという錯覚すら覚えてしまった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

「これから、どういったことをするのかしら? この外道が……」

 

突然後ろからシホさんが助けに来てくれたのだが、そのあまりに濃い殺気に私……いや、その場にいたすべてのものが足を止めた。

いつもの白黒の剣を持ち、私達の横を通り過ぎる。

こんな殺気はあの停電の日以来だ。いや、あの時より格段に下回っているがとんでもない。これほどの緊張感をいまだかつて持ったことはない。

化け物と比べることがおかしな話というほどにシホさんの殺気は尋常ではなかった。

 

「あ、あわわ……な、なんでや!? しこたまぎょうさん式で足止めをしておいたはずや!」

「ああ、あれね? 笑わせてくれるわ。あんなちんけなもので私を足止めしたつもりでしょうが残念ね」

 

そういってシホさんはその手にあった式の札を握り締めてばらばらにした。

それによって敵の女も悲鳴をあげる。

あれが殺気を携えたシホさんの、赤き翼のメンバーだった本当の姿。

おそらく私ではまだたどり着けないほどの境地にいるお方。

 

「さて、木乃香を返させてもらうわよ…」

「ひ、ひぃぃぃぃいっ!?」

 

シホさんはゆっくりと女に近づいていく。月詠はなんとか動けたようでシホさんの前に立ちはだかったが、刀を上段に構え、

 

「うるさい…。神鳴流奥義、………雷鳴剣・双刃!」

 

すごい放電の音とともに時間差で振り下ろされた二刀は月詠を刀ごと遠い空へと打ち上げられそのまま痺れているのか地面に落ちても起き上がってこない。

 

「あ、ぐっ…」

「月詠はん!? まさかもう一人神鳴流の使い手がおったんか!?」

「黙れ…いいかげんにしないとその首、撥ねるわよ?」

「!!?」

 

カタカタと震えながら、呪符使いの女は背中が壁であることも忘れて立たぬ足の変わりに腕だけで後ろに下がろうとする。

 

「ひ…ひ…」

 

声にならない悲鳴を上げながらも、女はシホさんから視線を外すことはなかった。

恐怖か、または眼で命乞いをしているのか……?

その立場になって見なければわからないだろう。

そしてすさまじい殺気が含まれていた眼光を浴びて敵であった二人は、そのままシホさんの投擲した剣で壁にまるで虫の標本のような格好にさせられて気絶してしまっていた。

するとシホさんも殺気を霧散させてお嬢様を抱きかかえた。その顔はいつもの顔に戻っていていた。

 

「ま、こんなものでいいかしら」

 

そこにはさっきの姿はもうないといわんばかりにいつも通りのシホさんの姿があった。

すると背後からドサッという音がするので見てみるとネギ先生たちが片膝をついて震えていた。

それもしかたがない。私ですら背中に大量の汗を出しているのだからこの反応は当然だ。

 

「すみません、ネギ先生達。二度と悪さをさせないように灸を据えるつもりで殺気を放ったのですが、思った以上に被害を与えてしまいました」

「い、いいってことよ、シホの姉さん。それよりこのか姉さんは大丈夫か?」

「はっ! そうだ、お嬢様は!?」

「平気みたいよ、刹那。はい、預けるわね。私はこいつらを縛らないと……、…ッ!? いけない!」

 

シホさんはそう言うといきなり走りこんだ。

どうしたのか見ると敵の呪符使いと月詠が地面に転移魔法かなにかによって消えかかっているからだ。

私たちも後を追うがやつらは地面に消えてそのまま気配を消してしまった。

 

「くっ…私としたことが逃がしたか」

「シホさん、大丈夫です。お嬢様は取り返すことができたのですから今は次のことを考えましょう」

 

悔しそうな顔をすぐに切り替えると「そうね…」とだけ呟いて立ち上がった。

 

「でもこれであの二人以外に敵がいることは明らかね」

「はい」

「う、ん……」

「このか!?」

 

そこでお嬢様が起きたらしく目を開いた。

 

「ん……あれ? せっちゃん…? ……ウチ…夢見たえ…変なおサルにさらわれて……でも、せっちゃんやネギ君やアスナが助けてくれるんや……」

「よかった……もう大丈夫ですよ、このかお嬢様」

「……よかった―――…せっちゃん、ウチのコト嫌ってる訳やなかったんやなー……」

「えっ…そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し……はっ! し、失礼しました! わ、私はこのちゃ……お嬢様をお守りできればそれだけで幸せ……いや、それも影からひっそりとお支えできればそれで……その…あの……御免!!」

「あっ……せっちゃ~ん!?」

 

私は恥ずかしくなり逃げ出すしかできないでいた。

でも背後からアスナさんが「桜咲さ~ん! 明日の班行動一緒に回ろうね~。約束だよ~!」と言ってくれたので心が幾分軽くなった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side ???

 

 

ふむ、助けたはいいけどあの女、なにものかな?

名前は…誰だったか。

 

「フェイトはん、助けてもろうてありがとうございますぅ」

「いいよ、月詠さん。でももう一人神鳴流剣士がいたなんて驚きだね。それも情報にある桜咲刹那より腕はおそらく上だね」

「そうですねぇ…。ウチ、おもわず興奮してしまいましたぁ~」

「傷を負っているのに元気だね、君は」

「それはもう。おいしい獲物が増えてくださったんですから嬉しいに決まっておりますやろ」

「そんなものかい? しかし、あの女、どこかで…調べてみる必要がありそうだね」

 

月詠にフェイトと呼ばれた少年は思案顔になり考え込んでいた。

 

 

 


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