吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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024話 修学旅行異変《八》 戦いの終わり

 

「やぁあああーーー!!」

「………」

 

ガキンッ!

ズワンッ!

 

「わっ! もうまたー!?」

 

シホの偽者と対峙していたアスナは、一度ハリセンを振るえばそれを一本の剣で受け止められ力任せに弾き返される。

それをもう何度も繰り返し行っていて、でもそこから抜け出す術をアスナは持ち合わせていなかった。

唯一の救いはシホ(偽)ははじき返した後は不気味なことに一回も仕掛けてこないのだ。

よってアスナにとって千日手のようなことになっていた。

 

「もうっ! どうしろっていうのよ!」

 

そこに、

 

「アスナ!」

「えっ!? あ、アヤメさん!」

「どうしたのですか? こんなところで…」

 

タマモが現れてアスナの背後に立っていた。

 

「どうしたもこうしたもないわよ! アレ見ればわかるでしょ!」

「アレは…見た目は違いますがシホ様!?」

「そうなのよ…鬼とは違った奴が現れて長さんはそいつを悪魔って言っていたけど、そいつと今もやりあっているらしいのよ。

あいつはそいつと一緒に現れたのよ」

「そうですかぁ…。フフフッ…シホ様の偽者とは生意気なことをしてくれますねぇ」

「と、ところでシホは?」

「シホ様でしたらどうやら刹那の方に向かったみたいです」

「そうなの…それであいつは倒せるかな?」

「お任せを! 悪魔が作り出した程度の人形に負けるわけがありません!」

 

タマモはお札を取り出して、

 

「慈悲です。一瞬で燃え尽きなさい! 呪相・炎天!」

「…!」

 

シホ(偽)はそこで初めて攻勢の構えをして自ら炎に飛び込んでいく。

そして剣を眼前に出してそこから障壁のようなものが展開し炎をすべて防ぎきった。

しかもそれだけで終わらずその炎を剣に吸収して宿らせて炎剣を出現させる。

 

「ありゃりゃ…吸収されてしまいましたね」

「ありゃって…そんなのん気な!」

「大丈夫です。ならば吸収できないほどのものを叩き込めばいいのですから…奥義を出します。アスナは離れていてください」

「う、うん…」

 

アスナを後退させたタマモは玉藻鎮石を眼前に構えて、

 

「“呪層界・怨天祝奉”…高まれ魔力、迸れ炎天…はぁああああ!!」

 

カッ!

 

まばゆい光とともにタマモの尻尾に揺らぎが発生し、まるでそう…九本あるような錯覚をアスナは感じていた。

さらにそれ一本ずつに炎が宿り、

 

「朽ち果てよ! “呪禁相・火輪尾大炎天”!!」

 

ズワアアアアアッ!

 

先ほどの炎天とは比べるのがおかしい程の炎が発生してシホ(偽)に襲い掛かる。

再度吸収しようとするが、

 

「無駄です!」

「ギ…ッ!?」

「燃え尽きなさい!!」

「■■■■■ーーー!!!?」

 

声にならない悲鳴を上げシホ(偽)は燃え尽きてしまった。

 

「まったく悪趣味な人形でしたね」

「本当にね…」

「でもあそこまで似ていたシホ様の偽者…敵の悪魔はいったい何者…?」

「なんか…我が愛しの吸血姫とか言っていたけど、どういう意味だろう?」

「!? 本当ですかアスナ!」

「え? う、うん…」

 

(これは…なんとかしてその悪魔と接触をしなければいけませんね)

 

タマモが考え込んでいる中、茂みのほうからシホと刹那が現れた。

 

「あ、刹那さん! 大丈夫だった!?」

「はい、月詠は捕縛術で縛っておきました」

「私の助けはいらなかったみたいよ」

「普段からシホさんとは二刀流の相手をしてもらっていますから冷静に対処すれば簡単でした」

 

 

―――その頃、「放置プレーですか~。刹那センパイのいけず♪」と月詠は呟いていた。

 

 

と、その時強大な光からなにやら人の形が浮かび上がる。

 

「な、なんだアレは!?」

 

刹那の叫びで全員が振り向きそこには鬼神の姿があった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

…時は少し遡りネギは祭壇へと突入をかけていた。

 

「『加速(アクケレレット)』!」

「まさかあのガキが!」

「あなたは儀式を続けて」

 

フェイトはお札を取り出し昼間にシホに消されたはずの式神――ルビカンテ――を召喚する。

ネギを倒すように指示を出す。

ルビカンテは指示通りネギに突撃を仕掛けるが、

 

「契約執行1秒間!! ネギ・スプリングフィールド!! 杖よ、最大加速(マークシマ・アクケレラティオー)!!」

 

水上ギリギリを飛行し水しぶきを上げながらネギはルビカンテを拳一つで貫いた。

 

(スゲエ! 昼の疲労や姐さんへの契約執行があるのにここにきてこれほどの魔力パンチ。そろそろガタがきてもおかしくねえのに兄貴の魔力は底なしか!?)

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け一陣の風。『風花風塵乱舞(サルタティオ・ブルウェレア)』!!」

 

水煙を発生させフェイト達の視界を奪う。

だがフェイトはわかっているかのようにネギの進行方向に手を構える。

しかしフェイトに向かってきたのは杖だけ。

本体であるネギは背後に回りこみ、

 

「わあああああっ!」

 

フェイトに向かって拳を突きつけた。

だがそれはフェイトの堅固な障壁によって止められてしまう。

 

「無駄だよ。だから止めたほうがいいと言ったのに…つまらないね。なんで実力差があるのに慣れない接近戦を選択したの? サウザンドマスターの息子でもやはり子供…期待ハズレだよ」

「へへへっ」

「…?」

 

しかしそこでネギは密かに笑い出した。

なにがおかしいのかフェイトは疑問に思う。

 

「―――ひっかかったね? 開放(エーミツタム)!『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)戒めの風矢(アエール・カプトウーラス)』!!」

「詠唱なしで呪文!? そうか、遅延呪文!」

「へっ…その通りだ! 水煙の中で魔法の射手を咲きに詠唱して溜めておいたんだ! おまけにゼロ距離…これならどんだけ強力でも障壁は効力を最小まで半減できるって寸法よ! どんなもんじゃわりゃあああ!!」

「…成る程。わずかな実戦経験で驚くほどの成長だね。認識を改めるよ、ネギ・スプリングフィールド」

 

拘束されているフェイトはなおも冷静にネギを評価していた。

しかしそれに耳を貸すほど暇ではない。一刻も早くこのかを救出しなければ…その思いでかけるが…、

 

「い、いない! どこに!?」

 

祭壇の中心にはこのかはおらず天ヶ崎千草もいなかった。

しかしすぐに発見することになる。

最悪な事態とともに…!

 

「ふふふ………一足遅かったようですなぁ。儀式はたった今終わりましたえ」

 

そこには顔が前と後ろの二つ、腕が四つ、まだ上半身だけだというのにその大きさは二十メートルから三十メートルはあるであろう巨大な姿。

 

「二面四手の巨躯の大鬼、『リョウメンスクナノカミ』。千六百年前に討ち倒された、飛騨の大鬼神や」

 

巨大な鬼がネギ達の前に現れてしまった。

天ヶ崎千草はこのかを浮遊させながら自らも浮遊しスクナの肩に飛び移る。

ネギはそのあまりの大きさに絶望に打ちひしがれるがすぐに気持ちを切り替えて、

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」

「兄貴!?」

「完全にでちゃう前にやっつけるしかないよ! 来たれ雷精、風の精!!」

「うおおいっ! 待てよ兄貴! 確かに今効きそうなのはそれしかないとはいえ兄貴の魔力は限界だ! ぶっ倒れちまうぞ!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!」

 

カモの叫びは、しかし今のネギには止めるという選択肢はない!

 

「『雷 の 暴 風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』!!!」

 

渦巻く螺旋の雷はスクナに直撃する。しかしそれだけ…スクナは全くの無傷でその身を微動だにしない。

 

「アハハハハハ!! それが精一杯か!? サウザンドマスターの息子が!! まるで効かへんなぁ!!」

「そ、そん、な…!」

「こいつをこのかお嬢様の力で制御可能な今、もう何も怖いモンはありまへん。明日到着するとか言う応援も蹴ちらしたるわ!!

そしてこの力があればいよいよ東に巣食う西洋魔術師に一泡吹かせてやれますわ!! アハハハハハハハハ!!!」

「く………くそぉっ……………!!」

 

ネギは魔法の行使のし過ぎで地面に手をついてしまう。

さらに最悪なことに拘束していたフェイトも開放されてしまった。

 

「善戦だったけれど……残念だったねネギ君…」

(マズイゼ! な、何か打つ手は! そ、そうか! 仮契約カードのまだ使っていない機能を使えば! 兄貴!!)

(わかってる!)

 

「召喚! ネギの従者、『神楽坂明日菜』『桜咲刹那』!!」

 

ネギは最後の手としてアスナ達を召喚した。

 

「す、すみませんアスナさん、刹那さん…僕!」

「分かってるネギ!! って、ぎゃあああ! なによアレ!?」

 

アスナは目前のスクナに大声をあげる。

 

「それでどうするの? ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ」

「これは始動キー!! コイツ西洋魔術師!? マズイ姐さん、奴の詠唱を止め―――」

「駄目です、間に合わない!!」

「時を奪う毒の吐息を。『石の息吹(プノエー・ペトラス)』」

 

詠唱は執行されてしまい祭壇を白い煙が覆い尽くす。

なんとか逃げることに成功したネギ達だったが、

 

「ネギ先生! その腕は!?」

「だ、大丈夫です。少し掠っただけですから…」

「―――ッ!」

 

ネギの腕は少しずつ石化してしまっていた。

このままでは物言わぬ石へと姿を変えてしまう。

もうネギはあまりの消耗具合に戦えないと判断した刹那は、

 

「……お二人は今すぐここから逃げてください。お嬢様は私が救い出します!!」

『えっ!』

「お嬢様は千草と共にあの巨人の肩の所にいます。私ならあそこまで行けますから。」

 

もう眼中にないのか天ヶ崎千草はスクナの肩の上で笑みを浮かべているだけだ。

 

「で、でもあんな高い所までどうやって」

「ネギ先生、明日菜さん…。私…お二人にもお嬢様にも秘密にしていたことがあります…。この姿を見られたら…もうお別れしなくてはなりません」

「え……」

「でも今なら……。あなた達になら………!!」

 

刹那は力をこめた次の瞬間、

 

白い羽が舞い散る。

夜だというのに、いや夜だからこそその神秘性はあがっている。

素直に綺麗だと思うだろう。

 

 

―――刹那の背中に白い羽が生えていたのだ。

 

 

「…これが私の正体……。奴らと同じ…化け物です。でもっ、誤解しないでください、お嬢様を守りたいという気持ちは本物です!! …今まで、秘密にしてきたのは…この醜い姿をお嬢様に知られて嫌われるのが怖かっただけ………!!」

 

刹那は心の底からそう白状した。

 

「私………宮崎さんのような勇気も持てない、情けない女ですっ………!!」

「ふぅーん」

「ひゃっ!?」

 

アスナは突然刹那の羽を何度も触りだし、何を思ったのか背中を思いっきり叩く。

それに呼応して刹那は悲鳴を上げる。

 

「なーーーに言っているのよ刹那さん。こんな翼が生えてるなんてカッコいいじゃん!」

「え、え…?」

「あんたさぁ…このかの幼馴染でその後二年間も陰からずっと見守ってきたんでしょ? その間あいつの何見てきたのよ? このかがこのくらいで誰かのことを嫌いになったりすると思う? ほんとにもーう…バカなんだから」

「あ、アスナさん…」

「行って刹那さん! 私たちが援護するから! いいわよねネギ!」

「は、はい!」

「ほら早く、刹那さん」

「グッドラック!」

 

刹那は嬉しかった。

今までこの翼を見たものは気味悪い視線を向けてきた。

差別され禁忌され醜いとまでいわれてきた翼。

だがアスナ達は今までと同じように接してくれる。

それだけで胸が締め付けられる思いにさらされる。

嬉しさを胸に秘めて、

 

「はい!」

 

刹那は飛び立つ準備をする。

 

「…ネギ先生。このちゃんのために頑張ってくれてありがとうございます」

 

そして飛び立っていった。

そこに煙の中から出てきたフェイトは邪魔しようとするがネギが魔法の射手を放ちさせないようにする。

アスナはそれでネギに心配の言葉をかける。

だが思ったとおりフェイトの対象はネギ達に移行される。

 

「さて………これからどうしようか? カモ君」

「手は出し尽くした。さあ、どうすっか…何も思いつかねえや………へへっ」

 

ネギ達はただ笑うだけであったがそこで勝利の女神にも匹敵する声が聞こえてくる。

 

『ぼーや、聞こえるかぼーや』

「…!」

「この声って!」

「ああ、姐さん!」

『わずかだが貴様達の戦いを見させてもらった。特にぼーや。力尽きるまでとはいわんがまだ限界ではないはずだ。1分半持ち堪えさせろ。そうすれば私がすべてを終わらせてやろう』

 

この声は間違うことなきエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルの声。

 

『ぼーや、さっきの作戦はよかったが少し小利口にまとまりすぎだ。今からそれじゃ親父(アイツ)にも追いつけんぞ? たまには後先考えず突っ込め! ガキならガキらしく後のことは大人に任せておけばいいのだ。もう少しでもう一方の援軍も到着するのでな』

 

そこでエヴァの声は聞こえなくなる。

それでネギは一度息をつき、

 

「アスナさん…いきます!」

「OK!!」

「来るのかい? …では相手をしよう」

「GO!!」

 

カモの掛け声で契約執行をするネギ、駆け出すアスナ。

だがフェイトは瞬時に目の前まで移動してアスナを橋に叩き付ける。

そしてネギの背後にも現れアスナの方に吹き飛ばす。

それを何度も続けられまさに防戦一方。

それが何度も続けられると思いきやフェイトは空に上がり、

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト! 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。その光、我が手に宿し、災いなる眼差しで射よ」

 

フェイトの詠唱にアスナは即座にネギをかばった。

 

「『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』!」

 

魔法は放たれたがそれはアスナの服を石化するだけにとどまった。

 

「まただ…またかき消された。その力はやはり魔法無効化能力か? まずは君からだ、カグラザカアスナ!」

 

その力は危険と感じたフェイトはアスナに拳をぶつけようと迫る。

だがそれはネギによってとめられた。

 

「あ、アスナさん…大丈夫ですか?」

「うんネギ…大丈夫よ。…イタズラの過ぎるガキには…お仕置きよっ!!」

 

アスナは服が砕けるのをお構いなしにハリセンを構えてフェイトに叩き付ける。

同時にハリセンの効果が発揮しフェイトの障壁が砕かれる。

 

「なっ!?」

「兄貴、今だ!」

「うおおっ!」

 

石化している拳に力を込めて障壁が消えているフェイトに向かって魔力パンチを叩き込んだ。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

そして飛びだった刹那も、

 

「天ヶ崎千草。お嬢様を返してもらうぞ!!」

「くっ、いつの間に!? 近過ぎてスクナの力が使えん!! 猿鬼!! 熊鬼!!」

 

スクナの上で悪あがきをするが今の刹那の前には障害にならない。

夕凪を振るい二匹の式神を切り裂きこのかを無事救出した。

このかという魔力の制御機関を失いスクナは小さい雄叫びを上げる。

しかし、今そんなことは関係ない。

 

「お嬢様! ご無事ですか!」

 

刹那はこのかの口にはめられていたお札を剥がした。

そして目を覚ますこのか。

 

「ああ…せっちゃんや。へへ…やっぱりまた助けに来てくれた! あれ? せ、せっちゃんその背中の羽…」

「えっ! あっ、こ、これは!」

 

うろたえる刹那。だがこのかは笑みを浮かべながら、

 

「キレーな羽…まるで天使みたいや」

「お、お嬢様…」

 

刹那は感動した。

アスナの言った事が本当だったことに。

そしてやはり仕えていてよかったと思う刹那だった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

「や、やったの?」

 

ネギの魔力パンチをあびてフェイトは一度動きを停止させていた。しかし、

 

「…体に直接、拳を入れられたのは初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド!」

 

フェイトはネギに拳を見舞うが、

 

 

 

 

―――もうさせませんよ?

 

 

―――フフフッ!

 

 

 

フェイトの拳は白黒の双剣で受け止められていた。もちろん担い手はシホ。

そしてシホの影から腕が出てきてフェイトの腕をつかむ。

 

「シホ・E・シュバインオーグ!? それに影を使ったゲート!?」

「ウチのぼーやが世話になったようだな、若造? ふんっ!」

 

影から放たれた拳がフェイトを殴り飛ばす。

そう、殴り飛ばすだ。ただそれだけ。

しかし侮るなかれ…ただ殴られただけだというのにフェイトは水しぶきを大量に上げながら湖の彼方まで吹き飛んでいった。

 

「あっ…え…!」

「え、え、エヴァンジェリンさん! それにシホさん!」

「これで借りは無しだぞ。ぼーや!」

「よく頑張りましたね。ネギ先生にアスナ」

「私もいますよー!」

「アヤメさんもいるの!」

「よっしゃ! これでかつるぜ!」

 

みんなが騒いでいる中、空に茶々丸が浮遊していて、

 

「マスター結界弾セットアップ」

「やれ」

「了解」

 

茶々丸が放った結界弾がスクナの巨体を一時的に封じる。

天ヶ崎千草も肩の上で「なああああっっ!!?」と叫んでいる。

 

「ぼーや達見ておけ! 今から本当の魔法戦というものを見せてやる。シホ、準備はいいな?」

「了解。さっさと片付けようか。タマモ、アスナ達をお願いね!」

「はいです!」

「あ、あの…シホさんは何を?」

「いえ、少し本気をと…まぁゆっくりと見ていてください」

「そうだぞ、ぼーや。いいか? このような大規模な戦いでは魔法使いの役目は究極的にただの砲台と決まっている。つまり火力がすべてだ。

今からシホと二人で火力により圧倒的な勝利を見せてやろう。いいな?」

「は、はい!」

 

そう言ってエヴァは空に飛び立った。

 

「シホ、さっさと準備をしろ。押さえておく時間がもったいないからな!」

「わかったわ。全回路(オールサーキット)全て遠き理想郷(アヴァロン)へと接続!」

 

瞬間にしてシホの体から魔力が溢れ出す。

 

「なっ!? すごい魔力!」

 

ネギが驚くのも無理はない。

今シホは吸血鬼になった魔力を半分は開放しているのだ。

それだけ今からすることはただ事ではないということ。

 

「―――投影開始(トレース・オン)

 

その魔力が手に淡く収束していく。

 

「アゾット・メ・ゾット・クーラディス…魔力変換開始(トリガー・オフ)術式固定完了(ロールアウト)術式魔力(バレット)待機(クリア)!」

「ほう…投影品を魔力の塊にしたか。どこかで見た術式だな」

全魔力掌握完了(セット)!!」

 

魔力の塊となったそれをシホは体にすべて流し込んだ。

それに当然エヴァは驚き、次には笑みを浮かべた。

 

術式兵装(ファンタズム・コード)…! 是、“風王絢爛”!!」

 

 

そして全ての工程が終わりシホの体の周りの魔力がオーラと化して輝きだす。

そしてその謎の力ゆえか空に浮かび上がる。

 

「さて…それじゃいきましょうかエヴァ…!」

「ふん、なかなか面白いものを見せてくれる。ではやるぞ! まずは奴を完全に外に出す。われらの力があれば結界など不要!」

 

 

―――氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!

 

 

氷の氷塊をスクナのいる地面…つまり大岩に叩き込む。

それによって岩は破壊されスクナは完全に立ち上がった。

それにネギ達はある意味悲鳴を上げたくなる。

だがそれがどうしたといわんばかりにシホは干将・莫耶を握りその剣先から風のオーラを出現させて、

 

「ガァァアアアアアッ!?」

「まずは一本!」

 

なんと立った一振りでスクナの腕一本を切り裂いてしまった。

そこに続けて、

 

「ふん…ただのでくの坊が! 消えうせろ! 来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪…『闇 の 吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!!」

 

闇の吹雪が吹き荒れまた一本手が吹き飛ぶ。

だがスクナもただでやられるほどバカではない。

その口からまるで怪獣映画のような光線を放つがシホが前に出て、

 

風王結界(インヴィシブル・エア)!!」

 

干将・莫耶を交差させ光線を防ぐ。

エヴァがシホの背中をけり、

 

「まだ続くぞ! 来れ氷精、爆ぜよ風精! 氷爆(ニゥエス・カースス)!!」

 

スクナの顔面にそれはぶつかり、あまりの凍結によって顔面は凍り付いてしまう。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

「エクスキューショナーソード!」

 

シホとエヴァによる同時攻撃でついに四本の手がすべて落ちる。

それに呼応してスクナは悲鳴をあげる。

 

「フフッ…協力して戦うのは初めてだ。しかもこれほどの力…シホ・E・シュバインオーグ! ますますお前を気に入ったぞ!」

「それはどうも!」

「なかなかに楽しいがそろそろ決めよう。シホ、前は任せるぞ」

「了解」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが!!」

 

エヴァがそこで決めにかかる。

それでやっと声が出せたのか天ヶ崎千草が叫ぶ。

 

「おわぁっ!? つ、次から次へと何や、何なんや! アンタ等何者や!?」

「くくくく、相手が悪かったなぁ女……。ほぼ絶対零度、150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツでも防ぐこと敵わぬぞ?」

 

エヴァが語ると同時にスクナの巨体は少しずつ凍り付いていく。

 

「我が名は吸血鬼(ヴァンパイア)、エヴァンジェリン!!『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』!!最強無敵の悪の魔法使いだよ!! そしてもう一人は『魔弾の射手』『剣製の魔法使い』…これだけいえばもうわかるだろう!!」

「の、ノリノリねエヴァちゃん…」

「『魔弾の射手』に『剣製の魔法使い』!? まさか!」

「カモ君、なにか知っているの!?」

「こらー、エヴァンジェリン! シホ様の正体をいうなぁー!」

 

ネギ達が話し合っている中、エヴァの呪文詠唱は続く。

 

「全てのものを妙なる氷牢に閉じよ。『こおるせかい(ムンドゥス・グラーンス)』…凍結しろ!」

 

スクナは完全に凍り付いてしまった。

エヴァはシホに視線を向け、

 

「シホ、最後は譲ってやる。決めろ!」

「わかったわ! 術式開放…! 投影再固定!」

 

シホは上空まで上がり手を掲げる。

するとシホを纏っていた魔力すべてが手に集束していく一本の剣を形作る。

その剣の名は、

 

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』!!」

 

一刀の下に凍りついたスクナを真っ二つに切り裂いた。スクナはそれによって完全に消え去ったのだった。

 

 

 




というわけで、シホの始動キーや錬鉄魔法のお披露目でした。

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