吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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更新します。


027話 日常編 弟子入りテストと覚悟

 

 

その後、案の定と言うべきか中国拳法の修行現場をエヴァに見つかってしまったらしくエヴァは嫉妬に近い感情を抱いてしまったらしい。

 

「だから、別に嫉妬ではない…」

「まぁ、そういう事にしておくけど…弟子入りの条件が、ねぇ…」

「何も知らないシホ様を巻き込まないでもらいたいものです」

 

そう、弟子入りの条件と言うのが、

 

 

 

1、……シホ・E・シュバインオーグとの勝負でカンフーもどきで一撃を喰らわせる。

2、……対決方法はなんでもよし。これは大きく言えば魔法も使ってもよし。

3、……手も足も出ずにくたばればそれまで。そして心と体が屈した時、この話はなかった事にする。

 

 

 

…以上の条件をクリアすれば弟子入りも吝かではない。

らしい。

 

 

「エヴァにしてはいい案だと思うけどね…」

「そこら辺は事前に教えておかなかったのは悪かったと思っている。だがもう決定事項だ。手心は加えるなよ?」

「まぁ構わないわ。引き受けてあげる。でも判断基準はどうするの…?」

「お前のほうで構わん。お前に一撃など入れることすら困難なのは一目瞭然なのだからな。せいぜい絞ってやれ」

「了解~。ま、そこそこ頑張って悪者を演じてみるわ。ところで魔法を知らない一般の人は連れてくるなとかは言ってある…?」

「抜かりない。もし連れてきたら、そうだな…この話は無しにするのもいいだろう。なめられては敵わんからな」

「それなら大丈夫ね」

「あのガキんちょをいたぶるチャンスですねー」

「ま、頑張ってみようかな。それとエヴァ、ちょっといいかな?」

「なんだシホ?」

「ちょっと協力してほしいんだけどいいかな?」

「言ってみろ」

「うん…私の失われている記憶のことなんだけど、ね。そろそろいい加減思い出す努力をしてみようと思うのよ」

「失われた記憶か。ようするにこの世界に来る前の記憶の事を指しているんだな?」

「そう。それで今分かっているキーワードは【アインツベルン】【聖杯戦争】【冬木という土地】【エミヤ】【正義の味方】…これくらいかな」

「ふむ…。【聖杯戦争】という単語は知らないが、【アインツベルン】【エミヤ】【冬木】からなにか調べられるかもしれないな。茶々丸、なにか引っかかるか試してみろ」

「イエス、マスター」

 

それから茶々丸がしばらく検索しているとなにか引っかかったらしい。

つらつらと内容を話し出した。

 

「まずアインツベルンですが、ドイツ貴族の魔法使いの一族という事で話が通っています。

主に使うのは錬金術を扱うものでして魔法具を生み出す事に関してはかなり有名です。

ですが最近は魔法世界の技術に負けてしまったことがありあまり表立った動きは見せておりません。

ですが千年も続く一族ですので実力は相当のものと伺えます」

「この世界でもやっぱり錬金術が得意と言うことか…姉の魔術回路でも錬金関係も魔術は使えたりできるから」

 

シホはその手から銀に輝く貴金属製の糸を精製しそれを鳥の形に作り変えた。

それをエヴァは「ほう…」と見つめて、

 

「もしかしたらお前にも人形使いの才能があるかもしれんな」

「そうかな? 試したことはないけどたぶん私には縁ないものかと思うけど…まぁいいわ。それより茶々丸、続きお願いできる?」

「はい。次にエミヤですが表立った情報はあまりないですが約一名、飛びぬけて危険と評す人物が存在します」

「その人物の名は?」

「『衛宮切嗣』といいます」

 

 

ドクッ…

 

 

その名を聞いた瞬間、シホの中で何かがざわめいた気がした。

茶々丸はそのシホのかすかな変化に気づかなかったのか続きを進める。

 

「彼は魔法使いでありながら近代兵器を主に使用し、近代兵器と魔法を組み合わせた呪印の施された弾丸、地雷…その他など多種多様な仕掛けをする人物です。

そして動機は不明ですがそれら兵器を用いてこれまで多くの魔法使いを殺すことからつけられたあだ名は『魔術師殺し』という危険な人物です」

「そう、なの…」

 

シホの瞳は大いに揺れていた。

なにか…思い出せそうなのに思い出せないと言う苦痛に苛まれているようでタマモは心配そうにシホを見ていた。

 

「その殺された魔法使いは大部分は悪に身を染めた者ばかりで魔法協会を悩ませていた人物ばかりです。

ですから西洋魔法使いを嫌う関西呪術協会の一部のものからは衛宮切嗣は英雄視されているようだという話です」

「ふん…見方によっては『魔術師殺し』。その反面、英雄視か。ナギとは違ったタイプの人間だな」

「続けます。そして驚くことに最新の情報では衛宮切嗣とアインツベルンが懇意の中になったという事で、アインツベルンの魔法使いである女性と十年前に結婚してどこかに隠居したという話です」

「ほう…シホ、なにやら繋がったようではないか?」

「うん、そうだね…」

「なんだ、元気がないな」

「ちょっと記憶が思い出せそうなんだけどまだのど元につっかかりがあって思い出せないといった感じ」

「そうか。それじゃまぁ次といくか」

「はい。【聖杯戦争】というワードは引っかかりませんでしたが【冬木】という土地は引っかかりました。

その土地は遠坂という魔法使いの一族が管理していまして、他にも間桐という魔法使いの一族が住み着いているそうです」

「遠、坂…? ねぇ茶々丸、そこからシュバインオーグは繋がらない?」

「はい。よく気づきましたね。もう調べ上げています。

遠坂は昔にキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグと名乗る魔法使いに魔法の存在を教えられ師事したとの記録が残されています」

「…宝石剣ゼルレッチ。タマモ、出して」

「は、はいです」

 

タマモは不思議な四次元袋から宝石剣を取り出した。

 

「…繋がった。確かに私はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという人物と遠坂という人物を知っているような気がする。

そして私は元の世界では魔法使いとして認められた六人目だった、と思う」

「曖昧な言葉だな。気がする・と思う…ではまだ確証がつかめないぞ?」

「そうだね。でもこれがその証明だよ」

 

シホは宝石剣をさすりながらそう答えた。

 

「…でも、後一歩足りない。なにか一押しあれば。そうだ…後で学園長に頼んで外出許可を申請してみようかな」

「と、いうとやはり行く場所は冬木か?」

「うん。日帰りになるだろうけど行ってみる価値はあると思う」

「ま、せいぜい頑張ることだな。それより試験の事は頼んだぞ」

「はいはい。わかっているわよ」

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

翌日クラスにシホとタマモがやってくるとアスナはすぐさま飛び掛ってくる勢いでシホに寄りかかってきた。

 

「ねぇねぇシホ! ネギの弟子入りテストでシホが勝負をするって本当なの!?」

「ええ、そう決まったらしいわね。私は了解したけど」

「あのネギがとっても強いシホに一撃なんて無理あるって!?」

「わからないわよ? 別に一度限りの勝負だけど制限はないから。中国拳法を使ってよし、裏の力も使ってもよし…ようするになんでもありなんだからただの殴り合いよりはネギ先生は勝ち目は上がると思うけどね」

「そうそう! 付け焼刃よりは慣れた戦いもできるんですからお子ちゃまには十分だと思いますよ?」

「それは、そうだけど…」

「それと関係者以外一般人は絶対に連れてこないほうがいいわよ? 使うものは何でもよしという設定にした意味が無くなっちゃうからね」

「うん、伝えておく…でも、シホは本気でやらないよね?」

「もちろん。もし本気でやったら今のネギ先生は…一秒でやれるわね」

 

一瞬見せた怖い笑みでアスナは恐怖を感じてしまったらしい。体を震わせていた。

 

「大丈夫。今回はあくまでネギ先生の度胸を試す意味合いもあるから手加減はするわ」

「そう…。うん、シホの言葉を信じるからね」

「お好きにね」

 

 

……………

 

…………

 

………

 

 

夕方には古菲とネギが特訓をしていてシホは暇があったので見に来ていた。

 

「古菲…ネギ先生の調子はどう?」

「む? シホか。いや、それがこのネギ坊主反則気味に飲み込みがいいアルよ。フツーならサマになるには一ヶ月とかかる技を三時間で覚えるアルから」

「へー…それは羨ましいものね」

「それよりシホ…」

「ん…?」

 

ブォンッ!

パシッ!

ズダンッ!

 

「…ッ!?」

 

古菲はシホが振り向く瞬間の油断している状態で不意打ちの拳を浴びせたが、簡単に受け止められさらに地面にいつの間にか横にされ腕を思いっきり握り締められて腕ひじきを受けていた。

 

「イタタタタッ!?」

「あ、ごめん。咄嗟だったんでつい…」

「イタタ…いやー、すごいアルな。不意打ちをしたつもりが倍返しされてしまったアルよ」

 

それを見ていたネギ、アスナ、刹那は、

 

「今のどう見た? 刹那さん…」

「見事な捌きでした。あそこまでやられてしまうと悔しいを通り越して感服の思いでしょう」

「シホさん…やっぱり強いですね。くー老子の攻撃がまったくきかなかったなんて僕、勝てるんですかね」

「それはネギ先生の気力次第ですよ。条件をよく確認することですね」

「! はい!」

「それじゃ今夜、待っていますから」

 

シホはそれだけ伝えるとすぐにその場を去っていった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

そして深夜0時の時間になりエヴァの家の近くの森で、

 

「ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」

 

ネギがアスナ、刹那、木乃香、古菲を引き連れてやってきた。

それをエヴァは見て、

 

「よく来たな、ぼーや。…ふん。一般人は連れてこなかったようだな。もし連れてきていたらこの話は無しにしていたところだぞ?」

「はい、分かっています」

「ならばいい。では早速始めてもらおうか」

 

エヴァの言葉に無言で佇んでいたシホがネギの正面に無言で立つ。

 

「シホさん…」

「……………」

 

ネギの言葉に、しかしシホは無言。ただ始まるのを待っているかのよう。

 

「ではルール説明だ。事は簡単。シホにお前のカンフーもどきで一撃でも入れられれば合格。その一撃をいれる方法はなんでもよし。ただし手も足も出ずにくたばればそれまでだ」

「…その条件でいいんですね?」

 

ネギの二ッとした笑みにエヴァはなにかに気づいたがあえて無視を決め込んだ。

 

「ではシホ。そこそこに相手をしてやれ」

「ええ…アスナ達はエヴァの方に移動しておいたほうがいいわよ。勝負の邪魔になるだけだから」

 

そこで初めて喋ったシホの言葉に素直に従ってアスナ達は場所を移動した。

移動した先にはタマモ、茶々丸、チャチャゼロの姿が見えた。

 

「ネギ!」

「兄貴!」

「大丈夫ですアスナさん、カモ君」

「落ち着いていくアルよ」

「はい、くー老師」

「ご武運を」

「がんばりやネギ君」

「ありがとうございます。刹那さん、このかさん」

 

それぞれから声援を受けながらネギは森の広場に立っているシホの前に立った。

 

「シホさん、お願いします」

「はい。お相手します、ネギ先生」

 

臨戦態勢に入ろうとしている二人を見ながらアスナは古菲に、

 

「ネギは大丈夫だよね…?」

「いや、私が夕方に試したのを見ているアルね? だから分かるネ。正直言って短期決戦のカウンター作戦も…無理ネ」

「そんな…」

「この試合は互いのレベルが違いすぎます。シホさんに一撃など…私ですらいまだ無理なのですから…ですから合格判定は一撃だけではないのかもしれません」

 

刹那の言葉にこのかは首を傾げて、

 

「なにか別の合格方法があるってこと? せっちゃん?」

「はい、お嬢様。そもこの短期間で習った中国拳法では付け焼刃にも程がありシホさんレベルの相手では絶対と言えるほどに一撃など無理でしょう。

古、お前はシホさんの嗜んでいる武術はなにか聞いたんだろう?」

「うむ。シホは中国拳法、柔術、合気道、空手、プロレス、キックボクシング、ムエタイ、神鳴流武術…これらを総合で組み合わせて使うといった話を聞いたネ」

「ちょっ…何その数? 出鱈目にもほどがあるでしょ…」

「ただの魔法使いってー訳じゃねぇってことか…」

「確かに…。ですがそれがシホさんの強さを表現しているのです。ですから私も敵わないでしょう…」

「はー…シホってすごいんやね?」

「はい。さらにこれに加え武器も入れますと剣術、槍術、弓術…それに魔法に魔術、吸血鬼の力。

極めつけは京都で見せた『錬鉄魔法』という固有技法…仲間内なら頼もしいですが敵だと思うとゾッとします」

「シホの姉さんはオールラウンダーだな」

 

カモの言葉に一同は納得するしかないだろう。頷いていた。

そこにエヴァの言葉が響く。

 

「では始めるがいい!」

 

その言葉に即座にネギは魔法詠唱を唱えた。

 

「契約執行90秒間 ネギ・スプリングフィールド!」

 

ネギは体に魔力供給をしてシホに飛び掛っていった。

ただシホはそれを迎え撃つ形を取っていた。

そしてネギの拳がシホに襲い掛かるがシホはそれらをすべて捌いている。

中国拳法特有の変則的に変わる動きに対してシホは一歩もその場から動かずにネギを受け止めているのだ。

 

(そんな…これだけやっているのに!)

 

ネギは焦りを感じ前に出すぎてしまった。

すぐさまシホは足を取りネギを転ばせた。

だがすぐに復帰してその場から離脱をはかるが、しかしシホの追撃の手はない。

ただ不動。

それにネギは怪訝な表情を浮かべているがそこにエヴァから声が響く。

 

「おいぼーや。やる気があるのか?」

「そんな!? 僕は全力でやっています!」

「そうは見えないな…今宵、何のために一般人を連れてこなかったのか理解できない貴様でもないだろう?」

「それは、魔法も使ってもいいということですか?」

「そう言っているだろう。まったく興ざめだ…この話はなかったことにしても構わんのだろう?ん?」

「エヴァンジェリンも悪ですねー」

「ケケケ」

 

タマモが笑みを浮かべチャチャゼロもけらけらと笑っている。

その事にやっと気がついたネギは必死の顔で、

 

「もう一度お願いします!」

「ダメだ。私も中途半端な覚悟でやる弟子などいらんからな。シホ、引き上げだ」

「ちょっとエヴァちゃん!? ネギが必死に頼んでいるでしょ!?」

「何度言っても「エヴァ…」ん? なんだシホ?」

「いいじゃない? 私も魔術を使っていなかったんだからお相子みたいなものよ。もう一度ネギ先生にチャンスを与えてもいいんじゃない?」

「む、まぁお前がそういうなら…」

 

途端ネギはパッと笑顔を浮かべて「ありがとうございます!」と感謝の言葉をいった。

 

「それではネギ先生…ここからは本気で来てください。私もそれに付き合います」

「いきます!ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 光の精霊11柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手・光の11矢!!」

 

魔法の射手がシホに向かっていく。

それをシホは干将・莫耶を投影してすべて切り伏せようとするがそれらはすべて手前の地面に着弾をして砂煙を発生させる。

 

「風精召喚! 剣を執る戦友!! 迎え撃て!!」

 

風の中位精霊を飛ばしシホに殺到をする。それをシホは黒鍵を数本分投影してすべて投擲し串刺しにする。

だがネギはその中を掻い潜りシホに近距離まで接近し魔力をこめた拳を浴びせる。

しかしそれでもシホは素手で受け止めていた。

だがここでネギは、

 

「開放!!」

 

遅延呪文が発動し戒めの風矢がシホの腕を絡み取る。

そこに畳み掛けるように、

 

「闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて敵を喰らえ!『白き雷』!!」

 

白き雷が放たれ粉塵が巻き起こり、そこでとどめとばかりに、

 

「来れ雷精、風の精!雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!『雷の暴風』!!」

 

ギャリギャリと地面を抉りながら雷の暴風は粉塵の中に今だいるであろうシホに直撃し粉塵に発火したのか爆発が起こる。

 

「これでどうだ!?」

「やった!? っていうかネギ! シホを殺す気!?」

「姐さん姐さん、シホの姉さんは不死身っすよ?」

「今のはネギ先生の中で最大の魔法でしょうからこれで決められなければ…」

 

全員の視線がシホに注目される。

そして煙がはれた先では七つの花弁が咲き誇っていた。

 

「さすがシホ様です。あの魔法をロー・アイアスの盾を一枚も割らずに防ぎきるなんて」

「ロー・アイアスか。本当になんでも持っているな」

 

新たに知る宝具の名にエヴァは興味深そうな視線を浴びせている。

だが自身の最大魔法を防がれたネギは片膝をついて「そんな…」と絶望に陥っていた。

 

「…もう終わりですか?」

「…え?」

「魔力が切れたわけでもない、手足が削がれたわけでもない、まして殺されたわけでもない…五体満足。なのにもう諦めるんですか?」

「で、でも…」

「ネギ先生の覚悟と言うものはそんなものだったんですか?」

「!」

「なら…ネギ先生、いえネギ・スプリングフィールド…あなたは大切な生徒達が危険に晒されてしまった時に敵わないと感じたら逃げ出してしまうのですか?」

「そんなことッ!」

 

ネギはなんとか答えようとするがシホから薄ら寒いものが発生しだして体を震わせてしまっていた。

 

「な、なにこれ? 寒い…!?」

「なんやの!?」

「アスナさん、お嬢様! これは殺気です!」

「こんな殺気…初めてアル! 鳥肌がすごいアルよ!」

「シホの姉さん、兄貴を殺す気っすか!?」

 

アスナ達がシホの放つ威圧感と殺気により震えていた。それは正面から受けていたネギにはたまったものではないだろう。

精錬された研ぎ澄まされた殺気は限りなくネギから勇気と気力を奪っていく。

 

「少し話をしましょう…ネギ先生、あなたは自身の事をどう思っていますか?」

「どう思っている、ですか…?」

 

なんとか吐き出すように問いかけるがそれもやっとといった感じである。

 

「…二十年前の大戦を勝利しサウザンドマスターと呼ばれ、マギステル・マギの資格を持ち、多くの不幸な人達を救ってきた英雄、最強の魔法使い、ナギ・スプリングフィールド…あなたはそんなナギの息子です」

「……………」

 

ネギはシホがなにを伝えたいのか分からず無言で話を聞いていた。

 

「ナギ・スプリングフィールドの息子という事実はこれからもあなたにずっと着いて回ってきます。

それはネギ先生を守ると同時に、ネギ先生とその従者達を危険に晒します」

「ど、どうしてですか…? 僕は僕で、お父さんはお父さんです」

「そうかもしれないです。ですが周囲は違います。例えばエヴァはいい例だと思います。

十五年前にナギにこの麻帆良の地に封印され、封印を解こうとしてネギ先生を狙ってきた。そして一般人であるアスナを巻き込んだ。それは何故ですか?」

「そ、それは…」

「そう。あなたがナギの血族だったからです。そしてその過程で魔力を集める為に見えない場所ではたくさんの生徒が血を吸われました」

「…ッ!」

 

ネギはその真実に顔をサーッと青くする。

 

「ネギ先生が普通の魔法使いだったなら、エヴァは行動を起こす事もなく被害者も出なかったでしょう…アスナも今も平和な生活を保てていたと思います」

「はっ、つ…!」

 

ネギはシホの一言一言が何度も胸に突き刺さってきて息をするのもやっとの状態だ。

アスナ達も止めに入ろうとしているがエヴァが前に出て、

 

「止めてやるな、お前ら。これはぼーやの問題だ」

「でも! これはなんでもさすがに!」

「これはぼーやの覚悟が試されているのだ。こんな機会はまたとない。邪魔立てするというなら私はお前達を止めるぞ?」

「エヴァンジェリンに賛成ですねー。だから大人しく見ていてくださいな♪」

 

タマモもアスナ達の前に立って呪符を何枚も出して牽制している。

 

「話は戻ります。英雄というものは褒め称えられるものです。でも、それと同時に敵を多く作る。

私がナギと行動を共にしていた時代にも多くの刺客に狙われたものです。

そしてネギ先生の話では生きているというナギですが、事実はどうあれ公式では行方不明、死亡扱いとなっている。

ナギが今まで残してきたものは…、正確に言えばナギに倒されて生き残った敵やその家族の意思は、その因果は………さて、どこにいくのでしょうね?」

「そ、れは…」

 

正直に言わないがシホの言葉は「お前に襲い掛かってくる」と言っているのも当然の台詞だった。

ネギはもう反論も出来ずにただじっとシホの棘のある言葉を耐えている。だが限界も近い。

そしてシホはその手に再度干将・莫耶を投影し、殺気の濃度をさらに高める。

 

「ネギ先生…いつかあなたの前に強大な敵が立ち塞がったとします。それらはなにがなんでも倒さなければいけない相手。

でなければ殺されるのはあなたとその仲間達です。

…聞きます。その時になったとしてあなたは―――…」

 

シュッ!

 

離れていた間合いを一瞬でゼロにして白と黒の刃がネギの首に晒される。

 

「あっけなく死を選びますか? それとも、なにがなんでも生きる事を諦めずに足掻き続けますか?」

「う、あ…ぼ、僕は…僕は!!」

「さぁ、ネギ先生…」

 

瞬間、ネギの頭にはあの冬の景色が流れ出した。

蹂躙された村、次々と石化された村人、自身を守り石化された老人、足が砕けてしまった姉、最後に何も出来ずに泣いていた自分。

そこでネギの思考は急激に暴走して、気づいたときには、

 

ズダンッ!

 

なにかを貫く音が辺りに響いた。

ネギが正気を取り戻した時には、アスナ達が悲鳴を上げていた。

なぜ? 答えは簡単だ。

ネギの拳はシホの胸に深く突き刺さってそこから血が流れ出していたのだから。

 

「あ、あ…ぼ、僕はなんてことを!?」

「…大丈夫です、ネギ先生…」

 

ネギの手をシホは優しく握り、そっと胸から離すと胸の傷はたちまちに修復・復元していった。

 

「私は、不死です。だからこの程度ならすぐに復元します…だから気に病まないでください」

「でも、僕は…」

「魔力の暴走を起こしていたとはいえ、私の数々の言葉にも屈せず最後には自ら自身の道を諦めずに私に一撃を入れたのですよ? その心、覚悟、しかと受け止めさせてもらいました」

 

気づけば先ほどまでの殺気は消えうせて、変わりに笑みを浮かべてシホはネギの頭を優しく撫でていた。

その姿を見てアスナ達はシホにどこか神聖ななにかを感じ取っていた。

 

「合格です、ネギ先生。よく心折れずに立ち向かってきましたね。エヴァ、あなたも合格でいいでしょ?」

「ふん…ああ、ぼーやの現在の力量、精神力を見せられ、さらには潜在能力の一部まで引き出されては何も言えん。よって約束どおり稽古をつけてやる。いつでも小屋に来るがいい」

「…あ、ありがとうございます!」

 

それからはもう大騒ぎだった。

刹那やこのかには感激されて、古菲には何度も勝負を申し込まれ、アスナも「無茶しちゃって…」と言われながらもいい様にされっ放しで、カモとチャチャゼロには感心されて、ネギにはもう終わったというのに感謝と謝罪の言葉を何度もかけられていた。

それとエヴァはネギにカンフーの修行は続けていろと忠告していた。

 

「ネギ先生…」

「はい、なんでしょうか?」

「先ほどは酷い言い方をしましたが、あれらは全て紛れもない事実です。だからナギの事を追うばかりで足元をすくわれないようにしっかりと現実を見て、そして強くなってください」

「はい! ご忠告、ありがとうございます!」

 

そしてネギ達は帰っていった。

そして残されたのはシホとエヴァ、そして従者達だけ。

シホは気が抜けたのか胸を押さえて倒れてしまった。

 

「シホ様!?」

「まったく…真祖だからすぐに回復するとはいえ真っ正直に障壁も張らずにその身だけで受け止めるからそうなるんだ。暴走した魔力ダメージも残っているんだろう?」

「ははは…ごめんね」

「茶々丸、そいつを今日はウチで寝かしておけ」

「はい、マスター」

 

シホ達もエヴァの家へと本日はお泊りする事になったのだった。

 

 

 




うーん……もっと胸を貫いて出た血の部分の描写とかするべきだったか?

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