吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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久しぶりに更新します。


036話 学祭準備編 お化け騒動

…………それは遡る事、ようやくネギの手腕によって決まった3-Aの出し物である『お化け屋敷』。

それは他にも『演劇』や『占いの館』、『大正カフェ』、『中華飯店』、そしてなぜか根強くエントリーしていた『水着相撲』『ネコミミラゾクバー』等など……それらを押しのけて投票の結果とネギの采配で決まったものであった。

しかし、投票数一票(誰が手を上げたのかはなんとなくだが察してもらおう)の『水着相撲』はともかくとして他の出し物候補も結構強く、シホはというとどれにしようかと悩んでいた時であった。

ふと、シホの目に止まったのは窓際一番前の本来ならだれも座っていない席の場所にいる幽霊の子……相坂さよがネギがお化け屋敷を提案した時に手を上げているのを見て、

 

「(あれって……自分も幽霊だからっていうブラックジョークみたいなものなのかしら……?)」

 

と、思っていたのだがそこでネギが手を上げた人の名前を点呼している時に、

 

「…………と、それに“相坂”さん、楓さん……」

「ッ!?」

 

 

ネギは無意識なのか、意識的なのか……あの様子だと無意識なのだろうとシホはネギの様子を見て思っていた。

ネギがこの学校に来てからというもの、全然気にしていない様子であったからシホもさすがに見えていないのだろうと思っていたが、無意識だろうと気づいてあげられたことはシホにとっても嬉しく感じられたために、

 

「あ、ネギ先生」

「はい。なんですか、シホさん?」

「私もお化け屋敷でいいですか?」

「いいですよー」

「タマモはどうする?」

「シホ様の提案ならわたくしも同じにしますよ?」

 

シホの提案には基本従うタマモだからこそ、他のみんなも甲斐甲斐しいと思いながらも微笑ましく思っていた。

これで票数は8票となって、こうしてお化け屋敷に決定した経緯があった。

それでさよも嬉しそうに笑っていたので、シホはそれでウィンクして返すとさよは一瞬驚いた顔をしながらも「まさか……」という表情になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その放課後の事であった。

 

教室にはもうすでに誰もいないようでさよは昼間の出来事を思い出しながらも、

 

『シホさん……もしかして……私が見えているのかな……?』

 

そんな事を思いつつ、さよは窓の外を見るとどこかで視線を感じ思わずその方向へと振り向くとそこには今自身の中で気になっていた人物、シホがさよが顔を出している窓を見ていたのだ。

その光景にまたしてもさよはないはずの脈拍が鼓動するかのように胸のドキドキが止まらないでいた。

 

『勘違いなんかじゃない! シホさんは私が見えている!』

 

そう感じ取った瞬間にはさよはすでに窓を通り抜けて一直線にシホのもとへと飛んでいく。

シホも動揺した素振りなどせずにただたださよが自身の所までやってくるのを待ってあげていた。

そして、

 

『あ、あの! もしかして、私の事が……!』

 

そう叫んださよの言葉に、シホは無言で頷いて笑みを浮かべた。

それからシホは手招きをしながらも人気のないところまでさよを誘導して周りに誰もいないことを確認したのちに、

 

「ふぅ……ここなら大丈夫かな……?」

『あ、あのー……』

「あぁ、大丈夫。私はあなたのことが“視えているわ”」

『や、やっぱり……。で、でもいつから!?』

「んー……そうね。いつからって言うと、私が転校してきた初日からって感じかな?」

『うそ!?』

 

さよはそれで驚きの顔をしていた。

 

『で、でもどんな霊媒師でも私の存在には一切気づかなかったのに……』

「そうね……。さよさんで、いいんだよね?」

『はい……私は相坂さよです。今は地縛霊をしています……』

「確認取れて良かった。ところでさよさんは私の事をどれくらい把握しているの……?」

『どれくらい、ですか……? 3-Aの生徒さんですよね?』

「そっか……それじゃ私の裏の顔は知らないんだね?」

『は、はい……』

 

それでシホは簡単に自身の説明などをさよにした。

すると見る見るうちにさよの顔は驚愕に染まっていく。

 

『シホさんって、吸血鬼さんなんですか!?』

「ええ」

『はわー……驚きです』

「私的には地縛霊をしているさよさんの存在の方が驚きなんだけどね。私のもとの世界の時計塔の降霊科の魔術師が見たらおそらく卒倒するわよ? 自我がこんなにはっきりしているし成仏する気配すらないわけだし」

『その時計塔?とか降霊科?とかいうのはあんまりわからないです。私、少しおバカなもので……』

「気にする必要はないわ」

『あ、でもどうしてシホさんは今更になって私と接触をしてきたんでしょうか……?』

 

さよの発言にシホは本題に入ったか、とばかりに真剣な表情になって、

 

「……昼間の出し物でさよさんは手を上げていたでしょ? 本来なら気づかれることもないのに……」

『はい……で、でもネギ先生は一瞬ですが気づいてくれました!』

「そう、それよ」

『はい……?』

「もしかしたらネギ先生や他のみんなにもあなたの存在が知ってもらえるかもしれない絶好のチャンスだと思ってね」

 

シホの発言にさよは目をぱちくりさせている。どうやらまだ現状が理解が及んでいないのだろう。

シホはそれは仕方がないと思いつつも、話を続ける。

 

「さよさんは幽霊になった後から誰かとお話をすることに飢えていたりしない……?」

『そ、それは……はい。現に今シホさんとお話をできてとても嬉しいです!』

「そう。それじゃいい機会だと思ってネギ先生に接触してみない? 仲介は私がするから」

『それはとてもありがたいんですけど……どうして私のためにそこまで……?』

「んー……まぁ内緒ってことで」

『はぁ……?』

 

今一要領を得ていないために首を傾げているさよだったが、シホはシホである考えをしていた。

すなわちさよは果たして無害のただの幽霊なのか……?という事である。

実際シホがさよに接触してみて人畜無害という言葉が当てはまるくらいにはさよという子は大人しいし無害だとは思うだろう。

しかし、だからと言って放っておいたらそのうち友達になりたいという飢餓感が暴走して、最悪悪霊にまで変異して生徒達を襲わないという保証はないのである。

シホがしたいことというのはつまり、ようはストレスの発散場を作ってあげる事がさよの為でもある。

まぁ、あれこれ考えてはいるが結局はただのシホのお節介なだけでもある。

 

 

 

 

それからシホとさよは夜道を歩いていると前方からネギ達一行が歩いてきたのを確認して、シホは小声で「(ほら、チャンスよ。話しかけて見なさい)」とさよを鼓舞していた。

 

「あれ? シホさん、こんな夜道でアヤメさんも連れずに歩いているなんて珍しいですね?」

「はい、ネギ先生。ちょっと用があったもので……」

「シホったらなにかまた隠し事をしていないわよね? できれば話してほしいなって……」

 

アスナの気遣いの言葉にシホは感謝しつつも、

 

「ありがと、アスナ。でも今は本当になにもないから。あ、でも……」

 

シホは一瞬視線をさよに向けた。

そんなかすかなシホの動きにも反応できる刹那が言葉を発する。

 

「シホさん……? どうされたのですか? そちらには誰もいませんよね?」

「まぁ、そうなんだけど……刹那はなにか感じない?」

「なにか、ですか……?」

 

そんな会話をしている間にもさよはさよで行動を起こしていた。

ネギの視界に手を振ったりしていたり、しまいには、

 

『あ、あの……こんばんはっっ!!』

 

と大声で叫んでいたりした。

だが、結局は気づいてもらえずに無駄骨で終わった形になった。

ダメ押しとしてなにもないところで足もないのに転んでしまっていた。

 

『やっぱりだめですぅ……私はダメダメな幽霊ですー!』

 

と、泣き叫んでいたのだが、ふとネギはさよが転んでいた先をジッと見つめていた。

 

「ネギくん? どうしたん……?」

「あ、いえ……気のせい、ですね……」

 

どこか腑に落ちないような表情のネギが首を傾げながらも気のせいだと断じて止めていた歩みを再開する。

そんなネギの姿にさよはもちろんシホも何かを察したのか、

 

「ネギ先生」

「はい? なんですか、シホさん」

「つかぬ事聞きたいんですけど、ネギ先生ってたとえば幽霊とか霊的なものは見えたりします……?」

「幽霊はともかく霊的なものですか? まぁ、魔法関係でしたら精霊などは見えますけど……幽霊とかそういうオカルト方面はあんまり……」

「そうですか……」

 

そこでシホは少し顎に手を添えて考え込むそぶりをしながらも、何かを思い至ったのか、あるいは閃いたのかネギに正面から向かい合って肩に手を置き、

 

「ネギ先生……」

「は、はい! なんでしょうか!?」

「シホ!? どうしたの……?」

「はわー……ドキドキな光景やね」

「これは写真に収めとくね!」

 

朝倉がカメラを構えてシャッターのボタンを押しているのをシホは気にせずに、

 

「少し、魔的な眼のトレーニングでもしてみませんか?」

「魔的なって……つまり魔眼ですか?」

「はい。ネギ先生にぜひ紹介したい子がいるんです。もちろんアスナ達にも……」

「うちらにも……?」

「シホさん、どういうことでしょうか?」

「エミヤン、どうゆうこと……?」

 

上手く説明ができないでいるシホはどうしたものかと視界を彷徨わせた後、ふと朝倉のカメラに目を向ける。

 

「朝倉。少しカメラを貸してもらってもいい……?」

「え? いいけど……はい」

 

朝倉からカメラを受け取ったシホはそのカメラに対して、

 

「―――同調開始(トレース・オン)……」

 

自身の魔力を流し込んでカメラに霊的な強化を施した。

それはほんの数秒で済まされてシホは朝倉にカメラを返しつつも、

 

「ちょっとそっちの方に向けてカメラを向けて見てくれない?」

「そっちって……え?」

 

シホが指さした方にはなにもない場所だった。

実際はさよが浮いているのだがいまだにシホ以外には見えていないのだ。

それで一同は少し顔を青くさせながらも、

 

「そ、そのさー……シホ。まさか、そこになにかいたりするの……?」

「ええ、そのまさかよアスナ。ネギ先生、クラス名簿は持ち歩いていますよね?」

「あ、はい……」

 

それでいそいそと名簿を取り出すネギ。

 

「その名簿の中で出席番号一番の子がいますよね?」

「え、えっと……はい。相坂さんですか? でも、今まで一度も教室にやってきたことは……」

「では、ネギ先生。出し物を決める時にお化け屋敷で手を上げた人の名前を上げてみてください」

 

そうシホに促されてネギは思い出すかのように一人、また一人と名前を上げていく。

そして次第にネギの表情が青くなる。

 

「相坂、さん……」

「ちょっとちょっと……ネギ、あんた冗談にしては怖すぎるわよ?」

 

さすがのアスナも同意見なのか顔が青い。

 

「ふむ……名簿のメモを見る限りタカミチも把握しているみたいね。『席を動かさない事』って……まぁ、とにかく。朝倉、一枚写真を撮ってみない?」

「こ、こわいなぁ……大丈夫なの、エミヤン?」

「大丈夫よ。彼女はただの友達が欲しいだけの幽霊なんだから」

「幽霊って隠さずに言っちゃったよ!」

「シホさん、なんなら払いますか?」

「刹那も物騒なこと言わないの。怖がっているじゃない……」

 

刹那の発言にさよは怖くなったのか幽霊だというのに一同以上に震えていた。

 

『し、シホさーん……大丈夫なんでしょうか~?』

「安心しなさい。私が責任をもって守るから」

 

シホがそう言って安心の言葉をさよに述べているのだが、実際に見える光景としてはただシホが虚空に向かって独り言を言っているだけにしか見えずに余計に不安が過ぎる一同。

 

「シホがついに独り言を言い始めたわー……」

「シホの姉貴には見えてるんすかねー?」

 

そこで今まで黙って聞いていたカモもつい言葉を発するほどには動揺していたり。

 

「まぁ、エミヤンがそこまで言うってんなら……激写!!」

 

朝倉が意を決してカメラのシャッターを押した。

そして液晶画面に映り出すさよの姿を見て、

 

「ひえええ……なんか写った!? あ、でもなんか可愛い……」

「朝倉、見せて!」

「ウチも見たいわ!」

「僕もいいでしょうか!?」

 

それで全員が液晶画面を通してさよの存在を確認したのがきっかけだったのか、

 

「あっ……」

「嘘……」

「なんかはっきり見えるわー」

「はい、お嬢様……」

「マジか……」

「相坂さん、なんですか……?」

 

全員がカメラ越しではなく目視でさよの存在を確認できていたのだ。

 

『え……? みなさん、私の事が……視えているんですか?』

 

さよの確認の言葉にシホを除いた全員が首を縦に振っていた。

それでさよは涙を流しながらも嬉しそうに破願して、

 

『シホさん! 私、やりました!』

「はいはい、よかったわねー。よしよし」

 

シホは手に魔力を込めて霊的にさよの頭を撫でてあげていた。

なにげに高等テクを使うシホの事を驚きつつも、さよはネギ達に振り返って、

 

『そ、その! ネギ先生……それに皆さん。私と……友達になってください!』

 

そんなさよの言葉に少し怯えもあるだろう、けどネギ達はさよの言葉を受け入れてこうして友達になることができたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ちなみに後日談だが、調子に乗ったさよが他のクラスメイト達とも友達になりたいと張り切ってしまい、心霊現象として校内新聞に載る騒ぎにまで発展して一時は除霊をしようと生徒達が夜中に教室で暴れて騒動を収めるのにシホ達が頑張ったとだけここに記載しておこう。

 

 




最終的には原作みたいな事が起こったとだけ。

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