吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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更新します。


037話 学祭準備編 アルとの対談

 

学祭間近なこの頃。

シホは学園祭が始まる前に一度腹を割って話をしないといけないだろうという人物を脳内に浮かべていた。

タマモはそんなシホの機敏な考えに即座に思い至ったのか、

 

「シホ様? どうされましたか? また何かを思いついたような顔つきですが」

「さすがだねタマモ。うん。一回アルとじっくりと話をしておいた方がいいかなって思ってね」

「そうですかー。でしたらわたくしも同行いたしますね」

「うん。タマモも会話をしておいて損はないと思うしね」

「はい♪」

 

そんな時に教室では朝倉の全員に聞こえるような声で、

 

「ほいじゃみんな。学祭準備に来れる人は夜の7時半までにはお願いねー」

 

と、みんなに呼び掛けをしていた。

まぁ、結構締め切り期間が迫っているのでまだまだ作成しないといけない機材などがある3-Aとしては出ないといけないと思うシホだが、それよりもアルとの会話の方が大事であるために、そしてまだ本格的にヤバい段階ではないためにもしかしたら今日はいけないかも……という話を朝倉にしておくと、なにやら朝倉は怪しい目つきをしていた。

 

「……朝倉? その意味深な目つきはなに……?」

「いやね。普段なにかと率先してみんなの手伝いをするだろうエミヤンが今日は来れないって思うと、なにかあるのかなーって……」

「気のせいよ。ただ大事な用があるだけだから」

「はいはい。それじゃ貸し一つでね」

「相変わらず抜かりがないわね……」

「そりゃねー。エミヤンが大事な用って言うと、あっち側なんでしょ……?」

 

そう朝倉に言われて否定できないシホは、それでも強がりで「まぁ、否定はしないわ」と言っておいた。

それで朝倉も満足できたのか手をフリフリしていた。

なにかの敗北感を感じながらもシホは教室を出ようとしたのだが、

 

「おいシホ。どこに向かうんだ? 私もなんなら付き合おうか?」

 

そこにエヴァが話しかけてきた。

内心ではまだアルの事は内緒でお願いと言われているためにどうしたものかと思ったが、即座に言い訳をすることにした。

 

「大丈夫よエヴァ。ちょっと学園長と用事があって向かうだけだから」

「む。あの狸の場所か……まぁ、それなら私はだるいからおいとまさせてもらうとしようか。しかし……なにか私に隠し事をしていないか?」

「してないしてない。ね、タマモ?」

「はい。エヴァンジェリンも心配性ですねー」

「そうか……。今はその言葉を信じさせてもらおう」

 

なにかを察したかのような顔をしたエヴァだったが無理に干渉してこない事を感謝するシホとタマモであった。

 

 

 

 

 

それで学園から出ると向かうのは以前にドラゴンが住み着いていた図書館島のところまで向かうシホとタマモ。

 

「ですが、相変わらずアルはここでなにをしているのでしょうねー」

「さぁね。なにか動けない理由でもあるんでしょうけど……私じゃ口では勝てないからはぐらかされるだろうし……」

 

シホはそんな事を言いつつも、いざとなれば『いどのえにっき』を使わせてもらおうとかあくどい事を考えている。

いどのえにっきがのどかの手に渡ったのが分かるところであろう。

まずのどかはこう言ったあくどい事には絶対に使わないであろうが、こうしてシホの手にも渡ってしまったのは何かの縁以外にあり得ない。

 

それからエレベーターを降りていき、例の門番の所までやってくると、案の定待機していたのかドラゴンが大声を発しながら向かってきた。

しかし、以前に一回痛い目を見ているシホを視界に納めるとすぐさまに及び腰になってしまうのはなんとも情けない姿に映ってしまうのは仕方がない事だ。

ドラゴンだって自分から殺されに行くほど無能でもないし愚かではないからだ。

 

「通らせてもらうわね」

「グルッ……」

 

なにやら悔しそうなうめき声をあげながらも、道を譲るドラゴン。

すると先の方で人の影が出現し、

 

「おや……? シホ、来るのでしたら一言言ってくださればよかったのですが……」

 

アルがすぐさま瞬間移動でもしてきたかのように姿を現した。

シホはそれで笑みを浮かべながらも、

 

「や。アル」

「来ましたよー」

「フフフ……。なにやら騒がしくなりそうですね」

「ごめんね。なんか招待状でもないと来れないみたいな感じ……?」

「そうですね。でしたら帰り際にいつでも来れる入場券を渡しておきましょうか」

「ありがとう」

 

そんな会話をしつつ、シホとタマモはアルに案内されながらも内装を見つつ、

 

「でも……本当に地下空間とは思えない光景ね……。なんで光が射していてしかも人工物の建物があってそこに滝が流れているのよ?」

「この世界の神秘ですね、シホ様」

「フフフ……ここは裏の世界と繋がっていましてね。表向きは図書館島とは言われていますが、本来の名前は『アカシャの図書迷宮』と言われていましてね」

「アカシャの図書迷宮……なにやら物騒な名前ね」

「そうでもないですよ? 今も裏の世界の住人が何度も図書館に訪れていますからね。私が拠点にしている場所などほんの一部にすぎませんし。さ、到着しましたよ」

 

アルの住処に到着したのか辺りを見回すシホとタマモ。

そこはどこかエヴァンジェリンの別荘を彷彿とさせる内装でまさに魔法使いの居城と言ったところか?

 

そしてアルはシホとタマモに席に着かせるとテキパキと紅茶やらお菓子などを用意しつつ、

 

「それで……本日はどういったわけで来られたのですか?」

「うん、そうね。まずはアルが前々から興味を持っていた私の記憶が蘇ったってところから話をしましょうかね?」

「ほう……? 例の異界の知識という奴ですか」

「まぁそうね。だけどその前に確認したいんだけど……アル、あなたのパクティオーカードってまだ使えるの……? それが分からない以上は私の記憶を教える気にはなれないんだけど」

「なるほど。シホの知りたいことが分かりました。本題はナギの生存についてですね?」

「察しがよくて助かるわ」

 

そう、アルビレオ・イマのパクティオーカード、『イノチノシヘン』はナギとの仮契約で手に入れたものである。

それがまだ使えるという事はナギの生存が確認できるという事だ。

もしナギが死んでいればただのカードに成り下がってしまうだろうし、そこら辺の正確さは折り紙付きであろう。

 

それを理解したのかアルは懐から一枚のカードを取り出した。

それを見てシホの顔も少しだけだが晴れやかになった。

そう、まだアルのカードは“生きて”いたのだ。

 

「これで満足いたしましたか?」

「ええ。これでネギ先生も喜ぶというものね」

「そうですね、シホ様。ですがアル。その肝心のナギは生きているのでしたら今はどこでなにをしているのですか……?」

「うまいところを突いてきますね、キャスター。そうですね……一辺に語るに何日もかかるかもしれません」

「つまり、今はまだ話せないってところ……?」

「そういうことですね」

「相変わらずの秘密主義ね」

「すいません。それが私の取り柄でしてね」

 

それでシホも聞けることは聞けたのだから頭でその情報を整理しつつ、

 

「それじゃ、聞けることも聞けたことだし私の記憶という事でいいかな? アル」

「はい。とても楽しみですね。シホの過去の話を聞ける機会を私はずっと待っていたのですよ」

 

それはもうとてもにこやかな笑みを浮かべるアルに対して、タマモは内心で「やはりいけ好かない方ですね……かの安倍晴明を見ているようです」とか思われていたり。

 

「どうせ、あなたのアーティファクトである『イノチノシヘン』で私の記憶をコピーするんだろうけど……」

「はい」

「私もただで記憶を見せるほどお人よしじゃないのよ。だから……」

 

そう言いながらもシホは懐からカードを取り出して、

 

「私のアーティファクト『贋作の王』であなたのアーティファクトをコピーするのとで等価交換しない?」

「ッ! まさかあなたのカードは希少中の希少である『贋作の王』だとは……。お相手はキティですか?」

「キティ……? ああ、エヴァのハンドルネームの事ね。まぁそうね。私としても仮契約する気はなかったんだけど無理やりさせられちゃってね」

「なるほど……エヴァンジェリンらしいですね。しかし、となるとシホとエヴァンジェリンのどちらかが完全に死なない限りは寿命がないゆえに無限にアーティファクトの数を増やしていけるとは……元からある力も含めてあなたも相当にチートな存在になりましたね」

「否定はしないわ。それで? 等価交換をする気にはなった?」

「いいでしょう。私も特別このカードの力が他人に渡るというのも気にはしません。そして異世界の知識が手に入るというのでしたらむしろ儲けものです」

「交渉成立ね」

 

そう言ってシホはアルのカードの上に自身のカードを乗せて唱えた。『登録』と……。

そしてすぐさまカードは光り輝いてシホのカードにアルのカードの絵が追加されていた。

 

「フフフ……それではシホも私のカードを登録できたことですし……来たれ(アデアット)

 

『イノチノシヘン』を顕現させて、

 

「見させていただきますよ……あなたのすべてを……」

「ええ」

 

こうして儀式は粛々と行われていった。

そして時間は過ぎていき、一冊の本がアルの手に出現した。

その本の表紙には『シホ・E・シュバインオーグ』そして『衛宮士郎』の二つの名が刻まれていた。

 

「フフフ……! 久しぶりに読み甲斐がありそうですね……あとでじっくりと読ませていただきましょうか。あなたのこれまでの半生を」

「そう。まぁ私の過去なんてつまらないものだとは思うけどね。でも用心してよね? ただでさえ今の私までの記録がその本にはあるんだから捕まっていた間の事も書かれているわけだし私的にはお勧めしないわ」

「そうですか。大丈夫ですよ。これでも今まで様々な書物を読んできましたし今更スプラッターな内容でも動揺はしませんから」

「ならいいけどね。それじゃ用も済んだことだしお暇させてもらうわね、アル」

「また来ますねー」

「はい。また来てくださいねシホにキャスター。……あ、そうですね」

 

そこでシホ達を引き留めるかのようにアルが声を上げた。

シホは「なに?」と振り返ると、

 

「もし、ラカンと会う機会がありましたら先制パンチでアーティファクトを登録することをお勧めしますよ。あの方がガサツですがそれでも用心深いですしね」

「なるほど、確かに。忠告、胸に秘めておくわ」

 

そんな感じでシホ達は今度こそアルの住処を後にしていった。

一人残されたアルはというと、

 

「さて、では覗かせていただきますよシホ。あなたの半生を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………アルはしばらく読み耽っていってまだまだ途中であったが、聖杯戦争終結と四日間の事、そして世界を周って紛争地域に何度も足を踏み入れていくところまでは熟知出来た事で一回読むのをやめて、

 

「なるほど……シホが用心するのも分かりますね。これはまさしく“劇薬”ですね。一般人が見たら内容に目を背けるでしょう。しかしこれだけでも私としましては面白いと言うに他なりません。シホはかの英雄王からその宝物庫の中身をほぼ投影させてもらいましたから、まさか私の存在すら抹消できるほどの宝具を投影できるというのは驚きでしたね……。

もし、シホが捕まらずに私達とともに最終決戦に挑んでいたのでしたら、もしかしたらナギの運命は変わっていたかもしれませんね」

 

そこまで考えて、アルはかぶりを振ってもしものIFを考えるのはやめた。

もう過去の事なのだからやり直しはできないと言ったところか。

 

「それに、もし『イノチノシヘン』でシホの力を使う時が来るとしたら、それはかなりの激戦になるでしょうね……そんな日が来ない事を祈りたいですが」

 

そう独り言を呟きつつもアルはシホの半生を次々と読み進めていくのであった。

 

 

 




シホは『イノチノシヘン』の能力を手に入れた。

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