吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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ひっさびさに更新します。


040話 学園祭編 衛宮家族との団欒

 

 

 

 

学園祭が始まり観客がまるで遊園地かという感じで押し寄せてきてまるでパレードの様相を呈している中で、一つの家族が笑顔を浮かべながら歩いていた。

 

「なぁなぁ父さん! シホ姉ちゃんの出し物はどこかな!?」

「ははは。このマップを見るとどうやらお化け屋敷のようだね?」

「お化け!? い、イリヤ怖くないもんっ!! そうよねお母様!?」

「あらあら。イリヤったらやせ我慢はするものじゃないわよ?」

「お母様ー!?」

 

と、団欒めいていた。

そう、衛宮家族御一行である。

もしシホが今の記憶を思い出している状態でこの光景を見ていたら感涙に咽っている事であろう。それほどに幸せそうなのである。

そんな感じで校内に入っていく四人。

見れば最後尾の看板を持っているお客はかなり後のようで四人も早く並ばないとと列に入っていった。

 

「すげー……人気なんだなー」

「そうね。イリヤ楽しみね」

「そ、そうね……シロウはどうなのよ?」

「ん? 別に。出し物なんだから楽しんだもん勝ちだろ?」

「シロウのくせに生意気ね……」

「イリヤねえの方が怯えすぎなんだって」

「い、言ったわねー!?」

 

と、子供二人はそれはそれは騒いでいた。

それを見る切嗣とアイリも優しそうな目で見守っている。

 

 

 

 

 

 

そして待機列が空いてきてようやくシロウ達の番まで回ってきて、数分後……。

 

 

 

 

出口から出てきた士郎とイリヤはそれはもう青い顔になっていた。

 

「あ、あの頭が長い人の人形は迫真だったわね……」

「そ、それよりも全力で逃げたはずなのにどこまでも追ってくる姉ちゃん達……いったいどうやって……」

 

という感じにすっかりお化け屋敷を別の意味で楽しんでいたのであった。

切嗣も切嗣でなかなかすごい技術が使われている事を見抜いて鋭い視線を各所に向けていたのだが、まぁシホの解析の能力がない限りは分析は不可能であろう(超製であるために)。

すると出口の方からシホが四人の前まで歩いてきて、

 

「シロウにイリヤ。二人とも楽しめた?」

「あっ! シホ姉ちゃん!」

「シホお姉ちゃん!」

「わっ!」

 

二人は先ほどの怯えようから嘘のように笑顔になってシホに抱き着いた。

たった一晩きりの宿泊であったのにこれなのだからかなり懐かれた方だろう。

 

「や。シホさん、久しぶりだね」

「あ、じーさん……じゃなくって、切嗣さんにアイリさんもお久しぶりです」

「(おや……?)」

「(あら……?)」

 

切嗣とアイリはそのシホの反応になにかの違和感を感じた。

そして切嗣を見た瞬間のまるで愛おしい人と再会できた時に出すみたいな表情になったのを見て、そして『じーさん』と切嗣の事を呼び間違えたのを聞いて、シホの事情を知っている二人はなにかの確信に至るにはそう難しい問題じゃなかった。

その証拠にそんなシホの眩しい表情を横で初めて見たのだろう、裕奈と桜子の二人はというと、

 

「(やっべ! なんかエミヤンの新しい一面を見れた気がすんだけど!? よだれ出そう……)」

「(すっごい嬉しそうな表情をしていたにぇー。もし朝倉がいたらすぐさま写真に収めていたよー。見れてラッキー☆)」

 

と、かなり好評であった。

それほど普段からあまり笑わないイメージが定着しているシホなのであった。

そしてシホの隣にいたタマモはというとそれはもう至福の表情で今にも鼻血でも出すんじゃないかと言わんばかりに恍惚の笑みを浮かべていた。

 

「(うん……アヤメさんはいつも通りだね)」

「(シホやんのある意味保護者だからねー)」

 

と、タマモに関しても残念なイメージが定着しているのをもしタマモ本人が知ったら、『それはそれで……』と納得もしそうだと思う二人であった。

 

「あ、裕奈。私とタマモは今から抜けるけど大丈夫……?」

「うん。大丈夫だよー。いいものも見れたしねー」

「その人達の案内なんでしょ? いってらー」

 

妙に物分かりがいいな?と思うシホ。

一回自分の表情を鏡で確かめた方がいいと言われても首を傾げるであろう。

まぁその手段はシホには使えないのだが……。

忘れそうになるであろうがシホは吸血鬼のために鏡には姿は映らないのだから。

だからいつも髪のセットなどその他はタマモに任せているというのは関係者には知られている話。

 

「それじゃ、行きましょう」

 

そんな感じですぐに出る事に成功したシホ達であった。

実際、今のシホの格好はブラックジョークかと知っている人が見たら言うであろう吸血鬼の格好に背中の方には取り付けてある悪魔の翼という容姿である(具体的にいえば某空の旅の吸血鬼みたいなイメージ)。

ちなみにタマモは普段は変化で隠している狐耳と尻尾を仮装だと言い張って出してしまっている。見る人から見れば冷え冷えものだろう。

さらにはそんな学園では可愛い事で有名であるシホ(懐かしい話だが今年の春頃までは車椅子で暮らしていたから儚いイメージが定着しているために、護らねば!という女子が多い)がとても似ている顔をしているアイリとイリヤの二人と並んで歩いている姿を見かけた人達は、もしかして家族かな!?と思ってしまうのは自然な流れでもあった。

 

 

 

 

 

 

そんなシホ一行が歩いている中で、影の方でその光景を見守っている一団があった。

その一行とはネギ、カモ、アスナ、このか、刹那のいつもの五名であった。

なぜこの五名が仕事もしないでシホ達を尾行できているのかというと、自分達の出し物や仕事はすでに『前の』自分達にぶん投げてきたからである。

なにを隠そう、ネギは現在は超からもらったカシオペアで時間旅行を繰り返しており、ネギが悩んでいた生徒達の出し物をほぼすべて消化して後は二日目までエヴァの別荘で寝ていようという魂胆だったのだが、アスナの一言、

 

「……そういえば、『まほら武道会』でシホとは会ったけど、それまではどこでなにをしていたんだろう……?」

 

という呟き。

その一言にネギは普段から大変お世話になっているシホの事も気になったために、もう後は寝るだけであったが無理してもう一回カシオペアを使ったのであった。

さらに言えばもう各所で複数いるネギ達と遭遇するかもしれないという不安感なのかお忍びで変装をして付いて行っているのであった。

まぁ不安な気持ちも分からなくもないが、数回に及ぶタイムトラベルで一回ももう一人の自分達と遭遇しなかったのだからそこらへんは保証はしていいだろう。

 

「わぁ! シホ、とっても嬉しそうやね」

「そうですねお嬢様。まるで本当の家族かのようです」

「なんかあの家族とは関係がありそうっすね。シホの姉貴とそっくりの容姿っす」

「そうだねカモくん。アスナさんはどう思います?…………アスナさん?」

 

ネギがアスナの方を向くとなぜか無言で口を押さえて涙を浮かべていた。

 

「シホが……シホが……あんなに普通に笑顔を浮かべている……これって、もしかして夢……?」

「姐さん姐さん……これ現実っす」

「わかってるわよ!」

 

アスナの気持ちが分からなくもない一同であった。

シホもシホで気持ちが上ずっているのか普段なら気づきそうな気配を気づかないでいるほどに今がある意味で幸せなのだろう。

エミヤのように同族嫌悪も士郎には感じられないので気兼ねなく過ごせている。

 

 

 

 

 

それからシホは衛宮家族を連れてとある場所までやってきて、

 

「それじゃ少し待っていてください。先に仕事をしないとですから」

「仕事って……物騒だね。なにか手伝おうかい?」

「お気持ちだけもらっておきます。タマモ、付いていてあげてね?」

「わかりました。シホ様」

「それじゃ……」

 

瞬間、シホは瞬間移動でもしたかのように消えて高台まで移動していた。

 

「(速い!? 今の目で追えた? 刹那さん)」

「(い、いえ……わたしも無理でした)」

「(せっちゃんも無理ならうちらは無理やね)」

 

高台まで登ったシホはドランシーバーを片手に持ちながら、

 

「いた……」

 

そして構えるのはかなり物騒である弓。

これはさすがにどうなのだろうと、前の時間でネギは龍宮の仕事ぶりを思い出しながらも思っていた。

 

「(龍宮隊長みたいだね)」

 

それを見ていたネギ達はさらに驚く光景を目にする。

矢の先にはおそらくなにかの粉末なのだろう、それを番えて構えてまるで神速かのごとく決まった方角へと数発放つ。すぐさま投影して次弾を構える。

その、龍宮よりもはるかに早いリロード力に改めて弓に関しては誰も敵わないだろう実力を発揮していた。

見れば各所で粉塵が舞っていておそらく告白生徒達がエリア外に逃げていく光景が見られる。

 

「(the・仕事人みたいやね)」

「(被害がそんなにない分、龍宮よりはやり手ですね。さすがシホさん)」

「(魔弾の射手の腕の見せ所っすね)」

「(やっぱシホにはどんな事をしても敵いそうにないわね……)」

「(そうですねアスナさん。あ!シホさんがいきなり駆けだしました!)」

 

見ればまるで無表情のシホがその手に複数の赤い布を持っていた。

そして言霊を呟く……。

 

 

『―――私に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

と……。

 

次の瞬間には告白しようとした複数の男子を布がまるで生きているかのように動いて拘束して、ドップラー効果を残しながら瞬動術でエリア外まで連れ去られるというトンデモ光景を目の当たりにして、ネギ達は顔を青くしていた。

 

「(いまの、なに……?)」

「(おそらくなにかの聖句なのでしょうか……意味はわかりませんでした……)」

「(シホ、平気やろか? なんか体から煙を出しとったよ?)」

「(えっ!?)」

 

その通り。

シホはマグダラの聖骸布によって手が焼けていたのである。

瞬間再生できるから気にはしていないというのは後のシホ談ではあるが、それでも聖なる物なので邪なるシホにはかなりの激痛が伴うはずなのだが、そこはほら、もう聖なるものによっての激痛に関しての耐性は開発されきってしまっているために『少しヒリヒリする』程度なのである。

 

その、なんでも使用するシホにアスナはある意味で悲しんでいた。

 

「(やっぱりシホ……どこか壊れちゃっているのかな……あんなものを普通に使っちゃうあたり……)」

「「「「…………」」」」

 

ネギ達はアスナのその言葉になにも反応できずにいた。

同じ気持であったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからシホの仕事も終わり、後は短い時間を切嗣達と過ごそうと色々な場所を案内している光景が見られた。

タマモはそれをとても慈しみのこもった表情で見守っていて、士郎やイリヤもいろんなアトラクションを体験していてとても楽しそうである。

今は二人でアイスを食べているところだ。

 

シホも一息ついたのか切嗣とアイリが座るテーブルの椅子に腰を掛ける。

 

「お疲れ様、シホさん。おかげで二人ともとても楽しそうだったよ」

「ええ。ありがとね。シホさん」

「はい。それを聞けて安心しました」

 

シホも笑みを浮かべていたが、アイリが飲んでいた飲み物をテーブルに置いてカランと氷の音を響かせながらも、真面目な顔になってシホを見つめる。

見れば切嗣もシホの事をじっと見ていた。

それにシホは少し動揺しながらも、

 

「ど、どうしましたか……?」

「シホさん、一ついいかな?」

「なんでしょうか……?」

「もしかしてだけど、この世界に来る前の記憶を思い出したのかい?」

「ッ!!」

 

シホはいつかは気づかれるだろうと思っていたがまさかこのタイミングで聞かれるとは思っていなかったので目に動揺が走る。

 

「いつ、から……?」

「僕の事を『じーさん』って間違えて呼んだ時かな?」

「そうです、か……タマモ、少し二人の事を見ていて? 大事な話をするから」

「わかりました……シホ様、ご無理だけはしないでくださいましね?」

 

タマモはそれで士郎達の方へと歩いて行った。

それから少しの間、シホと切嗣にアイリの三人の間でシホの過去の事が話し合われていた。

切嗣とアイリはシホの思い出話を聞くたびに苦そうな表情に何度もなる。

なにより、シホが元の世界では切嗣とはまったくの他人で憔悴した切嗣が養子として引き取ったという話になった時にはアイリですら言葉を詰まらせていた。

 

「私は……後に切嗣が参加した聖杯戦争で何もかも失ったのを知って言葉がありませんでした」

「そっちの僕は、それからどうなったんだい……?」

「私を引き取って五年後に…………」

 

これ以上はシホは語らなかった。

それでも察してしまったのだろう、さらに苦い表情になりながら「そうか……」と言葉を落とした。

 

「…………―――私は、この世界がとても今は尊くて好きです。私自身はこの世界に来て辛い思いもしてきましたが、それでも切嗣が幸せに生きていてくれている……イリヤも短命ではなく普通に成長して暮らしていけている……なにより、どんな数奇なめぐり合わせなのかまったく関係のない私がアイリさんから生まれてきてしかも『士郎』と名付けられている……運命を感じずにはいられません。私には、とても眩しいです……」

 

そう、遠くの日が落ちて紅くなってきていた空を見ながら語るシホの横顔にアイリは思わずシホの事を涙を流しながら抱きしめていた……。

 

「そんな悲しい事を言わないで……。どんな事があっても、たとえ血が繋がっていなくても、世界が違っていても私達は絆で結ばれた家族なのよ……?」

「ありがとうございます……」

 

アイリの手を優しく握りながらシホも一筋の涙を流した。

 

「シホさん……いや、シホ。もしよかったらこの学校を卒業したら家に来ないかい? いつでも歓迎するよ」

「ありがとうございます。でも、私は不死です……。一か所にはいつまでもいられません」

「しかし……ッ!」

「でも、気持ちだけはしっかりと受け取っておきます。大丈夫です。いつでも会いに行けますから……」

 

そう言ってニコッと笑うシホは、それでも儚いと切嗣とアイリは感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それを遠くで聞いていたネギ達はもう無言で涙を流していた。

そんな時であった。

背後から「ひっそりと聞いていた人達はだれですかね~?」という魅惑の声量に思わず振り返るネギ達。

そこには士郎達と相手をしているはずのタマモがいた。

 

「アヤメさん……どうして?」

「身代わりを用意するくらいわたくしには容易いです。それよりなにか言う事があるんじゃないでしょうか……?」

 

その言葉に五人は素直に謝った。

それからタマモは言う。

 

「シホ様はいつかあなた方に過去を教えるといいますからわたくしは何も言いませんが、搔い摘んだ程度でもシホ様は不幸な道を歩みながらも、それでも幸せを掴もうと努力しています。ですからこの世界に来る前だとか、もとは男性だっただとか、そんな些細な事など気にせずにこれからもシホ様と接してくださるとわたくしめは嬉しく思います……」

 

タマモはそれを言い切るとまたシホの方を尊い表情で見ながら、

 

「だって、今この瞬間、シホ様は確かに幸運に恵まれているのですから……」

 

ネギ達もそれで今一度シホの表情を見る。

今まで見てきたどの表情よりも儚くも、嬉しそうであったから……。

 

 

 

 

 

 

 

そして場所はまほら武道会へと移っていく。

 

 

 




わぁ……最近執筆意欲がかなり落ち気味ですが、なんとか書けましたがちゃんと書けているか不安です。
最近はパソコンの前に座ってもインスピレーションが湧かない事が多くなってきていてこんなにてこずって遅くなってしまいましたから。


まぁ、愚痴はいいとして感想をお待ちしています。

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