吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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更新します。

不穏なタイトルですが、まほら武闘会は終わります。


048話 学園祭編 異変の兆候

 

 

…………これは確実に死ぬ。

 

直感で悟った。

 

あの光輝く剣を振り下ろされたが最後、私は魂も残さず消滅するだろう。

 

私はただまたあなたに会いたかっただけなのに……。含みもありますがね。

 

ああ……どうすれば……今からではもう瞬間移動などという小細工はこの世界(・・・・)には効果もないのだろう。

 

さきほどから何度も試しているのだから……。

 

私の使命などもう無きに等しい。

 

ただ倒されるだけなら故郷には帰れるだろう、しかし……もうそれも許されないらしい。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ……?

 

この、私が……?

 

まだこれからやりたいことも試したいこともたくさんある。なにより残されるあの小娘(・・・・)の存在もある。

 

だと言うのに……。

 

口惜しい、憎らしい……。

 

この底知れぬ感情も次の瞬間には塵芥に帰すのだろう。

 

それがなによりも度し難い!!

 

しかし、もう取れる手もほぼ出し尽くした。

 

このまま消されてしまう。

 

それもまた運命……?

 

そんな運命など断じて認められない!

 

まだできることはあるはずだ!

 

魂は消滅しても想いを、呪詛を、慟哭を残したい。

 

そしてついに振り下ろされたそれ……。

 

だが、私が酔狂する神と呼ぶにはおぞましい邪は私を見捨てなかった。

 

 

 

 

 

――――ミツケタァ!!

 

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

麻帆良武闘会、準決勝二試合目。

ネギと刹那の戦いは関係者から見れば不出来に見えるだろう。

是か非でも決勝に進んでシホともう一度勝負したいというネギに対して、刹那は心の中で思った。

 

「(今のネギ先生の瞳には私が映っていない)」

 

私をただの過程か通過点であると思われているわけではないのだろうが、それでも先を見通すばかりでしっかりと眼前の相手を見据えていないのは武闘家として失格点であろう。

だから嫌でも私を見てもらう、刹那はその心持でネギに対して焦りから来る瞬動術の基本である「入り」と「抜き」も雑すぎると指摘しながら、

 

「シホさんと戦いたいのは分かります。ですがそれではダメです。勝負する相手の事をまずは第一に考えてください。サウザンドマスターの仲間だったから、父君の信頼する人だから……そんな憧れで目を曇らせてはダメです……ネギ先生は父への憧れから前へ前へと進もうとします。でも、遠くばかり見ていて足元の小石に躓いてケガをするかもしれませんよ?あるいは……」

 

そこで一片の桜がネギの元へと舞い落ちてきて、

 

「手元で咲いている花を見逃すことも……今のあなたの相手は私です。今は私を見てください、ネギ先生」

「ッ!」

 

それでネギはハッとする。

そうだ。なんてダメだったんだ僕はという気持ちが溢れてくる。

 

「そしてお父さんの背中を追う日々も……アスナさん、カモさん、シホさん達の事……お嬢様達の事……そしてみんなの事を……忘れないでください」

 

その言葉にネギの脳裏には今まで出会ってきた人達の顔が次々と浮かんでくる。

そして、なにも焦る必要はないんだ。

一歩、一歩を踏みしめて……僕はいつか。

でも今は、今だけは刹那さんに気持ちを集束させる。

ネギはその気持ちを確認して一息つく。

周りから見ればどこか気持ちがすっきりしたかのような表情の事だろう。

それで料金を払わないで入ってきていた3-Aのクラスメイト達は思わず涎を垂らすかもしれないほどそのネギの表情に魅入れられていた。

そしてついにネギと刹那の本気の試合が開始する。

 

 

 

 

それを見て、もう不安視することはないだろうとシホは感じた。

それでどこかで見ているであろう小太郎の気配を読んで、

 

「お、シホ殿も行くでござるか?」

「ええ」

 

小太郎がいる場所に辿り着くと、案の定小太郎はネギの急成長に頭を悩ませていた。

だからその場にいた古菲、楓、アル、そしてシホはそれぞれに小太郎に適したアドバイスをするのであった。

それで少し気分が良くなった小太郎は、

 

「それでシホの姉貴はネギとどう戦うつもりなんや?」

「そうね……なにやらネギ先生は秘策をまだ隠し持ってるみたいだからそれを引き出してから考えようかな?」

「秘策やて?」

「ええ。少なくともまだろくでもない特攻ではないみたいだけど、はてさて……」

 

それより会場がなにやら騒がしい事に気づく。

あちこちでネギの情報とやらを知った観客がネギの事を盛大に応援し始めているのだ。

シホもそれで携帯を取り出して軽くネギの事を検索してみると、出て来るわ出て来るわネギの出生や大会出場の理由など……。

 

「超のやつ、やってくれるわね……」

 

中にはシホの事も少なくない記事が作られていて、

 

「『半年前に突然編入してきた今は健康体であるが足が不自由だった少女の過去とは……?』…………タマモが知ったら殺しにかかりそうな記事ね……」

 

さすがに吸血鬼である事を仄めかす内容はなかったが、一度ネットに拡散してしまえばどこで探りを入れてくる輩が出てくるか分からない。

 

「……確かに、厄介な事になってきましたね」

 

さすがのアルも苦笑いを浮かべている。

古菲もさすがにシホの事情を知っているだけに怒り顔であった。

 

「まぁもう後手だししょうがないと割り切るしかないか。あ、ネギ先生が勝ったみたいね」

 

見ればお互いに最後の一撃にかけたのだろう。

刹那の攻撃はネギの頬を少し掠り血を出す程度のものであったが、ネギの肘鉄は刹那のお腹に直撃していた。

そのまま刹那は二、三事呟きながら倒れた。

朝倉のカウントで、

 

 

『ネギ選手勝利!これで決勝への駒を進めました!!』

 

 

朝倉の実況を聞きながら、

 

「さて、それじゃ少しネギ先生を揉んできますか」

「頑張ってや、シホの姉貴!」

「うう~、私も戦いたいアル。骨折が憎らしいアル!」

「それでしたら……」

 

そう言うとアルがご丁寧に治癒魔法をかけてあっという間に骨折を治してしまった。

 

「おー?治ってるアル!」

「これから彼女達と戦うかもしれないのですから骨折は不便でしょう?アフターサービスです。もし、無事にこの学園祭が終われたのならネギ先生と一緒にあなた達も私の住処に招待しますよ」

「良い事を聞いたでござるな」

「うむ♪」

「では、シホ。ほどほどにネギ先生と頑張ってくださいね?」

「わかってるわよ」

 

シホはそれで舞台へと向かっていった。

そんなシホの背中に悪魔の翼の幻影が映った事に対して四人は目を何度か見開いているが……。

それで楓はある事をアルに尋ねる。

 

「それで、クウネル殿はシホ殿の事を現状はどこまで知っているでござるか?」

「そうですね……悲しい出来事も含めて大まかにはもう知っています」

「そうでござるか……」

 

それ以上は楓も察したのか黙る。

古菲や小太郎も苦い顔になっている。

 

「あの悪魔はシホの姉貴がきっちり倒したんや。でも、なんやろな?このざわつく気持ちは……それにさっきの幻影は?」

「なんか気持ち悪いアル……シホがどこかに消えそうで」

「拙者達からすれば色々な意味で遠い存在でござるからな……」

「今は見守るしかないですね……いざという時は止めますので」

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ遂に!遂に伝説の格闘大会「まほら武闘会」決勝戦です!!』

 

それでスクリーンにはネギとシホの映像が映される。

朝倉が色々と二人の紹介をしながらも、

 

『さぁ学園最強の名を手に入れるのはシホ選手かネギ選手か!?まずはシュバインオーグ選手の入場です!』

 

そしてシホが舞台へと無言で上がってくると、

 

『まずはこの人!シホ・E・シュバインオーグ選手!ここまでの試合すべてを可愛い虎のストラップのついた竹刀一本でなぎ倒してきた猛者です。他にも様々な動きを披露してこの決勝戦まで傷という傷を負っていません!その細腕のどこにそんな腕力があるのか!?

さぁ対するはわずか10歳でこの達人たちの間を勝ち上がってきた天才少年!噂の子供先生!!流派 八極拳・八卦掌の少年拳士……ネギ・スプリングフィール選手です!!』

 

 

二人の登場に会場のボルテージは最大限まで高まる。

シホとネギは無言で構えを取って今か今かと試合開始のゴングを待つ。

 

『両者、言葉は不要という感じですね! それでは始めさせていただきます!決勝戦最終試合……Fight!!』

 

その合図と同時にネギの身体はまるで闘気でも身にまとったかの如く光り出す。

それを見てシホは思わず「へぇ……」と呟く。

 

ネギはこの状態を過去に二度体験している。

 

一回目はエヴァに弟子入りするときにシホの言葉責めで過去の光景を思い出してしまい、暴走してシホの胸を陥没させるほどの威力を纏った拳を叩きこんだ時。

二度目はヘルマンとの戦いで同じく過去の光景を連想してしまい、またもや暴走して後先考えずに吶喊して、小太郎の助けがなければ石化もしていただろう時。

 

その二回の経験を経て、ネギは過去の情景がこの力を引き出すトリガーになりえるのだろうと読み、敢えて自身の心を向き合いながら、それを制御下に置いた。

 

ゆえに、

 

「これは一筋縄ではいかなそうね……」

 

思わずのシホの言葉にネギはまるで悪戯が成功したかのような笑みを浮かべながら、

 

「シホさん、いきます!」

 

言葉はそれだけでネギはヘルマンの時よりは控えめで、それでもかなりの加速がついた動きをして瞬間的にシホへと迫る。

さながら某戦闘民族が使う体に負担が大きい術のようで……。

 

シホはここまでネギが力を引き出せるようになっていた事に驚きと成長の喜びを感じながらも、それでも冷静に竹刀を振り下ろしていく。

しかしシホの振り下ろしにもネギは対応してなんとかすんでで避けて、そこで初めてネギの拳がシホを竹刀越しに空へと打ち上げる。

 

『おおっと!!ネギ選手の拳が今までの試合で優勢だったシホ選手を捉えて打ち上げた!!初めてまともなダメージか!?』

 

朝倉の実況に、しかしそれでもシホは冷静に、

 

「(術式兵装(ファンタズム・コード)…………… 是、“剛力無双”……)」

 

シホは錬鉄魔法でとある大英雄の斧剣を魔力にして取り込んだ。

瞬間、ネギは悪寒を感じてチャンスなのにその場を離れる。

その危機感知能力は本物で、ゆっくりと着地したシホから恐ろしい程の闘気が溢れているのだ。

 

「大人げないと思わないでください、ネギ先生……これを使うのは認めた相手だけですから」

「ッ!!」

 

シホに認められた。

それだけがネギの心を歓喜にわかせる。

シホはそんなネギの気持ちを察しながらも、竹刀に斧剣の魔力を注いで、いざいかんと思った…………その時だった。

突如としてシホの背中に激痛が走り、「憎らしや……口惜しや……」という明らかな呪詛が込められている言葉が脳内を埋め尽くそうとしてくる。

そんなシホの急激な変化に選手控えの場で見ていたエヴァは思わず、

 

「いかんッ!!」

 

声を上げども、今は試合故に手を出せずにいる自身が歯がゆい感情に浸される。

負の感情に支配されそうになるシホ。

だが寸での状態で、シホはその負の言葉を精神力で乗り切ろうとしている。

その数瞬の間でシホはなんとか正気を取り戻して、

 

「すみません、ネギ先生……でも、大丈夫です!いきます!」

「え、あ……は、はい!!」

 

瞬間、二人の姿は舞台内だけでも一般人には感知できないほどの動きを披露していく。

拳と竹刀がかち合う音が響き合い、シホの異常に気付かなかった観客はただひたすらに二人の勝負を楽しんでいる。

しかし、魔法関係者や古菲などの格闘者達はただひたすらこの試合が早く終わってくれと願うばかりだった。

シホもいまだに背中の激痛が継続して続いていて、今にも背中の衣服がはじけ飛んである(・・)ものが出てきてしまいそうになるのを必死に幾つかの思考を割いて我慢する。

そして、もう限界が近いと悟ったシホは、

 

「ネギ、先生……すみません……次で、決めます」

 

ダメージを負っていないというのに苦しそうな表情でそう話すシホの事を心配するなという方がおかしいのにネギは今はそのシホの必死の気持ちを汲んで自身ももう少しで制御ができなくなって暴走状態になるかもしれないのを察したのか、奇しくも二人とも同時に最後の一撃を叩きこもうとした。

 

そしてネギは最大限に拳を光らせてシホへと吶喊し、シホは虎竹刀をまるで12もの太刀筋が襲うような剣技を見せて、ネギは一方的に十二もの竹刀の攻撃を同時に受けて、

 

『ね、ネギ選手……立ち上がりません!カウントを取ります!』

 

そして、

 

『カウント10!!シホ・E・シュバインオーグ選手の勝利です!!』

 

こうしてまほら武闘会の優勝者はシホに決まった。

見ていたエヴァはもうはらはらで喉が渇くほどであったし、最後の最後で戻ってきたタカミチもそのシホの異常にすぐに察するほどであった。

 

そしてシホはなんとかまだ保っている意識の中で授賞式で超に心配の言葉をかけてもらうが、それすらも今のシホには苦痛に感じてしまい、賞金の一千万を受け取ると、駆けてくるマスコミも目を疑う程の動きでどこへと共なく消え去って……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

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「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!!!!!!」

 

どこともしれない人が立ち寄らない場所で我慢の限界だったのだろう、背中からメキメキと音を立てて悪魔の翼が顕現して激痛がシホを蝕んでいく。

そこに、

 

「シホっ!!」

「シホ様!!」

 

エヴァとタマモがすぐに駆けよってきて、

 

「た、まも……呪詛を、お願い……」

「わかっております!いざや顕現!

この世に蔓延る魘魅邪魅(えんみじゃみ)、禊ぎ祓うは我が鎮石……わたくし、全開でご奉仕いたします! 水天日光、ここに見参!」

 

タマモ……いや、真名『玉藻の前』の宝具、『水天日光天照八野鎮石』が発動し、シホを蝕んでいる呪詛を瞬く間に取り払っていく。

だが、

 

「馬鹿なッ!?我が鎮石を以てしても魂レベルでシホ様の悪魔の翼に呪詛が癒着していて無限に溢れてきております!!祓いきれません!!」

「なんだと!?…………くそ、あの悪魔か。最後のあがきだったか……そういえばこの翼を起こすのも指を鳴らすだけだったな。死に際に最大限のものを放ったのか!アヤメ! なんとか奴の魂は祓えんのか!?」

「今もなおやっております!ですが呪詛の度合いが深すぎて……生前のわたくしならまだしもサーヴァントという制限が付く今のわたくしでは太刀打ちできません!!」

「なら封印は出来ないか!?」

「ッ!やってみます!!」

 

それでタマモは最大限の封印術式を展開していき、その呪詛はやや抵抗があったが、なんとか悪魔の翼の中に押し込める事に成功した。

なんとか呪詛が消え去って、その場で荒い息をしながらも、シホは……、

 

「あり、がと……なんとか楽になった……」

「シホ様~……申し訳ございません。力及ばず……」

「大丈夫……私の方でもなんとか、対策考えてみる……一緒に、頑張ろう……」

「はい~……わたくしも誠心誠意努力いたします……」

 

なんとかこの場を切り抜けたシホ達であったが、エヴァの背後でチャチャゼロがカタカタと口を震わせながらも、

 

「(ケケケ……マタ爆弾ガ増エチマッタナ……マジデシホノ奴、不幸度合イニ関シテハ御主人以上ジャネーカ……)」

 

二重人格に今回の祓いきれない呪詛、過去のあれこれ……不幸と呼ぶには言葉不足だろう。

シホはその場でうつ伏せにへたり込んでいて、疲労具合が凄まじい事になっているであろう。

もし、エヴァとタマモがすぐに駆けつけなければ呪詛によってどうにかなっていたかもしれない……。

実に恐ろしきはやはり呪いという精神に異常をきたす薬物だろう。

今後はシホはこれとも付き合っていくしかないという事実が今後どう作用するかは、まだわからない……。

 

 

 

 

 

 

こうしてまほら武闘会は閉幕してくのであった。

 

 

 




封印……それは破られるのが常と言いますもんね……。

それと今回のネギの術式は闇の魔法よりも自己流で雑で魔力の暴走状態を精神力でなんとか制御しているというものです。
ガス欠早いし長期戦には向かないからやはり闇の魔法の方がネギらしいですね。



明日から艦これは秋刀魚が始まり、来週水曜にはfgoハロウィンがきて来月には新規お断り平安京クリア条件のハードイベが来るから昨日頑張ってまほら武闘会を終わらせました。



―追記―

没案で観客が見ている中で盛大に悪魔の翼が顕現する光景を見られると言うのもあったんですが、さすがに自重しました。

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