吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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更新します。


006話 子供先生の赴任初日

私とタマモが麻帆良女子学園中等部2-Aに編入してエヴァのコテージから寮生活に移って数日が経過した。

そんなある日の朝、目覚まし時計が鳴り響き私は少し目を擦りながらも目を覚ます。

ちなみに午前四時。エヴァには早すぎだろ!?…と突っ込まれたが気にしない。

と言っても、やはり体は朝に弱い吸血鬼でありダルさがかなりあり、そしてまだ一月という寒い季節なので布団の中に入っていたい衝動に駆られるが、

 

「シホ様、朝ですよー? お目覚めください♪」

 

私の枕元で正座しているタマモのニコニコした表情と陽気な声でようやく脳が覚醒しだす。

 

「おはようタマモ。うぅー…やっぱり吸血鬼の体って不便ね。人間のときは目を覚ましたらすぐに起きられたのに…」

「いいえ~。私としましては嬉しいです♪ 毎朝シホ様の寝顔が拝見できて、それにまるで新婚のようにお目覚めの言葉をかけることができますからとても最高です♪」

「そ、そう…」

 

私は向日葵のような笑顔でそう答えるタマモに怒ることもできないでいた。

だってタマモは過去にさんざんな目に合い『良妻になりたい』という願いの元、自分の神格まで落として現界したのだから。

だから私も基本タマモは自由に扱っているしぞんざいに扱ったりもしない。

私のサーヴァントであり立派なパートナーなのだから。

 

 

 

―――閑話休題

 

 

 

「ささ、シホ様。朝の輸血パックですよ」

「ん、ありがと。でもやっぱり慣れないなぁ…美味いけど」

「そこは野菜ジュースとでも思っておけばいいのです」

 

そう、もうこれはここに来てからの日課となっている。

人の血を直接飲みたくないと出張したら学園長が人口血液による輸血パックを毎月提供してくれることになった。

ここは感謝である。

エヴァは『同族としてはあまりに情けないぞ?』と言っていたけどそこは許してほしい。

 

そんなこともあり朝の吸血も完了して体力・魔力ともに全快した私は朝ごはんとお弁当の支度をタマモとともに準備する。

ここで小話だがタマモは私に召喚された当時、現代の料理がろくに作れずに四苦八苦していたが、今となってはそこそこうまいものが作れるようになってきている。

もちろん採点は厳しくしていったので今では人様に出しても文句は言われないだろうと褒めたら狂喜乱舞していたのは記憶に残っている。

そしてここで抜いてはいけないのがタマモの使役する四匹の管狐。

 

「―――呪招・飯綱。出てきなさいな、私の可愛い狐たち♪」

 

四本の竹筒を取り出して詠唱すると四匹の管狐が筒の中から飛び出してきた。

 

赤い管狐が焔(ほむら)。

水色の管狐が雅(みやび)。

黄緑色の管狐が琳(りん)。

黄色の管狐が刃(やいば)。

 

四匹ともタマモと私にとっても忠実な管狐なのである。

能力は多々あるが代表的な能力は、焔は炎、雅は水・氷、琳は風・密度・大気、刃は雷・大地…それぞれに特化した属性を持っている。

風水や陰陽五行説になぞらえているとタマモは言うが、それでは一匹足りないのでは?という疑問にも苦笑して『後一匹作る前に逝ってしまいましたから…』と言ったので当時素直に私は謝った。

 

とにかく、その四匹が私特製の味噌を美味しく食べている姿を見るととても和む。

それから少ししてすべて平らげた四匹は一度頭をさげて管の中に戻っていった。

 

食事が終わり、次に始めるのはリハビリである。

寮室には色々リハビリ用の器具を置かしてもらった。

それで数十分の間、身体強化魔術を使い、魔術の特訓の一環として支えをしっかりと持ちながら歩く練習をしている。こういう時には役立つ力である。

その後にタマモにお風呂に入れてもらい一緒に入浴後、制服に着替えて学校に向かう。

これが今の私たちの朝の生活のリズムである。

足が治ればリハビリはなくなり投影武器での特訓に変わるが魔術を使うというところはさして違いはない。

さて、今日も騒がしいクラスに向かうとしますか。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

教室につくと突然鳴滝姉妹が駆け寄ってきた。

それに少しびっくりするシホだがもう慣れたようで普通に会話を楽しんでいる。

あの初日の一件でシホはすっかり鳴滝姉妹に懐かれてしまってアヤメ共々いい関係を一番築いている中でもある。

シホもタマモもいい妹分として可愛がっていたりする。

 

「ねぇねぇシホ。足の調子は大丈夫…?」

「シホさん、リハビリははかどっていますか?」

「うん。今のところ順調だよ。心配してくれてありがとね、二人とも」

 

シホが頭を撫でる。すると、

「えへー…」と史伽。

「えへへ…」と風香。

二人とも本当に嬉しそうに顔を赤くしてはにかむ。

 

「むっ!? なにやら百合のカヲリがするわ…!」

「なに変な事を口走っているですか、ハルナは…」

 

そこに早乙女ハルナが敏感に反応してそれに突っ込みを入れる文学少女・綾瀬夕映がいたり、

 

「ふむ、少しばかり寂しいでござるな…」

 

同僚を取られたような心境の某甲賀忍者(おそらく中忍)は寂しさを感じて帰ったら双子を弄ってやろうと心の中で計画していたり、

 

「ふむふむ…鳴滝姉妹はエミヤンに夢中と…」

 

報道記者・朝倉和美がメモ帳になにやら怪しく記入をしていたり…ちなみにエミヤンというあだ名の発祥は当然この人である。

もう数名がこのあだ名で呼んでいる為、シホはあきらめたとの事。

それで『くぎみー』という変なあだ名をつけられている釘宮円には同情されたりした。

 

 

 

タマモはシホが楽しく過ごせている日常を細い目をして眺めていた。

と、そこに褐色の肌の生徒。龍宮真名が小声で話しかけてきた。

 

(やぁアヤメ。最近のエミヤの調子はどうだい?)

(あ、真名ですか。はい、最近はやっと支えありでですが歩けるくらいには回復してきました。

やっぱり吸血鬼の治癒力は凄まじいですね。数十年歩かされていなかったのに…寧ろ語るのもおぞましい事をされていたのに、もうそのくらい治ってきているのですから)

(そうか…。しかし末恐ろしいな。魔法世界ではそれこそ“サウザンドマスターのナギ・スプリングフィールド”や“千の刃のジャック・ラカン”とともに有名な“魔弾の射手”“剣製の魔法使い”と称された大物が大戦中に行方不明になったと話では聞いていたが、まさか吸血鬼の実験体に使われていたとは…)

(色々あった、としか今は言えません…。その事を話題に出すとすぐにシホ様はあの時の記憶を鮮明に思い出してしまい苦しんでしまいますから)

(難儀だな…)

(はいです…)

 

なぜ龍宮真名がこうして過去の話をタマモとしているかというと、実はシホが現れた現場に唯一実力者として呼ばれていたからだ。

だからシホの無残な姿も、タマモの悲痛な告白も当然見聞きしていた。

それで龍宮は編入してから少しして二人に接触した一人である。

実は同じ長距離専用の得物を使うシホの大戦中の話で少なからず龍宮は畏敬の念を抱いている一人なのだった。

弓は銃と違い性能が劣るというのにそれも関係なしに自身の腕と鋭い眼力で超長距離からの正確無比な射手を放つ話はとても有名だ。

 

 

 

―――閑話休題

 

 

 

(なにか力になれる事があったらいってくれ。当然報酬有りだがね)

(はいはい!…まったく、この根っからの守銭奴が!)

(ふっ…褒め言葉として受け取っておこう)

 

そうして龍宮は席に戻っていった。

タマモももう気持ちを切り替えてシホの元へと向かっていった。

 

 

 

これでシホは素直な者達には懐かれるほどの人気だが影(といっても遠くから見守るという意味で)ではさらに人気に拍車がかかっている。

まず朱銀に輝いている髪はサラサラで乱れがなく、元々の髪質もそうだが毎日タマモが丁寧に洗ってあげている事もあり枝毛の一本もなく女子には羨ましがられている。

それにシホの性格もとても素直・謙虚で自慢話や高飛車な態度も取らなくてあまり表裏もないから気軽に話しかけられる。

さらに車椅子を使っている為か儚いイメージが定着していてとてもクラスの皆に大切にされている。

 

 

…―――本人の自覚は皆無だが。

 

 

それに頭もいいのでよく勉強の駄目だしや分からない所を丁寧に教えている姿からとても好印象。

なにより普段はぶっきらぼうであまり笑わない方だから一度笑顔を見せればほとんどの者は顔を赤くし積極的な者(主に名をあげると当然タマモを筆頭に朝倉、鳴滝姉妹、早乙女、近衛、運動部四人組、チア部三人組など…)には可愛いと抱き着かれることもしばしば。

嫉妬や僻みを起こすものもいないから(長谷川千雨は嫉妬というよりは、どちらかというとどう上回ろうかと頭を回転させていることくらいか?)かなり友好関係は広がっている。

 

裏のほうでも、シホの本当の姿を知っている魔法生徒や教師などもつい気を許してしまうほどである。

バックには学園長、タカミチ、そしてエヴァすらも味方についている。

それに赤き翼時代の功績からも怪しいことを企んでいると思うものは少ない。逆に龍宮と同じく畏敬の念を抱いている者すら多いくらいだ。

そしてむしろ件の実験体の事で保護に賛成する方の意見が多くあげられ今現在、過激派はもうほぼいないに等しいくらいである。

 

 

 

………結果、普段の行いの成果もありシホとタマモの学園生活はとても充実している。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

そんな最中である日の事、シホとタマモの二人は学園長室に呼ばれていた。

中には学園長とタカミチがすでにいた。

そして部屋には人払いの結界が張られていることから重要なことだと二人は踏んだ。

 

「どうしましたかタヌキな学園長~?」

「コラッ、タマモ。…すみません。それでなにか重要な事件でもありましたか?」

「ほっほっほっ…アヤメ殿は元気でよいのう。主は狐じゃろうに…」

「なにを~?」

 

そこでもはや恒例となった狸と狐の化かし合いが開始されていることを他所に、シホはタカミチの近くまで車椅子を動かして袖を掴み、

 

「タカミチ、なにがあったの?」

「ん…そうだね、姉さん。前にナギには息子が一人いるっていう話をしただろう?」

「うん。ネギっていう今年で十歳の男の子でしょ? かなりの天才だって聞く…」

「そうだよ。それで驚かないで聞いてほしいんだけどいいかな…?」

「いいけど…まずは二人を黙らそう」

「それは同意見だね」

 

化かし合っている二人を力ずくで黙らし話を進める。

そして学園長の一言を聞いて、二人は思わず呆然としてしまった。

それから少しして再起動を果たし、

 

「…ちょっと、もう一度聞いていい? 誰が、どこで、いったいなにをするって?」

「私も耳はいい方なのですが聞き間違いだったならいいのでしょうが…」

 

これはもう一途の望みとばかりに二人に問うが返答は同じ、

 

「そのネギ君がここ麻帆良学園に僕の代わりに君たち2-Aの教師件教育実習生としてやってくるんだよ」

 

開いた口が塞がらないというのはまさにこの事をいうのだろう。

 

「それで? それだと私達の監視体制が無くなることになるけどいいの? 過激派が黙っていないと思うんだけど…」

「うん、まぁー、ね…」

「「…?」」

 

二人が曖昧な表情を浮かべているタカミチ達に首を傾げて怪訝な視線を向ける。

それに気づいたのか高畑は必死に表情を引き締めて、

 

「最初、過激派代表とも言っていい人物だったガンドルフィーニ先生という人がね…あ、知っているよね?」

「うん。いつも硬い表情をしている人でしょ?」

「そうじゃ。まぁあれは素なのだから勘弁してくれい。

で、そのガンドルフィーニ先生がの、過激派集団をここ最近で完全に鎮圧したという話があったんじゃ」

「はぁ…?」

「ふーん…いい所があるではないですか~?」

「うん。最初はやはり半信半疑だったらしいけど、彼も実はシホ姉さんの話に憧れている一人だったんだよ。それで姉さんの話がされた時にすごいショックを受けていたみたいでね。

とある居酒屋で一緒に飲んだ時に色々あってね」

 

高畑はそこで遠い目をしていたので内容は聞かないことにしたシホ達だった。

 

「まぁ、とにかく姉さんの普段の生活からも見て、一概に人外の吸血鬼だからと迫害してはいけないという声があって今ではほぼ沈静化しているのが現状だ。

それに担任から外れるといっても広域指導員という立場もあるから安心していいよ。なにかあればすぐに頼ってくれ」

「わかったわ、タカミチ」

「それで話は戻るが表向き、ネギ君は去年に魔法学校を首席で卒業して修行する名目が『日本で先生をやること』だったんじゃ。

だからここで引き受けることになったわけじゃ。ここなら学園結界もあって安心じゃからな」

「安心………やっぱり裏の事情があるっていうわけね。まぁそりゃ当然といえば当然ね。

そのネギって子はあのナギ…“サウザンドマスター”の息子なんだから。

ナギ自身恨みを買うようなことを結構していたから…それに一度タカミチから聞いた村の災害の話。

…それはナギが原因なのか分からないけど、もしそうだったならナギの英雄という形の負の遺産をそのネギって子は意図せず継承され背負ってしまっている。

狙われる可能性は十分にあるから、ここを彼の守り場と成長するための“揺りかご”として決定したってことでいい?」

「さすが姉さんだ。少しの話でそこまで言い当てるなんて」

「伊達にナギ達とパーティーを組んでいたわけじゃないわ。ね、タマモ?」

「はいです」

「でも…」

「ん?」

 

そこでシホが難しい顔になり、

 

「たった数えて十歳の少年にあのバラエティー豊富で濃いメンバーが揃っているクラスをまとめられると思う…?」

『………』

 

シホの一言によって部屋に沈黙がおりた。

だがすぐに復帰した学園長がのんきな声で『まぁ大丈夫じゃろう』と不安の有り余るコメントをしてため息をついたのは言うまでもない。

 

「まぁもう決まってしまっている事は仕方がないから諦めるとして私とタマモは有事の際がない限りこちらからは正体を明かさないことにするけどいいかな?」

「うん、それで構わないよ。ネギ君にも修行の一環として全面での助けはあまり好ましくないからね。でも魔法関係じゃないところでは…」

「わかっているわ。彼が迷っている際は相談でも乗ってあげるわよ」

「ありがとう姉さん。今はそれだけで十分だよ」

「あ、それと私が“赤き翼”のメンバーだったって事もそれはかとなく隠しておいてね?

聞かれると色々と、ね…例の発作が常に発症していたらさすがにきついから」

「あいわかった。それではシホ殿、アヤメ殿。ネギ君のサポートは任せたぞい」

「「はい」」

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

そんな話が交わされて数日、クラスではすでに今日その新任教師である先生の話題で盛り上がっていた。

かくいう私は五月さんと超さんとで、もう定番となっている中華まんの試食会を互いにやりあっていた。

タマモも真名と少ない会話をしながら楽しんでいる。

実はこのクラスで一番タマモと真名は仲がいいのではないだろうか?

ま、仲良きことは良きかな、ということで、

 

「むむっ…エミヤン、また腕を上げたネ。五月や私よりうまいのではないかナ?」

「それはさすがに誇張しすぎだよ、超さん」

「でも腕を上げてきたネ。以前に和洋中で料理勝負をした時に中では勝てたが和と洋では敵わないと悟ったネ」

 

まぁ和食は記憶を失っていた時からすでに三種の中でなぜか一番作れたし…。

それに長年海外を歩き回って中はともかく洋は味にうるさい奴等がいたので嫌でも成長したものだ。いや、何回ケチをつけられては(特にナギとラカンを)フルボッコにしたことか。

 

「ねぇシホー! 僕にもちょうだい!」

「はいはい、一個百円ね。史伽にもよかったら渡しておいて」

「うん! それじゃ新任の先生歓迎のトラップ仕掛けてくるからー」

「あまりやり過ぎないようにね」

 

風香は少し苦笑いをしながら立ち去っていった。

と、そこで後ろから声がかかり、

 

「おいシホ」

「…ん? なに、エヴァ?」

「今日やってくる新任だが…」

「ナギの息子でしょ? 天才少年って聞くけど性格はどんな子かな?」

「さぁな。ま、ナギ似ではないことは祈りたいことだな」

「確かに…」

「まぁそれはともかくとして足の具合はどうだ? そろそろ車椅子がなくてもいい頃合だと思うが」

「うん。やっぱり結構リハビリが必要そうだけど、二月の終わりから三月の初め頃には復活の目処は立っているよ。

この体じゃなきゃ一生車椅子生活を余儀なくされていたと思うとゾッとするね」

「そうか。では治ったらすぐに別荘で戦いの方のリハビリもするから来ることだ。専用の部屋もすでに手配しているからな」

「ん…ありがとう、エヴァ」

「いい、いい。前にも言ったが同族のよしみだからな。それに時間と歳を取るという概念に縛られない私達は何日でも修行できるからな。

…それに、私個人として世界に名を知らしめたお前の実力も興味はあるしな」

「ハハハ…そんなに期待しないでね」

「むぅ…しかしやはりお前には吸血鬼としての威厳があまりないな。今後プランにそれも追加するか…?」

 

エヴァはぶつぶつ言いながら「またな」といって席に戻っていく。

でも威厳って言っても、ねぇ…?

そんな考えで席に戻ってくるとタマモも話を終えたようで一緒に席につく。

 

「シホ様、今日からナギの息子さんが来るそうですが、どう思いますか?」

「不安…その一言で片付くと思うけどね。学校を卒業したとはいってもまだ十歳だし…世間知らずにも程があるでしょうに」

「そうですねー。それでもし性格もナギ似だったらもう最悪ですね」

「エヴァと同じこと言うんだね。ま、確かにそうだけど…」

 

他には聞こえないように会話をしているとアスナと木乃香がクラスで最後に教室に入ってきた。

なにやらアスナは機嫌がすこぶる悪そうだけどなにかあったのか?

少し目を細めてみれば誰のかわからない魔力の残滓が付着しているようだけど…。

 

「おはようアスナに木乃香」

「あー…シホ、おはよう」

「シホ、おはようや」

「…どうしたの? なにやら気持ちダウン気味だけど…」

「気にしないで。ちょっと色々あっただけだから。そう、色々とね…」

 

哀愁が漂った顔をするアスナに苦笑いの木乃香。

そういえば息子さんの迎えには二人が向かうとかタカミチが言っていたけど、さっそくなにかやらかしたのだろうか…?

聞くと新任の子ども教師にいきなり失恋の相が出ていると屈辱的な事を告げられ、あまつさえいきなり謎の現象で服がいきなり吹き飛ばされ下着姿を露出するという惨事に会い、しかもちょうどそこにタカミチがいた為に恥ずかしい姿を見られ、おまけに『まだ住むところが決まっていないだろう』という学園長の采配で当分の間は同室で住ませてやりなさいと…。

 

『………』

 

それで私とタマモは沈黙する。

 

「………それは、なんというか、もう…ドンマイ?」

「うぅ…変な慰めは入らないのよー。もう最悪な事実は取り消せないんだから」

 

まことに酷い結果がオンパレードだ。

さすがに同情せざるをえない。

これで子供先生に対しての私の前印象は少し下がったのは確かだ。

 

それからしずな先生とともに子供先生…ネギ・スプリングフィールドは教室に入ってくるのだがさっそく黒板消しトラップに嵌ろうとした中で、

 

(えぇー…? とっさの事態とはいえ浮かしてしまうのはさすがにまずいでしょうに…)

 

子供先生もそれにすぐに気づき、わざとらしく頭から黒板消しを受けて咳き込みながらも足を進めるがそこに更なるトラップ。

 

「へぶっ!? あぼっあああああああああっ…ぎゃふんっ!!」

「うわぁっ…」

 

頭から水入りバケツ、吸盤使用の矢が数本、最後には盛大に転がり教台にぶつかりやっと停止する。

そこで一度笑いが起こるが、子供とわかるとすぐさま態度を変えてほとんどの者は子供先生に駆け寄っていく。

それを静かに見つめながら、

 

(シホ様~…本当にあれがナギの息子さんなのでしょうか?)

(現実を見なきゃ駄目よ、タマモ)

(正直言ってダメダメですねー…)

(ま、最初はそんなものでしょう。あ、アスナが掴みかかった)

 

「あんたさっき黒板消しになんかしなかった!?」

 

(うわちゃぁー…あの子、そっこうで魔法がばれそうになってますけど…)

(うん…。というかアスナ、目がいいなぁ)

 

それからというもの、委員長が仲裁に入ったのはいいのだけど、二人の仲の悪さはもう十分知っているので委員長がショタコンだったやらアスナがオヤジ趣味やら二人の個人的言い争いに発展していてもう授業どころではない。

しずな先生が止めなければ授業が終わるまで続いていただろう。

ついでやっと授業かと思いきやアスナによる消しゴム飛ばしによる妨害行為…おそらくまた浮くか弾かれるか、とかそんなことを思っているのだろう?

それでネギ先生に告げ口をしている委員長に消しゴムが当てられまた騒動でてんやわんやのままで授業は終了…。もう呆れてものが言えない。

 

 

 

―――学園長にタカミチ…あなた達の考えはすぐに瓦解しそうですけどいいのかな?

 

 

 

そんなことを考えていると委員長から話しかけられた。

 

「えっ…歓迎会を開きたいの?」

「ええ。せっかく遠路はるばるウェールズから来てくださったネギ先生を歓迎もしないのではクラスの面子に関わりますわ」

「別にいいけど…どうして私に頼むの?」

「シホさんが一番得意そうという理由では駄目でしょうか? 以前に私の家に来てくださったときも色々と指導してくださいましたしシホさんなら適任かと思いまして。

それに私の会社のグループの医療施設をよく使っているそうで、よく点検もしてくれるそうですし、料理の腕も私の家のシェフ達が逆に教えられていた光景にはびっくりいたしました。

それで指導力も十分あると思うのです」

「えっと…」

 

委員長の長い喋りが終わり少し考え込む。

実は以前に雪広邸の招待に預かった私達はその大きさに驚かされた。

それで当然歓迎されたのだけどつい…そう、つい解析眼が働いてしまって今は使えなくなったという古道具一式を点検・さらには復活させてしまった事があった。

その中に委員長の大事にしていたものも多数含まれていて大層感謝されたのは記憶に新しい。

他にも超さんや葉加瀬さんの腕には及ばないけど寮では皆の壊れたやら動かなくなってしまった道具とかは私がいつの間にか点検するようになっていたり…。もちろん報酬で食券を受け取っている。

驚いたのは秘密裏に龍宮から銃一式の点検をしてほしいという依頼だった。

それで龍宮曰く、普段なら高額で点検をしてもらっていたからエミヤには感謝していると報酬までもらっているからなんとも。

「どうして私にこれを?」と聞くと、どうやら魔法世界で私が武器防具種類かまわず捌いては点検前より調子が良くなったという噂を耳にしたとのことだ。

それでなぜか私を一番警戒していたらしいというガンドルフィーニ先生にも依頼された時は度肝を抜かされた。

 

 

 

―――閑話休題

 

 

 

「わかったわ、委員長。それで人員に関してなんだけど…」

「もう確保しておりますわ。料理班はシホさんも入れて超さん、古菲さん、五月さんのフルメンバーですわ」

「それは準備のいいことで…。それじゃ飾り付けのメンバーは私が選んでいい?」

「いいですわ。シホさんが選別するのですから不安はありません」

「では…、龍宮! 逃げようとしている春日を確保!」

「わかった」

「げっ!?」

「タマモと楓は鳴滝姉妹を確保!」

「はいです!」

「ニンニン♪」

「「わーッ!? シホ(さん)の意地悪ーッ!」」

 

即座に逃げようとしていた三名を瞬く間に確保した。普段トラップを仕掛ける手癖からの選別である。

そしてこの私から逃げようと思うのが間違いである。

 

「後は…そうだね。朝倉、お願いできる?」

「うぇ…わかったよぉ。エミヤンの頼みはあまり断れないからね」

「うん、これでよし。それじゃ委員長、この人員でやるけど構わないかな?」

「構いませんわ。それでは残りは買出しやその他の作業に当たらせます」

 

笑顔の委員長は颯爽と残りの人員にテキパキと指示を出していた。

委員長だけあってやっぱりカリスマ性あるなぁー…。

まぁとにかく、

 

「それじゃみんな、お願いね」

 

笑顔でそう言う。

なぜかタマモに「こういう時はシホ様の笑顔が一番効きますから。あ、別に他意はないですので~♪」という事だけど…。

やっぱりみんな顔が少し赤いなぁ…。

いつもより動きが早いし。

 

 

―――…シホは知らない。

普段のキリッとしている表情が、笑顔になるその瞬間をいざ見ようと2-Aに限らず見ようと奮闘している組織という名の集団が存在している事を。

朝倉は赤くなりながらも写真を撮っているところはさすがであるとしかいえない。

この写真が裏購買でかなりの取引をされていることに。

特に買う生徒はミドルネームが『D』とついている人物だったりするが、ここではまったく関係ない話なので割愛する。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

かくして歓迎会は行われた。

最初のほうで普段大人しく、そして男性恐怖症のはずの宮崎がネギ先生に自ら出て行っている光景には驚いた。…後の委員長の銅像にも驚かされたが。

そしてネギ先生を中心に大賑わいの騒ぎをしている脇で、シホはタカミチと会話をしていた。

 

「シホ、君、どうだい? 初日のネギ君の一連の行動を見て」

「…そうだね。まぁ初日だからしょうがないといえばしょうがないけど…あの子、本当に“あの”ナギの息子…?」

「ハハハ…手厳しいね。でもまだこれからだから見守ってやってくれないかな?」

「それはもちろん。ところで話は変わるけど、タカ…高畑先生、涙を浮かべているけどどうしたの?」

「うん…久しぶりに姉さんの手料理が食べれたと思うと嬉しくてね」

「そう…」

 

シホの目には一瞬少年時代のタカミチの姿が映ったそうだ。

そしてまだあの時『赤き翼』のメンバーで大騒ぎをしていた事も思い出してシホも微笑を浮かべていた。

 

途中、ネギ先生がやってきてなにやら読唇術を数回タカミチにしている光景に不思議に思った。

それで普段自己封印している吸血鬼の耳を起動して澄ませて聞いてみると…なんと、アスナにすでに魔法がばれていることが判明した。

…本当に大丈夫かな?

 

その後、ネギ先生とアスナのキス?シーン騒ぎが起こったらしいが私たちはタマモとエヴァも加えて話を弾ませていたので関与していないが、こうして子供先生初日の仕事は終わりを告げた。

 

 

…そしてシホ達がネギと関わってくるのはまだ当分先のことである。

 

 

 




玉藻にオリジナルスキルが付いています。



……それと、実はこのSSにはプロトタイプというものがありまして、DEEN版アニメFate(2006年のアニメ)のその後を題材に、士郎と助かったイリヤが成長して、色々あってネギま世界に飛ぶというものもあるんです。
実際、これを書いたのは日付を見たら2008年でしたので、だいぶ私の書いてきたものでも古参に入る部類の物でして、学園祭でネギ達が超の企みで未来に飛ぶところまで描いて、力尽きたみたいで止まっています。


さすがに、これは文章が幼すぎるんで投稿するのは改訂でもしない限りは憚れるんですが、話的にはこちらが進んでいるんですよね。
カップリングは士郎×イリヤ・このか・刹那でした。

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