吸血鬼になったエミヤ   作:炎の剣製

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更新します。


009話 図書館島…表に出なかった違った光景

 

 

 

期末テストが近い今日この頃、ネギ・スプリングフィールドはとある出来事で焦りを感じていた。

 

 

…少し時間を遡り、

教室へと向かうその手には『最終課題』と書かれた封筒が握られている。

その中身の内容とは『次の期末試験で、2-Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげるよん?』といった最後の語尾に、見る人が見たら破り捨ててしまうかもしれないそんな内容が書かれていたが、今のネギにとってそれは些細なことでしかない。

自身の正式な教師としての道が、通じて“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”への道がまた近くなることを意味する。

俄然やる気が出るというものだ。

 

(よーし、がんばるぞー!)

 

やる気も十分に教室に入りネギは少し口調を強くして、

 

「今日のHRは大・勉強会をしたいと思います!」

 

それから「最下位になると大変なことになるので」と自身の事も内容に隠れ入れながらも「猛勉強していきましょう!」と区切りをつけた。

当然委員長は素晴らしい提案だと拍手をしているのは言うまでもない。

 

(うーん…これってタカミチが言っていた最終課題に関係してくるのかな?)

(おそらくは…。あのお子チャマの焦りようからして間違いないでしょう)

 

シホ達は冷静にネギの行動とタカミチの言葉で状況を分析していた。

だがその意気込みはすぐに頓挫することになる。

椎名桜子の発言によって、

 

「はーい、提案提案!」

「はい! 桜子さん」

「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと思いまーーーすっ!!」

 

ズベッ!とアホらしい提案に思わずシホは机から落ちそうになった。

前の席の長谷川千雨も「ガンッ」と顔を机に叩きつけた。

しかし、それだけで終わらずネギはそれを承諾し一人ぶつぶつと考え出してしまった。

それにごく一部を除いてノリノリであるから尚性質が悪い。

あれよあれよとバカレンジャーが中心に服を脱がされていく様はこの時期にしては能天気過ぎるとしかいえない。

 

「あ、頭が痛い…」

「あはは…」

「長谷川さん、大丈夫…?」

「今は、話しかけないでください…理性が吹っ飛びそうなので…」

「その気持ちはわかるよ」

「………理解者がいて、よかった」

 

ほろりと、一筋の光が見えたのは見間違いではないだろう、とシホは思った。

そこに空気を読まず問題を出されるが無難に回答しておいた。

それで二人同時にため息をつく。

 

「………」

「………」

「気が合いますね」

「まぁ、まだこの空気に慣れていないというのもあるけどね」

「慣れない方が幸せだと思いますよ、きっと…」

「そうだね…」

 

なにやら少しだけ長谷川千雨の中でシホに対する好感度がアップした瞬間だった。

そしてやっと事態に気づいたネギがとても間抜けな表情をしている。

それを見て、

 

「ようやく気づいたね」

「そうですね、まったく…」

 

さらにため息をつかざるを得なかった。

それから流れ解散になりシホ達は帰り道に運動組みグループに呼び止められた。

 

「おーい、エミヤンにアヤメさーん!」

「ん? 裕奈ですか?  どうしたのですか?」

「それにアキラさんに亜子さんにまき絵さんまで…」

「ぅもうっ、エミヤン。“さん”付けはいいって言ってるじゃん? OK?」

「そうだよ!」

 

裕奈とまき絵に推されて、シホは「ぜ、善処します…」と答えておいた。

 

「それでどうしたの?」

「うん、それなんやけど今日ウチ等と勉強会せぇへん…?」

「…迷惑じゃなければ、だけど」

「んー…タマモ、いいかな?」

「シホ様がよろしければ私も大丈夫ですよ♪」

「うん。わかった、それじゃ一緒に勉強しようか」

「ヤタッ! それじゃエミヤン、今日の料理だけど「はいはい、大丈夫。作るから安心して」…やりぃ♪」

「…手伝うよ?」

「ウチも」

「それじゃ私達の部屋に来てやろうか。リハビリも兼ねて部屋は広めのところだから」

 

全員が承諾したところで一度部屋に戻って今夜は夜更かしも考慮して太りにくい軽食も検討していたりするシホとタマモだった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

時間もいい頃になり、シホ達の部屋にまき絵を除いた三名が入ってきた。

 

「おいーっす、エミヤン!」

「お邪魔するで」

「こんばんは…」

「いらっしゃい。…あれ、まき絵ッ…、はどうしたの? いないようだけど…」

「あ! いま、さん付けをなんとか言わずになったんだね。成長成長♪ それとまき絵だけどなんかどっか行っちゃった」

「どっか行っちゃった、ね…せっかく脳に効くデザートも用意したのにこれはお預けかな」

「そうやね。でも本当にどこにいったんやろな…?」

「鳴滝姉妹に聞いたら楓さんや古菲もどっかいったらしいよ」

「………私は神楽坂さんや近衛さん、それに図書館組の面々がなにやら重い荷物を持って階段を下りていくのを見たよ」

「見事にバカレンジャーが揃いましたねぇ…。これはなにやら怪しい雰囲気かもとタマモは推察します。こう、ビビッと!」

『………』

 

タマモの発言と不思議なジェスチャーに一同は顔を見合わせ、「まさかね…」といった顔をしていたが、まぁそのうち帰ってくるでしょうと話を打ち切り、勉強会を開始するのだった。

だが結局その晩アスナ達は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

―――翌日、

 

 

教室に着くとなにやら変な意味のほうで賑やかなのに気づいた。

内容的に、

 

「何ですって!? 2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビに~~~!? ど、どーしてそんな大事なこと言わなかったんですの、桜子さん!!」

「あぶぶっ! だって先生に口止めされてたから…ッ!!」

 

その言い合いにシホとタマモは「やはりか…」と妙に落ち着いた表情をしていた。

これはすでに予想していたからだろう。言い合いには参加はしないように静かに席についた。

みなが一様にその話題を持ち上げて不安そうな顔をしている中、委員長がどうにかして最下位脱出を目指し、普段まじめにテストを受けていないであろう面々を見ながら発破をかけていた。

 

「問題はアスナさん達五人組(バカレンジャー)ですわね。とりあえずテストに出ていただいて、0点さえ取らなければ…………」

 

一番の不安要素であるアスナ達五人の事をぶつぶつとつぶやく姿はまさしく不安一色。

委員長もネギに好意(ショタコンという意味で)を抱いているのでシホ達は生暖かい目をして見届けていた。

 

(しかし、昨日からアスナを始めバカレンジャーに図書館組み、ネギ先生がいまだ教室にやってきていないのはどうしてだろうか?)

 

そんな事をシホが考えているとなにやら廊下をすごい勢いで走ってくるような音が聞こえて「ガラッ、バァンッ!」といった扉に申し訳ないような効果音とともに早乙女ハルナと宮崎のどかが教室に飛び込んできて、

 

「みんなー大変だよーー!! ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に…………!!」

 

その絶望的な知らせに、教室に存在する2-Aの面々のほとんどの思考は統一する。

 

 

 

――――やっぱり、ダメかも……!?

 

 

 

…と。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

結局、朝のHRはしずな先生がやることになり、尋も…もといお話はその次の自習時間に行われることになった。

それで自習時間、事情を知っているであろう早乙女と宮崎に事情を聞こうとしたが、委員長の目が血走り寸前だったのが怖かったのでなぜか私が相談に乗ることになった。

なぜ私…?…なのかと聞いたら遊びもなくいい加減にも聞かないで真髄に相談に乗ってくれるから、だそうだけど…。

 

「そんなに私、相談に乗っていたかな?」

 

そう聞くと、

委員長は「私の大切なものを何度も直してもらいました」。

早乙女や宮崎は「原稿手伝ってくれてるじゃん?」。

まき絵を抜いた運動部の三人組みは「いつも勉強見てくれるから、料理もうまいし。(裕奈いわく、ここが重要)」。

鳴滝姉妹は「いつでもじゃないけどお遊びに付き合ってくれるから」。

那波さんは「保育園で何度か子供の相手の手伝いをしてもらいました」。

釘宮は「美砂や桜子のストッパーを一緒にしてくれるし、…なんか親近感が沸くから」。

超さんや五月さんは「料理の腕試しができて私達の気づかないところも指摘してくれるからいい勉強になるネ」。

…口には出さないが龍宮も「よく銃の点検をしてもらっているからな」と後に聞いた。

 

エヴァが遠くで「そんなに手を出していたのか?…このお人好しめ」と呟き、タマモが「そこがシホ様のいいところですから♪」と返している。

他にもいくつかあげられて、いい加減恥ずかしくなり、

 

「わかった! 分かったからもう私をいじめないで…」

 

大きな声で承諾の返事をする。顔が赤くなっていなければいいが。

…だが時すでに遅し。朝倉が私の恥ずかしがっている写真を何枚も収めていたのは一生の不覚だった。

微妙な敗北感を味わいながらも、気持ちを入れ替えて宮崎達にどうしてこうなったか聞いてみる。

 

内容的には噂がどこで拗れたのか、“次の期末考査で最下位を取ったクラスは解散される。特に成績の悪い生徒は留年、あるいは小学生へ降格する。”…という普通、というか常識的に考えてもありえない事を彼女等は疑いもなく信じてしまいとても焦りを感じてしまったそうだ。

 

この時点で私はすでにもう呆れ顔になっているのは許してほしい。

ほかの一同も同じようなものだし。

 

―――そしてここでバカレンジャーの一人、バカブラックの綾瀬夕映が図書館島に眠る都市伝説を話し出した。

…曰く、読むだけで頭が良くなるという魔法の本があるという。

眉唾物の話だが彼女等にとってはすでに死活問題となっていて、普段なら失笑して流すだろうアスナが乗り気で「行こう! 図書館島へ!!」と目を光らせ何も知らないネギ先生を連れて図書館島の地下に潜っていったという。

そしてついに『本を見つけた!』という報告があった後、なにやら動く石像、ツイスターゲーム、最後に『アスナのおさるー!』という叫び声とともにまるで地面が崩れる音がしてそこで通信は完全に途絶えたという。

 

「…結論から先に言おうか。意味がわからない」

「だよねー。私達もはっきりいって状況についていけないまま通信が切れたから…」

「でもでも…それで皆さんが行方不明になったのは確かなんですぅ…」

 

意味不明な単語のオンパレードで教室中の一同は眉間に皺を寄せて唸っている。

その後、よく職員室に赴く私とタマモに白羽の矢が立てられ代表して学園長室に足を運ぶことになった。

 

…で、着いたはいいがこの狸爺さん。本気で取り組む気があるのか?

意味不明な点は学園長の説明ですべて補完したが、どうにも目の前の仙人を殴りたい衝動が襲う。

それをなんとか耐えて、

 

「…で、地下に落としてなにを企んでいるんですか…?」

「まぁ想定外じゃったんじゃよ。まさか本の間までたどり着くとは思っていなかったのでのう…」

「だからといって地下に落とすのはどうかと思いますよ! この狸じじぃ!!」

「さらに言わせてもらうと魔法に関する隠匿はまったくなしていないと思うのだけど、どうでしょうか…?」

 

爪を硬質化させて睨みを効かせると少し険しい表情になり、

 

「そう怒らんでくれい。当日には間に合わせるように脱出させる算段は出来ておるのでのぅ…」

「そうですか…。まぁそれなら構いませんが非難の対処は手伝いませんからね?」

「自業自得ということです!」

「むぅ…少しはダメ、かの…?」

「「無理です」」

 

二人で即答してその場は学園長が沈む形でお開きになった。

とにかく2-Aの面々には捜索隊が結成されたので問題ないとだけ報告した。

それで安心したのか一同はすぐにテストへ向けて勉強を開始した。

気持ちの切り替えが早くて助かるね。

 

だがそれはやや行き過ぎだったと記載する。

本気を出した委員長が土日含めて教室を貸し切り、全員をまさに缶詰状態にして超、葉加瀬、委員長を中心に予想される問題用紙を何十枚も準備して料理もふんだんに盛り込み逃げ場のない監獄を作り上げ猛勉強をする羽目になった。

私とタマモは比較的疲労は少なかったが、ほかの面々は生きる屍と化し、特にエヴァは嫌々やっていてどうやって抜け出すか何度も思考を深めていた。

さらにやっと教室から開放されたと思った途端、プリントが何十枚も出されて根を上げるものが後を絶たなかった。

 

 

 

そして試験当日、やっと遅れてきてだがアスナ達は戻ってきて試験を受けることは出来て、遅れた者の採点を行った学園長がうっかりミスをして2-Aの合計平均値を下げる事態があったがなんとか一位になれて、見事学年最下位から脱出することに成功しネギ先生はここに残れることになった(最終課題に報えたのかは疑問視だが)。

…―――ふとした事だが、今回のテストの一番の貢献者はネギ先生ではなく奮起した委員長ではないか?…という疑問を持ったが、ここは言わぬが華というものである。

 

 

 


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