【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第二十三話『組分けの儀式』

 ホグワーツ特急がホグズミード駅に到着すると、ハリーはゴスペルを片腕に巻き付けた。

 

「さあ、行くぞ! ドラコ、『ゴスペル』!」

「……途中で蛇語に切り替えるって、器用だな」

『はやく行こうぜ、相棒! エグレが寂しがってる筈さ!』

『そうだな! 寝る前に秘密の部屋に寄らなくちゃいけないな!』

「蛇語オンリーになると何を言っているのか全く分からない……」

 

 二人と一匹で喋りながら人並みに沿って歩いていると、大きな馬車が百台以上も立ち並んでいた。

 どうやら、一年生の時のようにボートで湖を横断するわけではないようだ。

 

「なんだこりゃ!?」

 

 誰かが叫んだ。

 

「なにかいるわ!?」

「なんなの!?」

 

 声を上げているのは上級生達だ。ハリーとドラコは何事かと顔を見合わせた。

 気になって前の方に行くと、馬車を奇妙な生き物が引いていた。馬のようだけど、爬虫類のようにも見える。胴体には全く肉がなくて、骨に直接皮が張り付いているようだ。頭部はドラゴンのようで、目には瞳が無くて白濁している。背中からはコウモリのような黒い翼が生えていて、妙に不吉な気分にさせる。

 

「落ち着け! みんな、セストラルだ! 昔から、馬車を引いていたのはセストラルなんだ!」

 

 七年生のレイブンクロー生が叫ぶように言った。そうしなければ聞こえない程ざわついていた。

 

「セストラル?」

 

 ドラコは首を傾げた。

 

「天馬の一種だな。死を目撃した者にだけ姿を晒す」

「なるほど、騒ぎの原因がわかったよ。犯人は君だ」

 

 ハリーは去年、ヴォルデモートが憑依していたクィリナス・クィレルを生徒達の目の前で殺害した。

 それによって、今までセストラルが見えなかった生徒達も彼らの姿を見えるようになったのだ。

 要するに、この騒ぎを引き起こした原因はハリーだった。

 

「……とりあえず、落ち着くまで教科書でも読んでようぜ」

「やれやれだね」

 

 第二十三話『組分けの儀式』

 

 ホグワーツに到着して、大広間のそれぞれの席に着席しても、生徒達の話題はセストラルだった。

 希少な生物である天馬の一種である事や不気味な見た目、死を目撃した者にのみ見えるという特性が生徒達の関心を惹きつけた。

 ついでに去年のハリーの暴挙を思い出した生徒達はその時の事を熱く語っている。どうやら、時の流れはトラウマを思い出に変えたらしい。

 

「ドラコも来るか? 秘密の部屋」

「パス。僕は眠くて仕方がないんだ」

「なんだよ、つれねーな」

 

 付き合いの悪いドラコに不平を言うハリー。

 

「生憎、僕には蛇語がわからないんだ。君とエグレがシューシュー盛り上がっている中、突っ立ってるだけなんて間抜けだろ?」

「ドラコも蛇語を覚えろよ! ニュートはエグレと時々話せるようになって来たぞ!」

「魔法生物学の権威と一緒にするなよ! あの人は特別なんだ!」

「いいから、勉強の合間に蛇語の訓練をするぞ!」

「まったく……、仕方ないな」

「それでこそドラコだ!」

 

 ドラコの背中をバシバシ叩きながら喜ぶハリー。

 やれやれと肩を竦めるドラコ。

 そんな二人を正面から見つめていたのは上級生のマーカス・フリントだった。

 

「お前ら、相変わらず仲いいな」

 

 苦笑しているフリントはスリザリンのクィディッチチームのキャプテンだ。

 時々、ハリーとドラコは談話室で彼からクィディッチの話を聞いている。

 家の繋がりでドラコが昔から彼と交流を持っていたことが切っ掛けだ。

 

「フリント。シーカーの選抜試験はいつなんだい?」

 

 ドラコはフリントに問いかけた。 

 

「一週間後を予定している。言っておくが、自前の箒を持ってないと参加出来ないぞ?」

「問題ない。僕もハリーもニンバス2001さ」

「最新型じゃないか! それなら問題無いな。しかし、二人揃って参加する気なのか? どっちかは落ちるんだぞ」

 

 フリントは不安そうにハリーを見た。万が一にもハリーが落ちた時、そこには地獄が広がる気がした。

 

「……バジリスクや悪霊の火が大暴れとか勘弁だぞ」

「安心しろ。今年からスリザリンのシーカーはボクだ」

 

 ハリーの言葉にフリントの表情はますます曇った。

 

「……おい、否定しないぞ、こいつ」

「試験の日はニュートとマクゴナガルを呼んでおく事を勧めるよ」

「ダンブルドアやスネイプ先生じゃなくてか?」

「スネイプはともかく、ダンブルドアだと火に油だ。ホグワーツが焼失するよ」

 

 フリントはニュートとマクゴナガルに試験の監督を打診しようと心に決めた。

 そして、ハリーは最後まで否定しなかった。

 

「……そ、それにしても、ジンクスが途切れたな」

「ジンクス?」

「ああ、見ろよ。スラグホーンとスネイプが両方揃ってる」

「それがどうしたんだ?」

 

 ハリーとドラコが揃って首を傾げると、フリントは言った。

 

「闇の魔術に対する防衛術の教師は一年毎に変わるのが通例だったんだ。まるで呪いでも掛けられているかのようにな。旅に出たり、ぎっくり腰になったり、死んだり、理由はいろいろだが」

 

 今年も闇の魔術に対する防衛術はスネイプが続投するようだ。

 その事に驚いているのはフリントだけではなかった。

 

「クィレルは一週間でハリーにぶっ殺されたからな。それまで延長されてるだけじゃないか?」

「一週間後にスネイプもぶっ殺されるのか……?」

「マジかよ……、スネイプ先生……」

「い、一週間の命か……」

 

 段々とお通夜のようなムードになり始めた。

 誰も一週間後にスネイプが生存していると思っていないらしい。

 

「……スネイプ先生はすばらしい教師だった」

 

 フリントは悲しげに呟いた。彼も一週間後のスネイプの死を確信している内の一人だった。

 

「過去形にするなよ……」

 

 ドラコはやれやれと肩を竦めた。

 いろいろと好き放題言われている当人であるハリーは我関せずでスネイプに黙祷を捧げていた。

 

「君も殺すなよ!?」

「ハッハッハ」

 

 一週間後のスネイプの生存確率について生徒達が真剣に考え始めた頃、新入生が大広間に入って来た。

 空中に浮かぶロウソクや豪奢な飾りに見惚れている。

 ハリーはロンの妹と目があった。軽く手を挙げて挨拶をすると、彼女は顔を真っ赤にしながら友人の影に隠れてしまった。

 

「ジニーだっけ?」

「合ってるよ。君にお熱だそうじゃないか」

「悪い気分じゃないな」

 

 新入生達が前の方に集まると、マクゴナガルが組分け帽子を運んで来た。

 

『遡る事、一千年! この地に現れし偉大な四天王! 

 

 荒野を進むは勇猛果敢なグリフィンドール! 

 谷川から現れるは賢明公正なレイブンクロー!

 谷間を抜けるは温厚柔和なハッフルパフ!  

 湿原を越えるは俊敏狡猾なスリザリン! 

 

 集いし魔力は未来を照らす学び舎に!

 名付けられしはホグワーツ!

 

 四人は四つの寮を創立し、各々寮生を呼び集める!

 グリフィンドールは勇気ある者を呼び集め、

 レイブンクローは叡智ある者を選別し、

 スリザリンは野望ある者を歓迎し、

 ハッフルパフはすべてを受け入れる!

 

 四天王生きし日は、彼らが自ら寮生を選び抜き!

 四天王亡き後は、古びた帽子が選び抜く!

 

 古びた帽子をかぶりなさい!

 さすれば君の未来を示そう!

 君の住まう寮はこの古びた帽子が教えてあげよう!』

 

 帽子は帽子の癖に陽気に歌った。

 

「去年と違う歌だね」

「毎年違うんだ。たぶん、毎年自分で考えてるんだろ」

 

 ドラコが感心していると、フリントが言った。

 

「帽子が?」

「帽子が」

「……帽子の人生って、どんな感じなんだろう」

 

 帽子の人生について考え始めるドラコを尻目に組分けの儀式が始まった。

 去年と同様にABCの順番に新入生が呼ばれて組分け帽子を被らされた。

 一番手のフィリップ・アンダーソンはレイブンクロー、二番手のイリーナ・アシュフォードはハッフルパフ、三番手のコリン・クリービーはグリフィンドールと、順調に組分けが進んでいく。

 そして、いよいよ一人目のスリザリン生が現れた。

 

「スリザリン!!!」

 

 触れる前に帽子が叫んだ。金髪で目つきの鋭い女の子だ。名前はローゼリンデ・ナイトハルト。どうやらドイツ人らしい。

 彼女は組分けされると同時にハリーを見た。まっすぐに歩いてくる。

 

「ハリー・ポッター様! 私はローゼリンデ・ナイトハルトと申します!」

 

 いきなりの名乗りにハリーは目を丸くした。ドラコやフリントも呆気にとられている。

 

「……あーっと、ハリー・ポッターだ」

「ハッ! 存じております! 偉大なるハリー・ポッター様と同寮となれた事は光栄の極みであり――――」

「はい、ストップ。とりあえず、座ろうか」

 

 大広間中の視線を独り占めにしている彼女をドラコはハリーの隣に座らせた。

 

「わ、私如きがは、ハリー・ポッター様のお、お隣にす、座るなど……」

 

 ガタガラ震え始めた。

 

「……とりあえず、落ち着け」

「は、ハッ!」

 

 奇妙な敬礼のポーズを取るローゼリンデ。

 ハリーは妙な後輩に戸惑いながら再開した組分けの儀式に意識を傾けた。

 

「ルーナ・ラブグッド」

「レイブンクロー!」

 

 妙な女の子だった。首からコルクを繋げた首飾りを身に着けている。

 

「今年は特徴的なのが多いな」

「君程ヤバイのはいないから安心するといい」

「ヤバイんじゃない、ボクはすごいんだ」

「ハリー・ポッター様は凄いです!!」

 

 いきなりローゼリンデが声を張り上げるものだから、またしても大広間中の視線がハリー達に集まった。

 

「分かっているじゃないか」

 

 ハリーはポンポンとローゼリンデの頭を叩いた。すると、彼女は真っ赤になって俯いてしまった。

 

「モテモテじゃないか、ハリー」

「ハッハッハ、羨ましいか?」

 

 ハリーとドラコは大広間中の視線を向けられていても頓着しなかった。

 

 組分けのラストはロンの妹のジネブラ・ウィーズリーだった。

 チラチラとハリーを見ていた彼女が選ばれたのはグリフィンドールだった。

 

「ロンが家族代々グリフィンドールだと言っていたが、妹までとはな」

「筋金入りのグリフィンドール一族だね」

 

 組分けが終わると、テーブルには豪華な食事が溢れかえった。

 ハリーとドラコはさっそく目の前のチキンに噛み付いた。それからフライドポテトを頬張り、ローストビーフに舌鼓を打った。

 二人共、歓迎会のご馳走に備えて汽車では断食をしていたのだ。要するにお腹ペコペコ状態だった。

 

「やっぱ美味いな! これ、マーキュリー達が作ってんだよな!」

「聞いてみれば? 呼べば来るだろ」

「いや、今はやめとく。忙しいだろうからな。後で声を掛けに行くさ」

「そっちには付き合うよ。ドビーにも挨拶させないといけないしね」

「そうだな」

 

 ドラコはドビーをホグワーツに連れて来た。

 両親が退院した以上、ドビーは家に遺してきたほうがいいかとも思ったけれど、ルシウスは未だにドビーの事を許していない様子だったからだ。

 

「ん? おい、食わないのか?」

 

 ハリーはローゼリンデが一切食事に手を付けていない事に気がついた。

 

「え?」

 

 ギョッとした表情を浮かべる彼女にハリーは怪訝な表情を浮かべながら適当な料理を彼女の皿に盛った。

 

「さっさと食わないと無くなるぞ。いいか? 食える時に食うのは大切な事だ。特に美味い料理の時はな!」

「た、食べていいのですか?」

「は?」

 

 ハリーはドラコと顔を見合わせた。

 

「……とりあえず、さっさと食えよ」

「は、ハッ!」

 

 また、妙な敬礼のポーズを取ると、彼女はハリーが盛った皿にフォークを伸ばした。すると、彼女はもくもくと食べ始めた。

 皿が空になると彼女は何かを訴えかけるようにハリーを見た。

 

「……ほれ」

 

 ハリーはゴスペルに餌をあげてる気分になった。

 心の中で彼女をハグリッド二世と名付けようか検討していると、ようやく彼女も満腹になったらしい。

 

「ナイトハルトだったよね? 君、ドイツの出身かい?」

 

 ドラコが問いかけると、彼女は慌てた様子で口元を拭った。

 

「ハッ! 私はドイツのフランクフルト出身です!」

「……ドイツなら、ダームストラングやボーバトンの方が近いだろ? どうして、ホグワーツに?」

「それはハリー・ポッター様がいるからです!!」

 

 またもや大広間の視線がハリー達に集中した。彼女はいちいち声がデカかった。

 

「なんだ? ボクに会いたかったのか?」

「ハッ! その通りです! ヴォルデモートを討伐し、悪霊の火を使いこなす偉大な魔法使い! 貴方様の配下となりたく、ダームストラングではなく、こちらのホグワーツに入学致しました!」

「……なるほど、ダームストラングに入る予定だったのか」

「配下と言われてもな……」

 

 ハリーは配下という言葉がイマイチピンとこなかった。

 

「まあ、いっか。よし、配下にしてやるよ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 ドラコは親友が新入生の女の子を配下にする様を呆れたように見つめた。

 

「ハリー。間違っても、ナイトハルトに《我が君》とか呼ばせるなよ。まじで第二のヴォルデモートとか、闇の帝王二世とか呼ばれるぞ」

「第二? 冗談じゃない! ボクはオンリーワンで、ナンバーワンだ! 唯一無二のハリー・ポッターだ!!」

「ハッ! ハリー・ポッター様は唯一無二です!!」

「……頭痛くなってきた」

 

 ドラコはやれやれと肩を竦めた。




ちなみにアステリアは二学年下なので来年登場します(*´﹃`*)

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