それを"壊す"ために生きていた。
それは絶対に忘れてはいけないはずなのに―――
3月になった辺り。事前に連絡もなくリサがやってきた。
「こんにちわー、ってまた昼御飯適当にしたでしょ」
突然の訪問者は玄関口に立って、挨拶をしながら部屋を観察して、途中から呆れた声を出していた。
「はい、これ。今日の晩御飯。ちゃんと食べてるって言ってもコンビニの弁当か近くの定食屋でしょ?」
靴を脱ぎながら片方の手を突き出して袋を持たせる。中身を見るとキャベツや人参、玉ねぎに肉と色んな食材が入っていた。袋は2つあって、そっちにはアイスとか冷凍食品やらが細々としたドライアイスに冷やされながら入っている。どうやら冷蔵庫に仕舞っておけということらしい。
適当に野菜室の物は野菜室にと仕舞っていたらリサはリビングに入り、腰に手を当ててはぁと息を吐いた。
「悠翔さん、今日も生姜焼弁当ですか?食べるなとは言いませんが、毎日同じものを食べてたら食事バランスが偏りますよ」
「………………ああ」
「もう、そうやって適当に返事をする」
リビングの机の上にある乱雑にビニール袋に入れられた空の弁当箱を片付けながらリサは
「あたしが来なかったら悠翔さん、晩御飯どうするつもりだったのですか?」
と聞いてきたので適当にと本当に適当な感じで返すとまた不機嫌な顔をした。ゴミを片付け終えるとこの前社長から貰った1人用ソファーに座る。
食材を仕舞い終えソファーの近くにあるベッドに腰かけると多分ボーッとした顔つきでリサを眺めた。
今井リサという名をしたこの少女は数ヶ月ほど前からの付き合いである。
ピアスにフワッとした髪型、色んな所を着飾った姿は社長曰く今時の女子高生というものらしい。
今日も肩を大胆に見せたその姿は社長曰くファッションというもので、私からしたら寒そうにしか見えなかった。今は3月だから陽気な風が吹いていて丁度良い格好なのかもしれないが。
街を出歩くと通行人の数人は目に留めるであろう美少女は、チャラチャラした服装と相まって食事の栄養についてトントンと説明していた。
「―――だからコンビニ弁当だけでなくちゃんと自炊しないと………って聞いてます?」
「………ああ」
「その返事とその態度、聞いてないでしょ」
「………ああ」
説明に夢中になっていたリサを眺めるのも飽きたので、途中からベッドの上に置いてあった本を読んでいた。リサがすすめてきた本で、所謂恋愛小説だった。ヒロインが重い病気で余命が決まってしまったから、嘆くよりもやりたいことをとことんやって悔いなく死のうとする話。これを涙を浮かべながらオススメしてきたのを思い出して最近読み始めている。
「人と話す時は本を読まない」
「…………ああ」
「……………はぁ。時間も時間なんで晩御飯作りますね」
「ああ」
リサはこうやって私と話をしようとしてる。社長もたまには向き合って話をしろと言う。だが、私にはそれが分からない。仕事で意志疎通さえできればそれ以上の会話は必要なのだろうか?"私が置いてきてしまった記憶の中"にその答えはあるのだろうか?と考えても答えは出てこない。だってそんなことを考えたところで記憶は帰って来ないし、自分が納得する答えなぞ出てこないのだから。
山岸悠翔は数ヶ月前に知り合った人だ。夏が終わったというのに酷い暑さだった事をよく覚えている。
出会ったのは以前バイトをしていたコンビニで、オーナーが借金を背負っていたから取り立てに来たのだ。
その日たまたまオーナーと店長もいたから、悠翔さんはコンビニの出入口近くの雑誌コーナーをボーッと眺めていて、もう片方の人は奥の事務室へと姿を消した。
悠翔さんは店内で異様に目立っていた。すれ違う人は皆悠翔さんを目に留めてしまうほどに。
何しろ服装が軍服のようなものなのだ。しかも夏のような暑さだというのにネイビーのミリタリージャケットを羽織っている。
黒の軍用ズボン(BDUパンツって言うらしい)にレッグホルスターを着けていて、ジャケットから少し見えるポケットの多い分厚そうな服は軍人らしく見えたのだ。年齢が私と変わらないか少し上に見えるのも、一層拍車をかけている原因となっている。服装もそうだが立ち振舞いも軍人のようで、彼がいるだけで空気はピリピリし、まるで戦場に立たされているような錯覚さえ感じさせられたのだ。
さらに容姿も目立つ要因となっていた。整った顔つき。漆黒の髪は手入れをしていないからか所々跳ねていて、一定の長さになったら適当に切っているという感じに見受けられるが、それが妙に似合っていた。
あたしはその中でも1番目に留まったのが彼の目だった。表情は無なのに黒の中に濁った赤が混ざったようなその目は、何もかもを見抜くような、あたしたちには見えない何かを見据えているように感じられた。
格好、雰囲気が異世界なその姿にあたしは目を離さずにいられなかった。
しばらくすると事務室の奥から、
「やっぱり逃げた!」
と笑いも含まれたような大声が聞こえると、悠翔さんはため息をつきながら"姿を消した"。
そう文字通り姿が消えたのだ。あたしの横を通り抜けたような風が無かったら瞬間移動したのではないかと錯覚するほどのそのスピードにあたしや他の従業員は驚きを隠せなかった。
数分経つと事務室からまた声が聞こえ始めた時、あー、捕まったんだと他人事のように思ったのを今も覚えている。
その後、2人は事務室から出て来て
「悪かったね」
「……………」
と人懐っこい笑顔で従業員に声を掛けてるのと、無表情でボーッと眺めてる姿が相対的で見てて面白かった。
あたしは店長からあの人たちの名前を聞いた。
軍服の人は名乗らなかったから分からなかったが、隣にいた人は"丸山政一"と名乗ったらしい。
調べてみると"丸山探偵事務所"の社長だった。探偵なのに何故借金の取り立てなんかしてるのだろうかとさらに興味を抱いた。
住所を特定していざ行ってみると、まず目に入ったのは大量に積み上げられた段ボールだった。引越前なのかと思う内装に驚きを隠せず、思わずえっと声を漏らしてしまった。
あたしに気づいた丸山さんは、あの時のような人懐っこい笑顔をして手を振ってきた。
話を聞いてみると、探偵業の他にも別口で何でも屋みたいなものをやっているそうだ。そうしないと今の時代食べていけないからねと苦笑い。
話を聞いていく内にドンドン興味が沸いてきて、気付けばあたしはここでバイトをさせてくれと頼んでいた。
初めはあんまりいい顔をしていなかったが、頼み込んでみるとあっさり了承してくれた。こういうタイプは言っても聞かないから、こちらが折れるしかないとか何とか。聞いた感じ、奥さんもそういうタイプらしく色々と苦労してるらしい。
こうしてあたしはコンビニのアルバイトを辞めて新たに探偵事務所の事務員として働く事になったのだった。
「晩飯」
「え?ごめん、ちょっとボーッとしてた」
「…………晩飯は何だ?」
本を読みながら何となく呟いた言葉にリサは反応し、柄にもなく私は聞き直した。読んでいた所がたまたまぶつかり合うような言い合いをしていた描写だったからだろうか。
「今日は肉野菜炒めと筑前煮、後はご飯とスープかな?」
「………そうか」
「珍しいね、こうやって聞いてくるなんて」
「………ああ」
やはりリサも珍しいと感じたようだ。私自身感じたのだから相手もそう感じるか。
私は栞を挟んで本を閉じ、キッチンへと足を運んだ。炊き上がったご飯を軽く混ぜたり、リサの近くに皿を置いたりと、所謂"手伝い"を始めた。
「今日は本当に珍しいね。いつもなら出来上がるまで本読んでるか仕事してるかなのに」
「…………読む本を間違えたからだろうな」
「少し前にすすめた本ですか?あれ」
「……ああ」
「じゃあ、すすめて良かったです」
「…………そうか」
何となく噛み合ってない気がするが、リサは満面の笑みを浮かべているから間違った会話ではないのであろう。そう結論付けていたら、リサが盛り付け作業に入ったからご飯をよそい、箸とかコップとかを出したりと淡々と作業をこなしていく。
お茶を淹れるのは私の仕事らしく、リサは頑なに淹れようとしなかった。曰く私の淹れたお茶が1番美味しいらしい。感覚で淹れてるから教えてくれと言われても教えれないというのも原因の1つかもしれないが。
「ふぅ……完成!早く食べましょ」
適当に淹れたお茶をテーブルに置いて、リサの作った料理を並べていく。
丁寧に作った料理にいつもよくここまで作れるなと感心する。食べれれば何でもいいだろというのが私の考えだが、それをリサは一蹴する。というかそれを以前口にしたことがあり、長々と社長と一緒に説教を受けた。あの後社長にも怒られた。
「では、いただきます!」
「…………いただきます」
これが数ヶ月前から始まった"日常"で私にとって"ありえなかった風景"。
これだけは確実に言えることがある。"置いてきた記憶"にこんな"陽だまりの世界"なんて無い。もっと血生臭い、歪な世界が広がっていたはずだと、私の心身共に叫んでいるように感じたのだから。
大晦日スペシャルで一章を見て、最近公開されたfateの二章を見てふと思い付いて書きました。
本当に私の頭の中で何が起きたのでしょうか?
fateを見てたはずなのに書き上がった作品は"BanG Dream!"でした。
映画見たテンションで思い付きの見切り発車で書いたものなので続くか分かりません(あんな終わり方したのにな)
多分次の更新は来週でしょうか?その時のテンションで決まります。ではいつかまた