迷いながらも、それでも前だけは見据えて―――
音が聞こえた。
その音は爆発音や、何かが砕ける音、機械が走行してる音と色んな音がノイズに混じって聞こえた。
声が聞こえた。
その声はノイズで殆ど聞こえないが、何かと戦っている事は分かる。その中に誰かが私を呼び掛けている気がする。
『――――――い――――――――』
聞こえるけど何を言ってるのか分からない。そもそも何故目を開く事が出来ないのだろう。身体は怠く、思うようにどころか全く動かない。
身体から何かが出ていくのは感じる。それが命取りになると頭の中で警報が鳴り響いているが、その身体がいうことをきかないのだからどうすることもできない。
『――ろ!"――――"。―――――――――!』
誰かが私を呼んでいる気がする。
それに答えようとするが口が動かない。出てくるのは息だけだ。
『―か――!―――――――。――――――――――――!』
次々と色んな人の声が頭の中で響き渡る。
相変わらず爆発音やノイズが酷い。だが、
『■■■■!起きてください!こんなところで終わる気ですか!!』
その銀色の声だけ、身体の中を貫通するように通り抜け――――
時刻を見るとまだ5時だった。外は少し明るみが出てきたばかりで、4月だというのに少し肌寒かった。
瞼が重い。どうやら寝足りないようだ。後4時間は寝れる。そのままベッドに飛び込みたい衝動に駈られるが、そんなことをしたら確実に遅刻する。私は二度寝すると起きれない体質らしい。仮眠なら即座に起きれるが二度寝は違うようだ。どう違うかは私本人も分からない。
とにかく覚醒する為に食事を取ろうとするが、昨日弁当を買い忘れていたのを思い出す。
「…………」
冷蔵庫横にある棚を開けるとカップ麺が数個あった。非常食用に買ったものである。
確認の為に冷蔵庫を開けてみるとあったのは水とジュースと少しの要冷蔵の調味料、冷凍庫には以前買ってもらったアイス。ほぼすっからかんだった。
ここ最近リサが来ていないからか冷蔵庫を使う頻度が減った気がする。
「……………夕方買うか」
毎日カップ麺でもいいが、肉も少しは食べたい。夕方にスーパーに行くことが決まった瞬間だった。
結局カップ麺を食べる気になれず、適当に本を読んで時間を潰してから事務所近くの定食屋で食事をして出勤。
鍵がしまっている辺りまだ誰も来ていない。
解錠して中に入ると少しひんやりした空気が漂っている。昨日の雨で冷気が溜まったのだろう。
窓を開けて、空気を入れ換えをしながら軽く掃除機をかけていく。前までは適当にやってたのだが、リサやモカが入った以上部屋は綺麗にしようと社長が言い出したのだった。それに乗っかるようにリサも掃除に力を入れた。
元々政一はモノを整理するのが苦手なタイプで、ここまで散らかったのは彼が原因である。それを特に何も思わなかった私にも原因はあるだろうが、少なくとも自身の机は綺麗に使っていた。だからかリサからのお小言は最小限に済んでいた。
資料も適当に積み上げ、何に使用するのかよく分からないモノも買っては倉庫に投げ入れて出来上がったこの魔境のようなゴミ屋敷。
「こら!悠翔も掃除しなさい!」
と言われた時は理不尽な物言いだなとどこか"懐かしい"感覚に陥るも、原因を作った政一には言われたくないと思い殴っておいた。
前まであった段ボールの山は消え失せ、新たに棚や収納ケースが配置されて綺麗に片付いた。ゴミ屋敷は普通の事務所へと姿を変えたのだ。
汚くモノが放り込まれた倉庫や応接室はちゃんと使えるようになっていて、本当にリサ様様である。
掃除機をかけ終えて、自分の席に座る。
時刻はもうそろそろ始業の9時。政一から連絡があり、少し遅れるとのこと。一応準備は完了しているが、いかんせん仕事が無いのだ。昨日のうちに抱えていた案件を全て片付けてしまったから。
いつものように本を読んでてもいいが、今は読む気にはなれない。先ほど見た夢が気になるのだ。
夢特有の曖昧さの中に殆どの閃きを置いてきてしまったため詳細は思い出せないが、
『起きてください!こんなところで終わる気ですか!!』
あの銀色の声ははっきりと覚えていた。
そのおかげで私は誰かと共に戦っていて、その戦いはまだまだ途中だったんだと分かった。
ネットで"今現在行われている戦争"と調べてみたが、どれも自分の知らない戦争で、"あの座り心地が最悪な軍用機"は見つからなかった。少なくとも写真で軍用機を見てもしっくり来ない辺り、違うのだろう。
そう言えば政一が以前言っていた事が現実味を帯びて来たなと思う。
「もしかしたら、お前さんは異世界から来た人間なのかもな」
SFみたいな事が本当に起こり得るのだろうか?
と言っても私が異世界の人間ではない証拠も無い。完全なグレーゾーンである。
「いやぁ、悪い悪い。遅くなった」
ドアの開く音と共に謝罪の声が飛んで来た。
見ればスーツ姿の人懐っこい笑顔を浮かべた社長……政一が荷物を抱えて入ってきた。
「おはようございます」
「うん、おはよう。とりあえず駆け付けの1杯……お願いできるかな?」
その言葉を受けて私は、モヤモヤした思考を片隅に置いといて目の前の仕事に思考を置くことにした。
「明日から忙しくなるから、よろしくな」
「はい」
今日もやることもないので帰ることとなった。時刻は4時で、道を歩いていると学校帰りの学生がちらほらと見受けられる。
明日から"別口"の仕事と探偵の仕事が同時に入っている。早朝と夕刻、深夜の労働に舌打ちを打ちたかったが、ここ数日働いてないだろと言われたら言葉が出なかった。
お前が自分の仕事をかっ拐ったたり、仕事を持ってこないからだろと言いたかったが不毛な戦いになるのは目に見えていた。
「あ、悠翔さん!こんにちはー!」
「…………ああ」
晩飯を購入するために家の近くのスーパーへ赴いていた所で偶然リサと遭遇した。隣には顔は見知らぬ、でもたまに見かける制服の少女がいた。
活発そうな雰囲気、紫髪でツインテールと見た目が目立つ少女は目を輝かせながら私を見ていた。
その姿に少し疑問を抱く。この少女と会ったことがあっただろうか。明らかに好奇の目で見られているのは分かるが、その理由が分からない。そもそも私は彼女を知らない。リサといるということは彼女の知り合いと践んで良いだろう。ということは彼女から私の事を聞いたことになる。だから疑問を抱く。何故彼女は私の事を話したのか?と。私とリサの関係は良好とは言えないものだ。深く関わる理由も無いから仕事の時だけ話をする。それ以外は適当にしていた。要するに仕事でしか殆どちゃんと会話をしていない。そんな関係の人間の話をするだろうか?
「どうも!宇田川あこです!」
「宇田川?」
「ん?」
考えていたらいきなり自己紹介された。だからか、"聞いたことのある名字"を聞いて反応してしまった。
「…………いや、何でもない」
「………………」
リサは何か気付いたが私はそれを無視した。別に言っても大丈夫そうな話ではあるが、後々何か面倒な事が起きる可能性もある。それなら口にしない方が良いと判断した。
「えっと…悠翔さんって呼んでも良いですか?」
「………ああ」
「悠翔さん!」
ぐいっと1歩あこは近付く。そのテンションを見て、そう言えばこういったテンション高い系の人と知り合った事無かったなと関係の無い事を思った。関係ある事と言えば、名前を知ってるということはやはりリサからどんな話か知らないが何か聞いているようだ。私の事なんて面白いのだろうか?その辺よく分からない。
「悠翔さんって軍服を持ってるって聞いたのですけど、本当ですか?」
「……………ああ」
「わあ!!見てみたいです!今度着てきてもらって良いですか?」
「……………ああ」
「ありがとうございます!あ、リサ姉が悠翔さんってネットとかよく見てるって聞いたのですけど、ネットゲームとか興味無いですか?」
「……………あまり」
「そうですか…………NFOってゲームがあるのですけど、そのゲームがスッゴく面白くて!―――――――」
予想の上を行くマシンガントークに少し怪訝な顔をする。よく初対面の者にここまで話が出来るなと。チラリとリサの方を見るとニヤニヤと、政一がからかっている時と似た顔をしていた。多分何かあこに吹き込んだのだろう。そうじゃないと普通見知らぬ者にこんなに話さない。
「それで、それで!」
「はーい、あこ。そこまで」
「えー!まだまだ話したいことあったのにー」
プクゥと頬を膨らましてまだ話し足りないと進言するあこ。
「……………で?」
「あはは……やっぱり気付きました?」
「まあな……で?」
「悠翔さんってあまり話をしないじゃないですか。じゃあ話が好きな子をぶつけたらどうなるのかなーって思いまして」
「………………」
「そんな目で見ないでください。でも……良かった」
リサはふっと笑う。悠翔さんも困惑したり不機嫌になったりするんですね……と。
その笑顔は本当に安堵したような…そんな風に見えた。
リサとあこは本当に偶然私を見かけたらしい。以前から色々と私の話をしていたリサはあこに
「悠翔さんとあこが話したら会話が続くのだろうか」
と言ったことをあこがずっと気になってたらしく、いざ会ってみると水が沸くように話すことが出てきたらしい。リサ曰く、"燐子"と似たタイプだからではないかと言うが燐子という子がどんな人間か知らないためピンとは来なかった。
「それで、それで!」
あこはひっきりなしに会話を続けていく。ネットゲームNFOや、ファッション、回りくどい言い回し…リサによると"中二病"というものらしい。そういった話を途切れることなく言い続ける。
私はそれを適当に相づちを打ちながら歩を進める。リサたちは今日買い物に行くらしく、なんでもあこの姉の誕生日プレゼントを買うとか。その際に、
「悠翔さんなら貰って嬉しいものってあります?」
と聞かれて、あって困らないものと答えたがリサの表情からして満足のいく解答ではなかったらしい。
プレゼント。そういったモノを"記憶を保持している私"は貰ったりしたのだろうか?考えても答えが出ないことは分かっているが考えてしまう。自分は記憶を無くす前にどんな生活をしていたのか。どんな風に会話をしていたのか。そもそもどんな人間だったのか。
怖いのかもしれない。話す必要が無いと言い訳して、記憶を無くす前の自分と解離してしまうのが。もしかしたらもう記憶を無くす前の自分とかけ離れてしまっているかもしれない。
『起きてください。こんなところで終わる気ですか!』
銀色の声がまた響く。
何というか"逃げるな"と言われているような気がする。違う意味で言ってるはずなのに今の私には、この場から逃げるなよと背中を押されている気がしてならない。それもぐいぐい押すのではなくそっと、支えるように押されているように感じた。
「………よく使うもの」
「え?」
「よく使うもの………靴とか、時計。そう言ったものを貰えたらありがたい」
気づけば、すらすらと言葉が出ていた。いつもなら無言でいたはずなのに何故か口を開いて言葉を発していた。
それにリサは驚いた顔で私を見る。
「リサ姉?」
「…………あ、いや。悠翔さんが自分の意見をちゃんと言うの初めてだったからつい」
「ええ!?悠翔さん、本当ですか!」
「…………ああ」
あーあ、またいつも通りに戻ったと少し残念がる声を出すリサだったが、どこか嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。
あこは私の話を聞いてか、よく身に付けているネックレスにすることにしたらしい。
それをリサと共にあーでもないこーでもないと店内で和気あいあいと選んでいた。それを店の外から手すりに凭れながら眺めていた。
初めは楽器屋でドラムのスティックにしようとしていたが、
「手に馴染ませるモノは自分で決めた方がいい」
と言うとすんなり止めてショッピングモールへと足を運んだ。そして今に至る。
今日だけで私は少し変わったと思う。変わったというより"戻った"………そんな感覚があった。
目を閉じるとあの音を微かだが思い出せる。ノイズだらけだが、確かに聞こえる。この世界とはかけ離れた異常な音。それに違和感を感じず、この世界に"違和感を感じている"ということはやはり、私はどこか違う所からやって来た人間なんだろうと思った。
だからふと思う。もしも、もしも全ての記憶を取り戻し、元の世界に戻れたとしたら私はどんな選択をするのだろうか?それもやはり考えても答えが出ない。なら"今を全力で戦おう"。手を振る彼女に向かって歩を進めるのだった。
何度目の嘘だよ、本当に(ウワアアアアアア
今日もサリーは崖の底へと落ちていく。
それはそうと嘘つきの作者です。本当は来週投稿する予定だったのですが、ちょっと始めたことを言いたくなりまして…………それです(どれだよ)、Twitterを始めました(今さらかよ
成人式を越えて数年、ようやくTwitterというsnsに手を出す機械音痴。色々と遅いが、これで少しでも活動の輪が広がればと思います。
作者の自己紹介にURLを載せていますが、これからも後書きにアカウントのあれ(どれ?)を載せていきます。
@mocomoco20000
目指すは他作品とコラボ。
放置しないよう頑張ってツイートだっけ?していこうと思います。
次はいつになるか分かりませんが(来週になることを願って)、いつかまた。
追記、評価を付けていただいた桜田門様、ありがとうございます。これからも日々精進していきます。