あたしやモカの仕事はその探偵業や別口の仕事の資料を纏めたり、たまに 政一や悠翔についていって仕事のサポートをする。テレビや小説みたいな事件をバンッと解決するようなものはなく、結構地味な感じである。
浮気調査に身元調査、失せ物捜しなど地道にやるものが多い。悠翔は身元調査が1番楽らしい。政一が全部調べるからと。それは楽というより単に働いてないだけだよね?と言ったらいつも通り"………ああ"と返ってきた。
じゃあ、別口の仕事というのはどんな仕事かと聞かれたら色々と答え辛い。本当に何でもやっているから。
借金の取り立てに運び屋、はたまた清掃活動に外部助っ人のようなモノとか。この前はカウンセリングとかも政一はやっていた。どこでそんな技術を身に付けたのか知りたいが、聞いたら後々が怖いので聞けない。
丸山探偵事務所は基本"別口"の仕事で生計を立てている。探偵業での収入もあるが、やはり別口の仕事の方が金銭的に儲かるようだ。
「まー、色々あったんだよ。色々」
前にそれとなく聞いたことがあるのだが政一は察して、妙に怖い笑顔を浮かべて答えたのでこれ以上は聞いてはいけないのだなとあたしは察した。
さて、何故あたしたちの仕事の話をしているかと言うと、今日は珍しく…というより初めて悠翔とモカが組んで仕事をしているからだ。もちろん別口でもなく、"危険な仕事"でもない探偵の仕事。
さっきも言った通り、探偵の仕事は地味なものが多い。しかも内容的にどろどろしているのもある。ここの事務所は比較的少ない方らしいが、探偵の仕事の7割が浮気調査だそうだ。少し前から"相談員"という役職を手に入れ、電話対応という新たな仕事に取り組んでいるのだが、内容が結構アレな感じの依頼も飛んできて、男女間の関係ってここまで縺れるのだなと勉強になった。もう少し大人になってから知りたかった節もあるけど。
話を戻すが、今モカと悠翔がタッグを組んで仕事に取り組んでいる。
あのマイペースなモカと何かと適当な悠翔。大丈夫だろうか?
「リサ、テンポが遅れぎみよ。ちゃんと周りの音を聞いて」
「あ、ごめん。分かった!」
と言っても今他の人たちの心配をする暇なんて無い。再来週にライブで新曲を歌うことになり、絶賛休み無しのぶっ通しの練習中。こんなこと考えているということは集中力も切れてきているのだろう。
あこや燐子も疲れが目立ってきてテンポが崩れてきていた。一通りセッションを終えるとあたしは皆に提案した。
「…………ふぅ。皆、ここまで3時間休まずだからさ、ちょっとインターバル取ろうよ」
「え?…………あ、もうこんなに………時間が」
「ホントだ………道理で腕が………」
燐子は指の疲れを取るようにグーパーと手を動かし、あこは額に溜まった汗を拭う。
「…………私はまだ行けます」
「紗夜駄目だって。ほら足に力入ってないし…。水分が足りていない証拠だよ。友希那も、歌い続けてほんの少し声が掠れてる。集中するのもいいけどちゃんと体調の管理もしないと」
「…………そうね。少し休憩しましょう」
友希那の一声でメンバー全員の緊張の糸が切れる。やっぱり皆無意識に無茶してたのだろう。
あたしも腕に力が入らずだらりとしていた。水を飲もうペットボトルを手に取るが、掴んでいるのか曖昧な感覚に思わず苦笑する。ちゃんと体力の配分を考えないと。
「リサ姉、ケータイ光ってるよ」
「あれ?ホントだ」
鞄の上に置いていたケータイの画面が点灯していて、着信が来ていた。
「誰だろう……って、悠翔さん?」
「ゆうとさん?」
珍しい着信だ。というより電話なんて殆ど来たことがない。緊急を要する電話ではないだろうか?しかし、メールも無いし、何度も電話してきている訳でもない。何があったのだろう?
「ごめん、ちょっと電話してくるねー」
「分かったわ」
スタジオから出てロビーの方まで来ると悠翔に電話を掛ける。数秒経つと悠翔は出た。
『はい』
「あ、悠翔さん?どうしたんですか、急に…何かあったのですか?」
『………"松原花音"を知っているか?』
悠翔の口から出てきた言葉はあたしの想定していたモノの中には無い言葉だった。
「松原さん?………うーん知っているけど……接点あんまりないんだよねぇ……松原さんがどうかしたの?というより何で悠翔さんから松原さんの名前が出てくるの?」
『生徒手帳を拾った』
今回の依頼って猫捜しだったはず。猫捜してたら手帳を見つけたって感じかな?
「…………あー…成る程。ってモカいるんじゃ?」
『聞いたが接点が殆ど無いと言われた』
「それであたしにかぁ。うーん、今バンドの練習中なんだよね……あ、今から………2時間後大丈夫?」
『…………ああ』
「松原さんと同じ花女の人と今一緒だからその人たちに渡して貰いますね。それでいいですか?」
『…………ああ』
スタジオの場所を言うと、話すことはないと言わんばかりに電話はすぐ切れた。それに少し寂しさを感じながらもこれでもまだ話した方と考える自分がいて、もっと頑張って話して貰おうと決意した。
「あ、モカとちゃんと仕事できたか聞けば良かった………でも、後で会うし良いか」
ふとそんな事も考えながら、後2時間頑張るぞー!と気合いを入れるのだった。
「あ、山岸さーん。報酬頂きましたよー」
「…………ああ」
リサからの電話を終えて、手に持っていた生徒手帳を鞄にしまう。地面に置いていた缶コーヒーを手に取って飲んでいたらモカがのんびり封筒を振りながら歩いてきた。
今回の依頼はいなくなった猫の捜索で、意外と早く見つける事が出来た。数日掛かるのではと思っていたのだが、1日で終わったのは運が良かったと思う。依頼は無事早く終わったのだが珍しく疲れを身体が訴えていた。今日は本当に色々あった。猫捜索よりそちらの方が時間を取られたような気もする。
報酬の封筒をしまえとモカに言って残りのコーヒーを飲み干す。
モカもそれに従い、封筒をしまっていると
「ねぇ、リサさんは何て言ってました?」
と聞いてきた。2時間後"CiRCLE"というスタジオに来いと言われたことを伝えると、
「そっかー。2時間後かぁ………それまでモカちゃんとデートしましょうよ」
とニシシと笑う。デート。ネットでは"一般に食事、ショッピング、観光や映画・展覧会・演劇・演奏会の鑑賞、遊園地・アトラクション、夜景などを楽しむ、といった内容であることが多いが、これらの行為そのものよりも、それを通して互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とする"とか書いてあったはず。以前政一に休みに部屋で本を読まずに彼女らとデートくらい行ってこいと言われて、デートについて調べた覚えがある。
多分モカは時間潰ししましょうよと言っているのだろう。本気でこの短時間でデートしようなんて考えてない。というより私は彼女をちゃんとは知らない。パン好きでバンドを組んでいるうちの事務所のアルバイトの高校生。その程度の情報しかない。リサのように家に乱入してくる訳でもなく、そもそも出会って日も浅い。探偵の仕事もあって会わない日もあるから実際出会って数回の間柄だ。情報収集という事で付き合っても良いか、というより誘ってくるということは何かしらの時間潰しを持っていると考えるべきか?
「…………ああ」
「おー、山岸さんやる気だねー。じゃあー」
モカは歩き始める。それについていくように私も歩を進めるのだった。
モカの話を相づち打ちながら歩いていると、目的地に着いたようだ。いつぞやの商店街で、見覚えのある建物だった。数日前にモカや友人たちが入っていったパン屋。そこにモカは入っていく。後ろからついていくように入っていくと、パン特有の香りがふわっと撫でるように通りすぎていく。
そこそこ広く、品揃えも豊富。ここまで多く作るということはそれほど売れているという証拠。店内の床や棚とかの傷からしてそれなりの年月が経っているように見える。所謂"老舗"に近い店なのだろう。
「あ、モカちゃん。いらっしゃい」
「どーも、さーや。今日も買いに来たよー」
やはりと言うか、モカはこの店の常連のようだ。店員と談笑している。私は邪魔にならないように数歩離れてパンを眺めていた。
「山岸さーん」
しばらくボーッと眺めていたらモカに呼ばれた。振り返るとモカはこちらに向けて手を振っていた。
「こちらモカちゃんの彼氏さんの山岸さんでーす」
「え?モカちゃん、彼氏いたの?」
「………………」
「………え、本当に彼氏さん?」
「……………いや」
変な空気が流れる。そう言えば、今日は妙にこの付近の"高校生"と会う。多分この店員もこの近くの学校の生徒だろう。モカと仲が良いし。
「山岸さん、こういうのは冗談でも"はい、そうです"って言わないとー」
「……………ああ」
「あのー」
モカのいつものトークを適当に聞いていたら恐る恐ると店員の"さーや"が手を上げて声を掛けてきた。
「山岸……さんですよね?」
「……………ああ」
「私、山吹沙綾です。よろしくお願いします」
「……………ああ」
「それで、モカちゃんとはどんな関係で?」
「会社の社員とバイトという関係」
「そ、そうですか」
「ああ」
「……………」
「……………」
また変な空気が流れる。多分私が原因なのだろうが、理由が分からないからどうする事もできない。それをモカはニヤニヤしながら見ているから理由は分かっているのだろう。指摘しない辺り、それで楽しんでいると見る。
「……………」
「さーや、この人は基本聞かないと何も話さない人なんだよ。しかも基本話に興味を持ってなーい。モカちゃんなんて大半"……………ああ"で済まされてるんだよー」
「そ、そうなんだ。じゃあ、果敢に聞いた方が良いのかな?」
「そーそー」
「そっかー………ようし」
軽く深呼吸をしたら沙綾はこちらに身体を向けて笑顔で聞いてきた。
「山岸さんって、どんなパンが好きなのですか?」
今日は本当に色んな人と話をした。出勤時、猫捜しの時、そして今。この沙綾という少女は"モカやリサと似た"察する、人にあわせる能力に長けた人物だ。兄妹がいるらしく、その子達の面倒を見ていたから身に付いたのだろう。
「それで、この前香澄が制服で木登りとかし出して、有咲が怒鳴っちゃってね。汚れるだろー!って……いやぁ、あれには私も………って、すみません、また話し込んじゃって」
「……………いや」
「山岸さんって意外と聞き上手なんですね。初めは無愛想な人なのかなーって思ったんですけど、ちゃんと聞いているって感じがして話しやすいです」
「……………ああ」
本当にそうだろうか?彼女が話上手だからではないか?仕事で色んな人と関わってきたが、雑談は数秒ももたなかった。仕事の話なら続いたが。こうやって沙綾は相手の様子を伺って上手く話を進めているから長く会話が続いている。会話と呼べるものか怪しいが。
だから思う。こんな私と話をしていて面白いのかと。あそこでパンを吟味しているモカと話した方が数段楽しいと思うのだが。
「実はですね、山岸さんの事はモカちゃんから聞いていたんですよ」
急に声のトーンが小さくなる。それに私は今考えていた事を止めて耳を傾ける。
「と言っても名前とか、容姿とか聞いてなかったからどんな姿の人かは知らなかったんですけど」
「…………ああ」
モカもリサと同じように他の人に私の事を話していたらしい。それに関してあこの件でもう特に何も思わなくなった。だが、リサのように美化したような話は止めてほしい。私はそんな立派な人間ではない。
「初めは変わった人だーとか、全然話を聞いてないーとか言ってたんですけど、この前は無表情だけどちゃんと話は聞いてくれているって」
この前?そこまで話をしたか?この前はリサとモカが各々のバンドのボーカルについて延々と話をしていたのを聞いていただけだったはず。確かにたまに質問されて答えたが、あれは話をしたというより受け答えしたと言った方が正しい。
「話してみて思いました。話しやすいって」
「……………そうか」
私は目を閉じる。前までは聞こえなかったあの破壊音。多分私の中に残っていた記憶の欠片。その音が私にはカチリと歯車がはまるように感じ、先ほどまでの会話は歯の噛み合わない歯車が摩擦で回っているように感じていた。
沙綾はとても優しい人物だ。私という歪な歯車に合わせようと会話をしていた。しかもそれを"私が聞き上手だから"と言った。
それにモカもそうだ。わざとゆっくりパン選びをしている。私が沙綾と会話をしやすいように。
「さーや、お会計ー」
「あ、うん。それじゃ」
「……………」
モカがレジに山盛りのパンを置く。軽く10は越えている数日分のパンだろうか?まあ、そんな思考は置いといて。
「あれ?山岸さん?」
財布から表記された値段の金をキャッシュトレーに置く。
「デートなのにほったらかした謝罪」
そう呟くとモカはポカンとして、その後
「それはそれはモカちゃん的にポイント高ーい」
とニシシと笑うのだった。
確認したら予約投稿されてなかった。
とりあえずその恨みも込めてサリーを落とす(ウワアアアアアア
どうも、モコモコです。今回で4話ということで少し話が展開するのかなと思ったらまさかの進まなかった。
とにかく彼が精神的に成長すればと思って書いたのですが、それどころか後退したような気がせんでもない。
とにかく彼が色々と面倒な性格をしていることが分かれば良いかなと思います。
次かその次で進展できれば良いなと思います(本当に行き当たりばったり
次は2、3日後になるかと思います。ではいつかまた
@mocomoco20000
追記、タグに新たに"オリキャラ"を加えます。ほら、政一って完全にオリキャラだし。というかタグのガールズラブ消そうかな?百合百合してないし。