子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど   作:ミレニアムいたっちー

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勢いだけでやった、後悔はしてない。


おもうてたより、がっつりプロローグなんだけど

皆さん、いきなりですがTSって言葉の意味が分かるでしょうか?正式にはTSF━━transsexual fictionと呼ばれるもので、その言葉がさすのは異性への性転換を扱うフィクション。つまりは男の子が女の子になったり、女の子が男の子になったりする事を主軸にした物語をさすものだ。

 

TSFというジャンルの歴史は意外にも古く、古代ローマ時代には『転身物語』などという叙事詩が作られたりしてる。

近代においては医学的な性転換モノに始まり、ファンタジー、超科学、スピリチュアル、病気、体質などなどetc━━━━そういった様々な理由付けからなる性転換モノが存在するわけだ。

 

勿論それはあくまでフィクション。

空想上でのみ起きる超現象。

目の当たりにする事なんてないだろう。

 

そう、本来それは空想上でのみの出来事━━━の筈なのだ。本来なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━んぁ?」

 

甲高いジリリリリという音に瞼を開ければ、目の前に七時を指す卓上時計が目についた。重い体を持ち上げ窓へと顔を向ければ、遮光カーテンの隙間からさす光の筋が見える。

 

ぼんやりとした頭で時計を眺め、七時という時間が頭に染み込んでくると、オレの体は布団の中から飛び出していた。

 

遅刻するやん。

怒り狂う担任である林ちゃん34歳独身彼氏募集中の姿を脳裏に浮かべ、酷く焦りながらパジャマに手をかけ━━━━ふと思い出した。

 

「いや、まて。卒業したやん」

 

枕元にあったスマホを手にして画面を開く。

ロックをといてアルバムをタッチすれば、卒業式の時にとった写真がそこにはあった。こちらを呪い殺すかのような殺意の視線をむける林ちゃんの写真がいやに目につく。現在進行形で呪われてそうで怖い。怖いよぉ。

 

しかし、そうなると何でこんな時間に時計が鳴ったのか。休みの日はしっかりとアラームを止める派のオレがそんな間違いする訳がないのだ。

不思議に思っていると背後から扉を開く音が聞こえてきた。

 

 

「━━━━ゆたか」

 

 

不意に掛けられた声に振り向くと、見慣れた仏頂面のデカブツの姿があった。

 

「おっ、高虎。おはよ。今日もデカいなぁ。また伸びたか?そろそろ天井に頭つく?」

「おう、おはよ。あのな、もう直ぐ19だぞ。そうそう伸びてたまるか」

 

高虎と呼んだそいつはオレの幼馴染だ。

 

身長185㎝(去年は)、体重80㎏(去年は)、視力は両目とも2,0(去年は)。ガタイは良いし目付きがちょっと悪い事を差し引いてもそこそこの顔してるのだが、常に仏頂面な為モテた試し無しな生粋のチェリーボーイ。

母親同士交流があったので、それこそバブバブ時代から顔を付き合わせていた筋金入りの幼馴染である。

 

物心がつくころにはいるのが当たり前のやつで、オレの幼少期の記憶はこいつと遊んでるのが大半だ。そしてそれは幼稚園に入っても、小学校に上がっても、中学校に上がっても、高校に上がっても殆ど変わりなく、オレ達は馬鹿やって毎日を楽しく過ごしていた。

そう、ただの幼馴染として。

 

じっと高虎に見つめられ、オレは何故目覚ましを掛けたのか思い出した。

 

「・・・・ああーーーお弁当か」

 

思い出したそれを口にすると高虎は呆れたように溜息をついた。何だか最初から期待してなかったとでもいうかのような塩対応だ。いらっとする。

 

「なんだよぉ・・・」

「初日からこれだと先が思いやられてな。昨日も言ったが無理しなくて良いぞ。食堂でテキトーに済ますから」

 

そう呑気に高虎は言ってくるが冗談ではない。

そんな事をしたらどうなるか。

 

「お前がどうだろうと知ったことかっ!!やらないとオレが怒られるだろうが!!マイマザーに!!お昼にちゃんと食材使ってるか冷蔵庫チェックに来るんだぞ!!聴取された時とか、バレたらどうしてくれる!!」

「気持ち良いくらいに自分本意だな、本当に。はぁ、じゃ頼む。というか、冷凍食品とか詰めてくれりゃそれで良いからな?また何焼か分からないのは作るな。流石に食えない」

 

ほ、ほほう。これはこれは。ははっ・・・・馬鹿にされてる、馬鹿にされておるわ。このオレが、まるで火を使う事を許されぬお子様扱いよ。

 

「良かろうっ!!そこまで言うならっ、貴様の好物であるだし巻き卵をっ!あぁっ!作ってぇぇやろぉうじゃないかああぁぁっあ!!目にもの見せてくれるわぁぁぁ!!」

「なんで歌舞いてるんだ?あぁ、走るな、走るな。危ない。八艘飛び止めろ。・・・つーか、だし巻き卵も止めろっ。まだ懲りてなかったのか」

 

フライパンをコンロに叩きつけ、冷蔵庫から卵パックを取った所で高虎にがっちり拘束された。

熱意だけは買ってくれるそうだ。

 

結局冷凍食品とご飯をテキトーに詰め、お弁当は完成と相成った。個人的に納得はしてないが、高虎は当分これで良いらしい。成長を期待するとのこと。

蓋を開けて改めて見てみるとハンバーグとか唐揚げとか、肉類が敷き詰っててやっぱり納得出来ない。なんか茶色いだらけの弁当とかううんと思ってしまう。うん?本当に良いのだろうか?

 

なんか、おもうてたんと違う。

 

想像だと、こう、なんていうか、色んな色があって、お洒落ーみたいな感じだったのだ。意味もなくパプリカとかいれたい。今手元にないけど。

 

「せめてハートマークくらい入れとくか?」

「その手の一味唐辛子は置け、馬鹿」

 

ハートマークはお気に召さないらしい。

恥ずかしがり屋だな、こいつは。

 

高虎が作ってくれた半熟の目玉焼きとウインナーの朝食を食べ終わる頃、時刻はすっかり高虎の出発時間。

なのでさっき丹精込めて作った弁当を渡し、玄関でお見送りしてやる。

 

「げっ、元気でな、高虎・・・!」

「何処に行くんだ、俺は。戦地か?」

「向こうについたら、落ち着いてからで良い、手紙書くんだぞ・・・・うぅ。スマホみて、待ってるから」

「本当にいるか、それ?お前にメッセージ送って、返ってきた試しがないんだが」

 

いつまでもそうしてると遅刻してしまう。

オレは優しさで不満そうな高虎の背中を押し、心を鬼にして玄関から外に出してやる。

 

ついでにゴミ袋も渡してやった。

曜日も考えてちゃんと燃えるやつだ。

 

「ゆたか」

 

玄関を閉めようとした所で声が掛かった。

不思議に思って手を止めると、高虎が仏頂面のまま近づいてくる。何事か?とぼんやりしてたら、ゴミ袋に目がいった。いや、正確に言えば、そこに入っていた『クリームたっぷりプリン』と書かれたプリンの蓋だ。脳裏に昨日食べた高虎のプリンの姿が浮かんできた。甘党の高虎がとっておいた、そのプリンの姿が。

 

「ひょっ!?ちょっ、まてまて!怒るなよ!うっかりししてたっていうの?!忘れてたっていうの!?でも今日代わりのやつ買ってくるつもりだったんだよ!あいむそーりー!ジュヌレパフェエクスプレー!スクーズィ ノン ロ ファット アッポスター!エントシュルディグングー!!」

「?なんの話で何処の言葉だ。またお前は無駄な知識を・・・・まぁ、良い。動くな」

「ひぃえっ!?」

 

思わず目を閉じると、オデコに温かくて柔らかい物が触れた。びっくりして目を開けるとオデコに高虎がちゅーしてきていた。

 

「あっ、い、いきなり、なんだよぉー」

「悪い、あんまりにも可愛くてな」

「かわっ、かわわ、可愛い?・・・・お前、本当趣味悪いなぁ」

「そうか?でも仕方ないだろ。俺はそういうお前が好きなんだから。じゃいってくる。留守番よろしくな」

 

そう言うと高虎はもう一回オデコにちゅーして出掛けてしまった。触れられた場所が何だか少し熱い。きっと拒否反応が出てるせいだろう。後でウェットティッシュでフキフキせねば。

 

それにしてもつくづく思う。

あいつは本当に趣味が悪い。

オレなんかを、嫁にするんだから。

 

「━━━━ふぅ、さぁてと、高虎も出掛けたし・・・ゲームでもすっかなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

これは男だった前世の記憶を持つオレ『子宝ゆたか♀』と『子宝高虎♂(旧姓.藤崎高虎)』の、おもってたんと違うTS結婚生活、その実録を綴った物語である。

 

 

 

 

 

 

「ゆたかぁぁぁぁぁ!!!あんた家事もしないで、朝から何してのぉぉぉぉ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!マイマザーさん!?なんでっ、ちょ、早くない!?まってまって!セーブするか━━━━ああああああああ!!!」

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