子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど   作:ミレニアムいたっちー

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ふーー( ・ω・)y━~~

TSってすてきやん?


おもうてたより、サプライズが難しいんだけど

ギンギラギンの太陽輝く7月某日。

かつて海の日と呼ばれたその日。

 

オレはマザー指導の元、聖剣デュアルスティックを片手に女の戦場で死力を尽くして戦っていた。

 

「マザー!!」

「はいはい、どうしたの?」

「卵がどうしても巻けません!!」

「何ヵ月やってるの、貴女?」

 

あまり成果は宜しく無かったけど。

 

量産された崩れただし巻き卵・・・もといスクランブルエッグを見て、思わず溜息が溢れた。もう嫌だ、とわりと本気で思う。何故にこうもオレはぶきっちょなのかと、神様に三時間くらい問いたい。美人にしてくれてありがとう。でもね、もうちょっと器用に生きたいです神様。

 

「貴女、手先は器用なのに、なんで料理だけは駄目なのかしら?ちょっと貸してみなさい」

 

マザーはオレの手から箸を取り、温めたフライパンに油をひき溶き卵をいれた。そしてちゃちゃっとだし巻き玉子を創造作り上げてしまう。神業である。

 

「もしかしてだけど、マザーはだし巻き玉子を作る為に生まれてきた、だし巻きノ神なのでは?」

「何訳の分からない事言ってんの。ほら、もう一回やって見なさい」

「いや、でも、流石にもう・・・勿体ないし・・・・」

「安心なさい。失敗作はパパのお夕飯にするから」

 

・・・あーうん。それならいっか。

パピーごめん、暫く玉子生活してくれ。

 

そう心の中で謝ったオレは、また戦場へと戻った。

オレのヴァルハラに辿り着く為に。

戦いは加速する、オレの熱意をもって。

 

「うおおおおお!!」

「掛け声はいいからフライパンを見なさい」

「はい」

 

天音に相談してからずっと、オレはオレなりに高虎の誕生日について考えに考えた。何処ぞのパーティーピーポーの様に友達を沢山呼んでガーデンパーティーしちゃおうかとか、エキストラ雇ってフラッシュモブしようとか、いっそ逆に祝わないなんて事も考えた。

 

その結果、ちょっと贅沢な料理作って、ケーキ買って二人でお祝いする事に決めた。天音も祝う事が大切だって言ってたし。

 

・・・・・いや、言いたい事は分かる。考えたにしては普通過ぎると言うのだろう?オレもそう思う。

でも考えても見て欲しい。前世に引き続き、基本的に外で遊ぶより家の中でゲームしたり、アニメみたり、漫画読んだりが大好きで、学生時代バリバリの帰宅部で、脇目もふらず貪欲に灰色の青春を過ごしたオレがだよ?そんな気の利いたサプライズとか・・・・出来るわけないじゃないか。そんなの不通に無理ぽよだってーのぉ。

 

そんな訳でご馳走の一つとしてだし巻き玉子を作っていた訳だ。何故だし巻き玉子かといえば、高虎の好物だからだ。それ以上に理由はない。同じ理由でマザー指導の元唐揚げも一杯あげてあるし、カレーも煮込んだし、山盛りのキャベツの千切りも用意した。

 

・・・なんかしらんけど、キャベツ好きなんだ。あいつ。定食食べる時とか、いつもキャベツ寄越せって言うんだ。オレあんまり好きじゃないから別に良いけどさ。レタスはあげないけど。

 

 

 

 

二度目の戦いを始めてかれこれ二時間。

再放送してる刑事ドラマが佳境に入り、「いい加減にしなさあぁぁぁい!」という主人公の叫び声が聞こえた頃。

 

オレの持つ長方形のフライパンの上には、綺麗に折り畳まれた黄色い塊が出来上がっていた。

形を崩さないように皿に移してみれば、多少焦げ目があるものの、何処をどう見てもだし巻き意外何物にも見えない、純然たるだし巻き玉子がそこにあった。

 

フライパンと箸を流し台に置いたオレは、側にあった椅子へ静かに座り、これまでの日々を思い返す。

初めはただの焦げた何かだった。それがいつしか焦げた黄色の何かになり、スクランブルエッグという名前がつき・・・・ようやく、今日、この日、だし巻き玉子にダーウィンした。目指していた、だし巻き玉子になったのだ。

 

もうこれ以上、何があろうか━━━━。

 

「へっ、燃えた、燃えたよ。真っ白にな・・・」

「後片付けなさい、休むのはそれからよ」

「はい」

 

はい、燃え尽きれませんでした。

そんな気はしてたけどね!マザー見張ってるし!

 

「お誕生日お祝いねぇ・・・・ふふ、あの子がねぇ」

「━━━?ねぇ、マザー。なんか言った?」

「何でもないわよ。良いから後片付けなさい」

「はーい」

 

 

 

 

 

それから少し。

片付け完了するまで見張ってきたマザーを無事見送り、漸く一人になったオレは部屋の装飾を開始した。

七夕飾りを作った時に出てしまった、あげるにはちょっと不恰好になってしまった飾り達を再利用。テキトーに壁やらカーテンやらに付けていく。名目上は賃貸なので、傷とか残さないよう場所だけは慎重に選んで・・・・・・・・・あっ・・・・・・・いや、大丈夫。逆に考えるんだ。剥がさなきゃ良いさと。これは最初からここに貼ってあったんだと。うん。マッタク、兄貴ッタラ、馬鹿ダナァー。後デ教エテアゲナイトー。

 

そうしてせっせかせっせか装飾していき、結局部屋がお祝いの雰囲気に満たされる頃にはすっかり6時を越えてしまっていた。

 

いつもなら高虎は7時前には帰って来てしまう。

なので急いでお風呂を用意し、料理もレンジの前に並べ温めたスタンバイ。準備出来る食器等はテーブルに持っていく。

 

「箸よしっ、取り皿よしっ、お米よしっ!・・・はっ!ケーキ切るヤツない!・・・あ、でも後で良いか」

 

ケーキナイフなんて出しておいたらバレちゃう。

やはりこういうのは驚かしてなんぼだろうし。

そうなるとプレゼントに買ったお茶葉もまだしまっておいた方が良いかも知れない。

 

ふと時間を見た。

時刻は7時を越え、もうすぐ30分。

高虎にしては少し遅い。

 

「・・・・テレビ見てよ」

 

ソファーに座ってテレビをつければ、季節的なあれなのか、いつも見てるバラエティー番組でホラー特集をしていた。ぼやーっと眺めているとスマホが鳴った。画面を覗けば天音の名前が映ってる。電話かと思ったけど、どうやらメッセージが一つ入っただけみたいだ。

 

タッチして開くと『誕生日上手くいった(*´ω`*)?』という短い文が目に入った。最近絵文字使うようになったけど、要件だけビシッと伝えてくるあたり、やっぱり男っぽい。人の事言えないけども。

 

取り敢えず『準備バッチリ、高虎の帰宅まちー。マジ卍』と返しておく。すると直ぐに『後で結果教えてー( *・ω・)ノ』と返事が返ってきた。マジ卍は完全に無視されたようだ。悲しみ。

 

スマホが静かになって、またぼやーっとテレビを眺める。気づけばバラエティー番組は終わりニュースが始まっていた。途中から記憶がない。寝てしまったみたいだ。

 

時間を見ればもう8時も過ぎて9時になろうとしていた。あまりに遅いのでスマホを見れば、8時くらいに高虎からメッセージが入っていた。『遅くなる。先に寝ててくれ』という一文が。

 

「・・・・はぁ。まぁ、約束してなかったもんな」

 

でも朝何も言ってなかったし、あれだけアピールするくらいだから、てっきり帰ってくるもんだと思ってた。

何をしてるんだか。高虎の事だから、変な事はしてないとは思うけど・・・・・。

 

「料理、どうしよう・・・」

 

ラップは掛けてあるけど、直ぐに食べないならやっぱり冷蔵庫に詰めておいた方が良いだろう。クーラー効いてる部屋だとはいえ夏場だし。

 

悩んだ結果、高虎の夕飯分だけ取り分けて、後は冷蔵庫にしまっちゃう事にした。

取り敢えずお風呂入ってからだけど。

 

高虎の為に用意した一番風呂に突撃。

遠慮なく温泉の素も投入し、お湯も温め直す。

さっさと体と髪を洗ってお湯に浸かれば、溜まっていた何かが一気に抜けていった。

 

「ああああああ、えええゆじゃのぉ」

 

個人的に夏場こそ熱いお湯に限ると思ってる。

しっかり汗をかいて出た後、キンキンに冷えたジュースを喉を鳴らしながら飲む。サイコー。牛乳でも良いけど、自分的には炭酸ジュースだ。

 

「あーー本当いい湯。いい湯だなぁ・・・本当、いい湯。高虎、勿体ないなぁ・・・・」

 

濡れタオルを頭の上において、立ち上る湯気を眺めた。

浴場の照らす光が湯気に揺れてる。

ふと横を見るとアヒル隊長が寂しげにこっちを見ていた。

 

「おいでーアヒル隊長」

 

手にとって軽く押してみるとアヒル隊長はグエグエ声を鳴らした。アヒル隊長は昔パピーが海外で買ってきたお土産で、小学生の時からのお風呂場の相棒である。

前世の記憶を持ってしてもひかれてしまう独特の魅力がある、そういう可愛いやつなのだ。

 

「隊長ー今日なーオレ頑張ったんだぞー。ついに難敵だっただし巻き玉子も仕留めてなぁー」

 

グエグエと返事するように音が鳴る。

 

「誕生日祝いの準備したんだー。料理以外はちゃんと準備したんだぞ?色々調べてさー・・・・・」

 

手を離せばアヒル隊長はお湯に浮かんだ。

いつもみたいにプカプカと。

 

「でも、失敗しちゃた。やっぱなれないことはやるもんじゃないなぁー。出たら片付けしないと。まぁ、誕生日プレゼントは明日渡せば良いし、ケーキもな、後で良いし・・・・飾りは取っとかないとかなぁ」

 

指で突けばアヒル隊長が揺れる。

間抜けた顔がこっちに向く。

思わず笑ってしまった。

 

「・・・・・アホみたいだもんな」

 

今の自分そっくりで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっ、ただいま・・・・」

 

お風呂から出ると、そんな声が聞こえた。

タオルを巻いて廊下を覗くと、汗だくになって息を荒げた高虎が玄関の所にいた。乱れた服装から走ってきたのが分かる。

 

「おかえり?遅くなるんじゃなかったのか?」

「あっ、いや、その・・・試験前だって前に言ったろ。それで大学の友達と勉強してたんだが、そいつに急用が出来て、それで・・・」

「ふぅん、そっか。でもだからって走って帰ってこなくても良かったろ?見たいテレビでもあった?言えば録っといたのに」

「ま、まぁ、そんな所だ。夕飯、まだ大丈夫か?」

 

夕飯?てっきり食べてきたと思ったのに、食べてきてないのだろうか?

 

「食べてないのか?」

「色々、あってな・・・・ないか?」

「あるけど・・・・取り敢えずお風呂入っちゃえよ。出るまでに用意しておく」

 

そう伝えると高虎は笑顔を浮かべた。

いやに眩しいやつをだ。

 

そんな顔を見ればどうして走って帰ってきたのか分かる。流石にオレもそこまで鈍くないのだ。

 

「・・・まったくもう、誰に聞いたんだか。仕方ないなぁ」

 

高虎が何処かソワソワしながら風呂に入ったを見送った後、スタンバイしていた料理を順番にチンしてテーブルに並べていった。間違ってキャベツもチンしたけど気にしない。だし巻き玉子はチンしてないから。

 

火に掛けておいたカレー鍋から良い匂いがしてきた。

だから火を止めて皿に盛ったご飯に掛ける。

今更だけど、福神漬け買うの忘れてた。

 

「ま、いっか。別にカレーが主役でもないし」

 

気にしない。

細かい事は、気にしなーい。

 

それよりケーキの準備せねば。

ローソク立てて━━━。

 

「ゆたかー。悪い、着替え持ってきてくれー」

「はいはい、今持ってくから待ってろー」

 

仕方がないのでローソクは一旦置いて、高虎の部屋にある着替えを持っていってやる。さっぱりした高虎の顔が少し開いた脱衣場から覗いてた。

 

「なんかバタバタしてるが・・・大丈夫か?」

 

服を受け取った高虎が心配そうに聞いてきた。

 

「だいじょーぶ。だから、ゆっくり来て良いからな」

「分かった」

「来る時は言えよ?いいか、勝手に入ってくるな?」

「ああ・・・わ、分かった」

 

高虎を脱衣場において、オレはまた台所に戻った。

早くローソクとお名前プレートセットせねばだから。

 

「あ、どのタイミングでケーキ出せば良いんだ?ご飯食べる前?食べた後?いや、後だとケーキ食べられないか?うーん?」

 

ローソクをセットしながら悩んでると高虎の声が聞こえてきた。着替えが終わったらしい。

ゆっくりで良いといったのに、かなり早い。

 

「そのまま動くなよー」

 

残りのローソクをテキトーに刺して、お名前プレートも中央におく。流石にお店の人にやって貰っただけあってカッコいい文字だ。オレじゃこうはいかない。

 

「ゆたかー」

「ええぃ!うるさいやつだ!ちょっとは待て!ケーキはやっぱり最初に出そう。カレーおかわりされたら最悪食えなくなるもんな。うん」

 

ケーキを出すタイミングも決まったので高虎を迎えにいった。誕生日に歌うあの歌の歌詞を、頭の中で練習しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テトントトントンーテントン、テントントトントンーテントンーー、どるるるっどるるるるーー、どるるるっどるるるるーー」

「世にも奇妙な鼻歌鳴らしてケーキ持ってくるな。流石に食べづらい」


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