子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど   作:ミレニアムいたっちー

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( ・ω・)y━~~

生命の神秘ってすてきやん。


おもうてたより、大変そうなんですけど

結婚生活も早いもので5ヶ月目を迎えた今日この頃。

夏の暑さにあっさり完敗したオレと高虎は、夏特有のプールだの海だののイベントをあっさり放置して、今日も今日とてクーラーの効いた部屋で大人しく映画鑑賞に洒落混もうとしていたのだが━━━━━━。

 

「たたたたたたっ、たたたた!たたたたぁーーー!!うまっ、うまれるっ、ぅれれるぅ!!」

 

━━━━お隣さんがベランダで産気付いてるを見つけてしまって、それどころではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

いつものように洗濯物を干そうとベランダに出ると、聞き慣れない音を聞いた。音は隣の部屋から聞こえていて、よく聞けばうめき声っぽい。

だから高虎にきて貰って一緒に声を掛けて覗けば、お隣の山瀬さんが布団の上で苦しそうに踞っていたのだ。

 

「お腹が、急に、痛くなって━━━」

 

絞り出された声を聞いて、高虎は直ぐスマホを手にした。電話先は勿論119。電話が繋がってからは電話相手の指示に従ってか、山瀬さんから話を聞いたり、様子について話したりと世話しなく色々やって、電話を切った後は一言断ってからベランダ伝いに隣へ乗り込んでいった。

オレも乗り込もうとしたけど玄関を開けるからそっちから入れと強く言われ、もどかしい気持ちで玄関からお隣にお邪魔する。

 

「よぉぉぉしぃ!!で、お、おおおお、オレ、オレは!?何すればいい!?お湯か!?タオルか!?タライか!?ひっひっふーって言ってた方がいい!?」

「産ませようとするな。兎に角、お前は山瀬さんについてろ。出来るだけ動かさないようにな。何か変化があったら電話してこい。━━━後は、そうだな。出来たらで良い、山瀬さんに聞いて必要な物を用意しろ。恐らくこのまま入院だからな。無理には聞くなよ、出来たらな?」

「わっ、分かったぁ!!」

 

山瀬さんをオレに任せた高虎は救急の人を案内する為にマンションの入り口にダッシュしていく。

オレは言われた通り山瀬さんから何とか話を聞いて、保険証やら母子手帳やら診察券やら財布やら入ったバッグとか、元々入院する為に用意していたお泊まりセットを引っ張りだしておいた。

 

「だだだだっ、だい、だいたじょーぶだからぁ!!いま、たたたっ、たかたかがっ、きゅーきゅーしゃぁあ呼んでるから!」

「っふ、ふふふ。ありがっ、とう、ゆたかちゃん」

 

山瀬さんの背中を擦りながら待ってると、玄関の方がドタドタしてきたなと思えば高虎が救急隊員を引き連れて戻ってきた。流石に救急の人。テキパキと色々なんかやって、山瀬さんを担架に乗せる。

よく分かんないけど、すげぇ。

 

「ご家族の方ですか?」

 

山瀬さんを見てたらいきなり緊急の人に声掛けられた。

勿論ご家族の方ではない。なので首を横に振ろうとしたけど、手がぎゅっと握られてオレは止まった。

見れば山瀬さんがオレの手を握ってる。

 

目を見ればいつもの優しい目が、不安そうに揺れていた。咄嗟に高虎へ視線を送れば頷いてくれる。

 

「━━━あの、家族ではないんですが、お隣同士で付き合いがありまして。同行させて貰えませんか」

 

高虎の言葉に救急隊員の人は小さく頷く山瀬さんを見て「分かりました」と一言告げ、付いて来るように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に病院についていって二時間程。

高虎とオレは分娩室に入った山瀬さんを待っていた。

本当は中に突っ込むつもりだったのだが、流石に部外者なオレが入る訳にもいかず外待機。部屋から響く悲鳴を聞いているといてもたってもいられず、ウロウロしてたら高虎に抱っこされてしまった。暑い。

 

「・・・・お前が産むんじゃないんだから、少しは落ち着け。あと、腕のうぶ毛を抜くな。微妙に痛い」

「わ、悪い。そこにうぶ毛があったから。つい」

「どんな理由だ、それは」

 

高虎と話してるとまた悲鳴が聞こえてきた。

しかも死んじゃいそうなやつだ。

 

「高虎っ!死んじゃったりしてないか!?いまの!?」

「大丈夫だろ・・・・山瀬さんも初めての出産だから、負担もあるんだろうが、まぁ大丈夫だ。分娩室に入る前少し聞いたが、最悪な状況ではないらしいしな」

「そ、そうなのか?」

「ああ、だから落ち着け。ほら、深呼吸しろ」

 

言われた通り深呼吸してたら気分が楽になった。

少しだけだけど。

 

高虎の体温を感じてると山瀬さんの悲鳴が弱くなった。

さっきから何度もこういうのは聞いてきた。だから分かる。終わった訳ではない事を。

どうやら出産には痛みの波があるらしい。それに陣痛がきたからといっていきなりポーーーン!っと出るのではないらしい。

 

「旦那さん、こないのかな・・・・」

「どうだろうな。まぁ、忙しい人だから。一応連絡はしておいたが・・・・返事がなかったしな。メッセージ見てくれりゃ良いが」

「仕事は大事だもんなぁ」

 

山瀬さんの旦那さんとは面識は少ない。

ゴミだしに行った時とか何回か挨拶しただけだけだ。

地味な顔でぱっとしない人だったけど、優しそうなイイ人雰囲気の人だったのは覚えてる。山瀬さんからのろけられた旦那さんの人柄なら、きっと連絡内容見たらすっ飛んでくるのだろから、まだメッセージを読んでないのかもしれない。

 

「・・・・お腹切るのかなぁ」

「可能性はあるらしいが、今の所大丈夫そうだ」

「そっかぁ・・・・」

 

ふと自分のお腹を擦ってみた。

山瀬さんの膨らんだお腹と同じ場所。

今はぺったんこだけど、高虎との関係を進めていったらもしかしたら膨らむ事になるかもしれない場所。

自分の中にもう一つの命って考えると、なんか不思議な気持ちになる。

 

気持ち悪いとかは感じない。

けどなんだか不思議だ。

 

「なぁ、高虎」

 

そっと見上げると不思議そうな顔をした高虎の顔があった。いつもみたいに「どうした?」と聞いてくる。

 

「高虎も、その、赤ちゃんとか・・・欲しいか?」

「あっ?は、え、あ、う、お、おお、うん、まぁ、いらないとは言わない・・・けどな。それは、えっ、どういうあれだ?」

「いや、特に深い意味はないけど?ただ━━━━」

 

なんと言ったら言いか。

オレはまだ高虎の気持ちに答えてやれる気はしない。

高虎の事は好きだけど、異性へのというよりは家族とか友人に向ける気持ちと似てる気がする。

だからまだ、高虎とそういう事したいとは思わないし、赤ちゃんが欲しいとかもない。

 

けど、ちょっと考えてしまった。

山瀬さんみたいに膨らんだお腹とか。

高虎がそこに耳を当ててる姿とか。

自分が踞る姿とか。

 

「━━━━もし、もしさ、そういう時がきたらさ、オレは一人はやだなぁって思って」

 

忙しいのは分かる。

仕事は大切だ。

でも、やっぱり一人は怖い。

 

「山瀬さんがさ、手を握ってきたんだ。凄く強かった。いつもの山瀬さんはポワポワしてるだろ?そういう風な人じゃないから・・・・だから、やっぱり、怖いもんなんだろうなって思った」

 

山瀬さんが沢山準備してきたのは知ってる。

たまにお茶しにいくと部屋に育児の雑誌とか増えてるのが目についたし、赤ちゃんが入る部屋とかに物が増えてくのを見てる。きっと道具だけじゃなくて、目に見えない心構えとかしてたんだろうと思う。

 

それでも怖くなってしまった。

どうしようもなく不安になってしまった。

痛くて、苦しくて、動けなくなってしまった。

 

「なぁ、あのさ、まだ、オレさ、高虎の気持ちに応えられないんだけど・・・・その、エッチとかは無理だけど、いや、ちゅーも無理だけど━━━━もう一つ、約束してくれないか?」

 

オレは勝手で我が儘だと思う。

まだ高虎に何も返してあげれてないのに。

約束ばかり押し付けてる。

 

「オレがもしそうなったら・・・・側にいて欲しい。ずっとじゃなくて良い。そんなの無理だし。だから、出来るだけで良いんだ。側にいて、手を握って欲しい」

 

直ぐ返事は返って来なかった。

ただ遊ばせていた手が握られた。

ぎゅっと。

 

「━━━分かった、約束する」

 

握られた掌はゴツゴツしてた。

でも嫌じゃない。

温かくてほっとする。

 

「無事に産まれると良いなぁ・・・」

「そうだな」

 

それから少しして、分娩室から大きな泣き声が響いてきた。産まれてきた事を皆に伝えるように。本当に大きな声で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおー、しわしわ。お猿さんみたい」

 

看護士さんに呼ばれて病室に入ると、山瀬さんが赤ちゃんを抱えていた。山瀬さんに誘われ赤ちゃんの顔を覗くと、赤ちゃんの顔はしわしわ。おもうてたよりもお猿さんだった。眉間にしわを寄せたままスカースカーと熟睡する姿は、やっぱりお猿さんをイメージさせる。

 

思わず溢れた言葉に高虎がジト目になったが、山瀬さんは「ねぇーお猿さんみたいなのぉー」と同意してくれる。だよねぇー。

 

「山瀬さん、それで、この子はどっちなんですか?」

「ふふ、男の子ですって。ほら、ちっちゃいのがついてるでしょ?うちの人そっくりぃー」

「・・・・そ、そうなんですかぁ」

 

見せられた赤ちゃんのそれを眺めながら、オレは複雑な気持ちになる。そっと隣をみれば、高虎も微妙な顔をしていた。そらそうよ。赤ちゃんのそれと比べて、そっくりとか。旦那泣いちゃうよ。例え形的なとかが似てるとかの話でも・・・・前世が男の者として、それはあまりに酷すぎると思うのですよ。うん。

 

 

 

「真由美ぃぃぃ!!ごめぇぇぇぇん!!大丈夫だったかぁ!!?」

 

 

 

病室に入ってから暫く。

赤ちゃんのほっぺをプニプニしてると、旦那さん大汗をかいて現れた。よっぽど急いで来たのか旦那さんのスーツはヨレヨレ。息も荒く、顔色も悪い。死にそうな顔してる。

 

旦那さんはオレ達を見つけると感謝の言葉と共に頭を下げ、直ぐ山瀬さんの元に向かった。

 

「あなた?お仕事はどうしたの?」

「っ、まぁ、そ、早退してきたっ、というか、それどころじゃないだろぉ。大丈夫なのか?体は?赤ちゃんは?」

「ふふふ、少し落ち着いて。私も赤ちゃんも大丈夫だから。ほらパパですよぉー?」

 

旦那さんの視線は抱かれた赤ちゃんを見た。

あれだけ大騒ぎして旦那さんが入ってきたのにも関わらず、赤ちゃんは山瀬さんのおっぱいに体を預けたまま、まだ寝息を立ててる。なんて豪胆な子なのだろうか。大物になりそう。

 

旦那さんは赤ちゃんの姿を確認するとボロボロ泣き出した。言葉は出ないようで嗚咽してる。こういう人だったのか。

 

ぼけっーと様子を見てると高虎に手を引っ張られた。

高虎は口元に人差し指を当てた後、そっと廊下を指差す。流石に空気は読めるので頷いてついていく。

部屋を出る時、山瀬さんと目が合った。

 

山瀬さんは笑って口をパクパクさせる。

 

オレには口の動きだけみて言葉が分かる特殊能力はない。だからちゃんとは分からなかったけど、何となく感謝されてる気がした。

なので、軽く手を振っておいた。

 

どういたしまして、と。

 

病室を出てスマホを見ると、もうすっかりおやつの時間になっていた。ふと振り返った先の山瀬さんの病室からは、旦那さんの声と赤ちゃんの泣き声が聞こえ始めて随分と賑やかになってる。

 

もうきっと、怖くも、寂しくはない。

 

 

「━━━━高虎、帰ろっか」

 

 

高虎は病室を見た後「そうだな」と呟いて歩き出す。

オレの手を引いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タクシーで帰ろうな」

「確かバスがあったから、それで我慢しろ」

「うぇぇぇぇぇぇ」

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