子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど   作:ミレニアムいたっちー

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おひさ(*´ー`*)


おもうてたより、残暑が厳しいんですけど

高虎の夏休みにも終わりが見えてきた今日この頃。

 

『━━━━全国的に晴れ間が広がるでしょう。予想最高気温は33℃と高く、まだまだ残暑の残る1日となりそうです。日差しが強い事も予想されますので、日中お出かけの際には、熱中症対策も忘れずにお出かけ下さい。お昼から夜に掛けて、一部所により夕立の恐れも━━━』

 

暦の上では夏も終わると言うのに・・・・オレと高虎は部屋でテレビの天気予報を眺めながら、エアコンからふく冷風を浴びつつゴロゴロとだれていた。

そう、俗にいう夏バテである。

 

もう秋そこまで来てるのにね。

 

やる気もどうにも起きなくて、洗濯物を干した後は朝ごはんも作らず、ただリビングの床の上でゴロゴロするだけ。マット無いところ、ごっつぅちめたい。ソファーに腰掛けてる高虎も何も言わない。買い置きしてある菓子パン食べたら朝からずっと一昨日買ってきた小説読んでる。お互いがお互いほったらかし。

少しだけ、仮にも新婚夫婦なのにこれで良いのか?とも思ったけど、真剣に小説読んでるみたいなので放っておく事にした。

 

ぼんやりテレビを眺め続けていると、おデブな芸人が街中で食べ歩く番組が始まった。美味しそうにアイスやメンチを頬張り、お決まりの言葉で美味しさをアピールしてる。ちょっとアイス美味しそう。

高虎、駅前んとこのジェラート買ってきてくれないかなぁと心の中で思ってると、おデブな芸人があるお店に入っていった。暖簾が掛けられた、ちょっとお高そうな和風のお店だ。

 

『まだまだ残暑が厳しいですからね!ここはね"うなぎ"食べて精をつけないと━━━まぁきっと僕の場合はね、つくのは贅肉だけなんですけどね!』

 

小さな笑い声があがる。

そんな中、おデブ元気は出てきた鰻重を美味しそうに頬張っていく。お決まりの言葉の後には、鰻重について色々な感想が語られる。なんか豆知識とかも。昔からうなぎは夏バテ防止に食べられてたらしい。

 

そんな姿をぼんやり眺めてるオレの頭の中には、黒光りするうなぎが誘うようにニョロニョロと踊っていた。

 

 

うなぎ。

 

 

うなぎ・・・。

 

 

うなぎかぁ・・・・・。

 

 

そう言えば、今年はまだうなぎ食べてない。毎年お祖父ちゃんが持ってきてくれて、よく分からないまま食べてたけど・・・・ないとないで寂しい気がする。別に好きでもないんだけども。・・・あれ、なんで今年ないんだろ。あれかな、結婚したから気を使ってこなかったのかな。そう言えばお祖父ちゃんと暫く話してないな。元気にしてるかな・・・最近ネトゲもインしてこないんだよなぁ。後でメッセしとこ。

 

暫くテレビを眺めながらぐったりした後。

暇過ぎたので高虎の方へと転がり込み、高虎の脛毛で新たな遊びを開拓する事にした。無造作に伸びるそれをクイクイと軽く引っ張る。サワリサワリと撫でたり、グルグルと団子にして━━━ザバッと引き抜く!!うわっ、結構抜けた。

 

「った、・・・何すんだ」

「違うんだ、暇だったんだ」

「驚く程、まったく意味のない返事だな」

 

呆れたようにそう言うと、高虎はオレの体を足で挟み固定してきた。その剛脚に身動きが取れな━━━━というか力強過ぎて苦しいぃ。じりじりきやがる、こいつ!内臓出ちゃうぅ!やめろぉ、ドS野郎ぉぉぉ!!

 

「━━━ぐぇぇっ、ちょっ、ぎふっ、ぎぶっ!ギブアップぅ!!」

 

足を叩いて降参を示したけど、「誠意を感じない」と更に力を強めてきた。どうやら心の中でこのドS野郎と悪態をついていた事は見抜かれていたようだ。流石だ親友。褒めて使わす━━━━とかふざけてる余裕もいよいよ無くなってきたので、心を込めてゴメンナサイすると解放してくれた。

 

力に屈した弱き民代表のオレは、床に転がったまま高虎へ憎しみの視線を向けながら頬を膨らました。嫁を苛めるとんでもねぇ野郎に、全力で遺憾の意を示す為だ。怒っているぞ、と。

 

そんなオレを見て深い溜息をついた高虎は、手にしていた小説を閉じた。

 

「出掛けるか?」

「やだっ!!」

「じゃぁ、ゲームでもするか?」

「やだぁっ!!!」

「流石にどうしたら良いかわからん」

 

別に理由なんてない。

敢えていうなら、そこにいたから絡んだだけだ。

どうかして欲しかったとか、何か欲しかったとか、そういうのは少しもない。ただただ暇で、でも何かする元気まではなくて、でも暇で・・・だからテキトーに近くにいた高虎へちょっかい掛けただけなのだから。敢えていうなら、構ってくれるならそれで良い。

そんな感じだ。

 

高虎の脛へ世界を獲れるジャブを打ち込めば、それに対抗するように足がオレを捕らえんと動く。

オレは身を翻しダンゴムシのように転がり、蜂が刺すようにジャブ!!手数ではオレの圧勝━━━━ぐぇっ!しまったぁ!ふぐぅわああ、や、止めてぇ!

 

暫くじゃれ合っていると、段々とお腹が減ってきた。

朝ごはん食べてないせいか、その分余計に空腹感がある。一旦レジスタンス的活動を止めて、絶賛オレを捕獲中の高虎を見上げた。

 

「なぁなぁ、高虎ー」

「今度はなんだ」

「うなぎ食べよう」

「急にどうした」

 

ふと思いついた提案に高虎が首を傾げた。

 

「ほら、今年うなぎ食べてないから。それに今日土曜だし」

「確かに土曜ではあるが、丑の日ではないぞ?まぁ、別に構わないが・・・・というか、前ちゃんと土用の丑の日に聞いたろ。うなぎの事は。今年は良いのかって」

「うーん?そうだっけ?」

「ああ、聞いた」

 

そう言われるとそんなんあった気がする。七月の終わりに聞いたような気がする。

あっ、ちょっと思い出した。買い物にいった高虎がうなぎの話をしてた。確かあの時は・・・あーうん、断ったね。無駄遣いしないでカレーのルーだけ買ってこいって言った気がするもん。あれかぁ。

 

「納得したか?・・・・でだ、今家にうなぎはないぞ。食べにいくか、買ってくるしかない。どうする?」

「食べに行く?」

「行ってもいいが、高いぞ」

 

高いのか・・・・。

なんやかんや自分で買った事ないからな。

 

「具体的には?」

「具体的にと言われてもな・・・うなぎ自体俺もあんまり食べないからな。二~三千円ぐらいか?」

「二~三千円・・・・中古のゲーム買えちゃうじゃないか」

「ゲーム欲しいのか?」

「いや、今はやってるのあるからいらない。俺はクリアするまで積まない派なんだ」

「もう既にかなり積まれてる気がするが・・・そうか」

 

それにしても一食で二~三千円は痛い。二人で四~六千円と考えると尚痛い。あまりの痛さに泣いちゃう。涙がちょちょぎれる。コツコツ貯めていた黒字貯金か飛んで行くんですけど。

 

でもなぁ・・・うん。

 

「・・・・よし、食べに行くぞ!今日はオレの奢りだ!!」

「おぉ・・・・大丈夫か?」

「大丈夫だぁ!!」

 

覚悟を決めたオレは走った。

お年玉貯金をタンスから引っ張り出す為に。

 

「行くのは分かったから走るな。危な━━━」

「━━━ったぁ!?ふにゃぁ!!ああぁぁぁぁぁ!!小指がぁ!!足のぉ!!小指がぁぁぁあああ!!高虎ぁぁぁぁ!!」

「━━━言わんこっちゃない。はぁ、まったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丈の長いワンピに薄手のカーディガンを合わせ、すっかりおしゃんてぃーな女の子になったオレは、麦わら帽子も忘れず被り高虎をお供に外へと飛び出した。

 

電車を乗り継いでニ十分。高虎に扇子でパタパタされながら歩くこと十分と少し。ようやく目的のお店が見えてきた。如何にも和食屋といった店構えで、何処かお高そうな雰囲気が漂っている。美味しいお店感が凄い。

お祖父ちゃんが前に教えてくれたオススメのお店で、本格派の江戸前なんちゃら何だとか?ぶっちゃけうなぎの違いとか分からないけど、どうせなら美味しい所が良いからね。

 

「なぁ、ゆたか。何も聞かずについてきた俺が言うのはなんだが・・・ここは止めよう」

「なんだよ、ここまできて」

 

暖簾を潜ろうとすると、高虎に肩を掴まれた。

何だろうかと振り返れば、店の入り口に掛けてあるお品書きを指差している。

 

気になって見れば鰻重のお値段が五千円から始まっていた。あれ、おかしいな。そう思って目をクシクシしてから、また読んでみる。やっぱり五千円からスタートを切っている。最低価格が五千円なのだ。特上になると、なんか時価とか書かれてる。

 

「・・・・ここはオレ達にはまだ早い。分かるな?」

「うっぐ、で、でもぉ・・・せっかく来たんだし・・・お、お金だったらあるし」

 

お年玉貯金を舐めて貰っては困る。

毎回一杯貰ってたけど、全部は使わなかった。いつもその分ちゃんと残していたのだ。これくらい余裕だ。

 

でもだ、一食で一万は、正直震える。

中古ゲームなら三本買える額だ。漫画なら新品一冊五百円だとして二十冊は買える額だ。丸坊主くんのソーダ味なら百五十本以上買える額だ。棒の旨いやつなら・・・千本買える額だ。

 

家計簿を付けるようになってから気づいたのだが、一万円って思うてるより大きい。その証拠に戸口に掛けた手はピクリとも動かない。体は正直だね。うふふ。

 

そのまま動けないでいると、その手を高虎が上から握ってきた。

 

「・・・・今日の所はスーパーにいこうな」

「で、でもさぁ・・・このまま帰るのは、なんか、モヤモヤするものがある」

「意地張ってまで食べるもんでもないと思うぞ。ほら、浮いたお金で何が出来るか考えような」

「浮いたお金で・・・何が・・・・」

 

その言葉で予約していたアニメのDVDとそのアニメの主題歌が入った限定版のCDが脳裏を過っていく。全三巻の道のりは長い。お金一杯いる。━━━そしてもう一つ。そのアニメの初回生産限定版コミカライズの事もよぎった。買うか迷っていた、ねんどろいどがついてくる奴━━━定価3,250円(税抜き)の奴の事が。

 

「あるよ!欲しい物が、あるよぉ・・・!」

「思い止まったなら、そのまま手を離して、ぐるっとUターンしような」

 

戸口から手を離したオレは高虎に引かれるままくるっと回り、お店を背にして引かれるがまま来た道を戻った。

徒労感が激しいけど、一万円はやっぱり重い。

きっと止めて吉だろう。最近貧乏性になりつつあるオレの場合は。

 

それにしても、お祖父ちゃん毎回こんな所のうなぎ持ってきてたのか。本当金持ちだなぁ・・・なんの仕事してんだろ。

 

そのまま高虎と帰りがてら、駅前のショッピングモール内にあるスーパーへと寄る。

お目当てのうなぎはあったが━━━パックでも高かった。一尾二千五百円もする。中国産だと半値くらいだけど、中国産って大丈夫なのだろうか。安全なら中国産が良い。だって、安いし。

 

高虎に相談したら微妙な顔をした。

食べられないもの置くわけないと思ってはいるらしいが、中国産というワードだけでちょっとなぁという感じらしい。だからと言って二千五百円二つは辛い。一つ買って半分こ?いやいや、流石にそれはなぁ・・・だって元々一人前分だから量そんなにないし。分けたら絶対ショボく感じる。━━━くっ、最初は覚悟してたけど、ここまで来ると辛いぃ。安い物が近くにあるせいで余計に辛いぃ。これで何が買えるか考えると辛いぃ。

 

そうして散々二人で相談した結果━━━━━サンマの蒲焼きを買いました。

 

え?うなぎは?だから言ってるだろ。

サンマの蒲焼きを買いました。

うん・・・・ね。

 

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」

 

丁寧な挨拶と共に渡された買い物袋。

中を覗くまでもなくサンマの蒲焼き。

なんだか心の何処かがシュンとする。

 

「・・・そんなにショボくれるなよ。サンマ好きだぞ、俺は」

「オレもサンマは嫌いじゃない・・・冷蔵庫に入ってるくらいな。悪くなっちゃうから、明日もサンマだからな。塩焼き」

「・・・・おう、分かった」

 

どうにも浮かない気持ちと共に出口に向かっていると、高虎に頬っぺたを掴まれムニムニされた。無視すると尚もしつこくムニムニしてきたので手を叩き落としてやる。この野郎っがぁっ!

 

「なんだよ!この妖怪でかぼっち!!祓うぞ!!」

「翔大くんより過激だな。・・・・いやな、うちの可愛い嫁が珍しく不細工な顔してるから、ちょっとほぐしてみただけだ」

「あぁん?ほぐれましたですか?」

「くくっ、まぁな」

 

自分でもちょっと頬っぺたを触ってみたけど分からない。高虎の言葉が本当なら、ほぐれた後だから分からないのも仕方ないけど。具体的にはどこら辺が不細工だったのか。気になる。━━━というか、我ながらではあるけど頬っぺた手触り良いな。

 

「なぁ、ゆたか」

 

自分のもち肌を堪能してると高虎に呼ばれた。

見上げれば優しい顔がこっちを見てた。

 

「夕飯にリクエストが一つあるんだが、しても良いか?」

「なんだよ・・・」

「おかずにだし巻き玉子追加してくれ」

 

サンマの蒲焼きはレンチンすれば直ぐ出来ちゃうし、時間的な余裕はある。それに、奢るっていってたうなぎないしなぁ。

 

それくらいならと頷けば高虎が嬉しそうに笑った。

奢るって言った時より、ずっと嬉しそうに。

 

 

「・・・ふふ、安いやつめ」

「何か言ったか?」

「なんでもなーい」

 

 

買い物袋を揺らしながらショッピングモールを出ると、午前中の晴れ晴れとした天気が嘘のようにどんよりしてる。重々しい灰色の雲。何処か雨の臭いまでする。

 

「一雨くるかもな」

 

高虎のその言葉を聞いて、ふと天気予報を思い出した。

夕立がどうたらと言っていた事を。そして洗濯物を干しっぱなしで出掛けた事も。

 

「高虎!!洗濯物!!」

「あぁー、そう言えば干したまんまだったか・・・」

「何呑気な事いってんだ!ほら、急ぐぞ!!」

 

それから慌てて帰った。

雨の雰囲気を肌で感じながら。

二人で、手を繋いで。

 

 

 

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