子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど   作:ミレニアムいたっちー

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TSってやっぱり素敵やなぁ(*´ω`*)


おもうてたより、自分の気持ちが分からないんですけど『前編』

9月も半ばを過ぎた今日この頃。

じきに再開する大学に備え、冬眠明けの熊みたいにのんびり用意を始めた高虎の後ろ姿横目に、いつもの如く洗濯物を干しているとインターホンが鳴り響いた。

 

基本的に家に尋ねてくる人はいない。来るとしたらマザーか兄貴ぐらいなもので、今日はそういう連絡も来てない。稀にジョディーさんも遊びに来るけど、それだって家に着く前に連絡をくれる。

 

不思議に思って首を捻っていると、またインターホンが鳴った。

 

「高虎ーーー」

「あー」

 

変な人だったら嫌なので高虎を呼べば、これまた熊みたいにのそのそやってきてドアホンを覗いた。

ドアホンの向こうから響く声と少し話した後、高虎は一度変な声をあげる。それから画面の向こうに映る物をマジマジと見て━━━唸り声をあげながら頷いた。

 

「・・・・ちょっと行ってくる」

「ん?いってら~。お昼はどうする?いる?」

「いや、そんなに遅くならない。直ぐ戻ってくる・・・というか、俺よりお前がいった方が良いんだが」

「んん?オレ?」

 

一旦洗濯物を置いてマンションの入り口へ向かうと、そこにはお祖父ちゃん家のお手伝いさんの一人である、主にドライバーな矢並さんがいた。

基本的に矢並さんはお祖父ちゃんの近くでせかせか働いてる人で、一人で何処をプラプラしてるのを見たことない。そう、一人の矢並さんはかなり珍しい。『レアやなみん』だ。

なので物珍しさから見てたんだけど━━━矢並さんの隣にあった大きな影に気づいて、そんな考えは吹き飛んだ。

 

「━━━たろちゃん!!」

 

そこにいたのは格好良さと可愛さを奇跡のバランスで両立させた、グレーの毛並みをフワモサさせる大型ワンコ。お祖父ちゃん家の飼い犬である、アラスカン・マラミュート(血統書付き)。たろちゃんこと太郎太刀であった。

 

「バゥッ!!」

 

オレの声にたろちゃんは矢並さんを振り切り、自動ドアを駆け抜け、高虎を押し退け、飛び掛かって━━━はこなかった。ぶつかる手前で急ブレーキをかけて止まり、勢いを殺してからのっそりと立ち上がり寄っ掛かってくる。めちゃ尻尾フリフリしてる。めちゃ顔をスリスリしてくる。んで、めちゃ顔ペロペロしてくる。

 

「クゥゥゥゥン!」

「ああもう、たろちゃん!よーしよし!可愛いねぇー!相変わらずモサモサだねぇー!よしよしよし━━━っうえっぷ!たろちゃんストップ!ストォォォプ!!分かったからっ、わっぷ!?ちょっ、やめへっ!重い重い!!ぐぁぁぁぁぁ!!高虎ぁぁぁぁ!!」

 

「はっはっはっ、ゆたか様は相変わらず太郎太刀と仲良しですねぇ」

「・・・いや、まぁ、太郎太刀来るといつもあんな感じですけど、矢並さんは立場的に止めにいった方が良くないですか?」

「そこはゆたか様の旦那様にお任せします。カッコいい所見せつけちゃって下さい。頑張れ、高虎くん」

「矢並さんも相変わらずみたいで」

 

 

 

たろちゃんが落ち着いた所で改めて話を聞くと、どうやらお祖父ちゃんが一週間程仕事で家をあけるらしく、その間だけたろちゃんを預かって欲しいんだとか。

 

預かってあげたいのは山々なんだけど、今住んでるのはマンション。直ぐには頷けない。ペット自体はOKなマンションだけど、一時的にとはいえ飼うには管理人さんの所へ色々書類出さなきゃならないし、たろちゃん用の餌とか道具とか飼える環境が揃ってない。

 

高虎に視線を送ってみると、案の定首を横に振られてしまう。なのでそこら辺の事情を話したんだけど、矢並さんは何故だか良い顔で笑った。

 

「━━あぁ、でしたら問題ありませんよ。こちらで対処済みです。餌などの消耗品は勿論、その他飼育に必要な道具は車に詰めてきてますので持ち込むだけ。ペットに関する規約についても、元康様がちゃんとマンションの責任者へ話をつけていらっしゃるので大丈夫です」

「そうなの?」

「はい」

 

それならと思ったけど、高虎はやっぱり良い顔はしてない。微妙な顔してる。

迂闊に頷けない。

 

でも足元を見れば、目をキラキラさせたたろちゃんが見ていた。めちゃ尻尾フリフリしてる。めちゃハァハァいってる。この目を裏切りたくない。

くのぅぅ。

 

「~~~うーー!」

「ゆたか様、どうか元康様のお願いを聞いては頂けませんか?このままだと太郎太刀はたった一匹で、あの広いお屋敷にお留守番ということになってしまいます」

「お留守番っ、それは、ちょっと可哀想だけど、でもなぁ・・・あ、別に、ほら、お屋敷にはさ、他のお手伝いさんだっているでしょ?だから寂しくは━━━━━」

 

ずいっと、矢並さんが笑顔を近づけてきた。

 

「ええ、普段ならそうなのです。ですがタイミングの悪い事にその日から社員旅行で、使用人全員出払う予定でして」

「ええぇぇぇ・・・・じゃぁ、ペットホテルとかは━━」

 

ずずいっと、矢並さんが笑顔をもっと近づけてきた。

 

「行きつけのペットホテルがあったのですが、諸事情で利用出来ないのです。太郎太刀は人見知りする子なので初めての場所に七日預けるのは元康様が良しとせず。それならばと、太郎太刀も良くなついているゆたか様に預けてはどうかと」

「えぇぇぇ・・・お祖父ちゃんが連れてくとかは?ほら、うちに来る時とかしてたし━━━」

「そうしたいのは山々なのですが、かなり厳しいスケジュールで動きますので、太郎太刀を連れて歩く余裕がないのですよ」

 

矢鱈と近い笑顔にどうやって断ろうかと考えていると、手がペロペロされ始めた。視線を落とすとたろちゃんが遊んで欲しそうに首を傾げてる。

可愛い過ぎる。わんだこりゃぁ。

 

「た、高虎ぁー」

 

チラっと高虎を見上げると、重い溜息が吐かれた。

 

「・・・はぁ、分かった。一週間だけだからな」

「高虎ぁぁ!やったな、たろちゃん!一週間うちにお泊まりだぞー!うりりりー!」

 

たろちゃんのモサモサ顔をワシャワシャしてやると、たろちゃんは嬉しそうに尻尾を振り回しながらその場をクルクルと回りまくる。

可愛いかったので捕まえて首回りワシャワシャしてやれば「ワッフゥー!!」と楽しげな声を漏らした。

ういうい、ういやつじゃぁー。

 

それから矢並さんに協力して貰い、高虎と矢並さんの二人で荷物の搬入開始。オレは洗濯物とたろちゃんの相手をするという仕事があるので二人にお任せ。男手二人。そう時間も掛からぬ内、たろちゃん飼育セットを部屋に設置完了した。

因みにたろちゃんの仮住まいスペースはリビングの端っこへと決まった。最初はオレの部屋にしようとしたけど・・・借り置きしたら思ったより狭苦しかったので止めた。ゲーム機とかもあるしね、危ないしね。うん。後で掃除がなぁ・・・とかも思ってない。全然思ってない。

 

たろちゃんのお引っ越しが終わる頃、時刻はお腹も鳴り出すお昼タイム。ツナマヨ丼でテキトーに済ませようとしていたのだが、矢並さんが全員分のお弁当を買ってきてくれてたみたいなのでそれを頂く事に。

 

「おぅ、うなぎだ!」

「あー・・・・うなぎだな」

 

お弁当の蓋を開けるとこの間食べられなかったうなぎの蒲焼きがそこにあった。ご飯の上に重ねられた鼈甲色に艶めくそれからは甘くて芳ばしい香りが漂う。

美味しそうだなぁ、とは思う。でも、この間のうなぎ事件を思い出すと手が進まない。

 

「・・・ゆたか様、安心して下さい。こちらそう高い物でもありませんので」

「ひょっ!?そ、そうなの?五千円しないの?」

「五千円がどうのと言いますか・・・実はこれ、元康様が趣味で作った物でして。材料も余り物を使用してるらしく、実質タダといっても良い代物ですよ」

「お祖父ちゃんが?」

 

お祖父ちゃんが・・・へぇぇ。

改めて見てみたけど、前にお祖父ちゃんが買ってきてくれた奴と何が違うのか分からない。普通に美味しそう。

というか、これ、オレより料理上手なんじゃないだろうか・・・へこむ。

 

「あの人が作ったなら変な付加価値ついて、余計に高くなる気がするんだが・・・」

「━━━ん?高くなる?高虎?」

「・・・いや、何でもない。忘れてくれ。それより食べるか」

「?おう、いただきまーす」

 

お昼ご飯を食べ終わると、矢並さんは高虎にシッター代として封筒を渡しさっさと帰ってしまった。これから仕事があるらしい。一緒にゲームして貰ったり、色々お祖父ちゃんの様子とか聞きたかったので少し残念。

矢並さん格ゲーとFPS系のゲーム超強いんだ。神業見せて欲しかった。

 

矢並さんが帰って暫く。

再会の感動がすっかり薄れたオレとたろちゃんは、何をやるでもなしにリビングでゴロゴロしていた。グデーっと絨毯みたいに床に転がるたろちゃんの上へ、同じようにグデーっと折り重なってると、大学の用意を済ませたっぽい小説装備の高虎に呆れた顔をされた。

 

「・・・なんだよぉ」

「・・・ワフッ」

 

「なんだその一体感は。本当に半年ぶりか、お前ら」

 

そう言われて考えて見れば、前にあったのはお正月の時━━━いや。結婚した後、このマンションに入る前、高虎と一緒に挨拶しにいったっけか。確か三月の終わり頃で・・・となるとやっぱり大体半年ぶりか。

 

たろちゃんとの日々を思い返してる内、高虎が側にあるソファーへと腰を降ろした。目の前に現れた足にたろちゃんの前足が伸びる。なんかポフポフしてる。ポフポフしてる。可愛い。

 

「ちょっかいの掛け方まで一緒か・・・」

「・・・一緒?」

「自覚ないのか、お前。・・・まぁ、別に良いけどな」

 

たろちゃんの足をワシっと掴まえた高虎は小説をテーブルに置いて、徐に肉球を触り出す。たろちゃんされるがまま。抵抗する気力なし。尻尾振ってるから楽しんではいるんだろうけども。

なんか見てるとオレも触りたくなったので、余ってる前足の肉球を触らせて貰う。やわい。

 

「・・・散歩とか、行かなくて良いのか?」

「・・・たろちゃんインドア派だからな」

「・・・まさか、あのルームランナー」

「・・・たろちゃんのだぞ」

 

そうルームランナーがデカかった。

それと加えてたろちゃんの寝床のゲージまでいれると、部屋のスペースがちびっとしか残らないのだ。

まぁ、積んでるゲームとか漫画をきちんと整理したら、全然余裕そうではあるんだけども。

 

「・・・犬なのにルームランナー使うのか」

「・・・犬だってルームランナー使う時代なんだよ。きっと」

「・・・そうなのか・・・深いな」

「・・・なぁー深いなぁー」

 

ぼやーっと肉球揉み揉みしてると、流石に揉み過ぎたのかクワっと睨まれた。おこだった。黙れ小僧って顔だった。

 

たろちゃんがルームランナーを始めた所で夕飯作り開始。高虎が物珍しそうにルームランナー犬を眺めてるのを横目に冷蔵庫をチェック。パッと目についたのはマザーから旬物だからと譲り受けた大量のピーマン達。それと期限ギリギリのなめこ。ふむふむ。

 

「高虎くん!君には二つの選択肢があります!!」

「ん?ああ、なんだ」

「一つはピーマンの肉詰めとなめこのお味噌汁、それとサラダという献立!」

 

高虎は献立の姿を考えてるのか天井を少し眺めた後、「もう一つは?」と聞いてくる。

 

「もう一つは、チンジャオロースとなめこの中華スープ、それとサラダという献立です!!さぁ、どっち!!」

 

高虎はまたさっきと同じように考えてから・・・ぼーっとした眼差しをこっちに向けてきた。

 

「・・・どっちも大差ない気がするんだが」

 

「うるせぇー知ってらぁい!決めろこの野郎ぉーー!」

「ワオォォーーーーン!!」

 

「だから、なんだその一体感」

 

結局、簡単だからという理由でチンジャオロースにした。肉詰めは肉捏ねないといけないからメンドイ。しかーし、チンジャオロースは簡単も簡単。楽チン●んなのだ。━━━何せこっちにはチンジャオロースの素という物がある。切って炒めて混ぜるだけ、それだけで本場も顔負けな中華料理が作れるという凄い代物なのだ。

 

まさに最強の調味料、ゴッデス・ティアドロップ!!

ありがとう、クック●ゥ!!

 

そろそろ様になったネコの手でちゃっちゃと野菜を処理し━━━━ぬ、ぬぅ・・・ぬぅぅ?

 

「高虎ーーー!」

「おう、なんだ」

「ピーマンってどうやって切り始めるんだっけ?」

「待ってろ。ちょっと待ってろ。まだやるな。手伝う」

 

高虎の介入を受けつつ料理する事一時間程。

何とか初めての中華料理を作り終えた。

やり始めはどうなる事かと思ってたけど、やっぱり人間やれば出来るもんだ。調味料があったお陰とはいえ、これは・・・ふむ。オレは天才かも知れないな。

 

どやっ、と高虎を見てやれば頭を撫でられた。

ええい、止めるが良い!なんだその、可愛い物を見る目は!もっとこう、崇める方向でこい!この野郎ぅ!

 

料理をテーブルへ運ぶとたろちゃんがトコトコやってきた。お腹が減ったのかテーブルに向けて鼻をヒクヒクさせると、こちらの足へ体を擦り寄せくんくん鳴き始める。

 

たろちゃんの餌もちゃちゃっと準備し、初めての二人と一匹でのお夕飯。チンジャオロースを食べながら自分の料理の腕に惚れ惚れしていると、ふとそれが目についた。

 

ガツガツご飯を掻き込む高虎と、それと同じようにガツガツお皿の餌に食い付くたろちゃんの姿だ。ご飯に夢中の一人と一匹の姿はいやにかぶって見える。

 

やっぱり似てる。

 

いつ頃からだったのかは分からないけど、気がつけばたろちゃんを見る度ずっと思ってた。高虎はやっぱりたろちゃんに似てる。最初小さくて急に大きくなった所とか。オレに妙になついてて着いて回る所とか。ご飯にがっつく姿とか。

 

こうして見てると可愛い━━━━ん?

 

高虎可愛いか?いやぁ?可愛いくはないなぁ・・・。

デカいし、なんかゴツいし、むさいし。

でも嫌いではない・・・な。寧ろ好きではあるというか・・・んん?好き?好きではあるか?あるな。こういうと照れ臭いけど、親友だと思ってるし・・・んん?んんんんん?

 

「んんんんーーー?」

「?どうした、唸り声あげて」

「いやぁ?・・・んんん?」

 

何処かモヤモヤする物を感じながら、取り敢えずご飯を食べ進めた。ぼけっとしてると、高虎におかず食べられてしまうから・・・ええい、このお肉はオレのお肉だ!!掴むなぁ!!なんの為に一つだけデカイの入れたと思ってんだ!キシャァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・クゥーン、クゥン」

 

「お皿カリカリしても、可愛い顔しても駄目っ!もう今夜はおしまい、おかわりはないからな。たろちゃん、ハウス!・・・高虎、今なんか隠さなかったか?」

「き、気のせいだろ」


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