子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど 作:ミレニアムいたっちー
雲一つないとまではいかなくても、気持ち良く晴れたその日。いつものように洗濯したり朝ごはん作ったりして慌ただしい朝過ごしたオレは、高虎と一緒に文化祭で賑わいでる母校へとやってきた。
本当は天音と待ち合わせしてくる事になってたんだけど、高虎と行く旨を伝えたら現地集合となったので今は二人きり。昨日の事もあって少し心配だったけど、案外なんとかなるもんだ。普通にこれた。良かった。
「・・・どうした?」
「何でもない、いこっ」
校門に設置された妙にコジャレた西洋風のアーチを潜ると、懐かしい校舎が見えてくる。文化祭という事もあってか、何やらごてごてと飾り付けられてはいるけど。
中に入って直ぐ、案内に従って受付で名簿に名前を記入。その後は文化祭のパンフを貰って、弓子の所に行こうとしたんだけど・・・ある人と目があった。
警戒巡回中と書いたタスキをしてる、見回りをしてるっぽい元担任と。
「━━━あら、子宝さんじゃない。元気そうで」
元担任の林ちゃんは笑顔でこっちにやってきた。
一見すると人畜無害そうに見えるけど、不思議とオレには修羅を背負ってるようにしか見えない。あれれぇー。なんだろぅ、この寒気はぁ。
「え、どうしたの?今日は?遊びにきたの?だったら一言くらい教えてくれても良いのにぃー」
そんな事を言いながら林ちゃんは笑顔のままオレの肩に手を回して、卒業式の時に見せてきた暗黒の瞳で顔を覗いてきた。やっぱり林ちゃんは林ちゃんだった。
「そうしたら、子宝さんを埋める穴ぐらい掘っておいたのに。どの桜の下にするぅ?」
「高虎タスケェェェェ!!」
「助けてを呼んでじゃないわよ!羨ましいぃ!!ねぇ自慢!?自慢なの!?私には白馬の王子様がいるって見せびらかしにきたの!?良いわね!!結婚して幸せそうで!!分けてくれない!?幸せ!!ねぇ!!こちとら十年以上フリーじゃボケぇぇぇ!!いやぁぁぁぁ!!このまま歳とるのは嫌ぁ!!枯れたくない!同期の独身連中みたいに負け惜しみにしか聞こえない台詞言いたくない!!もう同級生の結婚式に一人で行きたくない!!」
「・・・・あー、悪化してるな」
それから少し林ちゃんに絡まれたけど、高虎が何とか宥めてくれてその場は収まった。ありがとう、高虎。危うく埋められる所だった。
林ちゃんもうすぐ三十路で、独身のままそれを越える事を凄く気にしてるのは知ってるけどさ、だからってオレに当たらないで欲しい。・・・高虎に「藤崎。大学に良い人いない?合コン呼んでも良いのよ?」とか詰め寄るのも止めて欲しい。歳考えろよ、林ちゃん。てか、手を握るな。手をっ。あと、高虎はもう藤崎じゃないから。
ジト目で見てると林ちゃんが怪訝そうな顔でオレを見てきた。そして高虎から手を離すと、何を思ったのか頭を撫でてくる。何故に。
「相変わらずちっちゃいねぇ、子宝は。それで主婦は上手くやってんの?あんたそこら辺絶望的だったでしょ」
「ちっちゃいは余計です。林ちゃんだって言うほど変わらないくせして・・・まぁ、家事は大丈夫ですよ。私はやれば出来る子なんで。もう一月くらいでペキカンでした。林ちゃんじゃあるまいし」
林ちゃんも家事は絶望的だったからな。
お昼のお弁当はコンビニ弁当オンリーだし、洗濯物とかクリーニングに殆ど出すし、一回だけ林ちゃん家に行ったことあるから知ってるんだけど部屋とか散らかりまくってるしね。そりゃ、モテんわ。
「はははっ、そうか。それは良かった。━━━子宝、中庭の桜とかはどうだ?眺めは良いぞ」
「なんの眺めっ!?埋める気!?」
「ゆたか。やられる理由が自分にもある事、そろそろ自覚しろ」
林ちゃんも少しワチャワチャした後、生徒に呼ばれた憎しみの使徒な林ちゃんと別れ、オレたちは弓子のクラスを目指して校内を進んだ。
途中に並ぶ売店とかで買い食いしたり、出し物を見て回ったりしながらのんびりと。
道中意外とオレの事を覚えてる生徒が多くて、写メを求められたり握手した。大体女の子から。別に男にモテたい訳ではないけど、何故なのか。高虎にそこんとこ聞いたら「さぁな」と顔を逸らされた。まぁ、高虎に聞いても分からないよなぁ。
校舎に入ってから暫く。
弓子のいるクラスの教室が見えてきた。
廊下にそこそこ人の列が並んでて、繁盛してるのが見てとれる。列の最後尾に並んでいると、列の案内をしていた生徒がオレを見つけて肩を跳ねさせた。どうしたのかと見てると急いで教室に戻り━━━━見慣れたツンインテールを伴って戻ってきた。何故か学ランを着こんだ弓子だ。
「先っっっっ輩っ!!待ってましたぁぁぁ!!天音先輩は少し前に━━━━━藤崎先輩っ!?な、何故、先輩まで!?さては邪魔しにきましたね!?成敗!!」
シュワッて感じで構えた弓子に高虎は、たろちゃんを見るような視線を向けた。
「この間ぶりだな、服部。勉強大丈夫か?」
「藤崎っ!先輩に!心配される筋合いはありませんけどぉぉぉ!?余裕ぶっていられるのも今の内ですよ!直ぐに法の名のもとに、先輩を自由にして見せますからね!」
ビシッと指を突きつける弓子に、高虎は何とも言えない顔をした。いつもなら軽く流したりするのだが、今日は何も言い返したりしない。そんな高虎の反応に弓子も微妙な顔をする。
「・・・・まぁ、まぁあ・・・・立ち話もなんですから、どうぞ中へ。奥の席で天音先輩が待ってますから」
「良いのか?皆並んでるのに」
「良いんですよ。ほら、ここに書いてあるじゃないですか」
弓子が指差した先にはメイド服を着たムキムキの男と共に『贔屓上等☆世紀末怒鬼怒鬼冥土喫茶』と描かれたポスターが張られていた。弓子のクラス、センスがイカれてやがる。
「ねっ!大丈夫でしょ!店員の裁量で贔屓していい店なんです。ここは」
「うん、そうか。でもそれ、大丈夫ではないな」
「良いんですってば、そういう客しか来てませんし」
「駄目な要素が増えた」
案内されて中に入ると、更にイカれた光景が広がっていた。ブカブカの学ランを着ながら給仕してる女子は可愛いのだが・・・・メイドさんの服を着て、生足を晒して歩いてる男子連中が異様だった。世紀末だった。というか、需要が行方不明なんだけど。
「これは酷いな・・・・」
高虎の小さな呟きにオレも頷く。
激しくわかりみ。
「おーい、ゆたか!こっちこっち!」
声に視線を向ければ、天音が一人テーブルでカップ片手に掌をヒラヒラさせてる。取り敢えず弓子にオススメのコーヒーを二つお願いして、オレたちは天音の所へ行った。
「少しは伸びたかー?うりうり」
「えぇいっ!林ちゃんといい天音といい!何で頭をっ、やめいぃ!押すな、縮んだらどうする!やるなら高虎をやれ!」
「隙あらば、俺を売るな。ゆたか」
天音の大学の話しを聞きながら少し、弓子がコーヒー持ってやってきた。コーヒーと一緒にシュガースティック二本とミルクが二つ置かれる。高虎の前にはコーヒーのみ。うんうん、オレたちの事よく分かってるなぁ。
弓子は高虎と仲悪いけど、こういうのを見ると本気でそうじゃないんだろうなと安心だ。
砂糖をいれようとすると弓子が代わりに入れてくれた。ついでにミルクも入れてかき回してくれる。サービスなんだとか。他のテーブルで同じような事してる奴がいないけど、サービスなんだとか。
「どうぞ、先輩。私の胸の中でこんこんと泉のように沸き上がる、溢れんばかりの愛も混ぜておきました」
なにその胃もたれしそうなコーヒー。
弓子の言い方は兎も角、飲んでみたらコーヒーは普通に美味しかった。気分的にはやっぱり胃もたれしそうだけど。
「━━━で、藤崎先輩はちょっと良いですか?無駄に大きい体してる藤崎先輩に、是非是非手伝って欲しい事があるんですけどぉ」
「・・・・当然のように客を使おうとするな・・・・で、どうした?」
「藤崎先輩のそういう所"だけ"は好きですよ。私は。あ、それでですね、ちょっと荷物を━━━━」
弓子に連行されてった高虎を見送って直ぐ、天音が手招きしてきた。不思議に思って顔を寄せると「藤崎となんかあった?」と聞かれる。まさかバレると思ってなくて動揺してると、天音思いっきり苦笑いされた。
「あれでよくバレないと思ったわね、あんた。バレバレよ、バレバレ。気づいてないかも知れないけど、いつもよりギクシャクしてる」
「うっ、嘘だぁ・・・・そんなに?」
「そんなに。でっ、どしたの。話してみ」
天音に迫られたオレは結局誤魔化し切れず、ここ最近の事について恥ずかしさを堪えて話す事になった。一通り聞いた天音はクネクネモジモジしながら「私の方が恥ずかしいわ!」と怒ってきた。なんでぇ。
「あーもぅ、あーもぅ。心配した私が馬鹿だったわ。お熱いお話ごちそうさま。上手くやってるみたいで何よりねぇー」
「えぇ・・・その、上手くやれてないから、ギクシャクしてるんだけど・・・天音はどうしたら良いと思う?」
「どうもしなくて良いんじゃない?藤崎・・・高虎の奴の事で、そうやって真剣に考えるようになっただけ進歩したわよ。頑張ってるよ。ゆたかはさ。前のあんたなら平気でスルーしてるでしょ」
「そんな事・・・・ないと・・・・・思うけど」
そう言われると前はどうだったか、少し自信はない。
一緒に暮らすようになって高虎の気持ちを聞いて、オレは初めて高虎のオレへの気持ちを知ったくらいなのだ。あの時教えて貰わなかったら、それまでの高虎の優しさとか気遣いの理由とか・・・もしかしたらずっと気づかなかったかも知れない。高虎は言わないでくれる時がある。それはきっとオレを思ってだ。オレの事を誰よりも知っているから、そうしてくれる。
それなのにオレときたら・・・うぅ。
オレは鈍いと思う。
人よりずっと。
ちょっと自分の鈍さに凹んでると頭を撫でられた。
「よしよし、そんなにクヨクヨすんな。心配しなくても大丈夫。上手くいく、上手くいく」
「~~~っ、事あるごとに頭を撫でるな!このぉ!子供じゃないんだからな!!天音の頭も撫でてやろうか!?どれだけプライドが傷つくか身を持って知るがいいわ!!」
「あははっ、やれるもんならやってみると良い!届けばだけどね~~!」
天音との攻防を暫く続けてると高虎が帰ってきた。
隣には学ランを脱いだクラスTシャツの弓子もいる。
どうやら自由時間になったみたいだ。
それからは四人であちこち回った。
買い食いしたり、出し物のゲームで遊んだり、文化部の展示物を見て回ったり、体育館でやってるバンドとか見に行ったり色々と。
お昼も過ぎた頃、ミニコン出場者に集合を掛けるアナウンスが流れた。少しだけ聞かなかった事にしようかと思ったけど、弓子の元にも連絡が来て連れてくるようにと念押しされてる姿を見るとそうもいかず、結局皆で向かう事に。
集合場所に着くと電話越しでしか面識のなかった日下部さんがいた。日下部さんは電話のイメージそのままの女の子で、ショートヘアーが良く似合うちょっと大きい子だった。
「子宝先輩!子宝先輩ですね!子宝先輩ですよね!?今日は本当にありがとう御座います!無理いってすみませんでした!!ですが、本当に助かります!!ありがとう御座います!!例の物はイベントが終わった後に進呈させて頂きますので!!本当にっ、本当にありがとう御座いますぅ!!」
「うぉ、熱いぃ」
日下部さんからめちゃめちゃ感謝された後、高虎達と一旦別れて更衣室へ。そのまま出るつもりだったんだけど衣装を用意してくれたらしい。ありがた迷惑でしかなかったけど、キラッキラした日下部さんの目を思い出すと今更断れなかったので衣装を━━━━━━。
袋からそれを取り出した時。
オレの時は止まった。
そっと袋へ戻して・・・また取り出して見る。
幻かも知れないし、幻影を見てるかも知れないし。
だが、改めて中身を見ても現実は変わらなかった。
オレ、これ、知ってる。
忘れもしない、あの高虎姉の邪悪な顔を。
ゴスロリじゃねぇか、こらぁ。
もう一度取り出してみると、それはどこをどうみてもゴスロリ衣装だった。黒を基調としたワンピース型のドレス。所々にレースやらフリルなんけ付いちゃってて、同じように用意された厚底の黒のブーツにもリボンやら飾りがすごい事になってる。誰が着るの、こんなの?ああ、オレか。・・・・オレか!?
着るかどうか悩んでいると、アナウンスが流れてきた。
どうやらミニコン始まったみたいだ。
オレの出番はラストなのでまだ大丈夫だけど・・・こ、これは着たくない。普通に着たくない。
去年は中学の制服で良いとか言われて、まぁそれならとか思ったけど、これはキツイ。これはキツイよ。いや、中学の制服もキツイことはキツかったけども。
「・・・・・」
でも、少なくとも日下部さんとかは、オレにこれが似合うと思って渡してるんだよな。日下部さん的には文化祭を盛り上げたい訳で・・・だから、そこは信用して良い筈。似合うのか、オレ。ちょっとあれな気分だけど、でもな━━━━。
「よしっ」
「た、高虎っ・・・!」
更衣室の外へ出ると、やっぱり高虎がいた。
声を掛けるといつものぼやーっとした顔がこっちを向いて━━━━━珍しく驚いた顔になった。ポカン顔だ。
自分の格好を見直して見る。
ちゃんと着れてる筈だけど、何かおかしいのだろうか。この手の服は着なれてないから、おかしくても変ではないんだけど。ゴスロリ系は中学の時、高虎姉に着させられた時以来だから自信はない。
「どこか、その、変かな?」
教えて欲しくて聞いたら首が横に振られた。
「いや、あっ、かわ、だ、大丈夫だ」
「大丈夫か、そっか。良かった」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
そういうと高虎はこっちを見たまま黙ってしまった。
いつもなら何て事ないんだけど、今の高虎の目は妙に熱っぽくてむず痒い物がある。胸の所がばくばく煩くて仕方ない。
「ああ、いた!子宝先輩!!あと二人終わったら出番です!準備お願いします!!」
お互い何も言えずにいると、日下部さんが迎えにきた。
遅れる訳にも行かないので会場に向けて足を踏み出して
━━━━「ゆたか」と声が掛かった。
足を止めて振り返ってみると、いつになく落ち着きのない高虎がいる。けれど目は真っ直ぐオレを見てて、何か言いたい事があるだけは分かった。
言葉を待っていると、少しだけ恥ずかしげに口を開いた。
「大丈夫じゃなくてな・・・その、よく、似合ってると思う。・・・・・可愛いと・・・思う」
多分だけど、きっとそれは高虎が今まで、言わないでいてくれた事なんだと思った。
だってそれは、オレがあんまり好きじゃなかった言葉だから。ずっと好きになれなかった言葉だから。
「ありがと・・・頑張ってくる!」
ガッツポーズを見せれば、高虎もガッツポーズを返してくれた。
オレは胸の中で沸き上がる気持ちに背中を押され、迎えにきてくれた日下部さんの後を追った。
そうして何でも頑張れる気がして舞台にあがったものの、結果は自己紹介すら舌を噛みまくるという大実態であった。一言話す度に舌を噛んでいくという、自分でもどうしてこんなに器用に噛めるのかと、驚きの噛み具合だった。もうあれだ、穴があったら入りたい。
けれど、会場は馬鹿みたいに盛り上がって、そんでやっぱり優勝してしまった。審査員共に言いたい。趣旨に反してまで、何が、お前らに、そうさせるのか。
「来年も参加してくれるかなぁ」と、どこぞのサングラスおじさんみたいな事言われたけど、それだけは全力で拒否っておいた。来年はきてやらないからな!この野郎共ぉ!
色々と楽しんだ帰り道。
勇気を出して高虎の手を握ってみた。
結果は相変わらず胸がバクバクして、火が出そうなほど頬が熱くて、落ち着かなくて、物凄く大変だった。
でもその手の温かさは嫌じゃなくて、しっかり掴んでくれる力強さは嫌いじゃなくて、オレは家に着くまで頑張って繋ぎ続けた。
少しだけ、それが当たり前になれば良いなとか、そんなことを思いながら。