子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど 作:ミレニアムいたっちー
12月25日、俗にいうクリスマス。
その日は宗教的にいえばキリストさんの誕生日を祝うお祭りで、宗教に寛容過ぎる日本人にとって恋人達がデートしたり家族でケーキとかフライドチキンとか食べたりする日である。
これまでのオレにとっても、やはりその日は家族とケーキ食べたりプレゼントを貰う日だった。お祖父ちゃんズに誘われてホームパーティーに出る事もあったけど、あっちは忙しい時は全然やらないので、やはり基本は家でやるのがメイン。ついでに欧米人なパピーはサンタしない派で直接プレゼントを送ってくるから今世はサンタの文化も無かった。だからオレにとってその日はご馳走食べて、貰ったプレゼントで遊ぶ・・・そんな日だった。
そしてそれは、段々と思い出せなくなってる前世を含めての事で・・・・。
「来てしまったか、この日が・・・・」
オレはテレビのニュースで流れるクリスマス特集を見ながら、不退転の想いと共に完成したマフラーを絶賛ラッピングしていた。
・・・・駄目だ。なんか、リボンの形が気にいらない。
本日何回めになるか分からないリボンの閉め直しをしていると、テーブルに置いたスマホからアニソンが鳴り出した。親友の顔を思い浮かべて覗いてみれば、思った通り天音から電話が掛かってきてる。コールボタンをタッチしてハンズフリーにすれば元気な声が響いてきた。
『━━━あっ、出た。よっ、ゆたか。メリクリ』
「メリクリー。急にどったの?」
『どったのってあんた・・・可愛い友人が愛しの旦那様と初クリスマスデートだっていうから、どうしてるかなぁーって電話してやったのよ』
「いっ、愛しのって訳じゃないし・・・」
『ふぅん?へぇ~』
からかうような口ぶりで話す天音の後ろからはガヤガヤと人で賑わう音が聞こえる。勘で大学にいるのかと聞けば『さっき今年最後の講義終わった所』と返事が返ってきた。
「クリスマスにも勉強か・・・オレなら発狂しちゃうぜ」
『あはは、赤点とったらひゃくぱー留年なのに、それでもゲーセン行こうとした勇者様の台詞は違うねぇ』
「えっ、う、嘘だぁー。ないない、そんな事。いくらオレだってそれくらいの分別━━━」
『覚えてないわけ?クレーンゲームの景品と人生どっちが大切なんだっていった時、あんたなんて言ったと思う?迷いもなく景品の名前口にしたのよ。呆れたわ、本当。今ほどあんたと大学来なくて良かったと思う事ないわよ。絶対レポートとかやらされてたもん』
「そ、んな、こと・・・・ちなみに、その景品の名前は・・・?」
何となく部屋の本棚に飾ってあるぬいぐるみを見ながら聞いてみると、天音はあーだうーだ言いながら『なんかアニメのぬいぐるみだと思うけど?なーなー言いながら説明してきた、ウサギみたいなやつ』と目の前にある物の特徴を告げてきた。
・・・・思い出した。あれってあの時のか。
高二の期末テスト前だったかの時・・・天音から勉強会と称したスパルタ教育を受けてたら、後から合流してきた高虎がお土産に持ってきたんだったよな。しかも天音に取り上げられて、赤点取ったら燃やす!って脅されたんだっけか。なつい。あの時は人生で一二を争うレベルで勉強したっけ。
「・・・・それで、天音はクリスマスの予定とかあんの?」
『露骨に話逸らしたわね・・・まぁ、良いけど。私はこの時期なのに、無様に男にフラれたやつに付き合って、バイキングでヤケ飯よ。ヤケ飯』
ヤケ飯・・・・なんて豪快な響き。
フードファイターかな?
天音の話を聞いたフラれたご本人なのか、電話越しから『フラれてないし!!フってやったんだし!!』と怒号が聞こえる。他の友人達の宥める声も交じってて本当に賑やか。寂しいクリスマスを送るのかと少し憐れんでたけど、この調子だとそれもないみたいだ。
『まっ、こっちの事は良いのよ。それでプレゼントは間に合ったの?』
「一応・・・まぁ、流石に売り物レベル要求されるとあれだけどな。形にはなったぞ。今ラッピング中ー。リボンが上手く巻けん。天音ねぇーさん、アドバイスプリーズ」
『それは私に相談すんな。私も巻けん』
巻けんか、そうか。
まぁ知ってたけども。
それから少し近況報告したんだけど、何故か電話の切り際に『大丈夫だとは思うけど、何かあったら電話しな』と言われた。ただデートして、それでプレゼントを渡すだけ。何かなんて起きる訳ない。おかしな事言うなと思いながらも、それでも心配してくれたのが嬉しかったので「そうする」とだけ返しておいた。
電話を切ってから改めてラッピングを再開。
十回目にしてようやく納得のいく渾身のラッピングが完成し、オレは夜のデートの為に準備を始めた。やることは幾らでもある。急がねば。
時計の針が6時を過ぎた頃、高虎が帰ってきた。
いつものように出迎えたたんだけど、何故か玄関で出迎えたオレを見て固まってしまう。何かおかしいのかと思って服装を見下ろしてみたが、特別おかしな所はない気がする。これでもマザーに鍛えられてきたからセンスは悪くない方だと思いたいけど・・・髪型か?やっぱり軽くハーフアップした所で止めておけば良かったかな。何となく三つ編みにしたけど。それともタイツか?素足の方が・・・いや、寒いから無理。でもせめてベージュにするべきだったか?いや、あの見本だと黒のほうが可愛かったと思うし・・・・うーん。
「お、おかしいか、な・・・・?」
何とかそう伝えれば、高虎はハッとして首を横に振る。
「いや、良いと・・・・か、可愛いと、思う。そんな、服持ってたのか?」
「ま、まぁな。着たのは初めてだけど・・・」
そう言われた今着てる白のニットワンピは、実はちょっと前にマザーと買ってきたやつだったりする。張り切ってると思われるのは癪だから、その事を教えるつもりはないが。・・・まぁ実際?別にこれはこの日の為に買ったとかではないから、知られても全然良いんだけな。何となく、何となーく冬用のスカートとか持ってないなぁとか思って、ネットで探したら偶然見つけて、男ウケがどうとかデートがどうとかなんかごちゃごちゃ書いてあったけど、そんなのは少しも関係なくて、気に入ったから買いにいったのだ。それだけ。
けど、褒めて貰えるのは素直に嬉しい。
「・・・お前、けしょ・・・・いや、何でもない。取り敢えず着替えてくる。少し待っててくれ」
「う、うん。そんなに急がなくて良いぞ。どこ行くか知らないけど、時間は大丈夫なんだろ?」
「まぁ、余裕は見てるが・・・・いや、直ぐ戻ってくる」
そう言って慌ただしく自分の部屋に駆けていった高虎だったけど、部屋に入りかけた所で何かを思い出したように早歩きで戻ってきた。デカイ図体でズカズカ戻ってくる姿は迫力があって、何事!?と思って身構えたらオレの直ぐ側まできて口を開いた。
「可愛いからな」
「お、おう。さっき聞いた」
「違う、そうじゃない。さっきのは服だけだったろ。服だけじゃなくて・・・なんだ、色々だ。似合ってる、可愛い」
頬を真剣な顔で耳を真っ赤にしながら言われた言葉に、自分の顔がどうしようもなく熱くなってくのを感じる。なんか、恥ずかくて吐きそう。軽口を叩こうとしたのに上手い返し所か何も出ていかなくて、首を頷かせるので精一杯だった。
高虎も恥ずかったみたいで、言ったら直ぐに目を逸らした。基本表情の変化が乏しいやつだけど、今目の前にある横顔は面白いくらいコロコロ変わってる。きりっとしたり、ふにゃっとしたり、おろおろしたり、うぬぬってしたり・・・どんな気持ちなのかはよく分からないけど、それを見てると何だか自然と顔が綻んだ。まったく仕方ないやつだ。こいつは。
「高虎、早く着替えてこい。時間幾らあっても足りないぞ」
「あ、そ、そうだな。行ってくる」
そうして今度こそ部屋に戻った高虎は、結局その宣言通りそう時間も掛からず帰ってきた。白いシャツの上に黒のニットと灰色のダッフルコートを着込んでて、その下から紺色のパンツをはいた足がスラッと伸びている。
どれも見慣れないやつなので、こいつも買ってきたのかも知れない。
「・・・・良いんじゃん?分からんけど」
「そうか、合格点が貰えて何よりだ」
ほっとしたように笑った高虎は手を差し出してきた。
目を合わせれば繋いで欲しそうにしてる。
仕方ないので手を繋いでやれば、ぎゅっと握り返された。伝わってくる温もりと男らしい手の感触に、胸がアホみたいにドキドキして煩い。この前握った時は何でもなかったのに。あまりに煩いから聞こえてやしないかと視線をあげて高虎の表情を確認したら、妙に男前な顔してる高虎と目があった。
お互い何も言わず見つめあうこと少し。
高虎が意を決した様子で口を開いた。
「行くか」
「おう」
そして、オレたちの初めてのクリスマスデートが始まった━━━━━はっ!
「━━━━まて!バッグ忘れた!」
「っ、お前な、あーいい。走るな。ゆっくりいけ。時間は大丈夫だから」
慌ただしく出発してから暫く。
高虎に手を引かれるまま辿り着いたのは、家から三十分程の所にあった雰囲気のあるレストランだった。ドレスコードとか心配して聞いたら、外装はあれだけど若者向けのカジュアルフレンチのレストランらしくて、余程な格好でなければ大丈夫なんだとか。オレの知ってるフレンチレストランとは違うらしい。
因みに、ここは大学の友人である弦巻に教えて貰って予約したそうだ。マンションの駐車場に用意されたレンタカーを見た時は『こいつ、何処までいくつもりなのか!?』と、正直不安になったけどそこまで遠くじゃなくて良かった。割りとロマンチストな高虎は、なんか、あれだ、色々とやりそうだもんな。めんどいこと。ナイス弦巻。
「・・・美味しいか?」
「ん?うむ、よく分からないけどンマイ。なんだろな、このソース。醤油?」
「醤油ではないだろ・・・いやぁ、でも醤油と言われると・・・・いやないな。ない」
レストランに入ってから暫く。
なんちゃらかんちゃらな真鯛のポアレと呼ばれたそれを食べながら、オレは思った事をそのまま答えていた。いつもの感覚からいうと少し高い金額が刻まれたメニュー表とにらめっこして決めたコース料理の一皿。フレンチとかよく分からないけど、美味しいことに違いはなかった。ウェイターさんのサービスは良いし、あとはフレンチレストランにしては堅すぎない雰囲気というか・・・なんかこう、柔らかい感じの雰囲気も良いと思う。前にお祖父ちゃんと行った所は兎に角皆かっちりしてて、空気が死んでたからな。あれは美味しくなかった。
それらを色々考えるとリーズナブルなお値段というのも納得である。
ただ・・・まぁ、それでも一回の外食のお値段としてみると安いとは言えず、気軽にまた来ようぜとは口が避けても言えないが。やはり、うち飯さいこー。経済的に。
「この、なんだろ焼き魚━━━」
「ポアレだ、ポアレ。焼き魚いうな。お前の醤油発言でただでさえ日本食感を感じて仕方ないんだ。止めろ。フレンチさせてくれ」
「━━━じゃぁ、このポアレ、皮美味しい。オレの焼き方じゃこうはいかないな。なんだろ、良い塩でも使ってるのか━━━━はっ、オリーブオイルか?オリーブオイルだな。帰りに買っていくか。毎日フレンチしてやるぞ?」
「オリーブオイルにどれだけの可能性を感じてるんだ。お前は。後な、毎日フレンチはキツイ。これまで通りにしてくれ」
話しながら焼き魚を食べ終わると、ウェイターがささっとお皿を下げていく。見事な手際にイイねしたら、ウェイターさんからにこやかな笑みと共に「先ほどのソース、醤油も入ってますよ」と一言を残し颯爽といってしまった。オレなら1ニヨニヨくらいするだろうに・・・・はっ、てか、醤油入ってんじゃん!
「ほら見ろ!醤油入ってる!いぇーい!へいへい、味音痴!どうした、何とか言ってみろぉ!」
「なん、だと・・・フレンチなのにか?」
「フレンチもグローバル化してるという事だ。ふふふ、固定概念に囚われおって・・・ブァカめ。因みにっ、昨日食べたオムライスには隠し味としてカレーパウダーが入ってたりするのだ。気づかなかっただろう?そうだろう、そうだろう━━━━なんで気づかなかった!オレの努力を返せぇ!」
「なっ、そ、それは、本当に気づかなかった・・・いや、美味しかったぞ?いつもより、多分」
「多分ん~~?」
「美味しかった、間違いなく」
なら良かろう。
まったく。
「ふぅーでもあれだな、クリスマス感ないな。なんか」
「・・・まぁ、普通にメシ食ってるだけだしな。まだ」
「まだ・・・・?」
「あ、いや、何でもない。気にするな。あーーそれより、な、あれだ、メインの肉料理はどんなやつだろうな?名前見ただけだと分からなかったからな」
それは分かる。
一瞬脳が見るのを止めたもん。
拒絶したよ。
「なんだろ、羊?」
「牛って書いてあったろ」
「そうだっけ?」
「あれだけ真剣に見てて何を見てたんだ・・・値段か」
「よく分かったな」
高虎がガックリ肩を落としたタイミングでお肉がやってきた。赤ワインがなんちゃらで、ソースがほにゃららで、お肉は香草と一緒にオーブンでじっくりローストした牛肉らしい。ナイフで切ってみれば、ほんのりとした赤みが顔を出す。一度口に含めば凝縮された旨味が舌の上に広がっていった。
「パックに詰めて持って帰りたい・・・」
「それは止めろ。本当に」
「じゃぁ高虎、オレフレンチ料理人になるよ」
「それは・・・多分無理だから止めとけ」
そうして肉料理を堪能した後。
高虎と話しながら待ってるとデザートが運ばれてきた。随分と飾りのついたケーキである。フォンダンショコラとかっていうらしい。甘党な高虎がソワソワしながらそれをフォークで割ると、割れたケーキの隙間からチョコソースがドロッと溢れる。高虎が凄いキラキラした笑顔を見せたのは言うまでもない。普段のクールさは何処に投げ捨てたのか。そうか、チョコソースにか。
デカイ図体してデザートを少しずつ食べ進めてく高虎を眺めながら、オレはもうすぐ渡す筈のそれをテーブルの下で触れた。
ラッピングに以上なし、中身だって確認した。
大丈夫。きっと。
何も問題ない。
可愛いと言って貰えた。
楽しそうにご飯も食べれてる。
だから大丈夫。
きっと、大丈夫。