子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど 作:ミレニアムいたっちー
四月も終わり迎え、ゴールデンウィークも目の前に迫った今日この頃。
夕飯を食べ終えたオレは壁に掛かった時計を眺めた。
時刻は夜の7時45分、ぼちぼちな時間だ。
「マザー、そろそろ帰っても良いんだよ?」
早く帰れと願いを込めて、そっと目の前に座り縫い物をしてるマザーに声を掛けてみた。マザーは手を休める事なくこちらをチラ見すると、また手元に視線を落とす。
はい、帰る気ないのが分かりました。
ゲームはお預け決定でーす。
「・・・・・ゆたか、貴女そんなに暇そうなら手伝いなさい。女の子が縫い物の一つも出来ずにどうしますか」
「古くない?今や女が働く時代だよ?━━ナンセンス!まったくもって、ナンセンスっ!いつまでも悪しき風習に従っててはいけないよ!未来を見ようぜ、マイマザー!!」
「働く能力がないから、せめて縫い物くらい覚えなさいと言っているの。ひねた事言ってないでやりなさい。ビンタしますよ」
ひぃっ・・・!
オレはマザーから差し出されたソーイングセットを素直に受け取った。怖かったからとかじゃない。純粋に身の安全の為にである。しかし今時手縫いとか。
「・・・・で、これ何を作れと?」
貰ったのは児童向けにデフォルメされた乗り物が沢山ちりばめられた可愛い布。何か作ったとして、それを誰が使うのか。ファンシー過ぎる。
「お弁当ポーチを作りなさい」
「お弁当、ポーチ・・・・誰に?」
「翔大くん、覚えてるでしょ。貴女が前にポーチ作ってあげた子よ。幼稚園で使ってる前のやつがそろそろ寿命だから、新しいの作ってあげなさい。暇なんだから」
「ああ、しょーくんか」
翔大くんはマザーの妹の子、つまり従兄弟だ。
実家にいた頃はたまに遊びにきていたので、帰宅部のオレはよく相手をさせられていた。
しかし、前に気紛れであげたボロポーチ、まだ使ってるとは驚きである。
「別に作るのは良いけどさ、普通にマザーのやつあげれば良いじゃん?」
「一回あげたんだけど、貴女のが良いって聞かないみたいなのよ。あんな"ゴミ"みたいな物の何が良いのか・・・・貴女も大概だったけど、子供って本当に分からないわね」
「可愛い娘の作った物、普通ゴミとかいう?酷くない?傷つくんですけど。褒めて伸ばそうとかしない?」
「あら、この程度で傷つく柔な心なんて持ち合わせてたの?驚きね。0点の答案用紙を紙飛行機にして窓から投げ飛ばし証拠隠滅を図った、真性の馬鹿の言葉とは思えないわ。貴女も成長したのね、お母さん嬉しいわ。それとゴミはゴミでしょ。悔しかったらもう少しマシな物作りなさい」
夜だからご近所さんに気を使って怒鳴らないのは心臓に良いけど、これはこれで激しく胸に突き刺さる物がある。辛い。いっそ怒鳴ってくれた方がいい。辛辣過ぎないかな、マイマザー。泣くよ?そろそろ。
あー、はいはい。
やります、やりますよ。
だから、そんな目で見ないでっ。
チクチクヌイヌイする事30分程。
折り返し地点に辿り着いた所でスマホが鳴った。
覗いて見れば高虎からメッセが入ってる。
「高虎くん?なんて?」
「なんでマザーに教えなくちゃなんな━━━」
ずいっ、とマザーが顔を近づけてきた。
凄い笑顔で。
「━━━なんて?」
「・・・・・え、えっと、『遅くなるから先に寝てていい』って。よく分からないんだけど、サークルっていうの?それがアレなアレで遅くなるって」
「サークルの歓迎会か何かでしょう。高虎くん、なんのサークルに入ってるの?」
「いや?知らないけど」
突然スッパーンと頭をひっぱ叩かれた。
痛いし、目がチカチカする。
「なんで旦那さんのサークルぐらい把握してないの?普通聞くでしょ?高虎くんに限ってないとは思うけど、悪い男なら別の女性と逢い引きくらいしてるわよ」
「だ、だって、別に気にならなかったしぃー。オ、お、おー・・・・わたくしには関係ないしぃー」
マザーにめちゃジト目で見られた。
危なかった、やられる所だった。
間違ってマザーの前で、"オレ"なんて言った日にゃぁどうなる事か。まぁ、まず間違いなくゲーム売られるな。
「・・・・はぁ、普通気になるものでしょうに。束縛しろとはまでは言わないけれど、多少は手綱を握るものなのよ。・・・・本当に大丈夫なの、貴女達。あの時は勢いでお婿さんに貰っちゃったけど、なんか心配だわ。特に貴女が」
「んな事言われてもなぁー」
「私はてっきり、貴女がまた馬鹿な相談して、高虎くんがそれに付き合ってるだけだと思ったんですけどね。だって貴女達、結婚するっていうわりには、態度がいつもと変わらないんだもの」
・・・・・おおぅ。
なんだ、マザーは超能力か。
何故に分かった。
「さて、今日の所はもう帰りますからね。高虎くんには宜しく言っておいて頂戴」
「マジか、気をつけてねぇー」
「あれだけ入れるのを渋っておいて、随分と早く見送るのねぇ貴女。何かやましい事でもあるのかしら?」
「なっ、なにもぉお?!」
「・・・・高虎くん、この子の何処が良いのかしら。ポーチは作っておきなさいね。明後日とりに来ますから。それと、たまにはパパに顔見せに来なさい。じゃないと仕送り止めますからね」
たまにって・・・・まだ家出てから一ヶ月ちょいなのに。どんな頻度で顔出せば良いのだろうか?一週間に一回?多くない?
じっと探るように見てたらマザーと目が合った。
「━━━嫌になったら、無理しないでいつでも帰ってきなさい。良いわね、ゆたか」
怒ってない優しい目。
久しぶりに見たそれに、オレは頷いておいた。
「・・・・うん、分かった。・・・・でも、大丈夫だと思うけど。高虎だし」
「ふふ、そうね。高虎くんだものね。それじゃぁね」
マザーの帰りを見送り、オレは縫い物を再開した。それから大体一時間程度の時間を使いお弁当ポーチが出来上がった。オレは出来上がったそれを天井の照明に掲げる。某妖精族出身の勇気の証を持つ少年のように。
でっででででーん。
「・・・・・」
なんてアンバランス。大丈夫だろうか。
まぁ、馬鹿みたいにがっちり縫ったから多分壊れたりしないと思うけども。
まぁ、いいや終わり。
これは終わりー。
それから二時間と少し。
寝惚け眼を擦りながらゲームしてると玄関の開く音が聞こえてきた。迫る敵をマシンガンで蜂の巣にした後、ゲームを一旦ストップして顔を覗かせれば、妙に顔を赤らめた高虎が丁度靴を脱いでいた。
「おかえりー思ったより早かったなー」
「ああ、ただいま。まだ寝てなかったのか」
「ん?なんだこの臭い・・・・ははん、飲んだな?悪いやつだ、未成年の癖に。ひゅーひゅー大学デビュー!張り切ってるぅー!」
「子供か。というか飲んでない。空気に酔ったのは認めるが」
フラフラしながら上着を脱いだ高虎は「風呂は?」と聞いてきた。勿論風呂くらいやってあるのでゴーサインを出しておく。
「泡風呂にしといたぞ!!」
「あーーそうか。この間買ったやつだな。・・・なんでよりにもよって今日だ」
「なんだよ、入れ直すか?」
「いや、勿体ないだろ」
そう言った高虎だったが、いざお風呂へ入ると「予想以上にアワアワだな」と盛大な愚痴を溢してきた。
・・・可哀想だから、今度から一言断ってから入れようか。いや、オレの気分が勝ったら結局入れるけどもさ。
それから程なくして風呂から上がった高虎が「腹減った」などとのたまるので、マザーが用意した夕飯を温め直して出してやる。テーブルに並べて箸を渡せばモクモク食べだした。どうやら飲むのも食うのもまともに出来なかったらしい。
「新人って飲まされたりするもんじゃないのか?」
「ガチガチの法学部の先輩に飲酒を止められてな。一滴も飲まなかった。まぁ、最初から飲む気がなかったから助かったが・・・」
「それならご飯でも食べてれば良かったのに」
「経済学部の先輩に捕まってな。飯食ってる暇がないくらい延々語られた」
「あーーーうん、どんまい」
モクモクしてる高虎をテーブルに頬杖ついて眺めていると、さっきのマザーの姿が頭を過っていった。
だから、ちょっと聞いてみた。
「なぁ、高虎」
「・・・・どうした?」
「オレが実家に帰ったらどうする?」
「?好きに帰れば良いだろ。まぁ、遅くなるようなら連絡しろ、迎えにいく。泊まる時も早めに教えてくれ」
そういう事じゃないんだけど。
なんて言ったら伝わるのか・・・うぅん?
言葉に悩んでると高虎が何かに気づいた顔をした。
「・・・・・ああ、そういう事か」
テーブルを挟んだ反対側から手が伸びてきて頭を撫でた。いつもなら撫で撫でで終わる所なんだけど、今日は妙に撫で撫でしてくる。撫で撫で撫で撫でくらいだ。
髪の毛グシャグシャになるから止めて欲しいなぁー。
「取り敢えず、迎えにいく」
「ん」
「それでお前の話を沢山聞いて、帰ってきてくれるよう沢山頼む」
「ふぅん、ただで?」
そう聞くと高虎が笑った。
「花束でも持っていくか?」
「どうせなら美味しい物持ってこい」
「分かった、そうする」
それから二人でゴールデンウィークの予定の事で話した。のんびり過ごすのかと思ってたけど、どうやら色々考えていたらしい。まぁ、事前に頼まれてたから、予定だけは空いてるから良いんだけども。
「なぁ、ゆたか。もし俺が出てったらどうする」
「放って置く。その内帰ってきそうだし」
「・・・・喜びづらいな、その返しは」