子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど 作:ミレニアムいたっちー
『俺はお前の事好きだぞ』
そんな言葉を聞いたのは高虎と暮らし始めて直ぐだった。夕飯を食べている時、何気ない会話の中で高虎は真顔でそう言ってきた。
『・・・・?なんて?』
『繰り返すが、異性として好きだぞ、と。だから別に気にするな。俺は好きでお前と結婚したからな。それよりお前の方が━━━━━どうした?』
『どどどどどっ、ど、どうしたじゃねぇ!!なんでそれを早く言わねぇーんだぁ!!いやぁ!!犯されるぅぅぅ!!公然と犯されるぅぅぅ!!いやぁぁぁっ、チンコ突っ込まれるのはいやぁぁぁぁ!!』
『止めろ馬鹿。誰が犯すか』
結婚届けも出して法律上夫婦となっていた事もあって、当時はメチャクチャ焦った。元男であるからこそ男の怖さは良く分かっているからだ。男は狼。それは言わずともしれた真理。どんなひ弱な奴でも、女に種付けしたくて仕方ないお猿さんなのだ。目の前に食べていい女体があれば、例えブスであったとしても性的欲求をぶつけてくる物なのだ。
そう思っていた。
だから即行でベッドの下に滑り込んだ。
籠城用にお菓子とジュースを持って。
『・・・・おい、出てこい』
『出てきた所を襲う気だな!!騙されないぞ!!オレ、立て籠らせて頂きます!!』
『それ実家に帰るやつだ。なぁ、騙さないから出てこい。何より手を出すなら、とっくに出してるだろ。頼むから出てこい。顔を見てちゃんと話がしたいんだ』
『約束するか?手を出さないって』
『ああ、約束する』
そうして約束を取り付けベッドの下から這い出たオレは━━━いや、オレ達は改めて話合った。長い時間を掛けてゆっくり。
高虎の気持ちとオレの気持ち。
これからの事も。
話し合いの結果、高虎はオレが許可するまで性的な事はしないと約束してくれた。その代わりに頬やオデコへのちゅーとか、ハグとかは許してしまったが。
まぁ、そもそもこんな事に巻き込んだオレが悪いのだ。助けられてる所が大きいし、対価としてそれくらいはなという感じだ。
それにどちらかと言えばわりを食ってるのは高虎の方だ。オレが頷かない限り、童貞で一生を終える可能性があるのだから。高虎の良心を信じるのであればだが・・・。
そんなオレは今、高虎の運転するレンタカー殿でお出掛け中で、絶賛渋滞に巻き込まれ中だ。俗にいうドライブデートという奴だ。動かないけど。
本当は泊まり掛けのプチ旅行を考えていたらしいが、宿がとれなくて断念したとかなんとか。オレとしては貞操の危機があるので日帰りで全然良いのだけども。
さっきから動かない車の列を眺めるのを止めて、手元のスマホを見た。起動させてる地図アプリには、目的地まで後1時間と表示されている。15分前も後1時間だった気がするけど、気のせいという事にしておこうか。
「映画でも借りておけば良かったな」
ポツリ、高虎が呟いた。
顔を見ればいつもと変わらない仏頂面だったけど、オレには分かる。少しだけ不機嫌そう。渋滞の事もあるだろうけど、多分宿とれなかったのも気にしてるんだろう。
「イライラすんなよ。その内抜けられるだろ?」
「まぁな。というか、お前に諌められるとは思わなかった」
「どういう意味だ、おい」
まぁあ、どちらかと言えばオレのが堪え性ないけどな。それくらいは分かる。でもだからといって、いつもそうだと思われるのは心外というものだ。まったく。
「てーか、いいな。車運転出来るの。オレもお前と一緒に車の免許とっとけば良かったなぁ~。夏の合宿だっけ?先生呆れてたよなぁ、追い込みの時期にーって。でもお前ずっと言ったもんな、18になったら即行免許証とるって」
「ああ、そうだな。車は、まぁ、ずっと憧れてたからな・・・ただ思い返すと、俺にはあの時期しかなかったんだとは思うが」
そういうと高虎は何処か遠くを見てるような目をした。運転中だというのにだ。まったく、危ない奴だ。
頬っぺたをつついてやれば、こっちをチラ見して目を細めた。
「余裕がありそうならお前の事も誘ったんだが・・・去年の夏は大変そうだったからな、お前。夏期の勉強合宿に補習、塾と家庭教師も雇ってたんだっけか?夏祭りに来たときゲッソリしてたもんな」
「地獄だった・・・・あれは地獄だった・・・・しかも報われない地獄だった」
憎しみと悲しみを込めてそういうと、隣で運転していた高虎が鼻で笑ってきた。
「それは馬鹿なお前が悪い」
うむ、成る程。
分かった。
よかろう、戦争だ!!この野郎ぉぉ!!
しりとりや古今東西で鎬を削り、ちょうどオレが記念すべき十敗目をきっした頃。渋滞から抜けた車はその速度をあげて走っていた。
ビュンビュン変わっていく風景。
電車とはまた違った風情があるな。
嫌いではない。
「よし、なぞなぞしよう」
「何がよしか分からないが、良いぞ。俺が出すか?」
「いや、オレが出す!さっきの借は必ず返すからな!!100人中100人が答えられないような難問を出してやる!!」
「そんなにか。なら、答えられたら何か賞品をくれないか?」
「賞品・・・・」
そんな事言われても手持ちのバッグには大した物は入ってない。ハンカチとか化粧品とか財布とか・・・・うむむ。
「紙ナプキンを授けてしんぜよう」
「他の物にしてくれ」
紙ナプキンは駄目だった。
「百円」
「生々しくなるから止めろ」
現金も駄目だった。
バッグの中身を確認しながら悩んでると「物じゃなくても良いぞ」と高虎が言ってきた。
物じゃなくても良い?成る程。
「正解した時は手放しで褒めてやろう。一年ぶりに会う愛犬くらいによーしよしよししてやる。どうだ」
「・・・・ちょっと悪くないなと、そう思ったのは認める。でも出来れば別の方が良いな」
「別のー?」
高虎は自分の額を指でトントンする。
意味が分からず首を傾げれば笑われた。
「俺がいつもしてるやつ、してくれないか?」
「あぁ、ちゅーしろってか。そんな事で良いのか。別に良いぞ。それくら━━━━━ちょっと待て」
「待たない。了承したの聞いたぞ。問題出してくれ」
こ、この野郎ぅぅぅ!!
なんたる策士!こいつもしかして天才か!?
日頃当たり前のようにされるから、なんだそんな事と一瞬思ってしまった!こいつここまで読んでいたのか!?諸葛孔明の生まれ変わりか!?
それりゃ、あれだけ毎日ちゅっちゅされてれば慣れたよ!慣れたもんさ!もうウェットティッシュで拭かないさ!放置するくらいさ!
でもそれはあくまでされる事に慣れただけで、するのはまた別だ!次元が違うんだよ!どれくらい違うかと言えば、ワニワニパッ●ンのワニをピコピコするのと、サバンナのクロコダイルにショットガンぶちこむくらい違う!!もう、もうっ、うきゅぅぅぅぅ!!
エンジン音とクーラー音が聞こえる車の中で、オレは考えた。今持ち得るなぞなぞの中で、最新にして最強のなぞなぞをだ。そこに優しさはない。無慈悲にして無感情。勝つ、それだけ。
「スマホ様!お知恵をおかし下さいませ!」
「まぁ、そうなるだろうとは思った」
ちょっとポチポチして最強の力を得たオレは高虎へと振り返り人差し指を突きつける。
「━━━ででん!問題です!!」
「ああ、こい」
「10を二つ足すととても早く動く事が出来て、10を二つ引くと全然動かなくなるもの、これなーんだ」
「『車』合ってるか?」
「・・・・・・」
こ、この野郎・・・・オレの渾身のなぞなぞを。
「正解だけどぉ・・・・」
「ネットで調べたやつ出せば良かったろ」
「だって、それは反則だろ・・・・くぅ」
「お前のそういう所、可愛いと思うぞ。後な、それ前に聞いたやつだ」
「なんだとぉ!?ならチャラだ!!オレはのーかんを要求する!裁判長!!」
「ははっ、俺が裁判長で良いのか?棄却するぞ、普通に」
なにおうぅ!?
駄目だ!棄却するを棄却する!のーかん要求だ!!
あっ、なに笑ってんだ!!こっちの気も知らないでぇ!
「おおーーー!これは綺麗だな!」
「本当だな。写真とは大分違う気がする」
そんなこんなでちゅーを回避したオレは目的地である湖のある公園に辿り着いた。ゴールデンウィークという事もあって人で賑わってるかと思ったけど、公園内はそこまででもなかった。道路は馬鹿混みだったが。
天気予報では少し曇るかも知れないと言っていたけど、そこにあるのはカラッと晴れた良い天気。
なので予定通り来る途中で買ったお弁当を持って湖の周りを散策中である。
あまりこういう事はしたことなかったが面白いもんだ。
遠くに見える水面が光を反射してすごいキラキラ。
超りあるでヤバかった。これは見る価値あるなぁ。
「正直家でゲームしてる方が良かったと思ってたけど、これは来て良かった。やっぱりたまにはリアルだな」
「まぁ、あれはあれで見てて面白いけどな」
高虎は見た目のゴツさにも関わらず意外とインドア系だ。とは言ってもゲームとかはあまりしないし、アニメとかも見ない。小説を読んだり映画を見たりが大半だ。この間も糞難しそうな小説を読んでた。
それにしてもオレがゲームやってると覗いて来る時はあるけど・・・面白いと思ってたのか。
「見てるだけ派の気持ちは正直分からん。面白いか?やってなんぼだろ」
「面白いぞ。敵が出てくる度に体をビクビクさせる様とか、カーブ曲がる時に体が傾いてく姿とか━━━テレビの前でワチャワチャしてるお前見るのは」
「おう、お前がオレの事、馬鹿にしてる事だけは分かった」
「馬鹿にはしてない。可愛げだと思うぞ」
こいつぅ・・・・こーいう事は言えば許されると思ってんじゃなかろうな。いや、元からこんなか。寧ろフォローしようとするだけマシか?前はさらっとディスって終わりだったもんな。
あの日以来、高虎は少しだけ変わった気がする。
それは大きな変化じゃないけれど、ふとした時に気づくのだ。ああ、変わったなぁって。
具体的にどう変わったとかは言いづらい。
しいて言うならそれまでは男友達として接してくれてのが、女友達として接するようになったとかそんな感じ。嫌かと聞かれればそんな事もないけど、やっぱり違和感はある。
でも、直して欲しいとまでは思わない。
だって前の高虎より、ずっと楽しそうに笑うから。
「━━━ゆたか、団子食うか?」
ふいに高虎がこちらを見た。
最近よく見るようになった笑顔と一緒に。
「ん?団子?いきなりどうした。湖より団子か?なんて風情のない奴だ。オレはガッカリだよ!こんな綺麗な湖を前に、もっとあるだろうが。こう、なんだ、うわぁ、綺麗なお水!美味しそうなお魚さんいそう!とか」
「風情のふの字もなさそうな奴に言われてもな。というか、どう行き着いたらそうなる。腹減ってんのか?・・・いやな、さっき看板見かけてな。少し行った所に茶屋があるみたいなんだ。甘い物嫌いじゃないだろ?」
甘い物は好きだ。
どれぐらい好きかと言われれば・・・どれくらいだろうか?うむ?分からん。取り敢えず好きだ。
しかしそれよりも聞き捨てならん事があった。
「はっ、茶屋?茶屋っていったか?」
「茶屋っていったな。どんな場所か分からないが」
「茶屋だぁぁーーーーーああ?!━━━━行くに決まってるだろうが!!抹茶出るかなぁ?こう、カカカって泡立て機みたいなの掻き回してさぁ!」
「欲望に忠実だな、お前は。抹茶好きだったか?」
「そんなに!ほら、行くぞ」
「ああ」
高虎の手を引いて歩く事少し、目的の茶屋が見えた。
思ってたより現代的な建物だったし、思ってたより混んでたけど、団子とジェラートが美味しかったので許した。買っといたお弁当も美味しかったし。
ドライブデートも終わったその夜。
風呂から上がるとソファーでぐったりしてる高虎を見つけた。よっぽど疲れたのか揺すっても起きる気配がない。行きもそうだったけど、帰りの渋滞が相当効いたようだ。恐らくそれが止めだろう。
仕方がないので毛布を掛けてやった。
風邪を引かれても困る。看病なんて面倒臭い事はしたくないのだ。
「・・・・今日はお疲れ様。ありがとな、そこそこ楽しかった」
元男にも二言はない。
約束通り高虎のオデコにちゅーしてやって、オレは部屋に帰った。慣れない事はやるものではないなと、暫くベッドの中でもモゾモゾしていたのは内緒にしようと思う。