子宝さんの、おもうてたんと違うんだけど 作:ミレニアムいたっちー
見上げてごらん、星の・・・おいおい、雪降っとるやないかぃ。まじか。
クーラー全開解禁令が高虎より発せられた7月。
マザーから頼まれた七夕飾りをぼんやり作りながら、オレはテーブルに置いたスマホに向かってある事を相談していた。
『誕生日のお祝いねぇ・・・・うーん』
電話越しに聞こえる声の主、天音は何ともいえない声色で唸り声をあげる。
「そう、誕生日のお祝い。どーしたら良いと思う?」
『いやさ、まぁ、仲良くやってるのは良いと思うわけよ。うん。でもなぁ、そういう事ワタシに聞かれても・・・・知らんとしか言えないんだよなぁ』
「そこはほら、男目線で」
『ワタシが何言っても傷つかないと思ったら、大間違いだからね。あんた。━━━はぁ、にしても、一体どういう風の吹き回しよ。ゆたかが、お祝いとか。今まで碌にやってないでしょ?』
言われるまでもなく柄じゃない。
それはオレもわかってるんだが・・・・。
「ちょっと前にさ、高虎がお呼ばれして、サークルの先輩のお誕生日会に行ったんだよね」
『サークルの?』
「そう、サークルの。先輩の彼女企画でやったやつなんだけど・・・・まぁ、それで、なんか、羨ましかったみたいで・・・・」
『・・・・藤崎って、そういうやつだったのか』
「わりと。あいつ言わないだけだからな」
案外そういう奴なんだよなぁ。
昔からあいつはあんまり欲を見せない。でも見せないからといって欲がない訳でもない。基本的に我慢するタイプのやつなのだ。
小学生の頃とか特にそうだった。
遊びたい遊具とかあっても人がいたら絶対寄り付かないし、余った給食のデザート争奪戦も例えそれが好物であっても遠くから見てるだけ。プレゼント系なんてあいつの両親に頼まれて、よく聞き出しにいったもんだ。
中学に入ってからは少し言うようになっていったけど。
お茶に関しては五月蝿いくらいだしなぁ。
「最近期待するような目でチラチラ見てくるんだよね。この間なんてカレンダー見ながら7月ってなんかあったっけ?とか言い始めてさ。あれが鬱陶しくて。なにあれ、すげー面倒臭い。普通に言えば良くないか?」
『あははは、それは面倒臭いわ。あいつアプローチ下手くそだなぁ。あっでも、アプローチするだけマシにはなったかぁ?・・・まぁまぁ、でもさ、面倒臭い所は一旦置いておいて考えてもみなよ。藤崎の味方する訳じゃないけどさ、カレカノにそういうの期待するのってわりと普通じゃない?結婚相手なら余計にでしょ』
まぁ、そうなんだよなぁ。
気持ちは分からなくはないんだ。
だから何かしてやろうとは思うし。
「でもさぁ・・・だったらさ、一言くらいさぁ、なんかさぁ」
『いや、無理だって。誕生日祝って、なんて罰ゲームでもなければ言えないでしょ』
「オレは言うけど・・・なんか文句あるぅ?」
『ゆたかは、そうね、言うわ。ズケズケと』
楽しく生きたいなら行動あるのみ。結果が伴わなくても、取り敢えず行かねば。
それが今のオレの心の座右の銘だからな。
それからも色々と話したけど、人の誕生日碌に祝わないコンビに良い案は浮かばず、時間だけが過ぎていった。
そして結局、なんの成果もなく天音撤退のお時間。電話切り際に『良い案が浮かんだら連絡するわ』とは言ってたけど、期待は出来そうにない。天音だし。
さて、どうしたものかぁ。
「サプライズマシーン弓子なら、幾らでも思い付きそうだけど・・・」
あいつには相談出来ない。
可愛くて頼りになる奴だけど、高虎が絡むと途端にチンピラになるからな。どチンピラさんになるからな。
「・・・うーむ。うーーーむ。うーーーーーむぅ」
一緒懸命悩んでるとスマホが鳴った。
誰からだろうかと画面を覗けば『ジョディー』の文字が映ってる。なので通話ボタンに軽くタッチした。
「もーしもーし、ジョディーさん?」
『 Hi! ユタカ! ゴサブタシテマース。ジョディーデース!』
兄貴来襲から1ヶ月とちょい。
付き添いで来てるジョディーさんは日々の生活の中で学び、段々日本語喋れるようになってきてた。まだおかしい所は多いけど余裕で会話出来るレベルだ。
最近アニメも字幕無しで見てるらしい。
「兄貴来るんですか?」
『No,違イマース。ボスハ仕事シテマス。明後日ニ起コリマス Japanese festival、ナナタバノ、ジョディーカラノオ誘イデス。Let’s go to ナナタバ!』
「ナナタバ?・・・あぁ、七夕か」
『yes,ソウトモイウー』
てっきり兄貴関連かと思って身構えてしまった。
やれやれだぜぇ。
それにしても七夕か。どっかでイベントでもやるんだろうか?
「あー、でもごめんなさい。オレその日用事があっていけないんですよ」
『………re…really!? Ah………用事、早ク終ル、ナイ?time 少シダケ』
「親戚の子が通ってる幼稚園の七夕祭に出なきゃ行けないんで・・・・夜も多分どっかでご飯食べる事になると思うし・・・難しいですね。えっと、分かる?オーケー?」
『分カルマス。ユタカ無理。understood………Oh my God』
凄いしょんぼりした声が聞こえてくる。
何だかいたたまれない。
行ってあげたいけど、今更あっちをキャンセルは出来ないからな。でもなぁ、このまま放置もなぁ。前にジョディーさん結構忙しくてゲームあんまり出来ないって言ってたから、きっと明後日も無理して休みとったんだろうし・・・・うーん。
はっ、そうだ。
「ジョディーさん、幼稚園の七夕祭来る?」
『what?』
◇
7月7日。
笹飾って短冊を掛けるそんな日。
笹飾りで入り口からワサワサしてる、従弟の翔大くんが通う幼稚園にやってきた。
門の前まで行くと「ゆたかちゃーん」と聞き覚えのある声が聞こえて、そっちに振り返ればマザーとよく似た黒髪黒目の叔母さんの姿があった。
「今日はごめんねー、でっ、ありがとう!助かるよぉ、うちの子がどうしてもって聞かなくてさぁー。あ、あと飾り一杯作ってくれてありがとね、お姉ちゃんから貰ったわ」
「いえいえ、叔母さんにはお年玉いっぱい貰ってますし」
「あはは、そりゃ惜しまず貢いでおいて良かったわー。・・・・で、後ろの人は?」
叔母さんの指差した方へと振り向けば、身長180センチオーバーのデカイ二人がいた。一人は言わずと知れたうちの旦那様。叔母さんが指差したのはもう一人の方だ。
赤毛の髪揺らすナイスバデー、Tシャツの上にジャケットを羽織った本場のジーニストガール。
兄貴の付き人ジョディーさんである。
「ご無沙汰してます、高虎です。ご挨拶遅れて申し訳ございません。この度、ゆたかさんと結婚させて頂きました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「初メテマシテ。ユタカノー、友達ノー、ジョディー言イマス。今後トモ御贔屓ニオ願イシマス!」
ビシッと高虎が腰を九十度に曲げるお辞儀をし、親指を立てたジョディーさんはウィンクする。
そんな両極端な二人の挨拶を聞いた叔母さんは口を真一文字にした。それから少しプルプルした後、盛大に吹き出す。
「あはははは!!どんな人がくるかと思えば・・・ゆたかちゃんは相変わらず面白いわー。もう、何処で見つけてくるの?こういう人。はー、おかしい」
「毎回変な人連れてくるみたいなの、止めて下さいよ」
「だって前に紹介してくれた子も面白かったし。ほら、頭の横からぴよんぴよんしてる」
「弓子は・・・まぁ・・・・そうですけど」
「ねぇーそうでしょ?」
クスクス笑いながら叔母さんは高虎の肩を叩いた。
かなりの強さだったらしく高虎が揺れる。
「おっす、高虎くん。こうして会うのはお正月以来だったっけ?固い固い、息が詰まる。もっと気楽にしな。これで晴れてお親戚な訳だしねぇー」
「は、はい」
「仲良くやんのよ。じゃないと・・・言わなくても分かってるでしょ?ん?」
「━━━っ!?はいっ!!」
高虎の背中が面白いくらいピンとした。
良いように叔母さんに玩ばれる高虎が、不覚にもちょっと可愛く見えてしまう。なにあれ。
「で、こっちがジョディーさんだっけ?」
「yes!! ジョディーデス!日本大好キデス。ナノデー、ナナタバヲ study 来マシタ。今日ハ、ドゾ御贔屓ニ」
「オーケーオーケー!面白いからオーケー!じゃんじゃんスタディーしてきな!私が許可する!inオーケー!」
「Oh! Thank you very much ………オーバ=サン!」
「おーおー、イエスイエス。おーイエス。あはははは!」
英語混じりの言葉に叔母さんは当然のように受け答えしてる。「日本人なら日本語知ってりゃ良いんだ」を子供に言い切った人なので、英語なんて全然出来ないと思ってただけに驚きだ。
「すげぇな、高虎」
「あの人のどこら辺見て思ったんだ?そこによって色々と変わるが・・・・」
「英語ペラっペラだぞ」
「ある意味安心した」
「?」
叔母さんに案内され園内に入るとお子様と保護者でごった返していた。凄いザワザワしてる。人混みを掻き分けながら進んでいくと、叔母さんの旦那さんと叔母さん譲りのサラッサラの黒髪とクリクリ黒目の翔大くんを発見。手を振ると翔大くんがダッシュしてきた。
「ゆーねぇー!」
「ふぬっ!」
弾丸のようたタックルを受け止めれば、キラキラした目がこっちを見上げた。
「ゆーねーほんとにきてくれた!!」
「約束したからね。しょーくんまた重くなったねぇ」
「うん!ごはん、いっぱいたべてるの!はやくおっきくなるように!ゆーねーぬかすから、まっててね!」
「そっかそっか。でもわたしが目標は止めとこうなぁ、男でわたしサイズはちっさ過ぎるから。どうせならこっちの高虎を目指そうな」
頭を撫で撫でしてあげると翔大くんは目を細めてくすぐったそうにする。少しの間気持ち良さそうにしてたけど、はっとしたような顔をしてオレの隣を見た。
「よーかいでかぼっち!!でたな!!」
「妖怪だったのか、俺」
シュバっとオレから離れた翔大くん。
腰の入った蹴りを高虎に喰らわし、オレと高虎の間に割り込むように入ってくる。
フーフーと威嚇する翔大くんの頭を撫でながら、オレは拒絶された悲しきデカブツを見た。
「・・・・妖怪でかぼっち、大丈夫か?」
「誰が妖怪でかぼっちだ。・・・・翔大くんといい、服部といい、なんでこうも小さい奴に嫌われるんだ」
「オレ・・・・わたしは嫌いじゃないぞ?」
「・・・・おう」
オレの言葉に頬を赤くした高虎は、気まずそうにそっぽを向いて頬を掻いた。
その反応が思ってたのと違い過ぎて、なんか、こっちが照れてしまう。やめい。
「しねっ!よーかいでかぼっち!!」
「っ!!そこは駄目だ、翔大くんっ」
「翔大!こらぁ!!同じ男として、そこは駄目だ!!」
翔大くんのメガトンパンチが急所に決まり一区切りついた所で、叔母さんの旦那に挨拶し、七夕祭の為の準備を始めた。
━━━と言っても別に大したこと事はしない。他の親子と雑ざって係り先生から貰った短冊に願い事を書いて、空きのある笹にテキトーにつけるだけだ。
後はちびっこが合唱して・・・・なんか色々やる感じだ。
「ゆーねぇはなんてかいたの?」
貰った短冊をヒラヒラ遊ばせてると翔大くんが覗いてきた。白紙の短冊を見せれば「えーー」と残念そうな声をあげる。
「願い事なんにしようか?しょーくんはどうしたん?」
「んーーないしょ!えへへへ!つけてくるー!」
「走ると転ぶよー」
注意すると翔大くんは走りたい気持ちを押さえて歩いていった。ただ気持ちは走りたいのか、大股の変な歩き方だけど。
「高虎はなんて書くの?」
「こういうのは言わない方がご利益があるもんだろ」
「そこを何とか、お代官様」
「誰がお代官様だ。駄目だ・・・・お前の教えてくれるなら、考えない事もないぞ」
オレのか・・・・うーん。
「特にないなぁ・・・・」
「欲がないな」
「欲がないと言うか・・・・今やりたい事、大体出来てるし」
弁当作ったり家事するのは面倒臭いけど、それを除けば基本的に家でゴロゴロしてゲームしてるだけだからな。アニメも幾らでも見れるし。パソコンもあるし。
「恵まれてるっていうの?満ち足りてるっていうの?今、オレ無敵だからさ」
「縛った俺が言うのも何だが、それはどうなんだ」
「縛った?何を?」
謎ワードに首を傾げたら高虎が眉をハの字に下げた。
「人生というか・・・・」
「もしかして結婚した事言ってるか?」
「まぁ・・・・」
何言ってんだこいつ?
「お前が結婚してくれなかったら、オレ今頃知らんやつと結婚してたかも知れないんだぞ。マザーもパピーもあん時はマジだったからな」
「・・・確かにな」
「感謝してるんだぞ?お前が結婚してくれて。知らないやつと一緒に暮らすのとか、普通に無理だったと思うし。無理して結婚しても、長続きしなかったと思うから。・・・・悪くないぞ、今。だから、そんな言い方すんな」
オレが言い終わると同時。
くしゃっという音が聞こえた。
見れば高虎の短冊が丸まっている。
「何してん?」
「書き直す。神頼みするような事じゃなかったんでな」
「ふぅん?で、何にすんの?」
高虎は予備の短冊にささっと文字を書き込んだ。
恐らく日本で使いに使い古るされた『家内安全』というその四文字を。
「つまんな」
「・・・良いんだよ、これで。今から吊るしてくるが、ゆたかはまだか?」
「んー?じゃぁ・・・・」
特に思い付かなかったので『良いことありますように』とアバウトに書いておいた。この欲のない感じ、イイね。謙虚さに引かれた神様が、きっと何かしてくれるだろう。
「一周回ってイヤらしいぞ」
「だまらっしゃい、一番上に付けるぞ。肩車用意!」
「叶える気満々か」
短冊を付けにいくと、翔大くんを肩車したジョディーさんを見つけた。同じ事を考えてやがる。
熾烈な一番上を求める戦いの果て、何とか勝利したオレと高虎の短冊は一番高いそこに提げられた。
まぁ、その後、幼稚園の先生が梯子持ってきて、もっと高い位置に短冊がついてしまったのだが。
勿論やり直そうとしたけど、大人げ無さすぎると高虎に止められてしまった。くそぅ。