ダンガンロンパ~Excute~ 希望と絶望のラビリンス   作:MOGIぴー

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(非)日常編 Ⅴ

 食堂での食事はとても気が重かった。

 食堂内に響くのはフォークやスプーンと皿が触れ合う音だけだった。衝突音が耳に入る度、俺はとても緊張した。

 サラダを口に運びながら、他のみんなの様子を窺った。

 どの顔も険しかった。恐怖に怯えている顔もあれば、明らかに怒っている顔もある。

 まあ、あんなビデオを見た後では、こうなるのも仕方がないものだと思う。俺だって、今とても憤ろしい。自分の中で何かが煮えたぎってグツグツ言っている。

 ん?

 待てよ?

 あの人はどうやって—―――。

「あのー」

 全員が声の方向へ顔を向けた。

 声をあげたのは桜谷さんだった。

「すごく訊きづらいんだけど…、あのビデオの内容って、どんなんでした…か…?」

 勇者だ、と俺はすぐ思った。この空気の中、この話を切り出すのは勇気のいる行為である。

「桜谷さん。気になる気持ちは分かるけど……。今はその時じゃないわ。あんなものを見せられて、落ち着いていられる人なんていない。私だってそう、桜谷さんだってそうでしょう?」

 開木さんがすらすらと言う。

 自分の中での開木さんのイメージが変わった気がする。

 彼女もずっと冷静っていうわけじゃない。彼女もあのビデオを見てショックを受けたんだ。

 開木さんの言葉を受け取って、桜谷さんは静かに頷いて、再び手元に目を落とした。

 桜谷さんの横顔もどこか虚しげであった。

 ――――――この横顔―――――。

 まただ。

 またこの懐かしい雰囲気。桜谷さんを見るとなぜかこんな雰囲気に襲われる。一体何だっていうんだ…。

 何かは分からない。しかし――――――――。桜谷さんになら、何でも話せる気がする。

 俺はそう思った。

 

「あっはっは、み~んな随分と憔悴しきってるなぁ」

 監視カメラを通した映像を見ながら、モノクマは笑い声のように言った。

「夕ご飯が終わっても、みんな誰も話さないんだもん。これは期待できそうだねぇ~。ハラハラのドキドキだよぉ」

 監視カメラには何人もの生徒たちの様子が映し出されている。

 そしてくるりと向きを変えて言った。

「生徒の監視、頼むからねぇ? これは君の手もかかってくるからね。もししくじっちゃったら、こっちが何されるかわかんないからな~。丸焼きにされたらもうだ~いご~うきゅ~」

「承知してるよ」

 モノクマの目の前にいる人物は、平然としている。

「ワックワクでドッキドキなコロシアイ、楽しみにしてるよ~」

 

 ~~自室~~

 

 俺はベッドに寝転がった。

 天井にはいくつかシミがついている。そのシミはまるで人の顔のようで薄気味が悪い。それにしてもさっきのビデオ、何かが足りない気がした。なんなのだろう。それに、どうやってあのビデオを撮影したのだろうか。そして今家族は…、俺の家族は…。

 頬に何か冷たいものが流れていく感触があった。

 許せない…。誰がこんなことを仕組んだんだ…。

 あぁ、もう。

 涙が止まらねえ。

 滅多に泣かない俺を泣かすなんて…。本当に………。

 コンコン

 扉のノックで俺は我に返った。

「どなたですか?」

 咄嗟に敬語が出てしまった。おまけに声は震えている。

「さ、桜谷です…」

 はっとした。

 頬の涙をぬぐった。こんなところを見られるわけにはいかない。

 俺はドアを開けた。

「あの、ちょっといいかな」

「え? あぁ、うん」

 桜谷さんは部屋に音をたてないように入ってきた。カチャという音がした。

「なんで鍵閉めたんだ」

と言おうとした瞬間だった。

 桜谷さんが突然何か細いものを取り出した。そして、その細長いものを持ったまま襲い掛かってきた。

「うわ!?」

 何が何だかわからなかった。

 

「ごめん! 両角君!」

 

 再び突進してきた。

 そして俺の目めがけて…。

 ぎりぎりでかわした。

 相当力を入れていたのか、細長いものは壁に突き刺さった。部屋が暗闇だったからわからなかったが、よく見るとその細長いものはどうやらアイスピックのようだった。

 桜谷さんはアイスピックを抜こうと踏ん張っている。

 俺は間隙を縫って、刺さったアイスピックを抜き取った。

 そして、桜谷さんはその場に力なく座り込んだ。

「ごめん! 本当にごめんね!」

 彼女は泣きだした。

 桜谷さんは今、俺を殺そうとした。

「本当に……」

 泣いているせいで、声は掠れている。

「どうしたんだよ、桜谷さん…。なんで俺を殺そうと…」

「……」

 桜谷さんは手で顔を覆って、泣いているだけだった。

 そして数秒経って、桜谷さんの口が動いた。

「友達が……先生が……」

 すぐに悟った。

 この原因があのビデオだということが。

「桜谷さん……。大丈夫だよ……。絶対にみんな無事だよ…」

 俺にはこの程度の言葉しか掛けられない。不器用な言葉しか。

「希望を持たないとダメです」

 桜谷さんに言いながら、自分にも言い聞かせた。

 そう。

 きっと大丈夫だと。

「……ありがとう」

 彼女はただ一言答えた。

「ごめんね、迷惑かけちゃって」

「いいよ。なんか困ったことがあったら、俺に言ってくれな? 相談乗るからさ」

 自分ながら、良いセリフだと思った。

「ありがとう。少し落ち着いてきた」

 

 それから少しして桜谷さんは笑顔で部屋を後にした。

 笑顔と言っても、明らかに作り笑いであった。でも、自分の言葉が少しでも自信に、希望になったのなら少しは桜谷さんを救えたのかな、と俺は強く感じた。

 なんだか分からないけど、恐怖と驚きと憎しみの中に謎の満足感を得た。「いいことをした」という気分だ。

 そんな満足感に浸ったまま、俺はやがて夢の中へと落ちていった。

 

 

 

 目が覚めた俺は顔を洗って、朝食を食べるために食堂に向かった。

 すると食堂の扉の前に2人の人間がいた。

 蜂と仲良し二階堂君と、占星術専門の巫君だった。

「どうしたの?」

「あぁ、それがなぁ、食堂の扉が閉まってるんだ」

 巫君が扉を拳で2回叩きながら言った。

「それで向こうの扉にも行こうと思ったんだが、通路にシャッターがあって塞がれてたんだ。シャッターの開閉ボタンはズタズタに破壊されていたよ」

と二階堂君は指先に蜂をとまらせた。

「鍵が閉まってるの?」

「そうみたいだよ。んーどうにか占星術を使って開けれないかなぁ」

 それはさすがに無理だよ…。

「あ、この鍵開けるか壊すかなんかできないかな」

「おいおい本気か、両角」

「でも、食事ができなんじゃあまずいじゃん」

「それもそうだな。あ、これでいけるんじゃねぇか?」

 そう言って巫君がカバンから取り出したのは、針金だった。

「なんでそんなもんがあんの…」

 二階堂君が驚きながら言う。

「占星術の必需品だよ」

 占星術ってそんなん使うんだ…。

 そして巫君は針金を鍵穴に差し込んで、器用に動かし始めた。

 たった1分足らずで、

「はい、終わった」

「え? もう?」

 思わず声に出た。

「もしかしてお前……。泥棒とかしてないよな……」

 目を丸くしている二階堂君。

「してないよ。よぉしこれで飯にありつけるぞ」

「もっと早くからこうしとけば良かったのに」

 俺は二階堂君に向かって小声で言った。

「いやぁ、針金持ってるなら早く言ってくれよ」

 少々呆れ気味だ。まあそれもそうか。

 そして、食堂の扉を開けた……。

「あ、あれは―――」

 

 長いテーブルの真ん中。

 

 突っ伏している人物がいた。

 

「寝てんのか?」

 二階堂君はゆっくりとその人物に近づいて行った。俺も後に続いた。

 突っ伏している人物のすぐ傍には、「睡眠薬」と書かれたラベルがついた小瓶が置いてあった。そして突っ伏している下にも何か白い紙が見える。

「おい、起きろー」

 二階堂君が肩をゆすった。

 はぁ、とため息をついて手を離した途端だった。

 その人物の体はゆっくりと横に崩れた。そして体全体が床に倒れた。

「おい、まさか――――」

 隠れていた紙には鉛筆でこう書かれていた。

「もうこんな生活嫌です。私はもう死にます」

 

 床に倒れこんだ、天宿さんの顔は安らかだった…。

 

 冷たい。そして安らかな顔も、どこか悲しげな、寂しげな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人の呼吸は止まっていた。

 とうとう犠牲者が出てしまった―――。

「どうしたんだ?」

と後ろから声がした。入江君だ。

「こ、これは―――――!?」

 

『死体が発見されました―――。至急、体育館にお集まりください』

 

モノクマの声が食堂にこだました―――。




飽き性MOGIぴーです。
とうとう死者が出てしまいました。見た感じは自殺…?
さてさてどうなるのか、次回もよろしくお願いします。
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