ダンガンロンパ~Excute~ 希望と絶望のラビリンス 作:MOGIぴー
食堂での食事はとても気が重かった。
食堂内に響くのはフォークやスプーンと皿が触れ合う音だけだった。衝突音が耳に入る度、俺はとても緊張した。
サラダを口に運びながら、他のみんなの様子を窺った。
どの顔も険しかった。恐怖に怯えている顔もあれば、明らかに怒っている顔もある。
まあ、あんなビデオを見た後では、こうなるのも仕方がないものだと思う。俺だって、今とても憤ろしい。自分の中で何かが煮えたぎってグツグツ言っている。
ん?
待てよ?
あの人はどうやって—―――。
「あのー」
全員が声の方向へ顔を向けた。
声をあげたのは桜谷さんだった。
「すごく訊きづらいんだけど…、あのビデオの内容って、どんなんでした…か…?」
勇者だ、と俺はすぐ思った。この空気の中、この話を切り出すのは勇気のいる行為である。
「桜谷さん。気になる気持ちは分かるけど……。今はその時じゃないわ。あんなものを見せられて、落ち着いていられる人なんていない。私だってそう、桜谷さんだってそうでしょう?」
開木さんがすらすらと言う。
自分の中での開木さんのイメージが変わった気がする。
彼女もずっと冷静っていうわけじゃない。彼女もあのビデオを見てショックを受けたんだ。
開木さんの言葉を受け取って、桜谷さんは静かに頷いて、再び手元に目を落とした。
桜谷さんの横顔もどこか虚しげであった。
――――――この横顔―――――。
まただ。
またこの懐かしい雰囲気。桜谷さんを見るとなぜかこんな雰囲気に襲われる。一体何だっていうんだ…。
何かは分からない。しかし――――――――。桜谷さんになら、何でも話せる気がする。
俺はそう思った。
「あっはっは、み~んな随分と憔悴しきってるなぁ」
監視カメラを通した映像を見ながら、モノクマは笑い声のように言った。
「夕ご飯が終わっても、みんな誰も話さないんだもん。これは期待できそうだねぇ~。ハラハラのドキドキだよぉ」
監視カメラには何人もの生徒たちの様子が映し出されている。
そしてくるりと向きを変えて言った。
「生徒の監視、頼むからねぇ? これは君の手もかかってくるからね。もししくじっちゃったら、こっちが何されるかわかんないからな~。丸焼きにされたらもうだ~いご~うきゅ~」
「承知してるよ」
モノクマの目の前にいる人物は、平然としている。
「ワックワクでドッキドキなコロシアイ、楽しみにしてるよ~」
~~自室~~
俺はベッドに寝転がった。
天井にはいくつかシミがついている。そのシミはまるで人の顔のようで薄気味が悪い。それにしてもさっきのビデオ、何かが足りない気がした。なんなのだろう。それに、どうやってあのビデオを撮影したのだろうか。そして今家族は…、俺の家族は…。
頬に何か冷たいものが流れていく感触があった。
許せない…。誰がこんなことを仕組んだんだ…。
あぁ、もう。
涙が止まらねえ。
滅多に泣かない俺を泣かすなんて…。本当に………。
コンコン
扉のノックで俺は我に返った。
「どなたですか?」
咄嗟に敬語が出てしまった。おまけに声は震えている。
「さ、桜谷です…」
はっとした。
頬の涙をぬぐった。こんなところを見られるわけにはいかない。
俺はドアを開けた。
「あの、ちょっといいかな」
「え? あぁ、うん」
桜谷さんは部屋に音をたてないように入ってきた。カチャという音がした。
「なんで鍵閉めたんだ」
と言おうとした瞬間だった。
桜谷さんが突然何か細いものを取り出した。そして、その細長いものを持ったまま襲い掛かってきた。
「うわ!?」
何が何だかわからなかった。
「ごめん! 両角君!」
再び突進してきた。
そして俺の目めがけて…。
ぎりぎりでかわした。
相当力を入れていたのか、細長いものは壁に突き刺さった。部屋が暗闇だったからわからなかったが、よく見るとその細長いものはどうやらアイスピックのようだった。
桜谷さんはアイスピックを抜こうと踏ん張っている。
俺は間隙を縫って、刺さったアイスピックを抜き取った。
そして、桜谷さんはその場に力なく座り込んだ。
「ごめん! 本当にごめんね!」
彼女は泣きだした。
桜谷さんは今、俺を殺そうとした。
「本当に……」
泣いているせいで、声は掠れている。
「どうしたんだよ、桜谷さん…。なんで俺を殺そうと…」
「……」
桜谷さんは手で顔を覆って、泣いているだけだった。
そして数秒経って、桜谷さんの口が動いた。
「友達が……先生が……」
すぐに悟った。
この原因があのビデオだということが。
「桜谷さん……。大丈夫だよ……。絶対にみんな無事だよ…」
俺にはこの程度の言葉しか掛けられない。不器用な言葉しか。
「希望を持たないとダメです」
桜谷さんに言いながら、自分にも言い聞かせた。
そう。
きっと大丈夫だと。
「……ありがとう」
彼女はただ一言答えた。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「いいよ。なんか困ったことがあったら、俺に言ってくれな? 相談乗るからさ」
自分ながら、良いセリフだと思った。
「ありがとう。少し落ち着いてきた」
それから少しして桜谷さんは笑顔で部屋を後にした。
笑顔と言っても、明らかに作り笑いであった。でも、自分の言葉が少しでも自信に、希望になったのなら少しは桜谷さんを救えたのかな、と俺は強く感じた。
なんだか分からないけど、恐怖と驚きと憎しみの中に謎の満足感を得た。「いいことをした」という気分だ。
そんな満足感に浸ったまま、俺はやがて夢の中へと落ちていった。
目が覚めた俺は顔を洗って、朝食を食べるために食堂に向かった。
すると食堂の扉の前に2人の人間がいた。
蜂と仲良し二階堂君と、占星術専門の巫君だった。
「どうしたの?」
「あぁ、それがなぁ、食堂の扉が閉まってるんだ」
巫君が扉を拳で2回叩きながら言った。
「それで向こうの扉にも行こうと思ったんだが、通路にシャッターがあって塞がれてたんだ。シャッターの開閉ボタンはズタズタに破壊されていたよ」
と二階堂君は指先に蜂をとまらせた。
「鍵が閉まってるの?」
「そうみたいだよ。んーどうにか占星術を使って開けれないかなぁ」
それはさすがに無理だよ…。
「あ、この鍵開けるか壊すかなんかできないかな」
「おいおい本気か、両角」
「でも、食事ができなんじゃあまずいじゃん」
「それもそうだな。あ、これでいけるんじゃねぇか?」
そう言って巫君がカバンから取り出したのは、針金だった。
「なんでそんなもんがあんの…」
二階堂君が驚きながら言う。
「占星術の必需品だよ」
占星術ってそんなん使うんだ…。
そして巫君は針金を鍵穴に差し込んで、器用に動かし始めた。
たった1分足らずで、
「はい、終わった」
「え? もう?」
思わず声に出た。
「もしかしてお前……。泥棒とかしてないよな……」
目を丸くしている二階堂君。
「してないよ。よぉしこれで飯にありつけるぞ」
「もっと早くからこうしとけば良かったのに」
俺は二階堂君に向かって小声で言った。
「いやぁ、針金持ってるなら早く言ってくれよ」
少々呆れ気味だ。まあそれもそうか。
そして、食堂の扉を開けた……。
「あ、あれは―――」
長いテーブルの真ん中。
突っ伏している人物がいた。
「寝てんのか?」
二階堂君はゆっくりとその人物に近づいて行った。俺も後に続いた。
突っ伏している人物のすぐ傍には、「睡眠薬」と書かれたラベルがついた小瓶が置いてあった。そして突っ伏している下にも何か白い紙が見える。
「おい、起きろー」
二階堂君が肩をゆすった。
はぁ、とため息をついて手を離した途端だった。
その人物の体はゆっくりと横に崩れた。そして体全体が床に倒れた。
「おい、まさか――――」
隠れていた紙には鉛筆でこう書かれていた。
「もうこんな生活嫌です。私はもう死にます」
床に倒れこんだ、天宿さんの顔は安らかだった…。
冷たい。そして安らかな顔も、どこか悲しげな、寂しげな顔をしていた。
3人の呼吸は止まっていた。
とうとう犠牲者が出てしまった―――。
「どうしたんだ?」
と後ろから声がした。入江君だ。
「こ、これは―――――!?」
『死体が発見されました―――。至急、体育館にお集まりください』
モノクマの声が食堂にこだました―――。
飽き性MOGIぴーです。
とうとう死者が出てしまいました。見た感じは自殺…?
さてさてどうなるのか、次回もよろしくお願いします。