バビロニア組(+α)が迷宮都市へ行く話 作:はっぱミルクチー
「……もう指先一本動かない……ギルガメッシュの相手……無理……」
「お疲れ様ですエレシュキガル様。喫茶と紅茶、どちらにされますか?」
「紅茶……角砂糖一つ……」
「了解しました。少々お待ちください。」
そう言って冥界の従者は一礼し、リビングを離れていった。厨房へ向かい紅茶を用意するのだろう。エレシュキガル・ファミリアの団欒の場となっているリビングには、大きめのソファが2つと小さめのソファが一つ、下には柔らかい毛足の長い絨毯が敷かれており、その内大きなソファ二つは二柱の姉妹神がそれぞれ陣取っている。
方や一晩中無駄に精力を削られるギルガメッシュとの会話を思う存分堪能し、憔悴しきったエレシュキガル。どこから持ってきたのか、もふもふとしたクッションにうつ伏せになっている。
そしてもう片方は自分へは注文を聞かず冥界の従者が部屋を出て行った扉を不服そうに眺めるイシュタル。長い足を不満ですと言わんばかりに揺らしていた。
ギルガメッシュとエルキドゥはどうしたのかと言えば、町をぶらついてくると出て行ってしまった。エルキドゥはギルガメッシュに引っ張られる形で。その為現在ホームには三人(二柱と一人)しかいない。
しばらくして、冥界の従者が茶器を大きめの盆に乗せて戻ってきた。ポットが2つに、カップが3つ。そしてクッキーと……白い物体。
「お待たせ致しました。エレシュキガル様にはこちらを。本日は先日ファミリアの登録にギルドへ行った帰り、買ってきた茶葉を使用しています。お茶請けとして、同じ店で買ったクッキーも。お口に合えば良いのですが……。んで、イシュタルにはこれね。飽和するまで……いいえ、下に結晶が固まるくらいに砂糖を入れたお湯と、これ。」
「……何この、白いもの。」
「クッキー生地と砂糖を1:2の割合で混ぜ、その上からホワイトチョコレートをコーティングした一品よ。甘いもの、好きなんでしょう?」
「好きでもこれはやり過ぎよ!?」
「注文の多い駄女神ね、作ってやったんだからつべこべ言わず食べなさい?」
「誰が食うかー!」
「……ありがとう、ウトナピシュティム。けど、それはあんまりだと思うわ……ほら、イシュタルもまだ何もしてないんだし。」
「ウトナピシュティム……いや、そうですけど。……「まだ」です。いつこのうっかり駄女神がやらかすかわかったもんじゃありません。エレシュキガル様なら微笑ましいで済みますが、イシュタル、てめーはダメだ。」
「なんでよ!!」
なんでもです、と言って体制を整えたエレシュキガルの隣に足を組み座った冥界の従者は優雅に紅茶に舌鼓を打っている。エレシュキガルも一口含んであら、と目を丸くした。
「……案外美味しいですね。あのお店、これからも贔屓にしようかな……」
「そうね、このクッキーもなかなか美味しいわ。何気なく入ったお店だったけど、中々当たりだったんじゃないかしら。」
「またまたそんなこと言って。エレシュキガル様、お買い物なんて初めてだから私の後ろに隠れてたじゃないですか。」
「うっ……仕方ないじゃない、冥界には私と、偶に貴女が顔を出してくれる以外に人なんて居なかったんだもの……」
うふふふふ、あはははは。主従で幸せお花畑オーラを出す二人を憎らしげに睨んでいたイシュタルだが、同時に目の前のクッキーへの葛藤も胸を占めていた。
「(絶対甘いわ……ほぼ砂糖の塊だもの。けど、そんなに甘いとどれだけ甘いのか挑戦してみたくもある……いいえ、ダメよ!口直しの紅茶も無い今、これを食べたが最後暫く口の中が特別甘くなるに決まってる……!でも……でも……!)」
「(食え……食え……食え……食え……!)」
無言の応酬。
目の前に鎮座する悪夢。しかしそれは神さえも好奇心の沼に突き落とす可能性のある危険なものであった──
「……!」
ひとくち。
「………っきゃあああああああああ!?!?」
爆発した。
口に広がる甘み、甘み、甘み。
じゃり、と噛むたび存在を主張する砂糖、心ばかりのバターと小麦の香り、そしてそれを強く打ち消す甘ったるいホワイトチョコレートをの香り。
「何で私ばっかりこんな目に……きゅう。」
「あまりのインパクトに気絶しましたね。日頃の行いが悪いんですよーだ。」
「砂糖は凶器だったのかしら……!?」
「いえ、居候されてるのが無性にイラっと来たのでちょっと細工しました。」
「……私達も居候の身と変わらないわよ?」
「そうでした。やり過ぎましたかね……エレシュキガル様も食べます?」
「食べないわよ!!」
何だ、と冥界の従者は差し出していたクッキーを自分の口に入れた。うん、不味い。と呟いている辺り味はお察しである。
そして、もっさもっさと自前の対異常でなんとかクッキーを消費してい冥界の従者の心に、自分達も居候、というエレシュキガルの言葉が時間を置いて刺さって来ていた。
ファミリアのお金(ギルガメッシュのもの)で衣食住を安定させている今の状況は、確かに居候と変わらない。神は良いだろう。彼女らにできることは限られてしまったし、何より主人なのだからある程度エレシュキガルはどっしりと構えているべきだ。
けれど、自分は?戦える腕を持っておきながら、従者としての務め以外はぐうたらと過ごしている自分は?
愕然とした。これでは実質ギルガメッシュに養われているのと変わらない。それは冥界の従者の矜持をひどく傷つけた。
「……エレシュキガル様。」
「どうしたの?」
「私、ダンジョンに潜ります。」
「突然ね!?いや、別に良いのだけど……はい、これ。必要かわからないけど、魔術師ですって言ったら貰えたの。」
そう言ってエレシュキガルが冥界の従者に手渡したのは簡素な杖だった。彼女は黙ってそれを受け取ったものの、暗い顔で硬直する事数秒、手にぐっと力を込め……ぱきん、と折ってしまう。
「こんな粗悪品使ってられますか!素手で戦った方が早いです!見てて下さいエレシュキガル様!今日一日で私、一家庭の財産築くくらいこの腕で稼いで来ますから!」
「い、行ってらっしゃい……?って待って、そのメイド服で行くつもりー!?」
フリルのふんだんについたメイド服とその上に羽織った黒いローブをはためかせ駆け出して行った冥界の従者に、エレシュキガルの悲痛な叫びは届かず、呼びかけは宙に消えて行ったのだった。
○◇○◇
「ここが迷宮……埃っぽい所ね。本当にギルガメッシュ、こんな所に潜るのかしら。」
上に黒いローブを羽織っているとはいえ、その隙間からチラチラと見えるメイド服を着た彼女は、かなり特徴的な冒険者達のなかでも異彩を放っていた。
しかも素手なのだ。武器も杖も鞄も持たず、ただ何も持たずその身一つで
しげしげと天まで届くかとも思われる塔を下から上まで舐めるように見つめ、周りの冒険者達を順繰りに眺めていた。
「鎧、甲冑、ローブに旅衣装、ほぼ全裸……ローブは珍しくないみたいだけど、メイド服で出てきちゃったなぁ……」
けれどここで引き返すのも何やら気恥ずかしい。羽織るだけだったローブを少し魔術で細工する事で大きくし、動き難いが体全体を覆う形に変えた。これで下にメイド服を着ているだなんて夢にも思わない事だろう。
「さて、じゃあ居候脱却の為、一狩り行ってみましょうかね!」
冒険の一歩を、踏み出した。
次回からはダンジョンで戦う、と思います。目指せ居候脱却。
お気に入り数が50を超えました。なろうでも20程しか見たことのないミルクチー、感謝感激雨霰です。このようなお世辞にも良作とは言えない作品に付き合って下さり本当にありがとうございます。