フェイスレス博士の世界貢献   作:ちゅーに菌

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信仰無しと念能力

 

 

 

 

 (フェイスレス)がこの世界に生まれ落ちたのは全くもって偶然だった。あの時、あのシャトルで確かに彼は死に、彼自身何もした覚えはない。まさに神の奇跡、あるいは悪戯といったところだろう。

 

 フェイスレスは三度目の記憶を持ったままの転生を果たしたのである。

 

 しかし、それが彼にとってプラスに働くことはほとんどなかった。当然ながらと言うべきか、兄はおらず、かつて愛した女性もいない。その上、世界地図を見てみれば明らかに彼が知っていた名称どころか、形すら異なっていた。すなわち、この星は彼がいた星ですらないということだ。

 

 それは()()()()()()()彼にとって、懺悔も償いも出来る場所ではないということに他ならない。彼に残されたモノは後悔の念と喪失感だけだ。むしろ、これこそが彼に下された最大の報いなのかもしれない。

 

 ジャポンという場所で生まれ、毎日を何をするわけでもなくぼーっと過ごしていた幼少時代。そんな彼に転機が訪れたのは10歳になったある時である。

 

 それは軍用車両の爆発事故であった。停められていた軍用車両が突如爆発し、積み荷と車体の金属が四散。その近くで遊んでいた数人の子供が、金属の破片によって引き裂かれるという非常に凄惨な事故である。

 

 幸いなことに子供らが負ったのはほぼ切り傷だけであった。しかし、全身に破片が通り過ぎた子供らは滅多刺しにされたかのような状態になり、突き刺さった破片を抜くことすら出来ず、ただ苦しみが続く状態となっていた。仮に近所にある病院に運び込んだとしても手の施しようがないであろう。今の時代は20世紀初頭であり、民間に普及している医療技術もその程度のものだ。

 

 ちなみにフェイスレスは誘われてその子供らに混じっていた。しかし、彼だけが無傷で助かった理由は、単純に自身に向けて飛んで来る破片全てを持っていた奇妙な工具で叩き落としたからである。

 

 しかし、爆発を回避し、辺りを見た彼は呆然とした。何せ、地獄絵図である。間違いを認める前ならいざ知らず、今の彼にとって子供らは微笑ましく見ていられる存在であっただけに、反射的に己だけを守ったことを彼は悔いた。

 

 そして、手に持つ工具ではなく、近くの女の子が持っていた裁縫道具の針が目に入る。そして、自身のポケットに入っている人形用の糸を取り出し、心の中で思う。

 

 

(ああ……これが今の僕に出来ることか……)

 

 

 "分解"は元の構造を完全に理解していなければ出来るものではない。その対象は人形であったが、それらの構造は人を模したものであり、優れた人形師が人体そのものに明るくとも不思議はないだろう。

 

 かといって出来るか出来ないかで言えば出来るかもしれない。非常に難しい。そんな確証のないことであったが、彼は自身を奮い立たせ、成し遂げて見せようと動いた。

 

 そして、彼は針に人形用の糸を通し、周囲の子供ら全ての臓器を含む傷を縫合した。結果は誰一人として命を落とした者はおらず、皆を救ったのだ。そして、子供らの親兄弟や、子供らから感謝されることとなった。また、これが彼にとって最初の手術である。

 

 間違いを認める前ならば、"ありがとう"というその言葉に感傷的になることはなかっただろう。しかし、今の彼にとっては自身さえも少しだけ救われたような、そんな淡い錯覚を覚える程、胸を熱くした。

 

 そして、この時代の医療水準の低さを省み、憂い、考え、彼は新たな夢を立てる。

 

 この命を全て――。

 

 

 

 

 

 "科学の発展と人類の幸福"に費やそう――と。

 

 

 

 

 

 しかし、すぐ後に彼が大戦に徴兵され、化学部隊の配属となり、そこでいつしか"司令"と呼ばれるまでになる。その後、戦争が泥沼化した兼ね合いで、彼が本腰を入れて医療に取り掛かれるようになったのは30歳も半ばに入ってからになるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、友達のためにか」

 

 斑木博士の自己紹介の後、ふらんの隣に移った斑木博士はふらんからレオリオのプロハンターになった動機を聞き出していた。レオリオからすれば恥ずかしいことこの上ない。

 

 ちなみに何故かふらんが斑木博士の腕に手を絡め、幸せそうにしているのが気になるところである。

 

「ふぅ……」

 

 斑木博士は一息つき、レオリオを見つめる。レオリオは明らかに只者ではない雰囲気に押されて汗を流す。

 

「僕はぁ、感激だよレオリオくん! 最近じゃあ、見ないタイプの好青年じゃないか!」

 

「そうですよねぇ、博士!」

 

 そして、ふらんと同じように感涙を流しながらレオリオを称えた。ふらんも斑木博士に続いて再び感激した様子でいる。レオリオは二人が親子なのではないかと考えた。

 

「ああ、それで本題なんだけどサ」

 

 斑木博士はすぐに切り替え、素に戻るとレオリオを爪先から頭まで眺め、難しそうな顔をした。

 

「うーん……悪くないけど別段とてつもなく才能があるって訳でもないなー。たぶん、知らないと思うけど。君"裏ハンター試験"って知ってる?」

 

「裏ハンター試験?」

 

 裏ハンター試験とは、正規のハンター試験に合格した人間に、念能力の習得をさせるための秘密裏で行われている試験のこと。この試験に受かり念を習得しなければ、真のハンターではないと言われていると斑木博士からレオリオは説明を受ける。

 

 そして、念能力とは自らの肉体の精孔という部分からあふれ出る、オーラとよばれる生命エネルギーを、自在に操る能力のことであるそうだ。

 

「念能力ぅ?」

 

 急に胡散臭くなり始めた会話にレオリオは眉を潜める。斑木博士が飄々とした人物のため、尚更であろう。

 

「うーん、見せた方が早いかな」

 

 そう言って斑木博士はふらんの肩に手を置く。

 

「ちょっとレオリオくん。うちのふらんクンと腕相撲してくれないか?」

 

「えー、私戦闘用じゃないですよぉ?」

 

「ふらんさんと俺が!?」

 

 ちなみに会話でわかったことだが、レオリオよりふらんは歳上らしい。しかし、たまに高校に通っているとかなんとか。

 

「いや、それでもほら。一応、念能力は習得してるんじゃん? 何故か(テン)(シュウ)(ギョウ)(リュウ)だけ」

 

「手術に便利ですからねぇ」

 

「他はからっきしなのにねぇ」

 

 斑木博士は首を傾げ、ふらんはフラフラと体を揺らしながらもテーブルの上に腕を構え始めたため、仕方なくレオリオも腕を構える。

 

「じゃあ、まずは念抜きでね」

 

「はぁい」

 

「よーい、どん」

 

 レオリオは少し遠慮しながらも程々に力を込めた。しかしながらそれがいけなかったと言えよう。

 

 何せ、そもそもハンター試験で合格できる時点で、レオリオは一般人から大きく逸脱していることは想像に難しくない。その上、彼はここに至るまでククルーマウンテンで第一の門を開ける程度には筋力を鍛えている。つまりはこの時点ですら、念抜きで人間として最高クラスのスペックを持っていることに他ならない。

 

 そんな彼が普通に斑木ふらんと腕相撲をしたらどうなるか?

 

「あらぁ?」

 

「あちゃー」

 

「嘘だろぉ!?」

 

 ふらんの腕は肘からボロンともげてしまった。折れたのではない。もげたのである。その上、赤々とした断面が見える形で、レオリオとまだ手を組んでいる状態だ。

 

「ちょ……おま!? なんでまだ動いてんだこの腕!?」

 

「ああん、私の手返してぇ」

 

 ちなみに暫く混乱の末に腕を返すと、ふらんの腕は断面をくっつけるとそのまま付いた。レオリオがこの研究所では常識を持っていてはいけないのではないかと考え始めたのは仕方のないことであろう。

 

「まあ、ちょっと予想とは違ったけど、ふらんクンはこんな感じに非力な女の子だネ」

 

 仕切り直した斑木博士はそんなことを言い、ふらんはまた手をテーブルに置いている。もう一度、やれということであろう。

 

「また取れない……?」

 

「大丈夫、大丈夫。今度は念使うからサ」

 

 レオリオは軽くトラウマになっていた。いや、目玉は落ちるわ、腕はもげるわ、トラウマにならない方がおかしいだろう。

 

 とりあえずレオリオとふらんは腕を組む。

 

「はい、どーん」

 

 そして、再び斑木博士から開始のコールが発せられた。

 

「――な!?」

 

 真っ先に驚いたのはレオリオである。

 

 先ほどポッキー並の手軽さで肘から分離したふらんの腕は取れるどころかピクリとも動かなかったのだ。そして、当のふらんは相変わらずフラフラと体を左右に揺らしながら特に力んでいるような様子もない。

 

「くっ!」

 

 その上、何れ程レオリオが力を込めてもふらんの腕は開始位置のままである。人造人間だという説明を思い出し、特別な改造を受けているのかとレオリオは考えたが、直前に取れた腕と、あまりに華奢なふらんの体からその線はほぼないことを痛感する。

 

(これが念能力って奴か!?)

 

「えいっ」

 

「うおっ!?」

 

 そして、勝負はふらんが動いたことで簡単に付いた。レオリオの手の甲がテーブルに付いており、ふらんの圧勝である。

 

「やりましたぁ、博士褒めてください」

 

「よしよし」

 

 終わるとふらんは斑木博士に頭を差し出し、博士はそれを撫でていた。撫でられるふらんは非常に幸せそうな表情である。

 

「それから――」

 

 斑木博士は近くにあったペーパーを筒のように丸めると、それをレオリオに差し出す。

 

「潰してみ」

 

「これ――おッ!?」

 

 触れたペーパーが明らかに手品や細工をしている様子はないにも関わらず、まるで鋼鉄のような硬さになっていることにレオリオは驚愕した。ここまで来れば最早認めざるをえないだろう。

 

「これが念能力って奴か……!」

 

「そだね。それで物は相談なんだけど――」

 

 斑木博士はそう言うとニコリと笑い掛けて口を開く。

 

「ここで念能力の習得してみない? 後、医師になる勉強の方も見て上げるよ」

 

 奇っ怪な体験をしたが、ヨークシンで再び会う仲間達のことを考え、レオリオは大きく首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

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