レオリオがこの研究所に来てから1ヶ月の月日が流れた。
最初の数日間は阿鼻叫喚であった。何せ、ここに来た時に化け物屋敷だと思っていたが、本当に化け物屋敷なのである。廊下を歩けば人面猫、ミイラ女、喋るトカゲ、犬頭の執事、狼男、蝙蝠男等々これでもかと言わんばかりに化け物染みた外見の者達がここにはいるのである。そのほとんどをふらんの手術でそうなったというのだから更に混乱するだろう。お陰でレオリオは今でも若干の恐怖からふらんにはデフォルトでさん付けである。
しかし、人間の慣れとは大したものだ。そんな環境にい続けると意外とすぐに慣れてしまうものなのである。まあ、その最大の理由は化け物な見た目の者達は基本的に心優しく、どちらかと言えば怖がりという中身は至って普通の者達だったからであろう。
人を外見だけ判断するなと、かつてのレオリオ自身がよく言っていたであろう言葉を自分が噛み締めることになり、逆に親近感が沸いてしまったというのも大いにある。
「あがり……」
「あっ、クソッ……ってなんだその役!? また、負けたー!」
そして、今ではそんな化け物たちと麻雀卓を囲むぐらいにはレオリオは順応していた。諦めや達観とも言い換えれる人間の適応力とは凄まじいものである。
ちなみに今あがったのは全身に包帯が巻かれたミイラ女こと"アドレア"である。他にも人面猫の"沖田"と、生体暗殺兵器のヴェロニカが卓を囲んでいた。
なんだかんだレオリオはこの研究所での生活をかなり楽しんでいたのであった。
◆◇◆◇◆◇
現在はレオリオはフェイスレスに勉強を見て貰っている最中だった。この珍妙な光景を例えるのなら、北里大学に受験する予定の人間が、北里柴三郎に受験対策を直接教えられているようなものであるが、他でもないフェイスレス本人からしていることなので誰に咎められることでもない。流石に最初の方は畏縮していたレオリオだったが、1ヶ月も立てば慣れたものである。
ちなみにレオリオの勉強はふらん、フェイスレス、人面猫の沖田が見ており、手が開いている兼ね合いで沖田が見ることが一番多い。また、念能力の修行は主にヴェロニカの担当であるが、精孔が開いたのがつい先日のため、最近始まったばかりである。
「なあ? フェイスレス」
「んー? なんだいレオリオくん」
レオリオはふと疑問を覚えたため、彼に聞いてみることにした。
それは世界各地を転々とし、所在地不明の人物と言われている割には、レオリオが来てからというもの。一度もこの研究所からフェイスレスが外出した姿を見ていないということである。
「ああ、それは昔の話だよ。今はもっぱらこの研究所に留まっているね」
「そうなのか」
「まあ、疾患患者の検体を作れるから外出しなくてもそんなに問題ないっていうのもあるけど、一番はふらんクンだねぇ……」
「ふらんさんがなんか問題なのか?」
確かに化け物のような外見の者を造ったりはしているが、手術の腕は医師の卵であるレオリオが見ても驚嘆してしまうほどのものであり、フェイスレス自身が彼女を"最高傑作"だと言っていることも理解していた。
「うーん……言うより見せた方が早いよね。僕が留守中に、ふらんクンが施行した手術とその結果の報告書……少し読むかい?」
そう言いながらフェイスレスは呆れ半分、微笑ましさ半分といった様子で今いる休憩室を後にし、直ぐに手で資料を抱えながら戻って来た。その様子から既に嫌な予感しかしないが、医者の卵としての好奇心には抗えず、レオリオは資料に目を通し始めた。
「事故死した息子を生き返らせて欲しいって要望を聞いて、親父の脳と息子の脳をサーキットで繋いで、父親が考えると一度息子の脳を必ず経由するようにした……?」
「写真見るかい?」
そこには父親の耳から後ろの後頭部が、息子の耳から前の部分に置き換わっている姿が写っていた。さながら二面の阿修羅像である。更に首が270度回ることがわかる写真もあった。
「心中をして男性だけが残ったので、片割れの女性の頭に生命活動に必要な臓器をダウンサイジングして詰めた……?」
「文字通りだよ。あ、これはちょっと移動できるようにした写真だね」
そこには頭部と首から生えた指があるだけの女性が写っていた。
「新興宗教でシンボルとして担ぎ上げられた少女を手術しようとしたが、教団が生体移植どころか輸血すら拒んだので、全身を完璧に代償できるだけの巨大な人工臓器に置き換え、建物自体を彼女にした……?」
「ちなみにその娘は処女懐妊していたらしくてね。生まれた子供の写真がこれ」
そこには肉団子にスパゲッティが絡み合ったモンスターのような何かが、崩壊した施設から空へと飛び去っていく光景が写っていた。
「ああ、でも特に事後処理がヤバかったのは"タコな妹"だったんだけどさ……」
"ハンター協会が解決に乗り出すハメになったもんなぁ……"とフェイスレスはどこか遠い目で呟いている。彼がそんな目をするほどのことがあったらしい。
しかし、幸か不孝かレオリオは資料に目を通していたため、フェイスレスの呟きに気がつくことはなかった。
「すげぇなぁ……」
依頼人からしたら堪ったものではないモノも含まれている気がするが、フェイスレスが渡した資料ではそもそもの依頼内容が破綻しているものが多く、むしろそれを無茶苦茶強引にでも解決してしまうことにレオリオは顔を引きつらせながらも感心する。
人間を助けるというただそれだけの行為をここまで真摯かつ壮烈に出来るのは最早狂気の域であろう。
「いやー、帰るなりそんな手術や実験のことを、ふらんクンから直接いっぱい聞かされてねぇ。笑顔でとっても褒めて欲しそうにさ」
「うわぁ……」
「まあ、褒めたけどね」
「褒めたのかよ!?」
"ふらんクンにとやかく言える程僕も出来た人間じゃないからねぇ"と呟きながらフェイスレスは更に言葉を続けた。
「なんというかね。ふらんクンは兎に角、手術して人間を助けること以外は見えていないというか、悪い意味でポジティブというかなぁ……全部善意100%でやってるんだよねぇ。いったい誰に似たのかなぁ?」
(それは突っ込み待ちなのか……?)
親の背を見て子は育つ。つまりはそういうことなのであろう。1ヶ月、レオリオがここにいて知ったことだが、フェイスレスも大概自分が見えていない人間だということである。まあ、良い人か悪い人かでいえば善人なのでレオリオが言えることは特にない。
ふと、フェイスレスが部屋の外を見た。今いる部屋はちょっとした休憩室であり、廊下側がガラス張りになっているため、廊下を行き交う者が見えるのである。
それに釣られてレオリオも廊下を眺めると――。
「~♪」
そこには手術着を身に纏い、腕を2本から6本に増やすマイナーチェンジをした姿のふらんが笑顔で歩いていた。彼女の後ろには担架に乗せられた大量の死体があり、全身を覆う手術着を着た複数の怪物がそれを運んでいる。
「………………」
「………………」
二人はふらんが見える廊下を過ぎ去るまで、それらを眺め、一団が見えなくなると、フェイスレスはポツリと呟く。
「ほっとけないだろぉ?」
「そうっスね……」
フェイスレスがこの研究所にいるのは彼なりの善意や、ふらんを想ってのことだったんだなとレオリオは溜め息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇
ある日の昼過ぎ。レオリオは斑木研究所の近くにある開けた場所にいた。そして、彼の目の前には念能力の修行相手である顔に×字の縫い目があり、コートを着て手袋をした少女――ヴェロニカがいる。
当初、フェイスレスによってレオリオに修行を付けて欲しいと頼まれたヴェロニカは精孔を開く段階では全く乗り気ではなく、部外者だということもあり、かなり素っ気ない対応をしていた。まあ、どちらかと言えばヴェロニカが人見知りの気があるだけなのだが本人はそれを頑なに認めないであろう。
しかし、レオリオがふざけ半分で何気なくヴェロニカを"師匠"と呼んでから話は変わった。何故か呼ばれる度に彼女が少しずつ好意的になり、今ではレオリオが本格的に念能力の修行を始めれるのをソワソワしながら誰よりも心待ちにしていたのである。
つまり――。
「さあ、今日から本格的に修行を始めようか。ちゃんと私のことは師匠と呼ぶんだぞ!」
「お、おう……」
レオリオでも心配になるぐらいヴェロニカはチョロかったのである。
人体改造を施して何度も襲撃してくる相手に少し恋心を抱き、苛められ裏の顔が丸見えでも表面的に優しくされるだけで殺す気がなくなり、
「まあ、まずは水見式だな」
「水見式?」
ヴェロニカ曰く、水見式とは心源流に伝わる自身の属する系統を知るための方法であり、最も簡単で一般的なやり方とのこと。グラスにたっぷりと水を入れ、その上に葉っぱ等軽くて浮かぶ物を乗せ、手のオーラでグラスを包むようにして練を行うことで自身の系統を判定するらしい。
系統については既にレオリオは教えられていた。強化系を頂点として左回りに、放出系、操作系、特質系、具現化系、変化系がある六角形で考え、得意系統を100%としてそこから離れるごとに20%ずつダウンしていくそうだ。だが、特質系だけは才能がなければそもそも発現しないらしい。
「まずは手本だ」
そう言ってあらかじめ用意した水を張ったグラスにその辺りで拾った葉っぱを乗せて、ヴェロニカはグラスに手をかざした。
するとグラスを漂う葉っぱが瞬く間に枯れて沈み、沈んだ枯れ葉を中心に金属のような銀の光沢を放つ不純物がまとわり付くように形成された。さながらミョウバンの結晶である。
レオリオは目の前の光景に声を上げつつも首を傾げる。というのもヴェロニカが書いてきたメモには――。
水見式の結果
強化系 水の量が変わる
放出系 水の色が変わる
操作系 葉が動く
特質系 その他の変化
具現化系 水に不純物が出現
変化系 水の味が変わる
――のように記されているからである。不純物が出現するのは具現化に見えたが、それより前の光景はどれでもないため、特質系かと考えた。
「私は具現化系だけど、生まれつき特質系も持ってるんだ。だからこんな感じになる」
ヴェロニカは特質系も持つ具現化系という特異な存在らしい。流石はフェイスレスの造った生体暗殺兵器といったところだろうか。
「ちなみに私の発は――」
ヴェロニカが腕を振るうと、その手にギロチンの刃に柄を付けたような彼女の身の丈以上に巨大な得物が握られていた。
「こんな感じにいつでも武器を出せる」
「おおっ!?」
「ふふん、いいだろう?」
まさに念能力といったモノを目にし、レオリオは感銘の声を上げた。ヴェロニカは得意気に鼻を鳴らしている。
「あれ……?」
そして、本命のレオリオが水見式を試したが、結果はうっすらと緑を帯びたのみだったため疑問に感じた。
「最初はそれぐらいだよ。練がうまくなればもっとよくなるさ。それより放出系だな」
「放出系かぁ」
操作系や具現化系や変化系よりも単純で分かりやすくてよかったとレオリオは好意的に解釈した。強いて言えばヴェロニカと真反対の系統なことが少し残念だと考えるぐらいだ。
「やっぱ、師匠はすげーなぁ……」
レオリオは純粋に嘘偽りなく、思ったことを呟いた。こう見えても自身より、系統レベルで遥かに卓越した念能力者なんだなと感じたからである。そもそもオーラが見えるようになり、自身よりも何倍も大きいオーラを見ているのでそれもあるだろう。
「そ、そ、そんなことない!」
しかし、褒められ慣れていないヴェロニカは顔を真っ赤にしながら否定する。嬉しそうな様子が全身から溢れている辺り、フェイスレスに撫でられている時のふらんにそっくりであり、姉妹だと感じさせた。
「よし、じゃあまずは基礎の修行からだな!」
そんなヴェロニカの様子を少し鼻の下を伸ばして眺めていたレオリオだったが、ヴェロニカの修行自体は中々スパルタであり、速効でへたばるハメになるのであった。
こんなチョロQなヴェロニカちゃんですが、念を覚えて原作よりかなり強化されてるので、幻影旅団の戦闘員を2~3人同時で相手に出来るぐらいには強いです。
え? ふらんさん? モタリケくんぐらいじゃないかな。
そう言えばニコニコニュースで見たんですけど、フランケン・ふらんがチャンピオンRED 2月19日の発売号から復活して新連載するってマ……?(今日まで知らないで投稿してた情弱作者)
また、ヴェロニカちゃんがイジメられるのが見れるんですね! やったー!(無邪気)