宇宙の仲介屋   作:八又ノ大蛇

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一噺 仲介屋さん、胃が軋む

 真っ暗な深淵の闇が果てしなく広がる宇宙のある惑星で、今日も昨日もと仕事に追われる者がいた。

 

「あー、また催促の通信だ。嫌だなぁー」

 

 性別は無いがこの場では彼と言っておこう。だぼっとした1サイズ大きめの服を着、その服の隙間から左右に鋼鉄の様な尻尾を気だるげに揺らし。寝癖なのか癖っ毛なのか判別出来ないボサボサ頭には、尻尾と同じ曲った角が生えている。彼の出で立ちはどこにでもいる様な大した特徴もない人型宇宙人だ。

 唯一特徴らしい特徴と言えば、寝不足で何重にも刻まれた隈が目の下に存在を放つ事ぐらいだろう。

 

 そんな彼は仲介屋である。

 

 土地や物の売り手と買い手の間をチマチマと斡旋する地味な仕事で、子供の成りたい職業ランキング毎回圏外に名を列ねるそんな職である。

 しかし、彼はそれを嘆くことはしない、目立つ事が嫌いで、コツコツとした作業は自分に合っていると思うし、やり甲斐もある。だから、辞めたいとは考えた事が今までは無かった。

 

 無かったのだが……

 

「うぁ……フ、フリーザ様からの通信あるじゃん」

 

 この時ばかりは退職が頭を過る。いや、今に始まった事ではなく十年程前からの事であるが、気が重くなるのは仕方ないだろう。何故なら、あの宇宙の皇帝様の元に一人で出向き、交渉をしなければならないのだから。

 不幸か幸運か、仲介屋との仕事の成果がどうやらお気に召した様で、惑星を売買する際に呼ばれる事が多い。その為、そこそこ長い付き合いになり、顔を見て失神する事は無くなった。

 

 だが、フリーザに会い仲介をする為には当然フリーザ軍の宇宙船に行かねばならぬ訳で。戦闘等の荒事が嫌いな彼からすれば、血の気が多い連中がいる所など行きたくないのが素直な本音だ。

 

「別に、フリーザ様だけならいいんだけどねぇ……」

 

 凡そ他人が聞けば耳を疑う様な発言をするが、これは彼が怖いもの知らずでもフリーザに気に入られてるからくる自信では無い。

 ただ単純に、長年恐怖に晒され続けて感覚が麻痺っただけだ。知らない人より、見知った人の方がまだ安心出来るという小心者の凡人の考えだ。それに、フリーザが当て嵌まる所が、少々ズレている事を彼は知る由もないが。

 

「まぁ、行きますかぁ……」

 

 だが、この後彼は仮病でも使って行かなきゃ良かったと思わされる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、お久しぶりですね。クロザさん」

「はい、フリーザ様。お変わりない様で安心しました」

 

 通された部屋には部下もおらず、一対一の対面でフリーザと話さなければならないが、彼クロザはその事には大して緊張してはいなかった。寧ろ、フリーザの部下に案内されるまでの方が余程緊張していただろう。

 

「おや、心配してくださるのですね」

「?何ですか、その俺が心配するのは可笑しいみたいな感じは」

「…………貴方本当にクロザさんですか?」

「ちょと、失礼ですね。そりゃあ、一番の得意先がいなくなったら、俺の財布が心配で心配で仕方なくなるのは当然でしょう?」

 

 フリーザ相手にそんな事を軽く言うクロザだが、何も彼は死に急いでいる訳ではない。悪びれた様子は微塵も見せず、さも常識的に振る舞う彼は只のナチュラルクズなだけである。

 そんな彼にフリーザは「あぁ、間違いなくクロザさんですね」と怒る事はなく頷く。

 

 一に金、二に金、三四も金と、兎に角お金に関してがめつい事をフリーザは付き合いの中で理解していた。それに、些細な事で殺してしまうより利用する方が有益に働くので多少の事は目を瞑っている。

 

「な、なんか、今ゾッとしたんスッけど……」

「さぁ?何でしょう?」

 

 それに加え悪意には、かなり敏感なクロザは少し殺意を出せば、瞬く間に自身の力で作った異空間に逃げ込む。過去に何度か発言がイラッついて殺そうとしたが、逃げ足の速度はフリーザをも凌ぐほど高く、何度も殺し損ねている。

 

 そして何度も殺されかけても、呼ばれれば律儀にくるクロザをフリーザはかなり頭の変人として認識していた。だが、世の中は不思議なもので変人でも仕事はかなり出来る。

 毎回、要望に叶う惑星の買い取り手を探し当ててくる技術はフリーザも目を見張る程である。

 

「でも、フリーザ様の事も心配してたんですよ、俺」

「おや、明日は隕石が振りますかねぇ」

「だって、散々猿猿言ってたサイヤ人にボロ負けしてた上に、みじん切りにされたって知れば不安にもなりますよ。んで、今トレーニング中でしょう。捗ってます?」

「お黙りなさい」

 

 フリーザが青筋を額に浮かべてる事など気づかず、クロザはフルーツのステック状のモノを噛りながら笑い話の様にあははと笑う。心底憎たらしい顔だが、痛い所をつかれた為、反論出来ずにヒクついた冷たい笑みを浮かべるしか出来ない。そこで、フリーザは名案を思いついた。

 

「……そうだ、そんなに不安でしたら、私が完璧にサイヤ人を根絶やしにする姿を見に来ればいいでしょう」

「へっ?」

「丁度、四ヶ月後にそのサイヤ人のいる地球に向かおうと思ってたい所です」

「えっ、いや、俺はさ、斡旋の仕事があるからさ、ね?ね?」

「仕事でした、私がサイヤ人を殺しその惑星を売りましょう。ほら、貴方の仕事ですよ」

 

 その問に彼は頬に冷たい雫を垂らしながら、壊れた機械人形の様に振り返る。

 

「冗談で……しょう?はは、フリーザ様もお人が悪い」

「ほっほほほ、私がつまらない冗談が嫌いな事は、知っているでしょう?四ヶ月後が楽しみですねぇ、クロザさん?」

「ハィ……ソウデスネ」

 

 

 

 


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