色々あるとは思いますけど、
この主人公の場合、生きる理由というには、
あまりにも小さな理由が出来たようです。
nanaの方で朗読用の台本を投稿したのですが、
その無編集版がこちらになります。
nanaでの朗読を意識しているので普段とは結構違う感じですが、
読んでいただければ幸いです。
ちなみにnanaの方はこちら。
時間制限の関係上、内容は相当はしょってます。
https://nana-music.com/sounds/048d25db/
色々あるとは思いますけど、
この主人公の場合、生きる理由というには、
あまりにも小さな理由が出来たようです。
nanaの方で朗読用の台本を投稿したのですが、
その無編集版がこちらになります。
nanaでの朗読を意識しているので普段とは結構違う感じですが、
読んでいただければ幸いです。
雑居ビルの屋上で僕を待ち構えていたのは、突き抜けるような青空と真っ白に輝く太陽。そして、器用に手すりの上で仁王立ちして僕を見下ろす、ショートカットの不思議な少女だった。真っ青な空の下で、真っ白な彼女の制服が、とてもまぶしく輝いていた。
何をやってるの? 僕が問いただすと、彼女は微笑み、あなたと同じですと言った。
僕が何をやるつもりなのか知ってるの? はい。今日はこんなにいい天気ですから。僕は飛び降りるつもりで来たんだよ? こんなにいい天気の日は、飛び降りたくなりますよね。彼女の言葉は要領を得なくて、僕と会話が噛み合わない。
僕をからかわないでくれ。僕は声を荒げて、イライラを彼女にぶつけた。それでも、彼女の涼しい微笑みは曇らない。
涼しい風が吹いた。彼女のショートカットの髪がさらさらと揺れるほどの強い風が、僕らの頬をくすぐった。
彼女は、僕に向かって笑みを浮かべたまま、両手を広げ、とんっと後ろに飛び降りた。
彼女の笑顔が落ちていく。パタパタと服がはためき、彼女がそのまま落ちていく。
ダメ。待って。僕は叫んだ。駆け出して、ゆっくりとビルの下に落ちていく彼女に、必死に手を伸ばした。目一杯手を伸ばして彼女の手を握ろうとしたけれど、次の瞬間、彼女の涼しい微笑みは、僕の視界から消えていった。
彼女は、落ちた。僕の目の前で、笑顔で落ちた。
駆け出した勢いのまま、僕の身体が手すりにぶつかった。ガシャンという音とともに、僕の心に強いショックが襲いかかり、両肩がズシリと重くなった。
彼女を救うことが出来なかった……僕は、彼女を見殺しにした……落ちるべきは、僕だったのに……
僕が自分を責め、コンクリの床を殴りつけようとした、その時だ。
アハハハハハ。下から聞こえる、軽やかな彼女の笑い声。まさかと思って、恐る恐る縁から下を覗き込むと、一段下のビルのベランダに立つ彼女が、僕に向かって笑っていた。
よかった。彼女は無事だったと、ホッとしたのもつかの間。彼女は笑顔を僕に向けたまま、つま先立ちをして、ぷるぷると震える両手を、僕に向かって精一杯に伸ばしはじめた。
彼女の笑顔が、僕に話しかけてきた。
助けて。私をここから引っ張り上げて下さい。それがあなたの生きる理由です。
僕は笑う。そうですか。僕が生きる理由は、そんなに小さなことですか。
彼女の笑顔が頷いた。僕は手を伸ばし、僕に微笑みかけている彼女の手を握った。
僕に、生きる理由が出来た瞬間だった。