己がために   作:粗茶2.5歳
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12話 急変

 

 どうやら随分と長く寝ていたらしい。これもアリスの膝枕が心地よかったからなのだろうか。まさかアリスが膝枕をしてくれるなんて思ってなかったが、これは今度もう一回頼んでみよう。まじで安眠できて快眠できる。ところで、アリスはずっとそうしていたのか? 飯食えたのか? もし食えてなかったら申し訳ない。

 

「ご飯なら食べましたよ」

「ならいいや」

 

 どうやら食べてたらしい。嘘ついてるようでもなかったから、本当に食べられたのだろう。気になったことも解決されたところで、意識を前方にいる二人に向ける。キリトの隣にいるのがユージオなのだろうな。俺への警戒心強いようだが、俺何もしてないはずなんだよな。……ま、警戒されて当然か。騎士でもないのにこんな所にいるんだし。

 

「ジーク。あの者と知り合いなのですか?」

「ん? 黒髪の方はな。キリトって言うんだが、なかなかに女誑しだぞ」

「待てまて! いきなり人の評価を下げるな!」

「いやどうせお前女落としてるだろ。学院に入ってたってことは、キリトのことだし傍付きになってたはず。ということは、先輩と後輩で一人ずつ落としてるな?」

「確信あるみたいに言うなよ! ユージオ、俺の汚名を返上するの手伝ってくれ!」

 

 キリトがユージオに助けを求めるも、ユージオは苦笑いしてキリトから視線を逸した。確定だ。キリトはまた女を落とした。しかも無意識で。これが引き籠りコミュ症ゲーマーのすることとは思えないが、どこか慣れた気がする。やっぱりなって感じだし、これは外に戻った時にアスナに報告だな。先輩の方は知らないが、後輩の方のロニエとは少し話したし、それでどれだけキリトを想ってるかも分かった。修羅場を作れるぜ!

 俺達がこんなやり取りをしていると、俺の隣にいるアリスの目から温度が消え去られた。絶対零度というか、マイナスにまで突入してるような冷たい視線をキリトに送っている。女の敵って認識になったんだろうな。可哀想なキリト。だがお前が女を次々と落とすのが悪いのだ。そろそろ自覚して自重しろ。だからアスナがヤンデレみたいになるんだよ。

 だが、アリスの心境は俺の予想を超えていた。それはキリトに向けてだけじゃない。俺に向けても複雑そうな視線を送ってくる。これは何かある……いや、そういうことか。理解した俺は、アリスに体を向けて手を広げる。

 

俺も斬るか(・・・・・)? アリス。アリスになら大人しく斬られるぞ?」

「なっ!? 何言ってんだジーク!」

「キリトは黙ってろ。今俺はアリスと話をしている」

 

 キリトを睨みつけて黙らせる。俺はフレニーカの一件のように、よっぽどのことがないと怒らない。だからこそこうやって視線を鋭くして睨み付ければキリトも止まってくれる。冗談で言ってるのではなく、本気で今話しをしているのだと理解してくれるのだ。長い付き合いだからな。

 そんな俺に対して、アリスは目を見開いて一歩後ずさった。首を小さく横に振り、瞳を揺らして訴えかけてくる。なんでそんなことを言うのかと。

 

「二人を殺すように命令が出てるんだろ? それはデュソルバートさんからそういう流れになるってことは聞いてた。殺さないといけないような相手と俺は知り合いだ。俺だけ見逃すのに正当な理由はない。どうやら公理教会は固い場所だし、不穏分子となった俺を殺すように命令が下るのも目に見えてる。それならほら、今纏めて殺ったらいいんじゃないか?」

なん、で……なんでお前はそんなことを平然と言うのですか! なんて自分の命を簡単に投げ出せるのですか!?」

「俺を殺せない、なんてことをアリスは上の奴らに言うのか? そんなことをすればアリスも処罰が待ってる。俺はそんなのゴメンだね」

「黙って……ください!」

「グッ……!」

 

 怒ったアリスに蹴飛ばされ、俺は丘を転がる。勢いが強過ぎてなかなか止まれなかったが、中腹を過ぎた辺りでなんとか止まることができた。顔を見上げると、前方にアリス、右方にキリトとユージオが見える。アリスが近くにあった木に手を添ると同時にキリトとユージオが駆け出す。アリスが触れた木が黄金の光に包まれると、やがてそれがひと振りの剣になった。

 

「なにそれ!?」

 

 俺がそれに驚いていても誰も反応してくれない。戦闘が始まったのだから当然なのだが寂しい。デカイ独り言みたいになったから超恥ずかしい。誰も聞いてないけども。恥ずかしくて寂しいとか最悪なコンボだ。

 脳内でそんなボケを一人でかましている間に、さらに訳のわからない現象が起きた。アリスが剣を振るった瞬間刀身が無くなり、代わりに無数の何かが飛び回り、キリトユージオを弾け飛ばす。よく見てみると、あれは大量の何かの花が飛んでいるようだ。どこかであの花を見たことがある。それもアリスといた時に。

 

「……あー、金木犀の花か。アリスが着てた着物の絵柄になってたやつ」

 

 完全に戦闘の外に追い出された俺は傍観することにした。武器無しであれに混ざるのは無理だろ。というか俺としては戦う相手もいないわけだしな。

 アリスが使ってるあの黄金の剣。あれはデュソルバートが使ってた弓と同じで特別製なのだろう。その剣に張り合っているのだからキリトの剣もユージオの剣も同等のもの。つまりみんな神器持ちだ。羨ましい話だね。守護者たる整合騎士の一員であるアリスが持っているのは納得できる。支給されてるのだろう。

 だが、キリトとユージオ。お前らが持ってるのは意味がわからない。キリトはたしかギガシスダーの樹の枝をサードレの爺さんが剣にしたやつ。これはまぁいいだろう。ユージオよ。お前はそれどうやって入手したのさ。パチったのか。

 

「にしても……アリスって意外と怪力なのか?」

「聞こえてますよジーク!!」

「んなアホな!」

 

 なんでこの距離で聞こえてるんだよ。しかも戦闘中に。それはつまりそれだけ余裕があるってことなんだろうが、そんなキリトもユージオも弱くないだろ。ここまで来てるんだから。今絶賛アリスの剣で吹っ飛んでるけど。なんかキリトが一騎打ちを申し込んで、剣で防ごうとする度に吹っ飛んでんだよ。怪力と言わずに何と言う。

 それよかキリト。俺は結構お前の戦い方にがっかりだよ。一騎打ちとか言っておきながらユージオに奇襲させるとはな。たしかに勝つためならそれが有効な手だろうさ。勝っているのは数だからな。意識を完全に自分に向けさせておけばユージオの攻撃を確実に当てられる。氷を発生させるのは驚きだが、神器って何でもありなのだと認識を改めておけばいいだろう。というか氷とかカッコイイな。

 ずっと止まって見ていた俺は、アリスがユージオに氷漬けにされたところで歩き始めた。納得のいかない戦いだが、参加していない俺には口を出す資格などない。成り行きに任せるしかないだろう。そう判断していると、ユージオが小型の隠しナイフを取り出し、アリスへと近づいていっている。

 

 ──あれは……よくわからんが、やば(・・)そう(・・)()

 

 全力で駆けて止めようと思ったのだが、氷漬けになっていなかったアリスの剣がまた無数の金木犀の花へと変化した。それがアリスの周囲を回り、氷漬けになっていたアリスが解放される。

 

「器用だな」

 

 花が氷を溶かせるわけがない。つまり、花が高速で少しずつ削っていったのだ。アリスが動けるようになるまで。あの状態でアリスが思考できたのかは分からないが、剣に意思があるというのなら、あの剣は相当優秀だ。たしか、《金木犀の剣》だったか。さっきアリスが解説していたけど。

 アリスが花を操作して再度二人を攻撃しようとしたその時、キリトがそれを阻止すべく動いた。『エンハンス・アーマメント』。デュソルバートも言っていたし、ユージオも先ほど言っていた単語だ。どうやらそれが武器の特殊能力的なのを解放するらしい。強化(?)されたキリトの剣がアリスの剣の花たちにぶつかり、凄まじい衝撃が発生する。その衝撃が強すぎたのか、カセドラルの壁にヒビが入っていき、やはり壁が壊れた。

 

「キリト! アリス!」

「あれはやべぇな……」

 

 壁が壊れ、キリトとアリスが外へと投げ出される。ユージオが壊れた壁へと走るが、この壁は自動修復するらしい。ユージオが駆け寄ったときには完全に壁は修復され、何事もなかったように傷が一つも残らず無くなっている。

 俺は項垂れているユージオへと歩み寄ることにした。というかユージオ以外喋る相手もいないし。これからのことを聞かないといけない。ユージオはキリトと同行しているのだから、キリトが持つ情報を全部じゃなくてもほとんど知っているだろうしな。

 

「この壁って自動で直るんだな。二人がまた壁壊して中に入ることもできないだろうし……。どうするんだか」

「なんで君はそんな平然とできるんだい!?」

「だってキリトいるじゃん。キリトと一緒にここまで来たんなら分かるだろ? なんとかするって」

「……たしかにキリトは考えもつかないことをするけど」

 

 あいつこの世界に来て何やってたんだろうな。考えもつかないこと。俺も大概だが、キリトは少し方向性が違うんだよな。それにしても、キリトのこの謎の信頼感って何なんだろうな。俺もこんな言い方で説得できるとか思ってなかったんだが、ユージオは納得した。便利だな"キリトだから"って言葉。キリトを知ってるやつにはこれからもこれを使うとしよう。

 さてさて、これからの話をする前に解決しておいたよさそうなことが、俺とユージオの間でありそうだ。戦闘が始まる前のユージオの視線。それの理由を確かめておこう。まずはそれが優先だ。

 

「俺に個人的な用事がありそうだよな。……あ、その前に自己紹介するか。俺はジークだ」

「僕の名前はユージオ。よろしくね、ジーク」

「おう。それで、俺に話がありそうだったんだが」

「君って鋭いんだね。……君はアリスとどういう関係なんだい?」

「関係? 友達だよ。それ以上でも以下でもない」

 

 それを言ったらユージオはなぜか安心したように息を吐いた。なんだ。それを気にしていたのか。まぁ、たしかに整合騎士と仲がいい庶民とか意味分かんないか。しかもキリトと知り合いだし。謎でしかないな。俺がユージオ側でもなんだこいつってなるわ。

 だが、話をこれだけで終わらせるわけにはいかない。俺とアリスの関係の話は終わりでいいんだけども、ユージオとの会話を終わらせるわけにはいかない。なんせユージオから情報を共有してもらわないといけないのだから。

 

「ユージオはいろいろと知ってるんだよな? 今の感じからして教会に歯向かうような人間に思えない。それなのに現にキリトと整合騎士を倒しながら登ってきた。理由があるんだろ? 教えてくれないか?」

「いいよ。君も知っておくべきことだろうからね」

 

 俺はユージオから知っている限りの情報を教えてもらった。キリトからはリアル関連のことを聞かないといけないが、この世界のことはユージオからほぼ全部のことを教われたと考えていいだろう。

 

 まず整合騎士のこと。整合騎士は元々普通の人間なのだという。たしかに話してみた感じ、違いが全く感じられなかったしな。というか、天界から召喚された云々の話は忘れてたから「そんなのあったな」って反応になった。で、なんか剣術の大会があって、その優勝者や禁忌目録を侵した人がカセドラルへと通される。そして最も大切な記憶を抜かれて、代わりに先程の天界云々の偽りの記憶と偽りの信仰心を植え付けられるのだとか。それで騎士となるらしい。胸糞悪い話だな。

 次に《東の大門》の話。そこの天命がそう遠くないうちに尽きるらしく、そうなればダークテリトリー軍との戦争が始まるらしい。敵の数は数万を超すと予想され、対する人界の戦力は30人程度の整合騎士のみ。勝ち目がないとしか思えないのだが、こうなることを最高司祭が仕向けたのだとすれば、何か案があるのだろう。記憶を抜いて整合騎士を作ってる人物の案は信用できないんだけどな。 

 次に『右眼の封印』だ。これは《禁忌目録》を破ろうとする者、つまり公理教会に害をなそうとする者の右眼に激痛が走るものらしい。その痛みを乗り越えると禁忌目録を敗れるのだが、右眼が吹き飛ぶらしい。ユージオはロニエとティーゼを助けるためにその封印を破ったのだとか。キリトがそうならなかったということを聞く限り、リアルからダイブしてる俺達には関係ないらしい。

 そして、アリスのこと。アリスはユージオと同じルーリッド村出身の女の子だった。神聖術に長け、村の誇りとも言える少女だったのだとか。イタズラ好きな一面もあり、規則の抜け道を利用したりしてたんだとか。そんなある日、北の洞窟へと行き、ダークテリトリーに指先だけ侵入した。それにより連行されて今のアリス・シンセシス・サーティが生まれたらしい。

 

「……なるほどな。で、ユージオはアリスの記憶を戻したいと」

「うん。カーディナル様に頂いたこの短剣を体のどこにでもいいから刺す。それであとはカーディナル様が戻してくれる」

「なるほど。話はわかった。最終目標はそうであるとして、ひとまずはまた上を目指して登っていくってことでいいんだよな?」

「そうだね。キリトとアリスのことを信じて僕らは上を目指そう」

 

 ユージオがこれからやることは変わらないらしい。そもそも、最高司祭の下へとたどり着いて、話が通じなければ倒すのだとか。ユージオの目は既に決意が固まっており、やり遂げるのだという熱意も感じられる。そんなユージオには悪いのだが、俺は俺で動く。先約(約束)があるのだから。

 

「先に行っててくれるか? 少しやることがあってな」

「それなら僕も手伝うよ。一人よりも二人の方が早く済ませられるだろうし」

「いや、人数が増えたところで変わることでもないんだ。それに、ユージオは戻らずに先を目指すべきだろう。戦う術のない俺を気づかないながら戦うなんて騎士相手にできることじゃないだろうし、ユージオが敵を打ち破ってくれてた方が俺も安全だ」

「……わかったよ。ごめんね、先に行かせてもらうよ」

「謝るなってーの。むしろ戦う術がない俺が悪いわけだし」

 

 態度が柔らかいユージオを先に行かせ、俺はそれを見送ってから逆方向に進む。俺がユージオと別れた理由は、一旦戻らないといけないからだ。戻ると言っても下の階に行くわけでもない。俺が行くのは昇降盤の手前だ。そこでしばらく待っていると、昇降盤がすごい勢いで上がってくる。俺が乗ってた時はここまで勢いなかったはずなんだけどな。

 

「お待たせしました。何階へ行かれますか?」

「移動したいわけじゃない。名前をつけるって話をしてただろ?」

「なるほど。では付けてください。さぁ!」

「なんか饒舌になってない?」

「名前を頂けると思ったら心が踊りました。それだけです」

 

 印象が壊れるんだけど、最初の時の印象は静かというよりかは人間味が薄いって感じだったし、これが本来の彼女なのかもしれない。そう考え、どこかそわそわしてる彼女の目を見る。名前は大切なものだから、ちゃんとこうして言うべきだろう。

 

「"エアリー"。どう?」

「エアリーですか。……ちなみに理由を聞いても?」

「え、可愛いと思ったから」

「はぁー。他人の名前をそんな理由で決めるのですか……」

「ごめんなさい」

「気に入ったので使わせてもらいますね」

「気に入ったのかよ! そりゃよかったよ!」

 

 分からない。エアリーの思考回路が全然分からない。エアリーの表情が一切変わることなく言葉を発せられてるからだろうな。表情から読み取ることができないのだから。何度か自分で確かめるように名前を呟いたエアリーは、本当に気に入ってくれたようで、深々と頭を下げられた。

 

「この名は忘れず、大切にさせてもらいますね」

「こちらこそ受け入れてくれてありがとう。そう言ってもらえると名前を考えた甲斐があったよ」

 

 もう一度礼を言ったエアリーは、昇降盤を操作して降りていった。どこか表情も明るくなっていたし、本当に名前をつけた甲斐があったと思う。ただの自己満として言ったことだったんだが、今回は良い方向に転がったらしい。

 

「さてと、こっからどうしたもんかね」

 

 雲上庭園へと戻っていきつつ考える。今から俺が取るべき行動とはなんなのか。この世界のことを知った上で、俺はいったいどう動くべきなんだろうな。当初の目的からすればキリトの援護だし、最高司祭は聞いている限り気に入らないから敵対するしかないだろう。

 決まっていることもあるんだが、決まってないこともある。だが、それもまた今決めるべきことじゃないだろう。キリトとアリスの二人と合流してから決めよう。ユージオが道を作ってくれてるだろうし。人任せなのは申し訳ないがな。




 前回では忘れてましたね。
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