灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
〜夜の闇横丁〜
薄暗く浮浪者のような魔法使い達が住む暗黒街。以前と比べれば犯罪件数は減少傾向にあり、治安も徐々に良くなっている。かつてウィルが育った街であり、彼は慣れたように行き来している。
「これが例の?」
店の奥の部屋で魔法で宙に浮いている黒い羽根ペンを闇祓い達が取り囲むように見ている。その中心に2人の魔法使いが立っている。白髪の混じるオールバック、額には稲妻の傷跡、黒い丸眼鏡の中年の男性。闇祓い局局長のハリー・ポッター。その隣に立つ神経質そうな細身の中年の男性。変身術で他人に化けたウィリアム・マルフォイ。ホグワーツの“闇の魔術に対する防衛術”教授だ。
「あぁ、ただの羽根ペンにしか見えないだろうが・・・。」
「感じるよ、奴の
ウィルは目を鋭くさせて突き刺さるような魔力を全身で感じ取る。今まで何件も同じ事案に関わってきた。今更間違える事はない。
「任せてもいいか?」
「あぁ。」
彼の専門分野である闇の魔術、更に彼の実父の負の遺産である。彼は羽根ペンへ手をかざしてゆっくりと横へ振るう。すると黒い魔力が空気に気化するように舞い上がる。そしてすぐにウィルの手のひらから彼の体内へ吸い込まれていった。
「まだ痕跡がこの世に残ってるとは凄まじい力だ。流石に敬服せざるを得ない。」
彼は小さく溜息をついて闇の魔力を祓う。これはハリー達の闇祓いの専門分野であるが、危険性を鑑みて魔法大臣から直々の要請を受けてウィルは向かった。
仕事を終えてハリーは新人の部下に報告書を魔法省へあげるように指示を出し、2人で店から出て行く。
「ウィル。気になることがある。」
ハリーの神妙な面持ちに彼はすぐに察して口を開く。
「“
「あぁ、また事件が起きた。」
“血の龍”、ここ数年で数ヶ月おきに起こる無差別テロの犯人を暗喩する言葉だ。犯人は未だに捕まっておらず、魔法省は早急な解決へ向けて尽力しているが成果は得られてない。
犯人は犯行後、殺害した魔法使いの血を用いて壁や床に龍の紋章を残す。
「明日公表されるがファッジが殺された。」
「なに、元魔法大臣が?」
ウィルは驚いた表情を浮かべる。彼らが学生の時に魔法大臣だった男だ。会話を数度交わしたことがある程度だが、人当たりが良く2人の中で魔法大臣として強く印象に残っている。
「そうだ。昨年の
ハリーはそう語るが、ウィルが遮るように口を挟む。
「あぁ。そう遠くない未来に。僕と君が奴の襲撃を受ける事になるだろう。」
ウィルは世間話のように言った。彼にとって襲撃は危険視していない。
「闇払い局では一人、容疑者が浮上している。証拠はないが動機がある。それにずっと行方知れずだ。」
ハリーは少し言いにくそうに言うが、ウィルは誰が容疑者なのか察したようだ。
「あぁ、だが当てはまらない点がある。奴なら単独犯だ。それならホグワーツにいるはずの内通者がいない可能性がある。」
ウィルの表情は少し強張っている。彼らはホグワーツに“血の龍”の
「いや、いるさ。協力者と疑われる男が。昔の縁は忘れろ。ひとまずお互いの役割を決めよう。」
「・・・。」
昔の縁という言葉にウィルは口をつむぐ。彼の昔結成していた組織の事だ。ヴォルデモートやダンブルドアに対抗するために集まった一団で彼がリーダーだった。しかしホグワーツの戦いの後に解散した。
「僕達、闇払い局は最優先でエディアナ・マクミランの行方を追う。君はグレオンを監視するんだ。」
彼の組織の両翼だった男女である。魔力に愛されたエディアナと魔力に拒まれたグレオン、たしかに2人はいいコンビだった。
「いいだろう。だが今は推測だけで証拠はない。」
ウィルは痕跡が残されていない事から決めつるのは早合点が過ぎると言いたいのだ。
「僕は君も疑っている。」
「なんだと?本気で言ってるのか?」
ウィルは少し苛立ちを覚えたらしく、ハリーをキリッと睨みつける。
「過去数件のテロ行為を痕跡を残さずやり遂げる魔法使いがこの国に何人いる?」
「僕かエディアナくらいだと言うのか?」
ウィルは呆れたように声をあげる。そしてすぐに口を開く。
「ハリー、変わったな。昔ならそんな事は言わなかった。」
昔のハリーならハーマイオニーと同じくどんな状況であってもウィルの事を信じてくれたはずだ。
「いつまで昔の事を引きずっている?昔のままなのは君だけだ。僕らはもう大人なんだ。」
ハリーは口調を強めて言い放つ。ウィルは静かに怒りを心のうちに封じめようとする。
「僕の
ウィルは分霊箱によって永遠の命を得ている。容姿が18歳の時で止まっている事をハリーに貶められたのだ。それを察している彼は冷静に冷たく言い返す。
「闇の魔術だ。ヴォルデモートと同じ呪いだ。」
ハリーは嫌悪するようにウィルへ言った。
「僕の使命だ。予言はまだ終わってないのかもしれない。」
彼の予言、カッサンドラ・トレローニによるウィルの選択次第で世界が破滅か安寧が訪れるか決まるという予言だ。
「巨悪はヴォルデモートで、それはもう終わった予言だ。」
ハリーはウィルの予言の破滅がヴォルデモートに彼が加担した時に訪れる未来だと考えている。実際ウィルもそう考えているが予言に答え合わせなどできない。
「俺は世界を破滅させる可能性がある。決めつけるな、お前は頭が硬くなってる。」
「少なくとも僕の目の黒い内はそうはさせない。君はヴォルデモートの息子だ。」
その言葉にウィルは激昂してしまう。なにがハリーをそう変えてしまったのかわからないが、ウィルからみてそれは異常な執着だ。
理由はわかる。ヴォルデモートの昔の呪いの品に対して自分達だけで解決したいのだろう。リスクを回避するためとはいえ、毎回本職ではないウィルを呼び出して解決させる。これはハリー率いる闇祓い局の意向ではなく、魔法大臣の意向だ。だからプライドが許さないのだろう。
「名声が欲しいか?ポッター。昔が恋しいのだろう?ローブの棒切れを握れ。」
ウィルは怒りに身を任せてハリーを煽り始める。彼の心をより傷つける言葉を選択して侮辱をする。
「杖を取るんだ。」
ハリーは顔を真っ赤にして怒る。年齢的にも更年期に入る。自分の怒りの感情を思うようにコントロールしづらくなっている。ハリーは杖をいつでも抜ける体制を取っている。
「“生き残った男の子”、偉大なのは君じゃない。君の母親だ。」
ウィルは更に続ける。お互いに学生時代の関係の面影はない。
「君の父親は偉大とは正反対のクズだ。偉大な両親を無残に殺した。」
ハリーはウィルに対して悪態を吐く。
「口をつぐめ、さもないと頭ごと無くなるぞ。」
ウィルは語気を強めて言い放つ。
「こっちのセリフだ。」
「先に侮辱したのは君だ。昔みたいに叩きのめしてやる。」
その言葉にハリーが杖を引き抜いてウィルへ向ける前に吹き飛ばされてしまう。相対するウィルは杖を手にしてない。無言呪文である。
「君は危険だ。不死、更にニワトコの杖まで所有している。」
地面に叩きつけられたハリーは尻餅をついて鈍い痛みを覚える。
「お互いに頭を冷やそう。杖の件も何度も話し合っただろう?前線に出る君に杖の所有権を渡す方が危険だ。」
ウィルは自分の行動が褒められたものでないと思い、柔らかい口調でハリーへ言う。
「ひとまず僕らの立場をはっきりさせよう。目的は同じはずだ。」
互いに魔法界をより良い世界にしようとしているはずだ。2人が争うメリットがないとウィルは主張する。
ひとりの魔法使い早歩きでウィルとハリーの元へやってくる。ストレスからか薄くなった赤毛の髪の魔法省の役人だ。2人の学生時代の知り合いである。
「ウィル、大臣が君をお呼びだ。・・・この状況は?決闘したんだな?法律違反だ。」
彼もまた頭が硬く法律違反だと主張して2人を睨みつける。
「パーシー、違うよ。少し派手に転んだだけさ。なぁウィル。」
パーシー・ウィーズリー、ハリーらの友人のロンの兄である。学生時代に監督生を務めたほど真面目で優秀な彼だ。魔法省でも役人として上手にやっているようだ。
「あぁ。すぐに魔法省へ向かおう。」
2人は店に戻り店主に暖炉を借りて
***
〜魔法省〜
とても質素で整理整頓された魔法大臣の部屋にウィルは訪れていた。大臣は栗毛の女性で彼女は書類を整理している。
「魔法界に危険が迫ってる。」
ウィルは手を止めずに作業を続ける“魔法大臣”ハーマイオニーに忠告を行う。
「大丈夫でしょ?貴方がいるもの。」
速度を落とさず素早く書類を捌きながら彼女は言い放つ。相変わらず器用だとは思いつつウィルは少しだけ口調を強めて返事をする。
「僕ばかり頼られても困る、本業は教師だ。ハリーに一任してくれ。」
ウィルはハーマイオニーに苦言を呈した。今ではダンブルドアの気持ちもわかる。教師をしながら敵に対抗するには神経を使う。
「政治は結果が全て。つまり確実じゃなきゃいけないのよ。だから貴方に頼んでる。」
ハーマイオニーは冷たく表情を変えずに言い放つ。その際にウィルの方を一瞥すらしなかったためウィルは苛立つ。
「随分と心が冷たくなったな。」
ハーマイオニーは一瞬手を止めて意外そうな視線をウィルへ向けるが、すぐ作業を再開する。
「魔法大臣ですから。」
ある種の信頼なのだろうとウィルは考えている。逆の立場でもそうするだろう。もちろん彼女以外が自分の前にいたら作業は中断する。
「まぁそうなるしかないよな。お互い忙しい身だ。今じゃ落ち着いて2人で食事すらできない。互いの肩書きは10分だけ忘れよう。」
ウィルは理解を示しつつお願いするかのように彼女へ言った。
「いいわよ、それで要件は?」
彼女はようやく手を止めてウィルの顔をまじまじと見つける。彼は自分にかかっている変身術を解いて本来の姿に戻る。相変わらず大人びた18歳の好青年のままだ。彼女はホグワーツの戦いがついこの間の出来事のように思わされる。
「家族との時間を大事にしたい。特にジェニスの事だ。」
ウィルは懇願するようにハーマイオニーへ語りかける。彼女にもまだ小さいが娘がいる。彼の気持ちはわかるだろう。
「あの子かわいいものね。少しくらい生意気な方がちょうどいいでしょ。」
「それは言えてる。」
まるで学生時代の関係に戻ったかのようだ。しかしウィルはすぐに瞳を鋭くさせる。
「だが危険だ。アイツはヴォルデモートを超える器と才能がある。まだ若過ぎる。奴の信仰者が近づいて影響しないとは言い切れない。」
死喰い人の多くは既に死んだかアズカバンに収監されている。しかし未だにマグル出身のハーマイオニーを良く思わず、ヴォルデモートを支持する団体や魔法使いは多い。
「かつてのあなたのようね。でも違うのはあの子は自分を持ってる。それも周りを意に返さない程強く。」
ハーマイオニーはジェニスの性格や学校生活の情報が耳に入っているのか話はスムーズだ。
「もしジェニスがホグワーツに通わず僕が時間の全てを彼女に捧げたら、間違いなく成人する前に僕を超える。」
今の世界最強の魔法使いにそこまで言わせるジェニスの才能にハーマイオニーは少し驚いた。少し興奮すると同時に恐ろしくなる。
「だからホグワーツに通わせ無意識に距離を取ってる。何者にも恐怖しないあなたが娘の潜在能力に怯えてる。」
ハーマイオニーは冷静に彼の心理を見抜いてしまう、だから娘との関係が上手くいっておらず学校であのような態度を取るのだろうと彼女は考えた。
「そうだ。あの子は若い。精神が幼いうちに力を得れば簡単に心を壊され暴走する。」
ウィルは彼女に対する懸念を示した。どれほど実力があろうとも狡猾な大人の手によって自由に操られないとは言い切れない。
「わかるわ、心配する気持ち。貴方が支えるべきというのも理解できるし、尊重させたい。」
ホグワーツで未来を支える仕事、そして闇祓いや様々な学問の研究で彼は何処にでもある家庭での安らぎを享受できてない。当然、過剰なストレスを感じておりそれを他者に当たる性格ではない彼は自分で自分の機嫌をとらなければならない。そのウィルが自分とハリーの板挟みになっているのだとハーマイオニーは理解した。
「でも私達は道は違えどお互いに指導者。子供達の未来を導かないとだめ。」
理解した上でハーマイオニーはウィルへ苦言を呈する。それは間違いなく正論である。
「可能性や個人的な親心で目の前の問題を見て見ぬ振りはできない。」
これが彼女の結論である。立場さえなければウィルに寄り添えただろう。しかしそうはいかないのだ。自分の行動ひとつで国が揺るぎかねない、そういう意識が国を守るという結果に繋がるのである。
「その通りだ。だが僕はそこまで割り切ることができない。最近、少し心が不安定なんだ。妙な胸騒ぎがする。」
ウィルは珍しく精神的に弱っているようだ。ハーマイオニーはこんな姿を見た事がない。最強の魔法使いの才能と知識、不死という稀有な存在であるにもかかわらず、弱点はあるのだ。それは彼の心なのだと気がついた。
精神と体力を削る激務、更に預言を正しく導くために常に自分を追い込む鍛錬、娘や家庭での時間を犠牲にしている負い目が彼を追い詰めているのだ。しかし彼以外にはこなすことができない。だから彼は未来の為に普通を捨てる義務がある。
「分霊箱の影響?」
ハーマイオニーはそう尋ねた。遠い昔にハリーとロンで分霊箱を探して破壊する旅へ出た事がある。その時に分霊箱を持った人の心が蝕まれることがあった。その影響が持ち主に受けないとは言い切れない。ヴォルデモートの精神が暴走したのも分霊箱の影響なのではないかと推察した。
「いや、それは師匠が呪いを取り払ってくれた。それは違う。遠くない未来にヴォルデモートを超える敵が現れる。僕はそれがジェニスなのではないかと思ってしまう。」
*呪いの子を読んでない方はハリーに違和感を覚えるかもです。
ハリー・ポッター
年齢→37歳
戦闘力→A(上位クラス)
職業→闇祓い局局長
悩み→職場と家庭の板挟み