我が主君はひとでなし   作:昆布たん

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仲間追加。


忠誠【貳】:爆裂娘と被虐美女と寡黙幼女←?

 あの後、彼の少年雪葉の噂は瞬く間に街へと蔓延し、ギルド内は一時大人数の冒険者達で埋め尽くされた。

 噂を聞きつけた者たちが彼の下へ訪れては、その愛らしい見た目に心を打たれ、口々に自分達のパーティーへ入らないかとあの手この手で引き抜こうと試みるが、彼は一度首を振ってから桜の花弁を想わせる様な薄桃の唇を開き、同じ返答を告げるのだった。

 

「……この身……主君に……全て捧げた……故に……他へ……仕える道理……無い」

 

 次々に素気無くあしらわれた冒険者達は皆一様に落胆しながら、去り際に和真へ罵倒や舌打ちを零し、姿を消していった。

 

「……なあ、アクア」

「何よ?」

「ユキハを勧誘にきたの、今ので何人目だ?」

「そんなの数えてないから知らないわよ。少なくとも、三時間待ちの行列が出来てたのは確かね」

「何でだ⁉︎俺とこいつでどうしてこんなに扱いが違うんだ⁉︎」

「何言ってんのよ、一目瞭然じゃない。顔も能力も、何もかも全部あんたより優れてるユキハを仲間に入れようと考えるのは当然でしょ?私だってそうするわ」

 

 至極真っ当に提示されたアクアからの帰結に、和真は口を噤むと一瞬怒りで立ち上がった己を恥じるように、静かな動作で腰を下ろした。

 

「まあ、それはいい。百歩譲って良しとしよう。だが……ユキハに金を恵んで行く奴らは何なんだ⁉︎」

 

 歯噛みながらに和真が指を差すのは、雪葉の前に積み上げられた卓上の小さなお金の山。

 冒険者の中にも敬虔なエリス教徒が多数おり、パーティーへの加入とは別に、雪葉をこの目にせんとやってくる者達もギルドを訪れた。

 彼の姿を目にした信徒は、全員みるみる涙を零し始めながら、「ああ……見える、見える!我等が信教の御神体であらせられる女神エリス様の寵愛を受けしその証が……!あなたの尊きお姿を拝謁の栄に預かり出来た事、心から感謝を申し上げます。これは、少しばかりの気持ちです……!」と次々に謝礼金を彼へと渡して行くのだ。

 もちろん、こんなものを受け取る訳にはいかないと思う彼は毎度首を振りながら信徒達へと断りを返すのだが、彼等は終いには「何卒……!何卒この信心の証をお受け取ください……!でなければ私には生きている価値などない……っ!」と土下座を敢行したり、中には己の首元へ素材の剥ぎ取りなどで持ち合わせているナイフを突き立てようとする姿が見られた。

 彼はその後、渋々受け取らざるを得ない心境に立たされ続け、やがて集め終えた金額は、凡そ五十万エリスをゆうに超えていた。

 これは女神エリスによって施された特典である常時発動型のスキル、女神の寵愛:幸福による恩恵なのだが、彼女が本来意図するものとは違う形でその効果が表れてしまったのだ。

 結果、彼が幸福感ではなく罪悪感に苛まれたのは言うまでもない。

 

「ああ、それはエリスがこの子に与えた恩恵の効果ね。多分この街はエリス教徒ばかりだから、何処に行ってもこんな風にお金貰ったり、信徒のお店にある商品は何でも半額以下になる上、おまけまでして貰えるわ」

「もうそれ一瞬の催眠じゃねえか」

 

 その絶大なスキルの効果に、和真は羨望しつつもちょっぴり恐ろしさを感じながら、雪葉に目を配る。

 

「……主君……お金……大量……困った……」

「ああ、それなら俺が預か──」

「カズマ。それでもし一エリスでも自分の為に使ったりしたら、信徒に何されるか分からないわよ」

「──大事にとっておけ。今後欲しいものが出てきた時の為にな」

「……ん……承知」

 

 前の世界では、領主に出逢うまで宵越しの金すら持たず、日々虫や爬虫類、草花で腹を満たしていた為、今まで目にした事も無かった硬貨の山を前に、彼は困惑の表情を浮かべながら和真へ助言を求める。

 そんな視線を受け、上手くいけば自分のものに出来ると言葉巧みに説き伏せようとした和真だが、横槍を入れたアクアからの忠告に怖気付き、素直に普通のアドバイスを送った。

 雪葉は和真の助言に一度頷くと懐から巾着袋を取り出し、お金を詰め込んで再び懐へ戻す。

 傍目からは不自然に片胸が盛り上がっている様に見える為、和真達が座るテーブルの横を過ぎ行く人は、皆怪訝な表情で雪葉の胸付近を横目に伺いながらその場を去っていった。

 雪葉の件がひと段落すると、アクアは唐突に口を開き始める。

 

「アレね。仲間を募集しましょう!」

 

 ギルド内に併設された酒場で、雪葉達三人は作戦会議を始めた。

 ここ、冒険者ギルドは、冒険者達の待ち合わせや溜まり場としても使われていて、討伐したモンスターの買い取りと、モンスターの料理が売りの大きな酒場が併設されており、彼等はそこで話し合っている。

 今日は討伐したカエル三匹の肉が調達出来た為、ギルドへカエル肉を売り、和真とアクアはそこそこの小遣いを入手。

 通常、あのような巨大なモンスターを討伐した場合、ギルドへ依頼すれば、倒したモンスターの移送サービスを行ってもらえる。

 しかし、モンスターの種類ごとに移送の手間が異なる為、比例して金額にも大きな差が出てくるとの事。

 今回のモンスター、ジャイアントトードの引き取り価格は三匹纏めて移送サービス込みで一万五千エリス。

 その内一匹は、まだ冒険者登録をする前の雪葉による討伐だったが、これからの活躍への投資代金として、ギルドから特別に引き取ってもらう事が出来た。

 そして、卓上に並べられた蛙の様々な料理に、彼等は手を伸ばしながら次の議題を討論していた。

 

「いや、ユキハが加わったんだから、別に十分じゃないか?」

「……ん……主君の為……この身……数多の武功……確約……」

「何言ってんのよ。パーティーにはバランスってもんが大事でしょ?私達には遠距離で攻撃出来る魔法使いや、守ってくれる壁や囮になるクルセイダーとかが必要なのよ。ユキハは接近戦専門じゃない」

 

 アクアらしからぬ要点を押さえた何気ない言葉に、雪葉は何故か説明しようのない不吉な予感を察知した。

 

「でもなあ……。仲間ったって、ユキハ一人ならともかく、駆け出しでロクな装備もない俺達と、パーティー組んでくれるやつなんかいると思うか?」

 

 口一杯にカエルのモモ肉を頬張るアクアは、手にしたフォークを左右に振った。

 

「ふぉのわたひがいるんだはら、なかああんて」

「飲み込め。飲み込んでから喋れ」

「……口に入れたまま……話す……誤嚥の危険……高い」

 

 口の中の物をゴクリと飲み込み、

 

「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。なにせ、私は最上級のアークプリーストよ。あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に毒や麻痺なんかの治癒、蘇生だってお手の物よ?どのパーティーも喉から手が出るくらい欲しいに決まってるじゃない。カズマのせいで地上に堕とされ、本来の力からは程遠い状態とはいえ、仮にも女が……、コホンッ!このアクア様よ?ちょろっと募集かければ『お願いですから連れてってください』って輩が山ほどいるわ!分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさいよ!」

「……主君の奪う……めっ。……この身の……肉……与える」

「あらそう。じゃあ、遠慮なく」

 

 と言って、自身の代わりに雪葉から唐揚げを摘まみ取った自称女神を、和真は不安げに眺めていた。

 

 

 

 

 

こ・の・す・ば

 

 

 

 翌日の、冒険者ギルドにて。

 

「……………………来ないわね……」

 

 アクアが寂しげに呟いた。

 求人の張り紙を出した彼等は、冒険者ギルドの片隅にあるテーブルで、すでに半日以上も未来の英雄を待ち続けている。

 どうやら、張り紙が他の冒険者の目に留まっていない訳ではないらしい。

 彼等以外にも、パーティー募集をしている冒険者はそこそこいる。だがその人達は次々と希望者が現れ、面接ながらに談笑を交わした後、どこかに連れだって行った。

 だが、彼等が出した張り紙とは別に、こちらへ用件を持ちかけてくる冒険者が何組か訪れたが、そんな冒険者達が話しかける相手は、専ら雪葉であった。

 雪葉は一応用件の内容を把握する為に取り合うが、話す内容がどれも建前ばかりで、相手の本音は彼に対する視線が如実に物語っていた。

 彼の全身を舐め回すように視線を動かし、場合によっては接触を試みようと手を伸ばして肩を組もうとしたり、片膝をついて手を取ろうと企む輩がいたが、その誰もが、瞬時に背後を取られて首元へ刀を添えられる。

 

「…………手前は……既に主君の者……()の許しなく……この身に触れれば……その命……ここで散らす」

 

 彼の強烈な返答を受けた冒険者達は、恐怖に染まりながらそそくさとギルドを後にして行く。

 こんな輩以外、誰も来ない理由はただ一つ。

 

「……なあ、ハードル下げようぜ。目的は魔王討伐だから仕方ないっちゃ仕方ないんだろうが……。流石に、上級職のみ募集してますってのは厳しいだろ」

「うう……。だってだって……」

 

 この世界の冒険者には、上級職というのがある。

 アクアが就いた、アークプリーストも上級職の一つだ。

 普通の人間ではそうそう、就けない、言ってみれば勇者候補だ。

 ちなみに、雪葉の職業は唯一職という例外に分類され、彼以外に就く事は叶わぬ究極の職業として、ギルドでは永久欠番などと訳のわからぬ扱いで登録された。

 当然、そんな勇者候補は既に他のパーティーで優遇されている訳で……。

 アクアは、魔王討伐の為に出来るだけ強力な人材で固めて万全な布陣を築きたいと考えているのだ。

 しかし……。

 

「このままじゃ一人も来ないぞ?大体、お前とユキハは上級職以上かも知れんが俺は最弱職なんだ。周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる。ちょっと、募集のハードル下げて……」

 

 和真がそう言って、立ち上がりかけた時である。

 

「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

 どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。

 そして、黒くしっとりとした質感の、黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子まで被った、典型的な魔法使いの少女だった。

 まるで人形のような顔をした、ショタっ子な雪葉に続く──ロリっ子──である。

 この世界では、子供が働いているのも別に珍しくは無いようだが……。

 どう考えても12〜13歳程にしか見えない、片目を眼帯で隠した小柄で細身なその少女は、突然バサッとマントを翻し、

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」

「…………冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがわい!」

「……主君……幼女の、児戯……静かに……見守る」

「と、歳下に幼女呼ばわりされた⁉︎しかも子供の悪戯扱い⁉︎」

 

 女の子の自己紹介に突っ込んだ和真に、その子が慌てて否定した矢先、雪葉は彼女に対する善意からの気遣いで己の主人へ進言したつもりなのだが、それは却って女の子の自尊心を軽く傷付けていた。

 

「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」

 

 アクアの問いにその子はこくりと頷くと、アクアに冒険者のカードを手渡した。

 

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……!……という訳で、優秀な魔法使いは要りませんか……?……そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べてないのです。できれば、面接の前に何か食べさせては頂けませんか……」

 

 めぐみんは、そう言って悲しげな瞳でじっと彼等を見つめてきた。

 それと同時に、めぐみんの腹の辺りからキューと切ない腹の虫が鳴る。

 

「……飯を奢るくらいなら構わないけどさ。その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしているのなら、こいつに治してもらったらどうだ?」

「……フ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり……。もしこれが外される事があれば……。その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう……」

「へえー……。封印みたいなものか」

「まあ嘘ですが。単に、オシャレで着けているただの眼帯……、あっあっ、ごめんなさい、止めてください引っ張らないでください!」

「……主君への……虚言……制裁は……至極当然」

「やめ……、やめろーっ!」

「良いぞー、ユキハ。俺の意図をしっかり理解してもらえて何よりだ」

「……ええと。二人に説明すると、彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は名前の由来となっている特徴的な赤い瞳と……。そして、それぞれが変な名前をもっているの」

 

 無表情でめぐみんの眼帯を引っ張っている雪葉とそれを称賛している和真に、アクアがめぐみんを始めとする紅魔族の詳細を述べた。

 

「……名前といい眼帯といい、俺をからかっているのかと思ってたわ。ユキハ、もういいぞ」

「……御意」

「あ゛あぁぁ!いーったい目がぁー!」

 

 引っ張られたままの眼帯を勢いよく解放され、強烈な衝撃を左目に受けためぐみんはしばらく蹲った後、再び和真達へと向き直る。

 

「へ……変な名前とは失礼な。私から言わせてみれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

「……ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」

「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」

「「…………」」

「いだだだだだっ、こ、こめかみがぁーっ!」

「……またしても……主君に、虚言……慈悲は、無し」

「……ユキハ。多分本当だから……離してやれ」

「……御意」

「頭が、頭があああぁ!」

 

 思わず沈黙する和真とアクアを背に、彼は床の上でごろごろと左右に転がり続けるめぐみんを無心で見下ろした。

 

「…………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな?仲間にしてもいいか?」

「おい、私の両親の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

 

 和真に顔を近づけようと迫るめぐみんのマントを雪葉が引っ張って押さえ、尚も諦めぬ彼女へアクアが冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない?冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力が記されているし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄いことよ?爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

「……主君……望むなら……手前……これの加入……同意」

「おい、彼女やこれではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

 

 抗議してくるめぐみんに、和真は店のメニューを手渡した。

 

「まあ、何か頼むといいよ。俺はカズマ。こいつはアクアに、この子がユキハだ。よろしく、アークウィザード」

「……主君の……厚意……有難く……受け取る、べし」

 

 めぐみんは何か言いたそうな顔をしながら、無言でメニューを手に取った。

 

 

 

 その後、腹一杯料理を嗜んだめぐみんは、お腹を摩りながら唐突に口を開く。

 

「そう言えば先程、あなたはカズマと名乗っていましたね」

「ああ、そうだけど」

「ではあなたが噂の“ゲドウカズマ”でしたか」

「ユキハ」

「……承知」

「待ってくださいこれにはワケがあるんです!話の続きを聞いてください!」

「止め」

「……御意」

 

 めぐみんの聞き捨てならない一言に、和真は雪葉を嗾けようとしたが、話の続きがあるらしき彼女からの懇願を受け、制裁を一旦中止させるも、すぐさま再開できるよう雪葉の手はめぐみんの眼帯を摘む様に目の前で停止している。

 

「プー、クスクスッ。で、それってどんな噂っ?」

 

 口もとを隠す様に指先を添えながら笑いを堪え、体を震わせるアクアが問いかけると、めぐみんは再び語り始めた。

 

「……実は、ここに来る途中、妙な噂を街の広場で聞いたんです。この街には、幼い少女を奴隷として連れ歩く屑野郎がいると。その名はゲドウカズマ。短い茶髪に茶色い目の、緑色の変わった服装をした冴えない顔の男だ、とも言ってました」

「完全にカズマとユキハのことね」

「今からそいつの顔を拝みに行きたいんだが、どんな奴か覚えてるか?」

 

 和真は徐に腰を上げ、めぐみんに噂を広めた犯人を誰何する。

 

「いえ、遠目からだったので顔はよく覚えてませんが……確か三人組の男だったかと。しかもその三人組、何やら自分たちの武器を見せつけては、妖刀ナンチャラとか、豪拳カンチャラとか、天弓ドウタラとか自慢していましたね」

「ふっ……負け犬の遠吠えに相手をするまでもないか」

 

 軽く鼻を鳴らし、和真はゆっくりと椅子へ腰を預けた。

 

「カズマ。あんた相手が自分と同じ転生者だからって怖気づいたでしょ」

「やかましい!見逃しただけだし⁉︎別に何と言われようが気にしてないし⁉︎」

「……流石……主君……器……大きい……」

「まあユキハの様子からして、あくまで噂でしたね。クエストを行う上では何の不便もないですし、気にする必要なんてありませんよ」

「はあ……そいつら、明日には広場に裸で磔にされてねえかな……」

「そんなくだらない神頼み、誰も聞かないわよ?」

 

 そんなやり取りを交わし、彼等は新たな勢力を連れて再びクエストへと向かった。

 

 

 

 

 

こ・の・す・ば

 

 

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

 和真達は満腹になっためぐみんを連れ、あのジャイアントトードのリベンジに来ていた。

 平原の遠く離れた場所には、一匹のカエルの姿。

 そのカエルは、こちらに気付いて向かって来ていた。

 だが、更に逆方向からも別のカエルがこちらに向かう姿が窺える。

 

「遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。近い方は……おい、行くぞアクア。ユキハの手を借りずに今度こそリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろう?たまにはなんたらの実力を見せてみろ!」

「元って何⁉︎ちゃんと現在進行形で女神よ私は!アークプリーストは仮の姿よぉ!」

 

 涙目で和真の首を締めようと雪葉に止められる自称女神を、めぐみんが不思議そうに。

 

「……女神?」

「……を、自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

「……主君……一応……事実」

 

 和真の言葉に、同情の目でアクアを見るめぐみん。

 涙目になったアクアが、拳を握ってヤケクソ気味に、近い方のカエルへと駆け出した。

 

「何よ!打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ!見てなさいよカズマ!今のところ活躍してない私だけど、今日こそはっ!」

 

 そう叫び、見事カエルの体内へ侵入を果たした学習能力の無いアクアが、やがて動かなくなり、そのまま一匹のカエルを足止めする。

 彼女は女神の意地を通すべく、身を呈して時間稼ぎをしてくれるようだ。

 

「……主君……あれ……助太刀……必要?」

「いや、あれはアクアなりの覚悟だ。静かに見守ってやれ」

「……承知」

 

 そんな中、めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。

 めぐみんが使おうとしている魔法が壮絶な威力を誇るであろう事は、魔法を知らない和真や雪葉でも察知した。

 魔法を唱えるめぐみんの声が大きくなり、彼女のこめかみに一筋の汗が伝う。

 

「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが、究極の攻撃魔法です」

 

 めぐみんの杖の先に光が灯った。

 膨大な光をギュッと凝縮した様な、とても眩しいが小さな光。

 めぐみんが、紅い瞳を鮮やかに輝かせ、カッと見開く。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 平原に一筋の閃光が走り抜ける。

 めぐみんの杖の先から放たれたその光は、遠く、こちらに接近してくるカエルに吸い込まれる様に突き刺さると……!

 その直後、凶悪な魔法の効果が現れた。

 目も眩む強烈な光、そして辺りの空気を震わせる轟音と共に、カエルは爆裂四散した。

 凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになりながらも、和真達は足を踏ん張り顔を庇う。

 爆煙が晴れると、カエルのいた場所には二十メートル以上のクレーターができており、その爆発の凄まじさを物語っていた。

 

「……すっげー。これが魔法か……」

「……!主君……っ!」

 

 和真がめぐみんの魔法の威力に感動していたその時。

 雪葉が和真へ注意を促し、警戒態勢を形成しつつ見つめる先から、魔法の音と衝撃につられて目覚めた一匹のカエルが地中からのそりと這い出て来た。

 カエルはめぐみんの近くから這い出ようとしているが、その動作は非常に遅い。

 この隙に三人でカエルから距離を取り、先程の爆裂魔法で消し飛ばしてもらえばいいと考えた和真は、

 

「めぐみん!一旦離れて距離を取ってから攻撃を……」

 

 そこまで言いかけて、めぐみんの方向を向くと同時。

 和真はそのまま動きを止める。

 そこにはめぐみんが倒れていた。

 

「ふ……我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える力を使ったので身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ……⁉︎」

 

 和真は溜め息を吐きつつ、側で佇みながら無表情でカエルに飲まれていく二人を眺める雪葉に呼び掛ける。

 

「……雪葉」

「……御用命……如何に」

 

 何となく、和真からその後を聞かずとも雪葉には分かっていたが、己が勝手に助けを出す訳にもいかず、態々主からの命令を待つ他無かった。

 

「……アクアの方を助けてやれ。俺はあっちを助けてくる……」

「……御意」

 

 和真の命を受け、彼は一瞬の間にアクアを飲み込んだカエルの懐へと潜り込み、その腹に手を翳す。

 

「……破」

 

 彼が抑揚無く発声しながら打ち込んだ掌底は、巨大な風船が割れた様な破裂音を生じると共に、カエルの体を微塵の肉塊に変えた。

 一度空中に舞い上がったカエルの体内から飛び散った臓物は、べちゃべちゃと不快な音を立てながら遥か先の草原をその鮮血色に染めていく。

 

 

 こうして、アクアとめぐみんが身を投じて動きを封じたカエル二匹に男組がとどめを刺し。

 何とか、三日以内にジャイアントトード五匹討伐のクエストに一匹追加で任務を満了させた。

 

 

 

 

 

こ・の・す・ば

 

 

 

「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう…………」

「……あくあ……蛙の動き……体で止めた……大変……名誉なこと……」

「ぐすっ……うえええええん……っ。私を女神として扱ってくれるの、ユキハだけよおお……。もっと褒めてぇえぇぇ……!」

「……今のあくあ……接触禁止」

 

 嬉しいのか悲しいのか区別のつかない涙を流すアクアは、側で気遣う雪葉へ抱き着こうとするが、すぐに距離を置かれるやり取りを交わしつつ、和真の後を付いて来ていた。

 

「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温いんですね……。知りたくもない知識が増えました……」

 

 アクアと同様粘液まみれで、知りたくもない知識を教えてくれながら、めぐみんは和真の背中におぶさっていた。

 魔法を使う者は、魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削る事になる。

 魔力が枯渇している状態で魔法を使うと、命に関わる場合もあるようだ。

 

「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん」

 

 和真の言葉に、背中におぶさっためぐみんが、肩を掴む手に力を込めた。

 

「…………使えません」

「…………は?何が使えないんだ?」

 

 めぐみんの言葉に、和真がオウム返しで聞き返す。

 彼女は、和真へ掴まる手に更なる力を込め、その薄い胸が和真の背中へと押し付けられた。

 

「…………私は、爆裂魔法しか使えないんです。他には、一切の魔法が使えません」

「…………マジか」

「…………マジです」

 

 和真とめぐみんが静まり返る中、今まで鼻をぐすぐす鳴らしながら雪葉へ縋り付こうとするも頭を押さえられ、近寄れなかったアクアがようやく会話に参加する。

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事?爆裂魔法を習得できるほどのスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得してない訳がないでしょう?」

 

 ……スキルポイント?

 そういえば、ギルドのお姉さんが何かを説明していた事を、和真と雪葉は思い出す。

 そんな二人に目を配ると、アクアが説明を始める。

 

「スキルポイントってのは、職業に就いた時に貰える、スキルを習得する為のポイントよ。優秀な者ほど初期ポイントは多くて、このポイントを振り分けて様々なスキルを習得するの。例えば、超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを全部習得し、それからアークプリーストの魔法も全部習得したわ」

「……宴会芸スキルって何に使うものなんだ?」

 

 その後も、和真の宴会芸スキルに対する質問をアクアは無視し続け、爆裂魔法のみを習得する為にアークウィザードの道を選んだめぐみんの姿勢に感銘を受けたアクアは、二人で意気投合し始め、めぐみんをおぶさる和真は盛大に肩を落としながら溜め息を吐いていた。

 そんな三人から少し離れる様に雪葉は後ろからついて行き、その背中を見つめながら静かに微笑みを浮かべ、天界から見守ってくれているであろう幸福の女神様に向けて、感謝が伝わる様に空を仰いだ。

 

 

「ふえぇ⁉︎……もうっ。感謝の不意打ちなんて、卑怯ですよ……っ!」

 

 

 一人天界から下界を見守っていたエリスは、予期せぬ彼の謝意を受け、茹で上がる自身の顔を冷まそうと必死に両手で扇いでいた。

 

 

 ちなみに、紆余曲折の末、めぐみんは正式にパーティーの仲間入りを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

こ・の・す・ば

 

 

 

「はい、確かに。ジャイアントトードを三日以内に五匹討伐。クエストの完了を確認致しました。ご苦労様でした」

 

 冒険者ギルドの受付に報告を終え、想定の報酬を貰う。

 その際、受付の女性は雪葉に向けてひらひらと笑顔で手を振り、彼もそれに応える様に一度だけ会釈をした。

 粘液にまみれたアクアとめぐみんは、そのままだと生臭い上、先程ギルドへ戻る途中、和真が街の人からあらぬ誤解を受けた時の様にまた怪しまれる可能性がある為、すぐさま大浴場へと追いやった。

 仕留めたカエルの内一体は爆裂魔法で消滅、もう一体は雪葉の掌底で、打撃を受け付けないはずのカエルが謎の爆散を遂げた為、クエスト完了の報告はどうなるかと和真は不安げに思っていたが、冒険者カードには、倒したモンスターの種類や討伐数が記録されていくらしい。

 和真は自分のカードと、めぐみんから預かったカードを。雪葉も自身のカードを見せると、受付は妙な箱を操作して、それだけでチェックを終えていた。

 和真はレベルが4にあがり、雪葉はレベルに変わりはなかった。

 あのカエルは駆け出し冒険者にとってレベルを上げやすいモンスターである為、レベルの低い人間ほど成長が早いのだが、こと雪葉に至っては職業や能力値の関係上、そんじょそこらのモンスターをいくら倒そうとも、一生レベルが上がる事は無いほどに莫大な経験値が必要であるとの事だ。

 強いて言うなら、彼が1レベル上げるのに、純粋なドラゴン系統のモンスターを三十匹以上は討伐しなければならないと受付の女性は断言した。

 そんな圧倒的実力の差を思い知らされた和真は、雪葉が自分を第一に考える忠心深い仲間であることに感謝しつつ、これも己の幸運値の恩恵であるとほんの少し自賛していた。

 

「……しかし、本当にモンスターを倒すだけで、強くなるもんだなぁ……」

 

 和真は思わず呟いた。

 彼のカードには、スキルポイントと書かれていて、そこに3と表示されている。

 これを使えば、和真もスキルを習得する事が可能となる。

 

「ではジャイアントトード二匹の買い取りとクエストの達成報酬、それと個体値の強かった一匹の追加報酬を合わせまして、十五万エリスとなります。ご確認くださいね」

 

 受付から手渡された手元の報酬を眺めながら、和真は考えていた。

 十五万か。

 あの巨大なカエルが、移送費込みで一匹五千円程での買い取り。

 そしてカエルを倒して追加と合わせた諸々の報酬が十四万。

 アクアの話では、クエストは四人から六人でパーティーを組むのが通例らしい。

 なので、普通の冒険者の相場だと、一日から二日をかけて命懸けで戦い、カエル五匹討伐の取引と報酬、合わせて十二万五千円。五人パーティーだったとして、一人当たりの取り分が二万五千円。

 ……割に合わねー。

 クエストが一日で済めば日当二万五千円。

 これだけ見れば一般人にしてはいい稼ぎに思えるかもしれないが、命懸けの仕事にしては割に合っていない気がする。

 事実、今日なんてカエルがもう一匹湧いて、尚且つ雪葉がいなかったら、和真も食われて、誰も助けることが出来ず、あっさり全滅していただろう。

 和真は想像すると、一瞬身震いを起こした。

 

「…………主君?」

 

 そんな姿を見ていた雪葉が、和真の顔を怪訝そうに窺う。

 

「あ、ああ……なんでも無い。ちょっくら他のクエストでも見にいくか」

「……ん」

 

 何でも無いと努めて平静を装う和真から頭を撫でられ、彼はとても嬉しそうに目を瞑り、頭に触れる温もりと手触りに幸福を感じるのだった。

 二人はそんな微笑ましいやり取りを終えると、一応他のクエストにも目を通す為、掲示板の張り紙を確認してみると、そこに並んでいたクエストは……。

 

『──森に悪影響を与えるエギルの木の伐採、報酬は出来高制──

  ──迷子になったペットのホワイトウルフを探して欲しい──

 ──息子に剣術を教えて欲しい──※要、ルーンナイトかソードマスターの方に限る。

  ──魔法実験の練習台探してます──※要、強靭な体力か強い魔法抵抗力…………』

 

 うん。

 この世界で生きていくのは甘くない。

 冒険二日目にして、和真はもう日本に帰りたくなって来た。

 

 

「……すまない、ちょっといいだろうか……?」

 

 

 近くの椅子に座り、軽くホームシックに陥った和真を雪葉が介抱していると、背後からボソリと声がかけられた。

 異世界の現実を見せつけられて項垂れた和真が虚ろな目で振り向いた。

 

「なんでしょ…………うか……」

「……主君……?」

 

 雪葉の声も届かず、後ろを振り向いて固まった主の視線につられて先を辿る。

 

 

 女騎士。

 

 

 かなりの美人であった。

 一目でクールな印象を受けたその美女は、無表情に雪葉達を見ていた。

 身長は和真より若干高い。

 和真の身長が165センチ。

 それより少し高いとなると、170ぐらいだろうか。

 頑丈そうな金属鎧に身を包んだ、金髪碧眼の美女であった。

 和真よりも一つ二つ年上だろう。

 

「あ、えーっと、何でしょうか?」

 

 同い年の様なアクアや年下のめぐみんと違い、年上の美人を相手に、和真は緊張のあまり若干上擦った声を漏らした。

 長い引き篭もり生活の弊害である。

 

「うむ……。この募集は、あなた方のパーティー募集だろう?もう人の募集はしていないのだろうか」

 

 その女騎士が見せてきたのは、一枚の紙。

 思えば、めぐみんをパーティーに加入させてから、募集の紙をまだ剥がしていなかった。

 

「あー、まだパーティーメンバーは募集してますよ。と言っても、あまりオススメはしないですけど……」

「ぜひ私を!ぜひ、この私をパーティーに!」

 

 やんわり断ろうとした和真の手を、突然、女騎士がガッと掴んだ。

 一瞬主へ迫る挙動に警戒心が生まれ、主を彼女から距離を置かせようかと思い立った雪葉だが、特に危険性を感じる事もなく、一先ず警戒体勢を解く事にした。

 

「い、いやいや、ちょっ、待って待って、色々と問題があるパーティーなんですよ、この子はともかく、後の仲間二人はポンコツだし、俺なんて最弱で、さっきだって仲間二人が粘液まみれ、いだだだだっ!」

 

 粘液まみれと言った瞬間に、和真の手を握る女騎士がその手に力を込めた。

 

「やはり、先ほどの粘液まみれの二人はあなた方の仲間だったのか!一体何があったらあんな目に……!わ、私も……!私もあんな──」

 

 女騎士が全てを言い終える刹那、彼女は雪葉の手によっていつの間にか床の上に組み伏せられていた。

 

「……主君へ……痛み……与えた……無礼千万……謝罪の、証……(こうべ)……垂れる」

「ちょ、ユキハ⁉︎それは流石に──」

「き、気にするな……っ。私なら心配は──ぐっ……!」

「……自立的発言……却下……主君の……問いに、のみ……汝……発言……可能」

 

 主人への無礼極まり無い振舞いと断定した雪葉は、口を開く女騎士の頭を押さえつけ、発言の権限は和真の問いに答えるのみと彼女へ言い渡した。

 冷酷な目で女騎士を見下ろす雪葉へ、何を言っても解放する気は無いと思った和真は、話を進めるために組み伏せられたままの彼女へ問い掛ける。

 

「えっと……さっき、何と?」

「先ほどの発言は間違いだ。あんな年端もいかない二人の少女、それがあんな目に遭うだなんて騎士として見過ごせない。どうだろう、この私はクルセイダーというナイトの上級職だ。募集要項にも当てはまると思うのだが」

 

 そう進言する彼女の目はどこか常軌を逸しており、和真の危機感知センサーが反応していた。

 この女はアクアやめぐみんに通じる何かがあるタイプだと。

 

「いやー、先ほど言いかけましたがオススメはしないですよ。仲間の一人は何の役に立つのかよく分からないですし、もう一人は一日一発しか魔法が撃てないそうですし、この子に至っては俺の命令以外に耳を貸さない上、多分怒らせたらこれ以上に何されるか分かんないです。そして俺は最弱職。ポンコツパーティーなんで、他の所をオススメしま……て、うおっ⁉︎」

「なら尚更都合が良い!いや実は、ちょっと言い辛かったのだが、私は力と耐久力には自信があるのだが不器用で……。その……、攻撃が全く当たらないのだ……」

 

 和真の意図する結果とは裏腹に、女騎士は下げられた頭を起こしつつ喜色満面で答えると、今度は己の短所を打ち明けながら顔を俯かせたりと忙しなく首を動かした。

 

「という訳で、上級職だが気を遣わなくていい。ガンガン前に出るので、盾代わりにこき使って欲しい」

 

 女騎士が、再び顔を上げて凛とした表情で和真を見上げる。

 

「……主君……これ……不要」

「んく……っ!なかなか手強い少女だな……私を容易く取り押さえた挙句、こんな誹りを受けるとは……くふっ!」

 

 雪葉へ首を向けながら後ろ目に語る女騎士の顔は、悔しそうなのに何処か嬉しそうな雰囲気も醸し出し、頰を染めていた。

 

「あの、この子男なんですけど。ユキハ……もう解放してやれ」

「……承知」

 

 そんな姿を目の当たりにした和真は冷めた表情で彼女を見下ろしながら雪葉に拘束を解くよう諭し、聞き受けた彼はすぐに女騎士を解放すると一瞬で主人の傍についた。

 

「これは失礼した。しかし先の件、どうかよく考えて欲しい!」

 

 すると彼女はすぐに立ち上がり、雪葉へ向かって謝罪の一礼を深々とした後、目を輝かせながら和真の手を再び握り締め、その端正な顔を寄せて真っ直ぐに彼の瞳を見つめる。

 思春期真っ只中の童貞な和真は、その魅惑的な刺激の強さに心臓を高鳴らせるも、色香に惑わされんとかぶりを振り、顔を引き締め直す。

 

「いや、女性が盾代わりだなんて、ウチのパーティーは貧弱なんで本当にあなたに攻撃が回ってきますって。それこそ毎回モンスターに袋叩きにされるかもしれませんよ⁉︎」

「望む所だ」

「いや、アレですよ。今日なんて仲間二人がカエルに捕食されて粘液まみれにされたんですよ⁉︎それが毎日続くかも」

「むしろ望む所だっ!それに、先ほどの彼の拘束技術といい、絶妙な力加減といい、素晴らしいものだった!彼の才能をもっと間近で見せてはくれまいか⁉︎」

 

 頰を紅潮させて和真の手を強く握る女騎士。

 それを見て和真が悟った様に溜め息をもらす姿を、雪葉は心配そうに見つめながら主人の裾を握り締めた。

 

 

 

 

 

こ・の・す・ば

 

 

 

 そんなクルセイダーと出会ったその日の夜。

 路地裏で、三人の男達達が下卑た笑いを交わしながら今日の愉快話をしていた。

 

「いやー、あの噂どんだけ広まんのかなぁ?何か冴えねえ奴だったから、昔いじめてたヤツを思い出してついやっちまったわあ」

「てかお前の作ったネーミングセンス高すぎな。ゲドウカズマとか……やっべ、また笑えてきたわ」

「これで新人潰すの何回目だっけ?やり過ぎてまじで覚えてねえし」

 

 再び、大きな笑い声を上げ、彼等は酒を呷った。

 

 

 そんな彼等の前に、一つの影が姿を現した。

 綺麗な夜空に浮かぶ満月を背後に、顎先の辺りで切り揃えられた雪原のように綺麗な白髪を靡かせ、桔梗色の瞳を男達に向けるその小さな少女らしき影は、黒い忍び装束に身を包んでいた。

 

「あ?なんだぁ、お嬢ちゃん。こんな夜に一人で、迷子にでもなったのか?」

「それとも、お兄さん達と夜の遊びをしに来たとか?ごめん、流石に君は対象外だわ」

「いやいや、俺は別にアリだけど?」

 

 そう三者三様に揶揄う三人へ、その影はゆっくりと近づいて行く。

 

「お、まじでヤる気?でもやっぱりお嬢ちゃんには──」

 

 少女の様な影が近寄ってきた一人の横を通り過ぎると、その男はいきなり白目を剥いて地面へと体を横たわらせる。

 

「てめ、何を──」

 

 二人。

 

「ひ、ひい!助け──」

 

 三人。

 

 神器級の武器を持った三人は、振るう間も無く小さな一人の子供によって意識を刈り取られたのだった。

 

 

 

 

 翌朝。

 アクセルの街の中心広場に、全裸で意識を失ったまま磔にされた三人の男が発見された。

 彼等はその後、悪行から手を引き、再び魔王を倒すことを誓い、ひたすら冒険者稼業に身をやつしたという。

 

 

 後に、その内の一人が語った。

 

 

 アクセルの街で悪名が高くなると、小さな影がそいつを制裁に訪れると。

 また、それが悪人へ裁きを下す姿は、何処か鬼の様にも見えた、とも。

 いつしかそれは、白い髪の姿であったことから、『白鬼』と街で恐れ伝えられ、瞬く間に噂は蔓延していき、アクセルの街から悪人が姿を消したのは、また別の話である。

 

 




何だか振り回されるどころかぶん回してる様な……。
結論。彼を怒らせてはなりません。
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