エルフの忌み子は鍛冶師   作:枝豆%

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二話くらい投稿してましたが、忘れましょう。
忘れなくてもいいですけど方向を変えます。一気に飛ばし飛ばしで繋げるより、しっかり地道に進んでいきましょう。




幕間
聖女の独白1


 〇月々日

 

 私はあの人に出会った。

 治療院のベッドで寝るエルフを。目立った外傷もなく、毒に侵されている訳でもない。

 しかし、何故か起きない。こんな症状の患者はとても珍しいです。いえ、初めてかも知れません。

 何も異常がないのに目覚めない少年、私の彼に対する印象はそれだけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〆日

 

 

 彼が目を覚ました。

 一瞬目が合って退いてしまいました。何故でしょう、とても深い何かに……。

 深淵を覗いてしまったかのような、恐怖が私を駆り立てました。

 怖い、そういった感情が体を蝕みました。本来ならば、受け答えをしなければけないのですが……。

 

 結局動けるようになったのは二三分あとでした。彼はそんな私に対して何も言うことなく律儀にお金を払おうとします。

 

 ヘファイストス様から代金はもう頂いているので結構です、とお断りしたのですが食い下がられてしまいました。

 (ヒト)の好意は受け取っておいた方がいいものを。

 

 仕方ないので、薬草やクエストを採ってきてくれと伝えたところ納得して貰えました。

 ディアンケヒト様は少し不満そうにしていましたが、無料でアイテムを採ってきてくる、と言って宥めました。

 

 しかし、彼も私もLv1。さらに彼は駆け出しらしいので依頼することは随分と後になるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 正体不明(アンノウン)それが彼の二つ名だそうです。

 治療院に運ばれてきた時、彼は偉業をなしたということがわかりました。あんな状態になっていたのはスキルのせいなのでしょうか?

 上級冒険者となった彼は、今日治療院にやってきた。

 

 あれから少し経ちましたが彼の評価は非常に低いです。というのも、人形姫の記録を破れるはずがない。ダンジョンに入っていくところを誰も見たことがない。

 それらの意見により、インチキなどと大っぴらに貶されています。しかし、彼は興味が無いと言わんばかりの無視。それが火を油に注ぐ行為だったのでしょう。

 

 他の冒険者から反感を買ってしまったそうです。

 当店に来店されるお客様も、陰口をしている様子。注意しようとは思いませんが、見ていて不快でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月:日

 

 

 

 傷だらけの彼が治療院へやって来ました。

 ダンジョンで無茶をしたのか、それとも冒険者達からやられたのか、それについては分かりませんでしたが治療しなければ行けません。

 駆け寄って話をしようとすると、見当違いなことを言われました。

 

 「恩を果たしに来た。クエストの依頼を」

 

 私は思考が止まってしまいました。

 エルフだから厚着なので直には見えませんが、服に血が大量に滲んでいました。ここで平然と立っていることすら奇跡。

 そんな人がクエストなんて無謀すぎる。

 

 「バカ言ってないで、早く服を脱いでください」

 

 早く止血しないと、まずは輸血を…。

 

 「いい、必要ない。じき治るし痛みには慣れてる」

 「そういう問題じゃありません、重傷者を見逃すなど言語道断です」

 

 そう言ってほぼ無理やり服を脱がせました。

 ですがおかしいのです、血痕から見て服に滲んでる血液はつい先程出来たもの。少なくとも24時間以内のものです。

 

 「ッッ!!」

 

 ですが、大きな切り傷が既に塞がろうとしています。

 

 しかし驚愕したのはその事ではありません。確かに私は無神経だったかもしれません。

 体の至る所がに古傷があったのですから、焼き跡に切り跡、肉を抉ったような後に貫かれたような傷。

 

 エルフには肌を隠すという習性があるそうですが、これは余りにも……。これじゃあ誰も気付いて貰えない。

 

 何故か私は泣きそうになってしまいました。

 

 そして一言「ごめんなさい」そう言い服を着させました。

 依頼を、と迫られましたが今はまだ必要ないとだけ伝え、必要な時に私からお願いすると言い帰ってもらいました。

 

 

 

 そしてその一部始終をディアンケヒト様が見ておられ、一言だけ。

 「神の恩恵はそんなに便利なものでは無い。ランクアップなど以ての外だ」とだけ私に言い消えていきました。

 

 それから私は何故かあのエルフの少年を気にかけるようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月○日

 

 エルフの少年に正式な依頼を持ちかけました。

 それは私がランクアップするまでパーティとして活動することを依頼しました。

 ディアンケヒト様から猛反対されましたが、二つ名がついた方が箔が付く。いつかなら今がいいと珍しくプライベートな我儘をしたので何とか押し切ることが出来ました。

 

 

 ダンジョンでは驚きの連続でした。

 エルフなのですから、魔法などを使う後衛メインだと思っていましたがどうやら彼は違うようです。

 体術でモンスターを倒していきます。普通ならそれは何も気にすることは無いのでしょう。ですが、あのエルフが……です。

 

 認めた者以外は肌の接触を許さない、と言われているあのエルフが。蹴ったり殴ったり、眼球に指を突っ込んだりとまるで悪魔のよう……

 なるほどまさに正体不明ですね。

 

 私のファミリアは探索系ではなく、主に回復薬や義手等の冒険者をサポートすることでお金を貰っているファミリアです。素材が無くなったりするとダンジョンに潜ることはありますが、毎日潜るということはほとんど有りません。

 だからこそより一層彼の戦い方の異常性を理解出来ました。

 

 

 そして13階層に初めてたどり着きました。

 周りにはオークなどのモンスターがいて、彼は強いモンスターを率先して倒してくれています。

 はぐれの敵を私にやらせてもらいました。少し楽しそうな横顔が見れたのは何故か私も嬉しくなりました。

 

 しかしそれが油断となったのでしょう。モンスターに死角を取られ襲われそうになりました。モンスターの雄叫びで気付けましたが、間に合いません。

 攻撃を喰らう、そう確信した時…彼は初めて魔法を使いました。

 

 「─!!」

 

 あまり口数の少なく、表情を崩さないそんな彼が初めて殺意を持った。その顔は怒っているようでもあり、そして哀しんでいるような顔でした。

 初めて手に握られた物はナイフ。投擲でもするのか……。

 

 そんな凝縮された時間を私は過ごした。

 なぜだかあの一瞬だけ、とても長く感じました。

 

 ナイフが光り輝く。

 その輝剣から魔法が飛び出る。

 

 速すぎて目視できません、ですが後ろでモンスターの死骸が地面に落ちる音だけが私の耳に入りました。

 

 「やっぱり出力はコントロール出来るようになってた」

 彼の言っていることは分かりませんが、自分は助けられた。その事だけは理解出来ました。

 

 「ありがとうございます」

 「依頼だ、気にしてない」

 

 どこまでいっても彼は私を見てはくれません。

 そして私も彼を見つけられていません。

 

 ダンジョンで見たのは彼の一部。

 

 この一日で分かったことは、本当にこの人は分からない。ということだけでした。

 

 

 

 ドロップアイテムは私が貰うことになりました。なんでも彼は鍛治に必要な素材と、その日を生きられる金と少しの蓄えがあればいいと言っていました。

 本当にどこまで行っても彼は分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月€日

 

 

 

 ロットさんをご飯に誘ってみました。二つ返事で了承して貰えると思っていましたが、彼にも予定があるみたいで工房に入ることすらさせて貰えませんでした。

 パイプになってもらった椿さんに聞いてみました、彼はなんなのだと…。

 彼のナニが私は気になっているのか…と。

 

 「手前は鍛冶師だ、鍛治のこと以外はてんでだめだ。だが手前が何を気になっているかくらい分かる。ロットは病人だ、故に手前は気になるのだろう」

 

 病人?

 

 その言葉が私の深い所に、深く、さらに深く刺さった。

 だからですか、私が彼を気になる理由は。

 

 

 私の性というものなのでしょうか……ではなぜ、彼は病にかかってしまったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月♪日

 

 

 時間をあけてもう一度ご飯にロットさんを誘ってみました。

 今度はいい返事が貰えました。

 どこにするかと聞いたところ、豊穣の女主人。という場所を指定されました。なんでも行きつけなのだとか。

 

 こんな言い方をしてはアレですが、彼に拘りがあると思うと少し不思議です。

 指定した場所に移動すると、テーブル席に彼はいました……いえ、彼等はいました。

 

 「あァ?」

 とても野蛮そうな冒険者がロットさんと相席していました。

 第二級冒険者の【凶狼】。かなり有名な方です。

 

 一度周りを見渡してからテーブル席に座りました。もちろん凶狼からは敵対心を抱かれている気しかしません。

 

 「ベート、僕が呼んだ」

 そう言うと凶狼は大人しくなりました。おかしい、Lvも立場も下のロットさんがなんで上なのでしょう。

 

 結局非常に気まずく、殆ど私とロットさんが話すことなく食事会は終わりました。

 

 何も聞けずに一日が終わり不完全燃焼です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月☆日

 

 

 ダンジョンに潜った時、それとなく聞いてみました。

 椿さんが言っていた病、それはあの古傷が関係しているのではないのか。

 

 「あの傷はいつ付いたものなのか?」

 軽く探りを入れてみました。

 

 「聞きたいの?」と言われ私はもちろん頷いた。

 

 これが駄目だったのかも知れません。

 少なくともあの時の私は好奇心で聞きました、つまるところ覚悟が足りなかったのです。

 私には…あの時の私は、事実に耐える覚悟も準備も何も無かったのです。

 

 「これは────」

 

 聞かない方が良かったのかもしれない。

 あの時私はそう思いました。確かに私はあの時に……。

 

 彼の乾いた笑みに、衝撃を覚えました。

 

 

 「同族から受けたものだよ。僕はね、人から愛を貰ったことがないんだ」

 

 とても悲しい人。

 初めて会ったあの、真っ暗な深淵のような人はここにはいない。

 

 ただの沼。

 中途半端に光り(感情)を貰った彼の苦悩が痛いほど伝わる。あの乾いた笑みが頭から離れない。

 

 真っ黒なペンキに一滴の白粒を落としたように、それは一度だけ白の波紋を産み。そして必ず黒に飲まれる。

 

 この時私はやっと確信した。

 

 ロットというエルフは、もう壊れているのだとかそういう次元の話ではない。

 病人ではなく、これはもう死者に近い存在だと。




アミッドの話、あと一話か二話続きます。そしたら旅の話をします。

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