エルフの忌み子は鍛冶師   作:枝豆%

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んー、パワーアップイベントとエルフイベントを混ぜたら……。ちょっと変になったかもしれぬ


旅話1

 

 

 〇月○日

 

 オラリオを出て半月が経過した。

 ただ、ひたすらに真っ直ぐに歩いた。オラリオを出た時に感じた喪失感が未だにつっかえている。僕のとった行動は間違っていなかったはず、限り少ないココロで考えても、感じて、そしてあの時の答えを出したはずだ。

 なのに何故喪失感を覚えたのだろう、目標を失った時のように、もしかすればそれ以上の何かが確かに押し寄せてきていた。

 それは嵐のようなものではなく、濁流に近いドロドロとした鈍ましいものだった。

 空になった胸を埋めたのはそういう普通ではないものだった。

 

 

 

 〇月♪日

 

 はぐれの冒険者に襲撃された。

 まさかオラリオ以外にこんなにできる冒険者がいたとは……。歳もかなり行っている模様。

 大きな傷を貰ったので、旅に出る前にアミッドから貰ったポーションを口に含んで傷口に吹き出した。

 あまりポーションを使う機会がなかったので少しばかり驚愕した。

 魔剣で凍らし、粉々に変えたのでよくわかっていなかったがLvで言えば5か6はあっただろう。

 そもそも人と呼べる存在だったのかすら怪しいが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 久しぶりに故郷と呼べる場所に帰ってきた。

 そこにあるのは未だに消えない人を焼いた時に出る特有の匂いと、誰のかも分からぬ数多の人骨。

 頬が緩んだのは気の所為だろう。こんな無価値な場所に来たかった訳では無い、ちゃんとした目的を持ってここへと来た《湖》だ。

 

 作業をした時、僕は湖だけは避けて壊した。

 故に形だけ無事なのは必然だろう。

 そして湖に到着すると、あの乙女が顔を出した。

 

 「殺めたのね」

 

 間違いなくエルフ達のことを言っているのだろう。開口一番にそう聞かれ酷く裏切られたような気持ちになる。最近特に変だ、妙にココロがざわめく。どうなってしまったんだろう。

 

 僕は沈黙したまま湖の乙女を見つめる。見蕩れている訳ではない、聞かれた疑問に対して沈黙をしたのだ。沈黙は肯定、そう捉えられるように。

 

 「まぁ、いいでしょう。あの種は、いえ一部の者達はアレ(・・)と同族だったのでいつか加護そのものを没収する予定でしたので。

 別に罪悪感は感じなくていいのですよ、畜生以下に情けはかけるものではないのですから。私が選んだ貴方は以前と比べて鋭さが無くなりましたね、もっと貴方は世界に絶望していたのに……拠り所でも見つけたのですか?」

 

 

 僕は沈黙した。

 

 

 「まぁいいでしょう。本来ならば私も従う側なのですが、ことが事なので私がこのような立ち回りをしなければなりません。私も慣れませんし、正直に話せば貴方一人で変わることが出来るなどと私は思っていません。

 だからもう一度言いましょう、【風】と共に……アリアと共に悲願を果たしなさい。

 

 そして新たに使命を授けます、我らが同胞を。成れの果てとなった同胞達を解放してください」

 

 

 初めてあった時よりも彼女はとても流暢に話していた。

 森を焼いたことと関係があるのかもしれない。いや、単純に人口が減ったからかも。

 まぁいい、悲願というものは一度聞いたことがあるから理解できる。内容は分からないが、その言葉に聞き覚えがあったからだ。

 

 そして最後に言われた使命?について考えるが結論は出ない。

 使命と言うよりは、懇願に近かった気がするのだが……。

 そして言いたいことだけいい湖の乙女は消えた。湖の中に溶け込んで行った。

 二度も見れば既視感はあるが、慣れることはどうやらなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 

 エルフの里に行った。

 ここは森とは違い、本来エルフ達が過ごす言わばエルフの国である。今更家族というものに興味はないが、森以前の記憶が無い理由くらい分かるだろう。

 会いたい会いたくないではない、会わなくてはならない。姉と言う存在のリヴェリアでは話にならない。もっと上の、妖精王でなければ。

 

 その思いもあり僕はたどり着くことができた。

 万能者(ペルセウス)から頂戴した漆黒兜(ハデス・ヘッド)を被っているので潜入に近い気もするが。

 まぁ、結論から言って会えた。多分あの人が僕の父親だった(・・・)人なんだろう。積もる話……ではないな、そういった擽るような話ではなかったことは確かだ。歓迎されていないことくらい僕でもわかる。

 

 聞きたかったことは聞けた。

 

 以前の記憶が無いということは、生きてきた時間そのものを消されたからだ。詳しく聞いたところで理解出来ていないが【ランスロット・ヴァン・アールヴ】という王族そのものを世界から消失させる禁術を使用したのだとか…。

 周りは忘れられないが、僕からその事についての記憶は全て無くなる。ついでに言えば、その時に形成されていたココロ。つまり喜怒哀楽ごと消されたという事だ。

 

 僕が笑顔を絶やさず、あまり怒らない子供だったとしよう。

 心のメモリの多くを喜が埋めており怒が少ないと仮定する。そこに消失させる禁術を使えば、メモリは一度リセットされるがそれだけでは終わらない。

 メモリを100と仮定した時に、喜が80、怒が20とした時リセットをすれば喜が-80、怒が-20となる。つまりスタートから異なるのだ。故に禁術を使う前の生活が幸せであれば幸せであるほど幸せを感じることが出来ず、負の感情を知らなかった分ココロにどす黒く塗りたくられる。

 

 王族という最高の環境にいたからこそ、僕は負の感情の方が身につきやすかったのだろう。慈愛よりも怒りの方が上回ったのはその為だと今にしてやっと理解出来た。

 

 そうか、つまり僕は。

 

 

 人為的に壊されたのか……。

 

 最後に魔法を返してもらった。森の外れで使ってみると威力が高すぎることが分かった。使わないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 森の最奥、エルフの中では王の間と呼ばれている場所に二人のハイエルフがいた。

 片方は王であることを示す冠を被り、傍らに神樹から造られた王だけが所持することを許される杖をもつ初老の男性。

 そしてもう片方は肩から剣を10本ほど背負っており、更に今さっきまで被っていた真っ黒な兜を片手に握りしめていた。

 

 この二人の会合のことをなんと言えばいいのだろうか。

 長年離れ離れになっていた親子の再会??

 

 違う、そんな幸せな結末が待っているような甘ったるいものでは断じてない。漂う雰囲気だけで言えば、処刑とあまり変わらないものだからそんな生易しいものでは間違ってもない。

 

 「久しいな、ロット」

 「久しい…か、そうなのだろうなお前からすれば」

 

 「青二才が、煮え切らん返答をしよって」

 

 名前も知らない、そんな目の前の男性についてロットがとる行動の選択肢は余りない。手札にはそれほどカードはない。

 

 「一つ聞きたい、エルフの王よ」

 

 「許す」

 

 

 「僕の記憶がない理由、それを教えろ」

 

 少しだけ目を開くエルフの王。

 しかし一つ心当たりがあり、瞬時に納得する。王族で唯一秘密を知り森を抜け出した一人を思い浮かべた。

 秘密といえど全てではないが…。

 

 「リヴェリアか」

 「…」

 

 

 

 「まぁいい、このような日が来ることは薄々気付いておった。貴様が咎を抱えているように、我も咎を背負ったのだから。爾の出ずるものは爾に反る。とはよく言ったものよ」

 

 全ては自身へと返ってくる。

 それは良いものでも然り、その逆もまた然り。

 

 「貴様の力はエルフからすれば負の象徴と言わざる得ない。未だ魔剣への憎悪も持つエルフは数え切れないほどいる。」

 

 一つ間を置き王は言葉を続けた。

 そこに歓喜や懺悔はない、一つの事実をそのまま語る。まさに模写でもしているような、そんなものだった。

 

 「才能を隠すには、それ以上の才能が必要になる。王族、魔剣、この二つだけで森は内紛が起こることは明白だった」

 

 反王族からすれば、それだけ揃えば民衆を集めることは容易い。

 

 

 「故に禁術をかけた」

 

 禁術について大まかに説明する王。禁術と呼ばれる位にはそれ自体が秘密とされているのがみてとれる。

 ここまで教えただけ、元一族としての義務故。

 

 全てを話した。

 何故記憶が無いのか、何故感情を理解できないのか、何故胸に穴が空いているような感覚に時折襲われるのか。

 

 存在を葬られ、死んだことにされ、里を追い出し森へ追いやったこと。

 ただ誤算だったのは、森のエルフが反王族派に染まっていたこと。

 ロット自身が王族とバレることは無かったが、魔剣という呪いとハイエルフに似た特徴を持つと言うだけで、あの扱いは当然の結果なのだろう。

 

 「最後に、エルフは生まれながら魔法を使える者もいると聞く。こういった言い方は不本意だが、王族の血筋にあたる僕が魔力を持たないのは魔剣の影響か?」

 

 

 素朴な疑問。

 ロット自身、自分がエルフとして生きてこなかったので気にはしなかったが、魔力を持たないのエルフというのは見たことがない。そう主神に言われて気にはなっていた。

 神からステイタスを貰わずともエルフは魔法を覚える。

 王族ともなれば、必ずと言ってもいいほど持っている。ロットが知るレフィーヤもその1人だからだ。

 

 「いや、違う。それは我が封じた。その封は解こう、魔剣だけでも厄介だが真に恐れるのはその魔法である」

 

 「魔剣よりも忌み嫌われるものなのか?」

 「否、使うことは勧めない。貴様は幼少期、その魔法を発動させ城の一部を消滅させた」

 

 

 王は神樹の杖を使い、ロットの封を解く。

 その封はどうにも胸にあったらしく、またしても胸に違和感が走る。

 

 

 

 「そうか、貴様は選ばれたのか。なんとも因果なものだな」

 「何の話だ?」

 

 「分からぬのならば良い。いや、どうにも貴様は重荷を背負わされる一生を生きねばならん見たいだな」

 

 「……」

 

 どこまで見抜いているのかわからない。見透かされている、そんな気がしてならない。

 暗殺者が殺気を隠すために分厚いコートのようなものを着込むが、目の前の王はそれを強制的にはだけさせているともみてとれる。

 

 だからロットはもう口は開かない。

 無性に今の自分を見られることに羞恥を感じたからである。

 

 「もう二度と会うことはないだろう。故に一つ伝えておきたい」

 「聞こう」

 

 

 「受け入れてやれ。害をもたらしたものに情はいらない。だが、貴様の友人と、そして良くしてくれた者達を受け止めてやれ。心が不完全な貴様に今言っても意味は無いかもしれない。もしかすれば、貴様は壊れているふり(・・)をしているのかもしれない。

 臆するな、現実を受け止めろ。世界は常に残酷だ、それ故に世界は美しい。決めつけるな、もう少し───」

 

 

 「──やめろ!!」

 

 王の物言いに、ロットは耐えきれなくなった。

 見当違いも良いところだ。そう肺から零れ落ちるような吐息で弱々しく言葉を吐く。

 一度ココロを落ち着かせるために深呼吸をした。

 

 「僕は人を信じない。今までと変わらない、これからも変わらない」

 「違うな、貴様は既に悟っているはずだ。それ故ここへと来たのだろう?」

 

 「違う」

 

 「違わないな。心と記憶、その二つの異変を知るためにここへと来た。そして同時に期待したはずだ、この胸のざわめきは全て我々エルフのせいだと。だが、見当は少し外れあくまでそのざわめきは自我によるものだと理解した」

 

 「………」

 

 「もう一度言う。《受け入れろ》それが出来て初めて貴様は成長出来る。人とは話し合いのできる生物だ、心を交わし身体を重ねる。時には仲違いもするだろう。しかしそれを修復することが人の本質だ。

 話し合え、それから初めて拒絶するなりなんなりしろ」

 

 「………」

 

 ロットは何も言わない。

 湧き上がっているであろう感情を押し殺して、今までと同じように感じていない振りをする。

 人間のフリをする機械が、機械のフリをする人間になったことを悟らせないため。そしてそれを初めて見破られたことへの羞恥。

 

 ロットは最奥の間から足早に逃げ出した。

 恐らく最後になるであろう肉親へと、置き言葉を預けないまま。


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