エルフの忌み子は鍛冶師   作:枝豆%

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旅話2

 〇月♪日

 

 椿の故郷である極東へとやってきた。

 故郷といっても、別に椿の母親に当たる人物の故郷であり椿とはほぼ無縁とも言っていい。

 しかし、毎年の初めによく酒飲んでぐーたらしている。何でも極東では恒例の行事だとかで。

 

 まぁともあれ極東へと着いた。

 オラリオと比べれば変わった格好のした人達で溢れていたが、()のことも同じような目で見られていただろう。好奇の視線に嫌気がさし極東風の服を購入した。今まで着ていた服は丁度サイズが合わなくなっていたので時期的にもいいだろう。

 

 見たところ和服?というものしか売っておらず、目に止まった『着流し』?と『羽織』?というものを購入した。

 店員から「エルフに和服…濡れる」と言われたが、会計を済ませ出来るだけ早く店から出ることにした。

 

 履物も『下駄』というものを買ったのだが、如何せん歩きにくい。親指と人差し指の間から血が出てしまっていた。

 

 ……うん。痛い(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 

 この国の文化は面白い。

 

 魔剣を俺は打つことができるが、この国の人達は魔剣を作るのではなく『妖刀』を作る。

 秘めた力のある魔剣に対し、妖刀は秘めるための器であるとの事。

 

 丁度聖剣への活路を見いだせずいにたので、知らない知識である妖刀の製作方法を教わることした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×月%日

 

 

 叩き出された。

 

 弟子は要らない、それだけ言われ叩き出された。

 

 

 

 

 

 々月€日

 

 しかし俺自身折れる訳にはいかなかったので粘ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×日(日

 

 少し話すことに成功した。

 

 親方はなんでも「妖刀は自分の代で終い」と豪語している。

 

 「ここで先代から受け継いだ技術を腐らせるな」

 「妖刀一族としての誇りを果たせ」

 「後世に技を残してこそ真の一流」

 

 など、考えられることは言わないでおくことにした。

 本当に、なんとなくなのだが……親方は妖刀にあまりいい感情を抱いていないように見えたからだ。

 

 武器に関してその気持ちを抱くのは…痛いほど(・・・・)分かったから。

 

 逸る気持ち押し留め、今日も弟子入りを志願する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *月♡日

 

 

 一時間近く長い話をされた後に弟子入りを許可された。

 話したことは精々後悔するな、もし何かあっても怨むな。ワシのことは赦さなくていい。だが自分だけは呪うな。

 

 と、要約すればそういうことを長々と話された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・月*日

 

 なるほど今になって親方の言っていた意味がわかった気がする。

 怨むな……か。

 

 もう少し前なら葛藤に悩まされ、自分を蝕み、そして否定してきただろう。

 見えているものを見えていないといい。見えていないものが傍にあって欲しいと思っていたあの頃。

 

 幼かったのかもしれないし、幼稚だったかもしれない。

 力だけが先行し、体も心もついていけていなかったのかもしれない。

 

 

 問が出る……。

 そしてそれに答え、そしてまた新たな問いが生まれる。

 

 そうやって一歩づつ進むしかないんだと…矮小な俺は前を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 ÷月.日

 

 妖刀を作るのには自然エネルギーというありふれた力が必要だ。

 刀だけでも極めて難しいのに、自然エネルギーを集めつつ刀を打つのは頭を使うので非常に難しい。

 自分に学がないことは承知しているので、頭で考えるより体に染み込ませることにした。

 

 だが、そこに妖刀の厄介な難点がある。

 

 それは廃棄方法に他ならない。

 マジックアイテムであるアイテムボックスに仕舞おうとしたが、妖刀は比喩でなく生きている。故に収納することは不可。

 かといって山に放置などすれば、草木が枯れ山そのものが死ぬ。

 

 川に流せば水に毒が混じって食中毒者が続出することになるだろう。

 

 故に残った案としては溶かすしかないのだが、自然エネルギーを吸ってしまっているので異様に硬い。そしてちょっとやそっとじゃ溶けることは無い。

 こうして妖刀の製作を1週間、そして溶かすのに2週間と本来の目的を忘れてしまうようなスケジュールとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月<日

 

 

 妖刀とは武器とは違う。

 それがここ一年で気付くことのできたことだ。

 

 前回記したように生きている。そしてそれは比喩などではないと記載しただろう。

 妖刀とは依代なのだ。

 

 平たく言えば封印に近い。

 

 極東での伝説によれば初めて記録された妖刀は、妖という俺たち冒険者で言うところのモンスターを殺すために始まったらしい。

 俺たちが神の恩恵を受けているように、本来の人間のスペックでは奴らには勝てない。

 だから極東の先祖であるモノノフは妖を討つために妖を利用した。

 

 刀身に妖が寄り付きやすいように『氣』と呼ばれる自然エネルギーを濃密に刷り込ませ妖の持つ特有の『妖気』を付与させることに成功させたのが始まりだったとか。

 それから技術は進歩していき妖本体を封印させることが出来たのだとか。

 

 

 そして妖刀にはもう一つ特殊なものがある。

 それは妖のはいっていない場合だ。それはただの依代では無いのか?と思うだろうが結論からいえば違う。妖刀ではなく怨念が入った場合だ。

 一昔前に妖に家族を殺された妖刀鍛冶師が、その妖を殺すためだけに家族の遺骨や自分の生き血で作り上げたというおぞましい妖刀があったそうだ。

 

 その妖刀は妖を宿した妖刀の何倍も強く。そしてより呪われていたのだ。

 

 妖の入った妖刀は中の妖を屈服させてから封印し、常に屈服させなければいけない。心の隙を見せようものなら体の所有権を剥奪されることもあるからだ。

 しかしもう一つの妖刀は、造られた数が少ないので断言は出来ないが予め代償を必要とさせられる。

 一番有名なのは寿命。あとは皮膚や眼球などといった人体に関わるものだった。

 

 

 長い歴史を見れば妖刀以外にも神刀や霊刀などの極東特有の武器があるのだが、オラリオに帰還するまでのあと約半年では知識以外は付けられない。

 俺が惚れ込んだのはあくまで妖刀。それ以外は後回しになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月・日

 

 

 ひとまず納得のいく妖刀が完成した。

 しかしまだ中身が入っていない。現代の妖刀は、刀身に妖が入ってこそ本物と呼ばれ畏怖される。

 

 というわけで屈服させに行こうと思う。

 

 出発は明日。親方からは許可を貰っているので、鬼の住処である『鬼ヶ島』へと渡し舟をしてくれるらしい。

 

 屈服させるには依代一振りしか駄目なので、骨が折れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 「ロット、着いたぞ」

 

 親方にそう言われ意識を覚醒させる。

 …そうだ、渡し舟をしてもらって鬼ヶ島へと着いたのだった。

 

 腰には一振のこれから妖刀になる依代、他には何も装備させることが出来ない。なんでもこれが正装なのだとか。

 昔に軍隊で妖を屈服させた極東の皇族が自慢のためだけに屈服させ、腰に下げていたが。それは数による暴力で屈服させただけだったので、その皇族が一人で屈服させた訳では無い。

 体を即座に乗っ取られ、小国を滅ぼした……などという逸話が残るのだ。

 だから屈服には丸腰、という掟が定着したらしい。

 

 

 「明日、同じ時間にここへ来る。それまでに完成させておけ」

 「分かった」

 

 今考えれば、手に生きている武器を使えば昔の目的は果たせたんだな。と思ってしまう。

 しかし無駄になることは無いだろう。

 

 あの日々が、あの時間が、あの渇望が。

 今の自分を作っているのだから。

 

 「…いくか」

 

 腰に下げた依代を撫でる。

 

 この中に妖を入れると思うとやはりゾッとする。というのが本音だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ──まずは山ほどいる小鬼たちを斬り殺すことから始めた。

 

 

 

 

 

 前提からして鬼ヶ島にはその名の通り鬼という妖がいる。

 この島ごと鬼の住処となっているのだ。鬼はこの島から出られないという特性があるので、島にいる人間は安心しているが。やはり悲願は鬼ヶ島の占領と鬼の殲滅。

 だからこそ、どれだけ鬼を屠ったとしても島の人間に咎められることは無い。

 

 「ガォァァア!!」

 

 目の前には量産型ともいえる小鬼がいる。

 ダンジョンで言うところの1階層程度の力しか持っていないので、どう転んでも負けることは無い。

 

 依代を抜刀する。

 そして即座に首を落とし、落ちた頭部を刺突させる。

 

 

 ──必ず頭を潰せ。鬼は頭さえあれば半日は生きていられる。仲間が現れて切り口に付けようものなら繋がってやり直しだ。

 ただの刀じゃ、そこいらが限界だ。気張れよ。

 

 

 親方の言葉を思い出す。

 もとより妖刀は妖を討伐するための武器。当然と言われれば当然だ。

 

 生きた剣というものを振るったことがなかったので、少々違和感を感じる。

 俺のスキルである【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】は生きていない武器と認識できる全てを魔剣に変える。

 だからこそ、砕けない魔剣を作ったのだが……。

 

 いや、それは以前にも出した筈だ。

 今があるのだから悔いるのはやめよう。

 

 今は依代があるのだから無粋なことを考えること自体が危険だ。

 

 

 血潮を飛ばしすぎ、血溜まりを歩いたからか下駄は赤黒く染まり。依代はまだ入っていないにも関わらず血肉に飢えていた。

 

 

 

『お主かえ?犠牲(いけにえ)として出されたのは』

 「犠牲?」

『なんだ?まさか口車に乗せられてここまで来たのか?』

 

 ケケケ。と独特的な笑い方をする鬼、いや本当に鬼なのかが分からない。

 鬼というのは角が生えており、肌は人のものでは無い色だったからだ。

 

 だから疑問が生まれた。

 

 

 ──この少女は鬼なのか……と。

 

 

 「さぁな。俺は俺の為にここへきた。お前は鬼…という認識で構わないのだろうか?」

『そうじゃな、鬼……ふむ。確かに鬼じゃな。じゃが鬼は鬼でもただの鬼では無い』

 

 「なるほど上位の個体と思って差し支えないのだな」

 

『そうじゃ。ワシは──吸血鬼じゃ。そして鬼…いや、妖の王でもある』

 

 

 少女はそう言ったが一つ違和感を覚える。

 確かに今までの小鬼とは比べ物にならないが……これくらいの実力ならダンジョンの深層……下層には居たぞ。

 

 「訳ありか?」

『まぁあるかないかで言えばある。だからといって見逃してはくれぬのじゃろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──いや、全然。これくらいなら他の鬼を探すから」

 

 幼女を置いて鬼ヶ島を散策した。

 

 

 




一回ステイタスとか設定とか載せた方がいいですかね。
作者でも複雑に勘違いさせてこんがらがってしまう時もあるので。

次はオラリオに戻ります。


勘のいい人はこの作品の世界観からして聖剣の作り方分かった人もいるかも……。

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