〇月〒日
私は剣のような子供に出会った。
暗殺者でもしていたかのような真っ黒な瞳、雰囲気が無駄なものを全て削ぎ落とし、極限まで鍛えられた剣のような。そんなエルフを見つけた。
下界に来て長い事経つけど、私はあれほど無機質な眼を見たことがない。憎悪や負の感情なんて生易しいものじゃない。
ただ、本当に興味のない。それだけは私にも見て取れた。
だから私は問うた。
何故、など意味は無用だった。放っておけないという私の神としての性がそうさせたのかもしれない。
「君にとって武器とは何?」
私はそう聞いた。私は鍛冶神、読み合いとか慣れないことはしても意味ない。子供は神に嘘をつけない。だから嘘はすぐに分かる。
するとその子供は、当たり前のことを言うように口を開いた。
「凶器…あと脆い」
私のことを知っていて言っているのなら、その喧嘩買ってあげようと思ったけど。
分かる。
何一つ嘘はついていない。
これに関しては嘘をつかれた方がマシだったかもしれない。
とても悲しい子、この子の年代なら剣を振り回して英雄にでも憧れているのに……この子はどこまでも現実的で、残酷で、武器の怖さを知ってる。
いえ、逆に武器の側面しか知らない。
だから私は強引に、私の工房へと連れていった。
今から考えると何故そんなことをしたのか分からない。夢を見ていない子供に何処か腹を立てたのか…それとも武器の美しさを知って欲しかったのか…。
ただ、このままではいけない。そう誰かに言われた気がした。
工房を見せた。
超一流の武器、私が神の力を封印して作った傑作達。
どう思っているのか分からない。それでも尚武器を恨むのか、それでも認めないのか。
この子は眉一つ動かさない。感情が無い訳じゃないのだろう。ただ、限りなく死んでいる。
本当に、なんでこんなことしてるのか分からなくなる。
「赤髪」
そう言われたのが懐かしい。
昔、その呼び名で神友に呼ばれていた時期があったから。
「…僕でもこんな物が造れるか?」
「それはアナタ次第よ」
そう言ってエルフの少年は私の、ヘファイスト
おかしいでしょ!!!!
〇月×日
エルフの少年、名前はロットと言うらしい。
ロットは異質だとは思っていたが、ここまで規格外だとは思っていなかった。一体どんな生活を送ってきたら、こんなことになるのよ。
ステータス
名前:ロット・──────
Lv:1
力:I
耐久:I
器用:I
敏捷:I
とここまでは普通だった。名前が消されている?現象は普通ではないが、問題なのはそこじゃない。
そこもかもしれないけど、そこじゃない。
スキル
【
・手に触れた武器と認識できる全ての物質を魔剣に変える。
【湖の乙女の加護】
・悲願を果たすまで早熟する。
・竜族に対してステイタス超補正。
・────────────。
何よこのスキル!!!確かに脆くなるし凶器になるわ!!!
と、まぁ思いながらもステイタスを移した紙にもう一度目をやる。
確かに【騎士は徒手にて死せず】は、凄まじいスキルなのは間違いない。だが、あと一つがヘファイストスにとって驚愕のものだった。
誰でも知っているあの英雄譚。それに登場する湖の乙女が……もしそうなら、これは不味い。
それに
この子は必ず狙われることになる。神に、冒険者に、そしてモンスターに。
初めて見た。英雄の種を持つ少年を。
恩恵をあげてからは、ロットはずっと工房に篭ってる。普通は鍛冶について聞かれると思ってたけど、あの子は見て盗んで自分で糧にするタイプだった。
〇月<日
もう一週間になる。新しい子供、ロットが出てこない。
〇月=日
かれこれ三週間経った。まだ出てこない。
〇月*日
幾ら
あれだあれだと思っていたけど、あの子はぶっ飛んでる。いろんな意味で。
〇月〒日
ロットが失踪した。
工房から音が消えたので、やっと寝たのかと思い毛布でもかけてやろうと思ったらロットは工房からいなくなっていた。
必死にバベルを探し回ったけど、全然見つからない。本当にあの子は心配を掛けさせる。
と、心配していたけどどうやら杞憂だったみたい。
街に出てご飯を食べに言ってたとか……私が最初にあげたお小遣い全部使って。
もしかしてこの子浪費癖があるのかも。
〇月々日
ロットが私と椿に訪ねた。
椿とも交友があったなんて……この子は本当に面白い。
そして何時か聞かれると思っていた問をされた。
「絶対に折れない、曲がらない、そんな剣は存在するのか?」
ロットが聞いているのは、伝説の剣などの夢物語の話ではない。この子はどこまでも現実主義だ。だから私と椿は答えた「ある」と。
不壊属性があれば、それは可能な筈だ。
折れない、曲がらない、そして砕けない。
だからそれはロットにとって理想的だったものに違いない。信じた筈の半身に先に旅立たれる感覚。それを幾度となく繰り返すその能力。
手元には何も残らない。
よく正気でいられたものよ。私なら──、それは違うわね。あの子も私と出会った時から正気じゃなかった。
この子には自分で理想の武器を造ってもらいたい。
私はそう切実に祈った。
〇月|日
ロットが失踪した。
立て続けにそうなったら耐性もついてしまう。どこかほっつき歩いてご飯でも食べてるんでしょう。
〇月^日
ロットが帰ってきた。
しかし私は笑って出迎えることは出来なかった。たまたまダンジョンにいたロキの所の団員が保護しここまで運んできてくれた。『
そして一つ【九魔姫】に聞かれた。恩を返すつもりだと思って答えてもらいたい。
そう言われて、私は何を要求されるのか分からなかったが何でも受けようと思った。私の子の恩人だ。私の武器を一つ造るのも吝かではない。
「……このエルフの名前を教えてもらいたい」
その問いには完全には答えられない。
だってこの子は…この子の名前は、一部が読めなくなっているから。
ありのままに伝えた。
「ごめんなさい。この子の名前は一部が塗りつぶされて消えているの。ロット、それ以外は分からないわ」
そう言うと【九魔姫】は部屋から出ていった。【人形姫】もそれに続く。ただ、一つ気がかりなことがある。二人からは手と足が
そんなスキルはないし、ましてやあれからお金も上げていない。
ならどうやって?
文字化けしていた、もう一つの能力?
すぐにトラブルを運んでくるし、危なっかしいし、何をするのか分からない。
英雄になるのか、それとも魔王になるのか。
ねぇ、ロット。アナタは何になりたい?