比企谷八幡と黒い球体の部屋―外―   作:副会長

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通称【ラスボス】。その――鮮烈なる、登場シーンだった。


妖怪星人編――62 魔人、襲来

 

 その瞬間――黄金の光が、平安京を包み込んだ。

 

「――――ッ!?」

 

 燃え広がるかのような強い光の奔流に、平安宮の奥深く――妖怪大戦争の戦火すら届かない程の深い闇の中で、ボロ衣のように倒れ伏せていた狐は。

 

 今宵の戦争の主役の一角たる大ボス――『狐』勢力の頭である『狐の姫君』――『化生(けしょう)(まえ)』は。

 

 赤を通り越して赫に――そして血のように黒く染まっていた、莫大なる妖力の『皮膚鎧』を、ボロボロと崩れ落としながら、呻いた。

 

「………今度は、一体、何が起こったというの?」

 

 ありとあらゆる混乱が、衝撃の展開が次々と巻き起こっている妖怪大戦争――その全ての文字通りの蚊帳の外である、安倍晴明謹製の結界に囲まれた大内裏、その内部においても。

 

 正に――衝撃の展開が繰り広げられていた。

 

 妖怪勢力の大ボスたる『化生の前』。

 彼女は戦争が始まるや否や、他の何にも目もくれず――途中、()()()()に立ち寄ったが――『人間』勢力の最高戦力でありながら、拠点防衛と要人警護の為に戦局から外れた男――『安倍晴明(あべのせいめい)』を狙い討ち、見事に急襲を成功させた。

 

 その結果、ここに――『化生の前』vs『安倍晴明』という、戦争の最終盤にて最終決戦として用意されるべき最高の対戦カードの一戦が、早々に組まれてとんとん拍子に開戦した。

 

 そして、その夢の戦いは、それに相応しい大激戦となった。

 化生の前は赤い妖力の『皮膚鎧』を更に赫くし――奥の手の切札であった『黒い鎧』、そして『疑似九尾化』まで取り出して、それこそここが最終決戦となっても後悔はない、否、これを最終決戦とする覚悟を持って、己の全てを出し切った――が。

 

 その全てが――『()()()()()()()()()()()()

 

 結果は――()()

 

 全ての『皮膚鎧』が力尽くで剝ぎ取られ、地に叩き伏せられ、無様に横たわることとなり――平安京を焼き尽くさんばかりの強烈な黄金の光を浴びせられるまで、意識を完全に奪われていた。

 

 何故――自分は生きているか――生かされているのか。

 そんな疑問よりも前に、思わず呟いてしまった独り言。

 

 一体、何が起こっているのか――それに対する返答が。

 

 自分が此処に侵入してきた時と同じ姿勢で腰を掛けている――()()()()()から返って来た。

 

【――『主演』が、ようやく『舞台』へと上がったというわけじゃ】

 

 そこに居たのは――【知らない男】だった。

 

 自分がこの結界内へと侵入した時、自分を出迎えた『白い男』の面影は一切ない。

 

 ただただ黒い。闇のように黒く、影のように黒い。

 平安京全土を包み込んでいるかのような強烈な黄金の光を浴びせかけられて尚、その光すら呑み込んでいるかのように、何もかも明らかにされない程に――()()

 

【遅れていた『役者』も揃ったようじゃ。つまり――ここからが本番じゃな】

 

 真っ黒な男は、真っ黒に言った。

 

 笑っているかも分からない。笑っていないかも分からない。

 

 その言葉は平坦で、平淡で――やはり、何色でもない、真っ黒だった。

 白い所がない。無色すらない。全てを吞み込み、全てを塗り潰すような――黒い男。

 

 世界の中に、物語の中に、突如として湧いた――不穏分子(エラー)のような、異物。

 

「……あなたは――誰なの?」

 

 安倍晴明――ではないのか。

 

 自分と同じ『母』から生まれた『兄』。

 

 この星に来訪した『真なる外来種』たる『葛の葉』から生まれた『星の戦士』。

 妖怪の血を引く『半妖』でありながら、『在来種』たる人間を守るべく『星の力』を与えられた――真なる『人間』。

 

 史上最強の陰陽師。『人間』側の最高戦力。

 

 安倍晴明――では、ない、のか。

 

 ついさっきまで――目の前の男は、白かった筈だ。

 

 自分が戦っていたのは――そんな、『人間』だった、筈だ。

 

(……これが、『安倍晴明(あべのせいめい)』の――正体?)

 

 正体が不明であるのもな――その白い男は、儚く笑い、言った。

 

 己の身体に――黒い『呪印』を巡らせながら。

 

 その黒い呪印は、化生の前の『皮膚鎧』が赤から赫に、そして黒になっていくのに、呼応するように。

 

 黒から黒へ――そして、黒へ。

 白を塗り潰すように全身へ巡り――『人間』を犯すように、真っ黒に染まり。

 

 そして――。

 

――私は、お前以上に、『特異』なのだ。

 

 そして――【黒い何か】は、言う。

 

【儂は――【蘆屋道満(あしやどうまん)】という】

 

――願いを叶えるには、苦難が伴うということを。

 

 かの白い男の――兄の言葉を思い返す、化生の前――妹に向かって。

 

 黒い何かは――己が名を。

 

 安倍晴明ではなく――蘆屋道満と名乗った。

 

【よろしくの――そして】

 

 さよならじゃ。葛の葉の遺産よ――そう、黒い男は、真っ黒に言って。

 

 倒れ伏せる化生の前に向けて――何時の間にか指の間に挟んでいた、その【黒い術符】を放った。

 

 それが己の下に届くよりも前に――化生の前は再び『鎧』を身に纏って。

 

 瞬間――黒い爆発が、化生の前を包み込んだ。

 

 安倍晴明が、要人貴人達が眠らされたまま封じられている建物を守るべく、二重に包み込むように張った結界。

 

 更に念の為にと、その上に重ねるように、【黒い男】は己の前に黒い御簾のような結界を下ろして、己の術が起こした黒い爆風から身を守った――が。

 

 爆炎が収まり、爆風が止んで、黒い御簾を上げたその場所に――狐の死体は、転がってはいなかった。

 

【…………逃げたか。まぁ、それはそれでよかろう】

 

 既に『狐の姫君』に代わる『ボス』は平安京に来襲している為、最悪、()()()()()()はここで処分しても構わないかと思ったが、逃げるというならば、それでもいい。

 本来の筋書き通りに進むだけだ。『第三のボス』との関係性(伏線)もある。それなりに面白い転がり方をすれば、新たな展開も生まれるだろう。

 

【それに、儂のような盤外キャラがチートでボスキャラを殺すなど、興醒めもよいところじゃ】

 

 メタ展開ほど醒めるものはないと、【黒い男】は再び深く腰を下して。

 

 天に浮かぶ赤き月を見上げ、戦場から離れた結界内――『盤外』に、微かに届く平安京の恐慌に耳を澄ませる。

 

【儂はあくまで、舞台袖の脚本家(ストーリーテラー)に過ぎぬ。実際に物語を演じるのは、舞台の上の役者でなくてはな】

 

 ああ、楽しみじゃ、楽しみじゃ――と、夢を見るように、【黒い男】は目を瞑る。

 

【お主もそう思うじゃろ――()()

 

 親しげに、安倍晴明と同じ顔で、同じ声で――【黒い男】は、『白い男』へと語り掛ける。

 

 そして、今度は白い術符を取り出し、五枚の術符を、五羽の青い燕へと変えて――結界の外の戦場へと飛ばした。

 

【さあて。クライマックスの始まりじゃ。共に見届けようではないか。千年に一度の――祭りの終わりを】

 

 平安京の最奥にて、再び闇に包まれた蚊帳の外で。

 

 その【正体不明】は、たった一人で、真っ黒に笑った。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 その黒い嵐は、唐突に現れた――正しく、天から降り注ぐ雷が如く。

 

 突き刺すように平安京を縦断し、地獄の戦場に――降臨した。

 

 何もかもを吹き飛ばして、一切合切を滅茶苦茶にした。

 

『クズノハァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』

 

 漆黒の魔人――『平将門(たいらのまさかど)』。

 

 かつて日ノ本を混乱と恐怖の坩堝へと叩き落した伝説。

 

 新皇を名乗り、坂東を暴れ回り、処刑された筈の、その男が。

 

 時を超えて復活し、かつて辿り着けなかった場所へ――平安京へと、帰還を果たした。

 

 嵐の如く襲来し、雷の如く降臨し――黒い炎と共に、全てを破壊した。

 

 民も、街も――武者も、妖怪も。雷神も、最強も――何もかもを。

 

 魔人の黒炎が――その全てを、呑み込まんばかりに襲い掛かる。

 

(――――何だ、これは…………ッ!!)

 

 その魔人の登場を認識できたのは、百戦錬磨の頼光四天王である碓井貞光(うすいさだみつ)卜部季武(うらべすえたけ)の両名――ではなく。

 

 皮肉にも、かの魔人が現れる直前に、最強の妖怪の位に指を掛けるに至った一羽の烏――雷神の力を獲得した天邪鬼(あまのじゃく)だった。

 

 魔人の覇気、獄炎が如き黒炎――それを目前にしてなお、彼だけがただ一体、意識を辛うじて保つことが出来ていた。

 

(コイツは――何だ……ッッ!!??)

 

 全知たる星詠みの陰陽師によって生み出された『烏』とはいえ、彼自身に全知は備わってはおらず――故に、目の前の黒い何かが、かの平将門だと一目では看破出来ない。

 

 真っ黒な肌に、真っ赤な瞳。

 

 六本の指。禍々しい角。鱗が生えた腕。突起だらけの尾。巨大な牙。刃が如き爪。

 

 その姿を凝視するだけで、全身に畏れが駆け巡る。

 

 黒い、黒い、黒い、黒い、黒い、黒い。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 

 目の前の漆黒は()()()()()()――だが、かといって、()()()()()()

 

 何だ――目の前の、この黒い何かは。

 

 黒くて怖い。黒くて恐ろしい。

 

 コイツは――存在してはいけない何かだ。

 

「――――ッ!!???」

 

 ぎょろりと――その黒い何かの中で唯一の赤が、血色に染まったその瞳が、己を――天邪鬼という妖怪を捉えた。

 

 見られた。見つかった。認識――された。

 

 恐ろしい何かに。正体不明の漆黒に。

 

 全身を貫くような――恐怖に、犯される。

 

「う――うわ――うわぁぁあああああああああああああああああ!!!」

 

 天邪鬼は絶叫しながら目の前の漆黒に掌を向ける。

 恐怖で硬直し、生を諦めようとする心を叱咤し――戦いを挑む。

 

(ふざけるな――私は最強になったのだ!! 雷神の力を手に入れ、私はあの御方の――必ず、あの御方を――()()()()()()――!!)

 

 ようやくだ――ようやくなのだ。

 全てはあの全知たる主の筋書き通りなのかもしれない――だが、それならば、自分は、主の期待に応えられたということなのだ。

 

 身の丈に合わない力だという自覚はある。

 だが、それでも、今宵だけは――この夜が明けた頃に消滅している身分なのだとしても、それでも。

 

 まだ――始まったばかりなのに。

 

 まだ――まだ――これから、なのに。

 

「邪魔をするな!! 邪魔者がぁぁああああああああああああ!!!」

 

 天邪鬼は、渾身の力で、手に入れたその力を全力で振るって、雷を空から落としてみせて――。

 

 その雷柱が、丸ごと――黒炎に呑み込まれた。

 

「――――――――ッッッッ!!!!!?????」

 

 雷神が振り落とした稲妻が――魔人が突き上げた炎柱によって喰われた。

 

 それは、黄色が黒色に侵食され、塗り替えられたが如き衝撃の映像で。

 

 天邪鬼は現実を認識するよりも早く、黒炎に包み込まれて、視界を黒く染められた。

 

 何も――かもを。

 

 願いも、怒りも、夢も、希望も、何もかもを平等に滅茶苦茶にする規格外。

 

 これが魔人――平将門。

 

 かの【黒い男】が招待した、祭りの新たな主役――通称【ラスボス】。

 

 その――鮮烈なる、登場シーンだった。

 

 

 こうして、一つの戦争を、強引に力づくに、ただただ無慈悲に暴虐的に、台無しにした平将門は。

 

 そのまま何事もなかったかのように現場を後にし、地獄たる平安京を徘徊する。

 

『クズノハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 愛する女の名を、それ以外の全てを忘れてしまったが如く、ただ只管に叫び続けながら。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 そして、魔人が去った後。

 

 ゆっくりと、卜部季武は目を覚ました。

 

「…………う――ハッ!? こ、ここは――!?」

「気が付いたか、季武」

 

 頭を押さえながら、バッと身を起こした季武は、既に覚醒し屹立していた碓井貞光を見上げた。

 

「貞光さん……自分は――」

「不甲斐ないのは私も同じだ。同様に気を失い、目を覚ましたのはつい先程だ」

 

 そう言う貞光の顔は険しく、季武を見ていない。

 

 彼が目を向けているのは、眺めているのは――目を、逸らすことが、出来ないものは。

 

 季武も、貞光の視線に釣られるように、それを見て。

 

 同様に――それを、突きつけられる。

 

「…………ッッ!!」

 

 それは、破壊された家屋。逃げ遅れ、傷ついた民。守れなかった――平安京。

 

 自分達の敗北、失敗が引き寄せた――逃げられない、現実そのものだった。

 

「…………何が、起きたんですか?」

 

 それは、まるで負け惜しみのような、情けない呟きだった。

 思わず零れてしまったかのような、けれど、言わずにはいられない言葉だった。

 

 負けを認められない、失敗を受け止められない――理不尽に対する、憤りのようだった。

 

「僕らは確かに、間に合わなかったのかもしれない。けれど――挽回の機会は残されていたでしょう! 勝てなかったのかもしれない。結果は同じだったのかもしれない。それでも、あの雷神の力を得た天邪鬼と、戦うことは、出来た筈でしょう!?」

 

 まだ、巻き返すことが出来た筈だ。まだ、食い止めることは出来た筈なんだ。

 

 少なくとも、その機会だけは――戦うことは、出来た筈なんだ。

 

 なのに――それなのに。

 

「一体! 何が起きたっていうんですか!!」

 

 一瞬だった。

 何かが起きた。何かが現れた。

 

 これから決死の戦いを挑もうとした、その時。

 これから命を懸けた戦争に向かおうとした、その時。

 

 何かが起きた。何かが現れた。

 

 決死の思いも、誓いも、気概も、何もかもを嘲笑うかのように。

 

 黒い何かが――その全てを、台無しにした。

 

「……分からない。あの黒い何かがなんだったのか。天邪鬼はどうなったのか。……ただ一つ、言えることは――」

 

 貞光は目を細めて――けれど、決して、瞑ることなく。

 

 目を逸らさずに、その理不尽を――逃れようのない、現実を口にする。

 

 その震える拳と背中を、季武だけは気付いていたが――その声は、まるで己に突き刺すように、震えず、真っ直ぐだった。

 

「我々は――負けたのだ」

 

 貞光の言葉に、反射的に開こうとした季武の口は――民の悲鳴によって、強制的に閉じられた。

 

 家を失った男の叫び、子供とはぐれた女の叫び、行き場所を失った子供の叫び――全て、自分達の弱さが招いたものだ。

 

 英雄が、守れなかったものだ。

 

 横合いから殴られた、名乗りがなかった、把握していなかった、意味が分からなかった――そんなものは全部、何の言い訳にもならない。

 

 これは武士の決闘ではない――戦争なのだ。

 規律などない。慣習などない。暗黙の了解などある筈もない。

 

 自分達が、足りなかった――弱かった、それが全てだ。

 

 我々は――負けたのだ。

 

「だが――戦争はまだ、終わっていない」

 

 俯く季武を引き上げるように、貞光は無理矢理に腕をとり、彼の体を持ち上げ、立たせた。

 

「民を(たす)けるのだ。天邪鬼や黒い何かがどうなったかは分からないにせよ、下級妖怪達は未だに暴れまわっている。蹲っているよりは、それらを討伐して回る方が遥かに有意義だ」

「……そう、ですね」

 

 天邪鬼、そして黒い何かは、放置しておくにはあまりに危険だけれど、自分達は奴らがどの方向にいなくなったのかすら把握していない。

 

 それに、あれほどの妖怪が再び猛威を振るうとしたら、少なくとも騒ぎになるだろう。

 下級妖怪を退治しつつ民の避難誘導を続けながら手がかりを探した方が、確かに闇雲に動き回るよりずっといい――そう、季武が再び前を、上を向く気力を取り戻したとき。

 

 頭上から、それが舞い降りてくるのに気づいた。

 

 眩い雷光ではなく、無論、黒い奔流でもないそれは――蒼い燕だった。

 

 碓井貞光、卜部季武の敗戦、そして奮起――その時機を見透かしたように、現れたその蒼い燕の意味を、両名は知っていた。

 

 平安京最強の陰陽師――安倍晴明からの使者(メッセージ)

 

 次なる戦場を指し示す、終わらない戦いを告げる伝令だった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 蒼い燕に導かれ、貞光と季武が後にした戦場――その、すぐ傍で。

 

 二人は気づくことはなかったが、ひっそりと、まるで路地裏に捨てられるゴミのように。

 

 大江山四天王にして、三羽烏――雷神の力を獲得した鬼。

 天邪鬼(あまのじゃく)は、息も絶え絶えに、見る影も失くして倒れ臥せっていた。

 

「おやおや。随分と、哀れな姿に成り果てていますね、我が同胞よ」

 

 そんな彼を見上げるように、一羽の烏が舞い降りる。

 

 鳥のような頭部に山伏衣装。

 黒翼をはためかせながらゆっくりと舞い降りるそれは――消えゆく命を回収しにきた死神のようで。

 

「……ふっ。同胞? 面白いことを言いますね」

 

 天邪鬼は、そんな死神のような烏の言葉を嗤う。

 

 同じ主から生み出された三羽の烏。

 だが、断じて、私とお前等は同胞などではないと――そう、天に邪する鬼となれと命じられた烏は告げる。

 

 この世界の筋書きに逆らえと、そう真なる主に命じられた式神は言う。

 

()()()()――()()()()()()()()()()

 

 震える指を持ち上げて、精一杯に不敵に笑う。

 

 己を見下ろす――真っ黒な、烏を。

 

「私をここで取り込んだとしても――我が主の『白』は、決してあなた方の『黒』に塗り潰されなどしない!」

 

 例え、今、ここで、『天邪鬼』という『役者(キャスト)』は『(クランクアップ)』を迎えるのだとしても。

 

 それが、果たして、どこの誰の『筋書き』なのか――それを、私は、確信していると。

 

「……ふふ。その伏線回収の場に立ち会えない。それだけが、私の心残りです」

 

 今わの際に、力無く――けれど、一切の絶望も見せずに笑う()に。

 

 黒い式神は――容赦なく、その首根っこを掴み上げて。

 

「その時こそ、()()()は――心の底から、お喜びになられることでしょう」

 

 お疲れ様でした。中々の道化(ピエロ)でしたよ――そう告げながら、烏天狗は、天邪鬼をその掌で取り込んでいく。

 

 二羽の烏――覚と天邪鬼、その両者の力を、その身に取り込んで。

 

 三羽烏は今、一羽の烏に集約される。

 

「――それでは、その伏線回収(クライマックス)とやらを、見届けさせていただくといたしましょう」

 

 そして、黒い鳥は夜空へと飛び上がり、闇へと溶け込む。

 

 物語の行く末、戦争の行く末を、己が主へと送り届けるが為に。

 




用語解説コーナー62

・【黒い男】

 蘆屋道満――正体不明。

 脚本家であり、演出家。


 真っ黒な――――黒幕(ラスボス)
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