そして、回想シーンならぬ回廊シーン。
幼き日。
月光が差し込む書庫の中で――藤原道長という男の運命は変わった。
貴族の五男。
野心と才覚溢れる父兄に囲まれ、およそ栄光というものに程遠い出生。
自分はきっと、高すぎず低すぎない家柄の娘と結婚し、父や兄に目を付けられない程度に出世し、家の血を絶やさない保険の為の子を産み、この狭い平安京の中で死んでいくのだろうと、そう思っていた。
それが相応しいと思ってもいた。
自分が父や兄を凌ぐ才覚を持っているとは思ってもいなかったし、何より、彼等のような燃える野心も持ち合わせていなかったからだ。
この狭い世界、宮中という囲いの中の世界での立身出世に、それほどに燃え滾る情熱を、野心という名の炎を、燃やすことが出来ないと冷静に自覚していた。
自分には、『藤原』としての才が――黒く燃える『野心』がないと、そう幼き時分にて既に、自分という男に見切りを付けていた。
だが、それは、まるで導かれるように――月光に照らされた一冊の写本にて狂わされる。
それは日ノ本最古の物語。
著者は不明。果たしていつ生まれたのか、その正確な日付も不明。
まるで神が、あるいは星が、こっそりと生み出したかのように、ある日から当然のように、この国にあった物語。
光る竹の中から生まれた姫が、宮中という世界を、貴族の男達を、日ノ本という国を、己が美貌という才一つで掻き回し、蹂躙する物語。
好き勝手に国そのものを揺れ動かし、やがては狭い世界を飛び出して――天に悠然と佇む、月へと至る物語。
その物語に――その、かぐや姫という、『キャラクター』の魅力に。
己が人生を見限っていた少年は――魅了された。
全身を流れ巡る血が、『藤原』という才が――覚醒するのを感じた。
誰よりも強く、誰よりも色濃く、まるで『藤原』という一族の完成形といわんばかりに秘めていた才に――歴代で最も黒く、最も熱く燃える『野心』に、火を着けた。
そして、その本を持って書庫を飛び出した少年は、美しく輝く、遠い彼方にて輝く、思わず手を伸ばしてしまう程に大きく輝く――けれど。
誰もが美しいと目を奪われ、誰もが神々しいと心を奪われながらも、誰もがそう思った瞬間に、諦念と共に手を下ろす――その『月』に、向かって。
少年は、グッと、掴むように――その手を、握る。
届かせてみせると、誰もが正気を疑うそんな野心を、黒々と燃やしながら、一人の少年は――ここに、誓った。
――僕は……いや、俺は、違う。
むざむざと月へとお前を逃がした帝とは違う。
届く筈がないと諦めて手を下ろす輩とは違う。
どんな手を使ってでも、どんな手段を用いてでも――どんな悪に、手を染めてでも、
――俺は、必ずそこまで辿り着く。
身分の差。種族の違い。――そんな
生まれて初めての『野心』に昂揚して。
生まれて初めての――『恋』に、燃え上がった。
――俺は、『
そんな――幼き頃の、黒い歴史を思い出して。
あの時と同じく、大きく輝く月が――どんどんと、どんどんと、あれほど大きかった月が、更に大きくなっていくのを。
円から球体へ、そして大地へと姿を変えていくのを見て。
遂に――辿り着くのだと、そんな昂揚に打ち震えながら。
道長は一度だけ振り返る。
大きくなっていく月とは対照的に、どんどんと小さくなっていく、己が世界の全てだと思っていた箱庭――平安京。
赤く燃えあがる己が故郷――そこに、漆黒の影が侵入し、それに追随するように、遅れて
今宵の主役たる『人間』は笑う。
「――さぁ、
己をここまで連れてきてくれた臣下の言葉を真似するように呟きながら、道長は――遂に、降り立つ。
この回想シーンが、回廊を天翔る馬で駆けていた時間が、果たしてどれほどの時間だったのかは分からない。
一瞬か、一分か、一日か――瞬間だったような気もするし、永劫だったような気もする。
少なくとも道長にとっては、それは人生と同じ長さだった。
己が人生全てが、この瞬間にあったのだと、道長は確信する。
己の来訪を――まるで見透かしていたかのように。
待ち構えていた兵士、従者――そして、それらを背に、誰よりも前に立って。
正面より、真っ向から、堂々と――己を迎えた、美女を見て。
道長は――己が胸の高鳴りに、燃え上がるような慕情に、そして黒く膨れ上がる野心に、確信する。
「……ようやく、辿り着くことが出来ました。あなたの故郷に――あなたの国に」
故に――己も堂々と、彼女に相応しい己を心掛けて、胸を張って、崩れそうになる相好を堪えて、薄い笑みを湛えて、万感の思いを込めて言う。
「お迎えに上がりました。――かぐや姫」
藤原道長の言葉に、一団を率いた美女は、更に一歩、前に出る。
ばっさりと首元で切られた黒髪に、吊り上がった気の強そうな瞳。
身に付けている衣も、道長の見慣れないもの――
背後の従者、兵士達も同様に、
まさか、ここまでとはな――そう、地球にいる、己が配下たる星詠みの陰陽師を思い出しながら。
目の前の美女の――言葉を聞く。
「……ようこそ、いらっしゃいました――懐かしき地球の御方。ご明察の通り、
深々と頭を下げる黒き女王――そして、漆黒の武器を携え、出迎える黒き一団。
それに相対するは、光る馬と白き虎を連れた、黒き野心を燃やす――
頭を上げた女王は、静かに――その開戦の言葉を口にする。
「――それでは、
+++
もうダメだ――と、息も絶え絶えに、男は言った。
「ダメだなんて言っちゃダメだ! 僕が必ず、あなたをご家族の下へ連れていきますから!」
だから諦めないでと、青年は血塗れのその手を取って、今わの際の男を励ます。
そんな様子を、背後に少年と童女を庇いながら、女は冷たい眼差しで眺めていた。
(……もうダメね。お腹の傷が深すぎる。臓器もいくつか傷ついているでしょう。出血は止まらない。すぐに意識を失い、呼吸が止まる。……それでも、彼はその死体を家族の下へ運ぶまで譲らないでしょうね)
狐の姫君・
しかし、何の戦闘力も持たない平太と詩希を連れながら、それも狐の妖怪に己の正体を悟らせない為に、振るえる力も大きく制限されている
案の定――道中にて狐の下級妖怪に囲まれて窮している時、彼女達は彼に出会った。
平安京を守る武士であり、安倍晴明がその才能を認める戦士である青年――が、しかし。
彼と合流して尚――未だに羽衣達は、目的地に辿り着くことは出来ていなかった。
(確かに、彼と出会ってから、目的地である『祠』までの道のりのおよそ半分という所まで来たけれど――
妖怪大戦争――この『舞台』を『
羽衣が『祠』に辿り着かなければ、この戦争は終わらない。
(否――正しくは、私が『祠』に辿り着かなければ、『人間』はこの戦争に勝てない)
つまり、戦争が終わるその前に、羽衣は何としても『祠』に辿り着かなければならないということだが――羽衣が有用だと判断し、同行を願い出たこの武士の青年は。
(余りにも――お人好し過ぎる)
いや、もはやそんな言葉では足りない。
まるで人助けという行為に依存している――狂人のようですらあった。
確かに、このような妖怪最盛期の時勢において、平安武士を志すような人間は、家の威光を高める為という欲を持って志願する者もいるが、大抵は図抜けたお人好しだ。
羽衣もそうだと考えた上で、その目的地にこの子達の家族が逃げ遅れているのだと虚偽の説明をして、戦地から離れた避難所に童達を向かわせようとする青年を『祠』へと誘導した。
だが、その道中、この青年は傷ついた人々を見掛けると、一人残らず傍に駆け寄り救助を試みた。
無論、彼が平安武士である以上、その行為は至極当然のものだが――その行動力が、余りにも異常なのだ。
平安武士の中には、妖怪というものを恐れない者も存在する。
それは偶々それなりの才能があり妖怪退治に苦戦したことがないものであったり、これまでに弱い妖怪にした出遭っていない者だったり――まるで星から才を授かったかのような人間離れした強さを持っている者だったりするが、この青年は、そのどれともまた違う。
妖怪を恐れてはいる。そして、自分が選ばれた強者ではないということも、やはり理解している。
にもかかわらず――窮地に我が身を飛び込ませることに、躊躇がない。
傷ついている人がいれば、苦しんでいる人々がいれば、例え、己が身が傷つくことになろうとも――あるいは、死ぬことになろうとも、助けなければならないと、そう脅迫されているかのような投身ぶりだった。
事実、羽衣が今振るえる限りの力で影ながらサポートしていなければ、目の前の死に掛けの男と同じだけの傷を、既に彼は負っているだろう。
これだけ進捗の遅い行軍を、ここまでずるずると続けてきてしまったのも、そんな青年に――少なからず、恐怖していたからでもあった。
それはきっと、自分の脚の裏に隠れている、この少年と童女もだろう。
(……兄様は、彼の特異な『体質』に対して興味を抱いていたのだと思っていたけれど……もしかすると、この青年が特異なのは……『体質』よりも、むしろ――)
羽衣と詩希と平太が戦慄の眼差しを向けるのも気付かず、青年は死に瀕した――否、既に死んでいる男の身体を背負って、路地裏から通りへと出る。
そこには――漆黒の轍が出来ていた。
「――ッ!?」
「え、なにこれ!?」
「これは……ッ」
思わず足を止める青年、驚愕する詩希と平太の横で――羽衣は歯噛みする。
一直線に走る黒い轍。
その直線上にあった家屋も、人も、全てが黒く貫かれている――まるで、黒い災害が通り過ぎたかのように、その轍には黒い残り火がゆらゆらと揺らめいていた。
(これは――もう、一刻の猶予もない……ッ!!)
かくなる上は――と、羽衣は、死体の男――男の死体を背負ったまま、黒炎に包まれている人の元へと駆け出そうとする青年を止める。
「――やめなさい! もう助かりません! 黒く燃える人も――あなたが背負っている、その男の人もです!!」
羽衣の言葉に、ピタリと青年の足が止まる。
しかし、青年は振り向こうとも――前を向こうともしない。
何かに縛られ、何かに囚われているかのように。
死体を背負うそんな背中に、羽衣は静かに問い掛ける。
「何故……そこまでするのです? 分かっているでしょう。あなたに救える命には限りがあるということくらい。あなたに助けられている私達が言うことではありませんが――全てを救うことなど出来ないです」
いっそ哀れむように言う羽衣の言葉に、青年は顔を上げながら、それでも振り向くことも、背中の死体を下ろすことも出来ず――そんな自分を嗤うように、「……分かってますよ」と、そう呟く。
「……分かってます。それでも、駆け寄らずにはいられないんです。手を取らずにはいられないんです。……この戦争が始まってから、ずっと、ずっと――思ってしまう」
あそこで倒れている人が、あそこで傷ついている人が――今にも、その命を失おうとしている人が。
もし――僕の、家族だったら?
もし――僕の――。
「――妹、だったら……と」
「――ッ!?」
その――言葉に。
羽衣は――安倍晴明の妹は、思わず息を吞んで。
「分かっています。こんなのは下らない妄想だ。ここで見知らぬ誰かを助けた所で、それで家族が――妹が勝手に救われることはない」
「……ならば、何故――あなたの家族の下へ、自ら
つい先日、家族を失った少年――平太は、そう青年に直接問い掛ける。
そんな子供の言葉に「……出来ませんよ」と、力無い笑みで青年は応じた。
「家族が心配なのは僕だけではありません。……今、戦っている平安武士――その殆どが、この平安京に家族を持ち、故郷を守る為に戦っている者達です。誰もが己の家族を第一に守りたいと思っているにも関わらず……『人間』の為に、『平安京』を守る為にと、作戦の駒となっている」
僕は、仮にも隊長である身だ。自分だけ、家族を優先するわけにはいかない――と、そう、力無く、それでもその覚悟を示すように、背中の死体を抱え直す。
まるで、作戦の最中であるならば、任務の途中であるならば、戦いの最中で見付けた危機ならば、思う存分助けることが出来ると言わんばかりに。
自分が助けた窮地の民が――家族であってくれと、そう願っているかのような、矛盾した願望に。
その身を裂くように強く縛られて、囚われているかのような――『兄』に。
「ならば――どちらも救えばいいのです」
羽衣は、強く――鋭く、言葉を突き刺す。
「苦しむ民も、怯える家族も――そして、この平安京も。何もかもを、救えばよいのです」
それは、無力な子供を引き連れた、か弱き女性の声ではなく。
青年を叱咤するような、より高みから導くような――強者の言の葉で。
「……あなたは、何者ですか?」
青年は、ようやく振り返り、そう小さく問い掛ける。
これまで危ない所を何度か助けてもらった。陰陽師見習いだと、そう彼女は自称していた。
そんな青年に――羽衣は。
青年の背中の死体を、見えない力で手も使わずに持ち上げて、そのまま黒い炎の中へと、荼毘に付すように突っ込んで。
堂々と、胸を張りながら言った。
「私は――安倍晴明様の、妹です」
羽衣は、十二神将『
己は、安倍晴明の妹だと、そう堂々と自称した。
「…………妹」
妹を探す兄は、背に負っていた重みを解放されても尚、自由になれないとばかりに立ち尽くしながら、呆然とそう復唱する。
羽衣は、そんな兄に、そんな戦士に――道を指し示すように、力強く言った。
「はい。私は、帝を
羽衣は、動けない青年の下へと歩み寄りながら語る。
「私の呪力は特殊で――『狐の姫君』を刺激してしまう。だからこそ、『祠』に着くまでは強力な術は使えない。故に、あなたに護衛を頼みました。初めに全てを教えなかったのは……敵方に情報が洩れることを避ける為です。あなたが道中に力尽きれば、別の武士に護衛を頼むつもりでしたから」
あの子達を途中で保護して、無茶な行軍は出来なくなってしまいましたからね――そう語る羽衣の言葉に、青年は何も返すことが出来ない。
安倍晴明の妹。戦争を終わらせる勅命。
何もかもが、一介の隊士に過ぎない青年の身には重過ぎて。
死体は既に背負っていないのに、重くて、身体が――動かない。
「っ!」
そんな青年の肩に、羽衣は手を乗せて言う。
「しかし――あなたならば、出来ると、やり遂げてくれると判断しました。あなたならば、私達を目的の場所へ――この戦争を、終わらせる場所へ、送り届けてくれると」
肩に手を乗せて――そして、何よりも重い、期待を乗せて。
「お願いです。戦争を終わらせてください。そして、皆を、家族を、平安京を」
救ってください――と、羽衣は、どこにでもいる青年に言う。
英雄ではない。最強でもない。
きっと『兄』が、そして『奴』が、書いた『脚本』には名前すら載っていない、『役者』ですらない、只の『
「……どうして――僕なんですか?」
それはまるで懇願のようだった。
何故、僕なんだと。何で、そんなものを、どうして『
そんな青年に、羽衣は――。
「…………それは――」
彼女が彼に掛けようとした言葉は、更なる重みだったのか、それとも青年の肩を軽くするようなものだったのか、それが判明するよりも――先に。
「――これは、一体どういう事態なんだ?」
「っ!?」
羽衣と青年は咄嗟に警戒態勢に入る。
平太の判断か、少年と童女も既に羽衣の傍へと避難していたが、それも少し遅かった。
既に、羽衣と平太と詩希、そして青年は――取り囲まれていた。
大きく、不気味な、三体の妖怪に。
「先程の『黒い何か』――あれは、お前等の仕業か?」
「そりゃあないだろ。只の餓鬼と女と小僧だ」
「確かに、まともに戦えそうなのは男くらいだが……油断するな。戦争が始まって大分経つ。我等『狐』の妖怪も損耗が激しい。戦える人間は一人でも多く殺しておくべきだ」
右側の行く手を遮るのは、両手を羽に変えた鳥頭の妖怪。
左側の行く手を阻むのは、亀のような頭に甲羅を背負った妖怪。
そして、正面の廃屋の屋上から見下ろすのは、蟲のような下半身を持つ屈強な男の妖怪だった。
反射的に得物を手に取るが、青年は額から汗を流すのを止められない。
(不味い……三体ともこれまで戦った下級妖怪じゃないッ! 幹部とまではいかなくても――少なくとも、僕と同じ部隊長級の妖怪!)
重ねた連戦と無茶な救助活動により、青年の身体は万全とはいえない疲労状態だ。
これほどの妖怪と、それも三体同時に、子供と女性を守りながら戦えるわけがない。
(『
苦悩する青年の背後で、羽衣もまた思案していた。
(限界ね……。彼一人では、この場を脱することは出来ない)
力を解放するべきかと悩む。
ここで十二神将『貴人』としての本領を発揮すれば、幹部ですらない中級妖怪三体など、羽衣にとっては物の数ではない。
しかし、彼女の呪力の色は、『狐の姫君』・化生の前の妖力のそれと
故に、大きく、そして純度の高い力を発揮すれば、同じ平安京内の敷地ならば、間違いなく化生の前は羽衣の『正体』に気付くだろう。
そして、羽衣がこれから向かおうとしている『祠』で、一体何をするつもりなのかを――どのように、この妖怪大戦争を終結させるつもりなのか、その手段を察知するだろう。
そうなった場合、化生の前は間違いなく羽衣を止めに来る。そして、その時は羽衣が単独で化生の前と相対しなくてはならない。流石の羽衣といえど、『貴人』といえど、単独で化生の前を打倒できるかといえば疑問符が付く。
(けれど、序盤で『怪異京』に出現してから、あれから私の方では『化生の前』の存在を感知できない。……まだ怪異京にいるということ? 『箱』がない怪異京に、いつまでも?)
ぬらりひょんが未だに足止めしているという可能性は少ない。
ならば、怪異京から既に出て、自分と同じように力を使わずに潜んでいるということか。
もしそうならば、ここで『貴人』としての全力を振るうことは、避けなければならないけれど――。
「とりあえず殺すか」
「とりあえず殺しとこうぜ」
「とりあえず殺しましょう。そうしておくべきだ」
青年や羽衣の苦悩や思案の終了を待つ筈もなく、三体は同時に飛び出し、彼女等に向かって襲い掛かってくる。
「どうするの!? どうするのよ!?」
詩希の叫びに、青年の焦燥は増幅し、羽衣は歯噛みしながら――覚悟を決める。
(……やるしかないわね――ッ!)
しかし、その時。
詩希を庇いながら、こちらも覚悟を決めたような表情していた平太は――それを、見付けた。
襲い掛かってくる妖怪の上から、何かが――流れ星のように落下してくる。
「――――あれは……ッ!?」
黄金の光が閃く。
それはまるで、あの巨大な『手』の発光のように、鮮烈で。
目で追える筈もなかった。
余りにも高速で振るわれるそれは、正しく一つの大きな――斬撃のようで。
そう――斬撃。
天から降ってきた黄金の閃光は――斬撃だったと、そう気付いたのは。
平太達に襲い掛かっていた三体の妖怪が、バラバラに斬り刻まれて、瞬殺されたからだ。
「――少しばかり、遅れたか」
「おい、それは僕に対する嫌味かい? 僕が飛んでこなかったら、君は間に合ってすらいないんだよ」
それは、紅蓮髪の少女と、黒い着流しの男だった。
紅蓮髪の少女の背中からは異形の羽が生えていて、明らかに人間ではない――にも、関わらず、少女からは妖怪特有の畏れがなかった。
そして、着流しの男は。
ありとあらゆるものが欠落しているようでいて――しかし。
その黄金の太刀からは、そして、細く開かれる瞳からは――怪異を滅ぼす、殺意が迸っている。
(――――ああ、この人は――
羽衣は陶然と見遣る。
生まれて初めて見た――『兄』の同種。
星に選ばれた戦士――星から外敵を滅する力を与えられた――真なる『人間』。
「通りすがりに怪異に襲われているようなので反射的に助けてしまったが、次はこちらを助けていただけるとありがたい」
何しろ、平安京を訪れるのは百年ぶりなものでな――そう、時を越えた英雄は、黒い炎に侵された都を眺めて、問う。
「今――平安京で、一体、何が起こっている?」
こうして、遂に、平安京に『役者』が揃い。
妖怪大戦争は、一気に――
用語解説コーナー63
・ミッション
とある『黒い衣の戦士』達が用いる、『対異星人』との『戦争』の意味合いを持つ言葉。