比企谷八幡と黒い球体の部屋―外―   作:副会長

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紅だろうが、黒だろうが、そんなのは何の関係もない。


妖怪星人編――72 紅と黒の激突

 

 地球に向かって電子線が照射され、黒い球体の刺客が放たれた――その後。

 

 月面では、黒衣の戦士達と白虎と天空の戦いが終結を迎えつつあった。

 

「――我らに月面侵略の意思はない。こちらの目的は、月の黒い球体の恩恵に預かることだ」

 

 かぐやが黒衣の軍隊と道長の間に入り、道長が黒衣の戦士達に向かって声を張り上げる。

 

「無論、君達から黒い球体を取り上げるという話ではない。今、あの青き星の我が国で行われている星人戦争――その後処理を頼みたいだけだ。それが叶った後は、速やかにこの星を後にし、二度と脅かさないことを我が命を懸けて約束しよう」

 

 流石だ――と、かぐやは息を吞む。

 宮中という一国を治める政府機関を、何の異能も持たずに支配し続けてきた藤原道長という男の、言葉の魔力というものの凄まじさを、かぐやは改めて目の当たりにしていた。

 

 つい先程まで殺し合っていた戦士達に、その弁舌のみで武器を置かせ、あまつさえ取引すらも成立させようとしている。

 

「私は、貴様がかぐや様を地球へ連れ帰ろうとしていると聞いたぞ」

 

 戦士の一人が、道長に向かってそう言った。

 かぐやは身を震わせたが、道長は一切の動揺を見せずに「その通りだ」と肯定すると。

 

「しかし、それもまた姫の意思に委ねている。こちらの白虎や天空を突き付けての脅迫によって連行するということはしない。私は――この愛を以て、かぐや姫に俺を選んでもらう為にここに来たのだ」

 

 思わず赤面してしまうようなことを真っ直ぐに言う道長の言葉に、心動かされ始めている自分がいることに気付く。

 

 それが計算によるものだとしても、その言葉の魔力に、誰よりも酔わされているのは己だと気付かされる。

 

 男の瞳に渦巻く黒い炎に――魅せられつつあるのだと、思い知らされる。

 

「故に、我らが矛を交えることに、これ以上の意味はない。だから、かぐや姫よ」

 

 道長は、頬を紅潮させるかぐや姫に向かって言う。

 

「連れて行ってくれないか。――黒い球体の部屋へ」

 

 月にまで手を届かせた男が、更に深い()の中へと手を伸ばす。

 

 その手は、その黒い野望は止まることは知らず――遂には、月の深奥にまで、届こうとしている。

 

 しかし、かぐやは「……申し訳ないけれど、それは無理なの」と首を振る。

 

「黒い球体の部屋は、『家主』だったリオン以外は――GANTZに選ばれた戦士(キャラクター)しか入れない。……そして、戦士(キャラクター)となるには、死人でなければならないの」

「……なるほど。つまり、黒い球体の部屋に入る為には、()()()()は、死ななくてはならないということか」

 

 道長は、それを聞いて寸分の迷いなく言う。

 

「――ならば、死のうではないか」

 

 かぐやを初め、月の黒衣の軍勢が、そして、白虎たる公任(きんとう)までもが瞠目する。

 

 そんな彼等に構うことなく、道長は懐から術符を取り出した。

 

「これが、我が命を月面で保たせている晴明の術符だ。これを我が身から離すだけで、俺はその術の恩恵を失い、この身は容易く絶命するだろう」

「ちょ、ちょっと待て、道長!」

 

 白い虎が道長の傍に駆け寄りながら、慌てたように人語で言う。

 

「ここでお前が死んで、本当にその黒い球体とやらが、お前を戦士(きゃらくたー)って奴にするって保証はあんのか!?」

「ないな。その時は無駄死にとなるだろう」

 

 そこで、お主だ――と、道長はその術符を握りながら、白虎の口元にそれを押し付ける。

 

「かぐやよ。黒い球体には、瀕死状態である重傷の者を戦士としながら、その者が奇跡的に生還を果たすことで、結果として()()()()()()()()()()()()事態が発生という例が存在すると晴明が見透かしていたらが――それは(まこと)か」

「……ええ。確かに、そういった例はごく少数ながら存在したわ」

 

 他にも、100点めにゅーというもので戦士として記録されたモノを呼び出すことにより、戦士が重複するという形もあるが――かぐやはそれは説明しなかった。

 

 道長も何かを言い掛けて止めたかぐやを追及することはなく、「――つまり、黒い球体が戦士を作る際に必要な工程は『死に瀕すること』であり、『死亡状態』はそれの方が確実であるというだけで、必須の条件ではないということだ」と語り、そして再び白虎の目を見据える。

 

「つまり、黒い球体が俺を戦士にしないと判断した時点で、お主が私の身体に術符を戻せば、私は息を吹き返し、無駄死を避けることが出来るという寸法だ」

「――――ば、馬鹿かお前は!! そんな都合よく上手くいくわけねぇだろ!! 結局、俺が間に合わなくてお前が無駄死する可能性が一番高ぇじゃねぇか!」

 

 白虎は叫び、突き付けられたその術符を咥えようとしない。

 

 しかし道長は、己の命が掛かった極限の状況ながら、一切の恐怖を見せずに綽々と言う。

 

「案ずるな。俺はお主を信じている」

「……さっき言っていたよな、お前。戦争の終盤の行末は、晴明殿も見透かしていなかったって。つまり、このお前の策が、確実に上手くいく未来を、誰も視ていないってことだろう」

 

 普通に黒い球体が道長を無視して、普通に公任がタイミングを見落として、普通に道長が無駄死にをするというパターンも存在する――いや、むしろ、普通にそうなる可能性が一番高いだろうと、公任は呻く。

 

 理解出来ない。

 この幼馴染が、この親友が、この主が――やはり、自分には理解出来ないと、公任は俯く。

 

 道長は、そんな公任に「――お主を虎にまでしたのだ。俺だけが、いつでも晴明の未来視によって確定した道だけを歩くだけでは誰も納得すまい」と笑ってみせる。

 

「俺にも偶には、命くらい懸けさせてくれ」

 

 道長は術符を白虎に突き付けながら――かぐやの方を振り返る。

 

――これが、私の戦争(たたかい)なのだ。

 

 何の異能も持たず、何の武装も持たず、ただ己が野心だけを燃やして――遂には、月にまで辿り着いた男。

 

 こんな自分に出来るのは、ただ命を懸けるだけだと、男は儚く笑って見せる。

 

「――公任。俺は命を懸けるが、捨てるつもりは毛頭ない。俺の野望は、まだまだ(ここ)で燃え続けている」

 

 道長は、まるで少年のように――真っ黒に燃える溌剌とした笑みを、公任へと向けた。

 

「――もっと面白いものを見せてやる。お前を信じる、俺を信じよ」

「…………」

 

 公任は、かつて己を狂わせた、その笑みを、今再び向けられて。

 

(ああ――理解、出来ない)

 

 そう、改めて――突き付けられる。

 

 理解出来ない。敵わない。

 

 だからこそ――面白いと、そう思ってしまった自分を思い返し。

 

 こんな馬鹿な男が見る景色を観たいと、そう思って、虎に成り果て、月にまで来てしまった自分自身こそを振り返り。

 

(ああ――とっくの昔に、俺も堕ちていたのか)

 

 倫理よりも、常識よりも――己の欲望を優先する、悍ましき獣に。

 

 そう理解させられた公任は、諦めたように笑って。

 

 男の命を繋ぐ術符を――藤原道長から、引き離した。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 ゆっくりと目を開けると――そこは檻の中だった。

 

 豪奢な天蓋付きの寝台が背後にあり、灯りはなく外から差し込む光だけが光源の暗い部屋だった。

 

「…………ここは」

 

 道長が見渡すと、そこには先程までと同じ黒衣を纏ったかぐやがいて。

 

「…………」

 

 彼女は、安堵したような、それでいて悲痛な眼差しで、ゆっくりと顔を動かして、そこに向かって視線を誘導する。

 

 誘われるがままに、道長がそちらに目を向けると。

 

 

 そこには、無機質な『黒い球体』があった。

 

 

「…………これが」

 

 道長の膝の高さよりは小さいが、平安貴族が蹴り遊ぶ鞠よりもずっと大きい。

 傷一つない光沢を放つ、見るもの吸い込むかのような――漆黒の球。

 

 藤原道長は、理解した。

 これが摩訶不思議な奇跡を起こすという、黒い球体――『GANTZ』。

 

 そして、ここが――『黒い球体の部屋』。

 

「――感謝する。ガンツよ」

 

 道長の言葉に応えるように――黒い球体は虚空に電子線を放つ。

 

 他の戦士を召喚するのかとかぐやは身構えたが、GANTZが虚空に作り出したのは――モニターだった。

 

 その画面に映し出されたのは、紅と黒、二色の傾星の美女の戦い。

 

「――!? リオン!?」

 

 黒い球体は、地球で行われる吸血姫の決闘を映し出しながら、自身の表面に文字列を浮かべた。

 

 

――てめえたちは なにものです

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 地面を貫く轟音が響く。

 

 紅く染まった右の手刀が、ついさっきまで女の美しい顔があった場所を粉々に貫いていた。

 

 跨りながら手刀を繰り出した紅い美女は、横たわる己と同一の容貌の黒い美女に向かって、平坦で低い声で問う。

 

「……聞き間違えかな? 耳障りな戯言が聞こえたんだけど」

 

 紅い美女から無表情で放たれる言葉に、黒い美女はにこやかに返す。

 

「京四郎を、欲しいって言った?」

「言ったとも。当然だろう?」

 

 僕は、(ぼく)なんだからさ――と、黒い美女は黒い炎を、己を包み込むように膨れ上がらせながら、己に跨る紅い自分を吹き飛ばす。

 

 紅い美女は、その黒い炎を瞬時に躱すように飛び退きながらも、黒い美女を――黒い自分を、睨み付けるのをやめない。

 

「僕は君なんだから――僕も、君も、『リオン・ルージュ』なんだから。君が気に入ったように、僕もあの子を気に入るのは当たり前だろう?」

 

 黒いリオンはうっとりとした表情で、まるで恋する乙女のように言った。

 

「一目で心を奪われたよ! ――僕はあの子に会う為に生まれてきたのだとすら感じたね!」

「……違うだろ。勘違いするなよ」

 

 そんな夢見る乙女のように浮つく黒い自分に、紅いリオンは冷水をぶっかけるように水を差し、冷たい現実を突きつける。

 

「君は僕を殺す為に生まれてきたんだ。僕を殺す為に即席(インスタント)で作られた、只の黒い球体の――黒い、人形だよ」

 

 それ以外には何の価値も見出されていない、何も求められていない――只の人形(キャラクター)だ。

 

 真っ直ぐに、冷たく、残酷に明確に――真実を突き付ける、紅い自分に。

 

 黒いリオンは、「……確かにね」と、浮ついた表情を消しながら――それでも不敵に笑って、紅い自分に吐き捨てる。

 

「――でも、それは君も同じだろ? リオン・ルージュ(ぼく)

 

 酷薄に笑い、凄惨に笑い――真っ黒に笑い、真っ赤に笑いながら。

 

 黒いリオン・ルージュは、紅いリオン・ルージュに言う。

 

「役目を放棄し、役割を放棄し――何もかもから背を向けて逃げ出して、月を飛び出した今の『リオン・ルージュ(きみ)』には、一体何の価値があるんだい?」

 

 箱入り人形が、箱から飛び出した所で、所詮、人形は、人形だ――と。

 

 黒いリオンは、まるで着せ替え人形のように色違いの豪奢なドレスを纏った己を見せつけるように、紅いリオンに向かってくるくると踊って、スカートの裾を持ち上げながら言う。

 

「分かっているんだろう? 『リオン・ルージュ』は、天才だから、最強だから、無敵だから、価値があった――存在価値があった。誰にも出来ないことが出来るから。ただそれだけで存在を許されていた。それだけが価値だった。そして――」

 

 黒いリオン(ぼく)は、紅いリオン(きみ)よりも――『天才』で、『最強』で、『無敵』だ。

 

 そう、きゃははと笑いながら、踊りながら言う黒いリオンは――蟀谷から己の頭蓋の中に手を突っ込み、ぐちゃぐちゃに中身を掻き回す。

 

「君に出来ることは僕にも出来るし、君が出来ないことも僕には出来る」

 

 ズボっと、勢いよく手を引き抜く。

 盛大に血液や脳漿が飛び出し――そして、その引き抜いた勢いのまま、取り出した爆弾を放り投げて。

 

 ドガンッ!! ――と、爆弾が至近距離で炸裂したことにまるで構わず、黒いリオンは己を真っ赤に染めながら笑う。

 

「……支配されるのも、新鮮で楽しかったんじゃないのかい?」

「気が変わったよ。それよりもずっと楽しそうなものを見つけたからね。ずるいじゃないか。あんなのを見せられちゃあ――欲しくなるに決まっている」

 

 予定より少し早いけれど、黒い球体の人形は終わりだ――そう、黒いリオンは首輪を外して、笑う。

 

 酷薄に、凄惨に、獰猛に。

 牙を剥くように――残酷に、笑う。

 

「君を殺して――僕が『リオン・ルージュ』になる」

 

 黒いリオンが黒炎を、紅いリオンが紅蓮を放つ。

 

 紅蓮よりも黒炎の方が大きく凄まじいけれど、その分、炎の波は制御しきれず、そのまま大雑把に広がるばかりで肝心な紅いリオンを逃がしてしまった。

 

「いいのかい? 軽率にそんなことをして。首輪を外したら、『GANTZ』はまた新しい刺客を送り込んでくるんじゃないのか? 今度は僕と君を纏めて処分する為の、新しい三色目(3Pカラー)の『リオン・ルージュ』が」

 

 紅いリオンは、黒い炎の波の中に、紅蓮の炎の足場を作りながら黒いリオンに接近する。

 それを黒いリオンは、更に大きな黒い炎の壁を作り、力任せに接近を妨害した。

 

「大丈夫だよ。僕は君と違って地球には興味ないからね。君を殺したら、『彼』を連れて月へと帰らせてもらう。その後は、これまで通り、GANTZとは持ちつ持たれつの関係を築くさ。君と違って、彼が居れば、僕はまだしばらくは大人しく出来る自信があるからね」

 

 紅いリオンは、その黒いリオンの言葉に眉根を寄せる。

 月での記憶しかなく、この地球の数日間の記憶を持たない黒いリオンのその結論に、吐き気がするような不快感を覚える。

 

「そうか――なら、やっぱり、君は、僕じゃないよ」

 

 紅いリオンは、右の掌に紅蓮を圧縮し、煌炎の槍を作り出して黒炎の壁を突き破る。

 

 そして、突き破った先で――黒いリオンは黒炎の巨大槍を構えて待ち構えていた。

 

「――――ちッ!?」

 

 紅いリオンはそれを視認した瞬間に、炎の槍を地面へと向けた。

 そして、黒い炎の巨大槍が放たれるよりも前に、天に向かって己を突き上げるようにして回避する。

 

 黒いリオンは「う~ん、発射が遅かったかぁ」と頭をぽりぽりと掻いた。

 

「持て余してるみたいだね。その『星の力(バックアップ)』」

 

 紅いリオンが、宙へと回避した後、そのまま背に蝙蝠の羽を出して、空から見下ろすようにして言う。

 

 黒いリオンは「まぁねぇ」と、素直にその言葉を認めた。

 

 元々、リオン・ルージュは生まれついての怪物だった。

 努力などしたこともない彼女は、つまり自身の力の増幅ということ自体が初めての経験だった。

 

 完成された天才に、無理矢理に付与された外付けの『(バフ)』。

 ただでさえコントロールの難しい莫大なる『最強』を操るリオンにとって、それは本来邪魔でしかなかった。

 

(力の絶対値が上がっても、使いこなせなければ――只の重い荷物だ)

 

 そうでなければ、リオンと京四郎のタッグとの二対一だったとはいえ、あれほどあっさりと敗北する筈がなかった。

 

 慣れない『支援(パワーアップ)』に戸惑っている今こそ、紅いリオンが黒いリオンを打破できる唯一のチャンス――。

 

「――だよね。だけど、無駄だよ。きみも分かっているんだろ?」

 

 背中に生やした蝙蝠の羽を羽搏かせて、黒い炎の渦の中に突っ込んでいく紅いリオン。

 

 黒いリオンは、黒い炎の中で――勝ち誇ったかのように、凄惨に笑う。

 

「僕は――『天才(リオン・ルージュ)』だ」

 

 黒炎の渦の流れの激しさが増す。

 紅いリオンは異変に気付くが――既に、逃げられない。

 

 渦が急激に伸び上がり――柱となる。

 流れが檻となり、逆巻き――龍をも殺す竜巻となる。

 

「もう――覚えたよ」

 

 外付けの『星の力』。

 それを、既に――完璧に操作方法を把握したと語る黒いリオンの言葉に。

 

 紅いリオンは、それがハッタリではないと悟る。

 他でもない――自分でも、これくらいの時間で習得して見せる自信があるからだ。

 

(コイツは、僕じゃない。だけど――紛れもなく)

 

 天才(リオン・ルージュ)だ――そう、己を潰すべく細くなっていく黒い竜巻の中で、リオンは。

 

「く――――ソ――――が!!」

 

 汚らしく吐き捨てて、紅いリオンは両手に煌球を作り出す。

 紅蓮の炎の圧縮。誰に教わるでもなく、当たり前のように出来ていた応用技。

 

 けれど、それが自分の中の力の貯蔵庫(タンク)のようなものの残量を減らして行う大技であるということを、リオンは直感で理解していた。

 

 多用出来る技ではない。ただでさえ、敵は生まれて初めて出逢う――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それでも、この黒い竜巻に呑み込まれたら、その時点で終わると、そう直感する紅いリオンは。

 両手で作り出した煌球の刃を、竜巻を両断するように振るい――力尽くで脱出する。

 

 その先で――黒い太陽が待ち構えていた。

 

「――――」

 

 疑似太陽。

 リオン・ルージュの最終奥義にして最大攻撃。

 

 それを、黒いリオンは、星の力という異物が混ざり込んだ状態で、いとも容易く顕現させてみせた。

 

「分かっただろ。(ぼく)(きみ)よりも強い」

 

 そう宣言する黒いリオンに、紅いリオンも疑似太陽を作り出して対抗する。

 だが、その聡明な頭脳は、それを振るう前に残酷に答えを弾き出していた

 

 勝てない――このまま、黒い太陽に眩い太陽をぶつけても、最大出力で劣るこちらの太陽は呑み込まれるだけだと。

 

「分かっているだろう。天才じゃないリオン・ルージュに価値はない。最強ではないリオン・ルージュに価値はない。無敵じゃないリオン・ルージュに価値はない」

 

 どちらが先かは関係ない。どちらが原本かは関係ない。

 紅だろうが、黒だろうが、そんなのは何の関係もない。

 

「必要なのは――性能だ。より天才である方が、より最強である方が、より無敵である方が、『リオン・ルージュ』に決まっている」

 

 じゃあね、偽物(オリジナル)――歯を食い縛って、前髪で表情を隠す紅に、黒い複製品は――血塗れのように、真っ赤に笑う。

 

「――僕こそが、『リオン・ルージュ』だ」

 

 黒い太陽と、眩い太陽が激突する。

 

 そして、天地開闢が如き衝撃が轟いた。

 




用語解説コーナー72

・月の黒い球体の部屋

 とある隔離された吸血姫の『子供部屋』。

 ただ外の光のみが差し込む、広大な部屋に天蓋ベッドと黒い球体しか存在しない――檻のような箱。
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