比企谷八幡と黒い球体の部屋―外―   作:副会長

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愛とは、何だ。


妖怪星人編――82 砕ける黄金

 

 京四郎(きょうしろう)の居合斬りによって、全身に幾筋もの裂傷を負い、その傷口から黒炎が噴き出す魔人。

 

 無限に再生する魔人にとって、それは大きな傷ではない。

 だが、人間だった頃の名残により痛覚は残っているのか――魔人の動きがピクリと、止まった。

 

「………………? ――――――ッ!」

 

 その反応を訝しんだ京四郎だったが、すぐさまに動きを再起動させた将門が、振り向き様に放った黒炎を放ったことで、すぐに思考を切り替えて回避行動に移る。

 

【――流石だな。あの頃と変わらぬ――いや、それ以上の反応速度だ】

 

 距離を取り、再び相向かった時、魔人は流暢に、その鬼面の下から言葉を放ち始めた。

 

「……どうやら、完全に意識を取り戻したようだな。平将門(たいらのまさかど)

 

 京四郎が居合斬りによって負わせた裂傷は――()()()()()()()。傷口からは黒炎が未だ噴き出し続けてる。

 

(塞がらない傷口――そして、言語能力を完全に取り戻した将門。……もしかすると、不死の呪いが緩んだ――いや、一度、解けたのか?)

 

 だが、黒炎が噴き出し続けて尚、将門の魔力は些かも衰えない。

 そこから考えるに、魔力の再生はこうしている今も続いている――ならば、不死の呪いは一旦解けかけたが、今はまた再開としたということなのか。

 

【合縁奇縁とはこのことか。まさか、死して尚、蘇って尚、こうしてお主と死合(しあ)うことになろうとは】

 

 黒炎が噴き出しながら、魔人は堂々と語る。

 

 己の身体を巡り流れるのが、赤い血ではなく、黒く染まった魔力ですらない炎になった所で、些かも関心がないと言わんばかりの態度で。

 

 だが、己の傷が塞がらないことに関しては、魔人も何か思う所があったようで――しかしそれは、傷の痛みではなく、噴き出す黒炎に関してでもなく。

 

【…………】

 

 魔人は、京四郎の背後の――『祠』をじっと見つめながら、己が傷口を、己の躰に施された不死の呪いを思う。

 

「――気になるか。中の様子が」

 

 京四郎の言葉に、魔人は即答しない。

 そんな魔人に「せっかく、自我を取り戻したんだ。少し聞かせてくれないか、将門」と。

 

「どんな気分だ? 不死身の魔人などという恐ろしい怪物にされて」

 

 京四郎は――魔人に、問う。

 

 お前の、今のその姿は、果たしてお前の望み通りの末路なのかと。

 

「俺は覚えている。お前が己の身に起こったことを自覚した――己が魔人に()()()()()のだということを知った時の、お前の絶望の表情を」

 

 平将門は、決して自分で選んで魔人になったわけではない。

 

 葛の葉という妖怪を愛した結果――愛された結果、永遠に一緒に居たいと願った妖怪の我欲によって、人間ではなく、妖怪でもない、夜にも悍ましい怪異にさせられたのだと、京四郎は突き付ける。

 

「お前は望んでなどいなかった筈だ。その上で、今、俺は改めて問いたい」

 

 平将門(おまえ)は、()だ――葛の葉(ようかい)を愛しているのか。

 

 京四郎は、怪異殺したる英雄は、同じ時代に生きた者として、改めて魔人に問い掛ける。

 

 平将門という――人間だった男に向かって問い掛ける。

 

「百年――あれから百年が経った。俺も、お前も、この時代の異物に過ぎない。世界には明確に百年もの時間が経過している。時代も変わった――妖怪ですら、変わるには十分な時間だろう」

 

 時の流れは全てを変化させる。

 同じであり続けるものなど存在しない。不老の妖怪といえど、決して不変ではない。

 

「ここでお前が俺を倒し、あの『祠』の中へと侵入(はい)れたとしても――お前を出迎える葛の葉は、本当に、お前の知る葛の葉なのか?」

 

 それは、お前が愛した女だと、本当に言えるのか――そう、京四郎は言う。

 

 己が身に起きた変化――己に施された、不死の呪いの、異変。

 

 それを確かに感じ取っている将門は、京四郎の言葉に――何も答えず、拳を、握る。

 

「お前は、それでも――逢いたいと願うのか。あの時と同じ気持ちで――魔人となっても、不死者となってまでも逢いたいと、そう願うというのか」

 

 百年前の、あの時。

 例え――変わり果ててでも、この国の全てを相手取ってでも、葛の葉に逢うのだと、未曾有の『乱』を引き起こした平将門。

 

 その時の覚悟を、京四郎は確かに知っている。

 だからこそ、その時と同じ覚悟を、その時と同じ想いを、百年が経過した、変わり果てているかもしれない葛の葉を相手に抱けるのかと、そう問う京四郎を。

 

【――――ふっ】

 

 魔人は、哀れむように、鼻で笑う。

 

【何を言うかと思えば――的外れもいい所だ、英雄】

 

 貴様は言ったな、と魔人は指差す。

 

 愚者を嗤うように、世界の当然の摂理を語るように言う。

 

 何年、何十年、何百年かかろうとも――ああ、それはその通りだと、しかし。

 

 変わらぬものなどない、不変のものなど存在しない――ああ、それもその通りだと、だが、しかし。

 

【我が愛は、百年程度では些かも衰えない。むしろ、時を経るごとに、時を重ねる毎に、我が愛は大きく燃え盛り続ける。昨日よりも今日、今日よりも明日。我が愛は大きく膨れ上がり続ける】

 

 この身を熱く、燃やし続けていくと、黒炎を噴き出しながら、黒い炎で己が身を焼きながら――魔人は語る。

 

【十年、百年、千年経とうが変わらない。葛の葉がどれほど変わり果てようとも、その新しい姿のまま、私は愛して見せよう】

「……それはもはや、ただ盲目なだけではないのか」

 

 己を魔人へと変え、己を不死へと貶められ――それでも抱き続ける愛はまやかしではないかと、そういう京四郎に、魔人は猶更、哀れむように言う。

 

【……どうやら、百年経とうが、貴様は愛を知らぬままらしい】

 

 愛を解さぬ愚か者に、これ以上は語ることもない――魔人は、そう断じ、己が纏う黒炎を膨れ上がらせる。

 

【そこを退け――英雄。愛の邪魔をするな】

 

 京四郎は黄金の太刀を抜いて、黒い火の粉が舞う戦場にて屹立する。

 

「止めるぞ――魔人。お前達の歪んだ愛は、ここで滅ぼす」

 

 京四郎の言葉と同時に、将門は黒炎を迸らせながら突っ込んできた。

 

 魔人の猛攻をいなしながら、京四郎は思考する。

 

(傷口から噴き出す黒炎――黒炎である以上、触れたら対象を燃やし尽くすまでは消えない特性は健在とみていいだろうな)

 

 さらに、塞がれぬ傷口といえど魔力の無限回復は機能しているだろうから、魔人の弱みにはなりえない。むしろ、近付き難くなった分、却って面倒な状態にしてしまった面は否めない。

 

(それに――将門の意識が覚醒した分、これまで力任せだった攻撃に技術的な意図が含まれ始めた。こちらの意図を汲んだ迎撃、あるいは意図を逆手に取った反撃――厄介さはこれまでの比じゃない)

 

 防戦一方となる京四郎。

 ようやく強化された魔人に追いついたかと思えば、すぐにまた大きく突き放される展開に歯噛みする。

 

(ちっ――だが、まだだ。ならば、こっちももっと強くなればいいだけだっ!!)

 

 再び――視る。

 

 強化された動き、意識を取り戻したことで変化した戦闘方法、傷口から噴き出す黒炎――その全てに再度対応し、それを凌駕する技を放てばいい。

 

 そう考える京四郎に対し、魔人は――。

 

【――なるほど。黒炎――面白い】

 

 己の中に流れる新たなる血潮――その特性や威力を理解し、魔人は己の手の中の黒炎を操って。

 

【ならば――こんなことも可能か】

 

 黒炎の薙刀を作り出し――それを豪快に振るって見せる。

 

「な――」

 

 黒炎の武具。

 将門が自我を取り戻し、意識的に黒炎を緻密に操縦することで獲得した力。

 

 将門は武士だ。

 鎧を纏い、馬に跨りながら戦場を駆け抜ける戦士だった。

 

 だからこそ、長物の扱いには慣れている。

 そして、刀に対してより攻撃範囲の広い薙刀は、非常に有効的な得物となる。

 

「チッ――ッ!」

 

 薙刀の横薙ぎを、京四郎は太刀を縦に構えることで受けた。

 

 が――膂力の差か、弾き飛ばすことが出来ない。

 

 そして――魔人は、その振りを止めることなく。

 

「――――ッ!!」

 

 受け止められた薙刀の刀身から――黒炎を噴射させた。

 

(確かに、厳密には只の薙刀の形をした黒炎。防がれたら形を変えればいい――それでもッ!)

 

 いくらなんでも臨機応変が早すぎる。

 あの『黒いリオン』ですら、突如として強化された己が力に振り回されていた――条件や状況が違うとはいえ、外的要因によって予期せずに手に入れた力という意味では将門の黒炎も同じ筈なのに。

 

(意識がなかったとしても、魔人として平安京に辿り着いてから、将門は黒炎を用いて大いに暴れ回っていた……それで扱い方は習得済だとでもいうのか)

 

 改めて思い知らされる。

 魔人という怪異にとって、黒炎は只の武器でしかなく――本当に恐ろしいのは、平将門という人間の才であると。

 

 もし、境遇や、出会う順番――何かが少しだけ、異なっていたら。

 

 魔人ではなく――英雄として、平将門という名は歴史に残ることになっていたかもしれない。

 

 平将門と、藤原秀郷。

 妖怪に愛されるか、それとも、星に愛されるか。

 

(幸せなのは――果たして、どちらなんだろうな)

 

 薙刀から噴き出す黒炎を、大きく跳躍して回避しながら、京四郎はそんなことを考える。

 

 そして、着地と同時に、黄金の太刀を素早く振り回し、空を奔る斬撃を連続で飛ばした。

 

 黒炎という飛び道具があるが故に、接近戦の方が分があると京四郎は判断していたが――傷口から噴き出す黒炎と薙刀によって、その優位性は消失したといっていい。

 

 だからこそ、一旦仕切り直す意味も込めて、飛ぶ斬撃で牽制しようとしたが――魔人には無意味だった。

 

「――――ッ!!」

 

 接近してくる。

 飛ぶ斬撃を諸共せずに、黒炎の薙刀によって弾き飛ばしながら、魔人は接近戦を仕掛けようと猛追してくる。

 

(ち――その辺りは当然、アイツも察しているか。……ならば――)

 

 迎え撃つ。

 そう考え――京四郎は黄金の太刀を鞘に仕舞った。

 

 居合斬り。

 交錯際にカウンターを入れることによって、魔人の突進をやり過ごしながら攻撃を加えてみせると。

 

 己に向かって薙刀が振るわれる――その瞬間に、京四郎は黄金の太刀を振るった。

 

「――――ッ!!」

 

 京四郎の居合斬りは、全て魔人の身体に刻み込まれた。

 

 全ての太刀筋を――魔人は防がず、その身で受けた。

 更に噴き出す黒炎。増える裂傷――だが、新たに刻み込まれたその裂傷は、魔人の黒炎によって一瞬で修復された。

 

(――ッッ!! そうか――不死力が健在ならば、どんな攻撃も負傷にはならない。それはつまり――防ぐ意味などないということ)

 

 確かに、理屈の上では正しい。

 攻撃を防ぐのは、負傷したくないから――死にたくないからだ。

 

 だが、負傷も瞬く間に無効化し、そもそも死ぬことがないのならば、防御などする意味もないということか。

 

(だが――それでも防ぐだろう。()()()()())

 

 武士としては、傷を負うことは何よりも恐ろしい筈だ。

 人間なのだから。刀や槍で攻撃されたら、生身で受けたら――死んでしまうから。

 

 だからこそ、一撃も貰わないように、反射的に急所を庇う筈だ。

 本能にそれが刻まれている筈だ。

 

 太刀を――首に、脇に、大腿に、頭部に振るわれて、一切の防御姿勢を取らずに、薙刀を振るうことなど、出来ない筈だ。

 

「怖くないのか――元・人間……ッ!!」

 

 ゴロゴロと地を転がりながら、なりふり構わず、太刀を振り抜いた体勢の己に向かって振るわれた黒炎の薙刀の攻撃を避ける京四郎に――魔人は言う。

 

【そんなものは、愛の力で克服した】

 

 黒い炎が広がる戦場で、漆黒の魔人はそう語る。

 

「……何故、こんなにも強くなれる……ッ!」

 

 進化の速度が尋常ではない。

 強化の深度が通常ではない。

 

 これまで――強くなりたいとすら願ったこともなかった。

 

 どんな敵も、どんな怪異も、冷静に視て、分析し対策すれば打倒することは出来た。

 

 魔人も、一対一ではなく軍を率いて対処すれば、その首を切断することも出来たというのに。

 

 何故だ――何故。何故――こんなにも。

 

【理解出来ぬだろう。愛を知らない――怪物にはな】

 

 分からない。理解出来ない。

 

 京四郎には――藤原秀郷には――俵藤太には、一度たりとも、理解出来たことがない。

 

 分からない――分からない――分からない。

 

「愛――――愛とは、何だッッ!!!」

 

 人間ならば誰しもが知っているという。

 妖怪であってもそれを求めるという。

 

 魔人ですら、それを源に――どこまでも、強くなれるという。

 

 愛――それは。

 

【それを知らぬから、お前は――弱いのだ】

 

 黒炎の薙刀が振るわれる。黄金の太刀が迎え撃つ。

 

 二人の英傑が放つ二筋の閃光は、互いに激突し――そして。

 

(―――――――くっ)

 

 拮抗し――僅かに。

 

 黒い闇が、黄金の光を、圧し潰し。

 

(…………………敗ける……のか――!?)

 

 生まれて初めて、時を超えて――初めて抱く、その――――恐怖に。

 

 英雄の心に、微かに、罅が入る。

 

【――――終わりだ】

 

 その致命的な一瞬を、漆黒の魔人は見逃さない。

 

 黒炎が、黄金の光を侵食し――破壊する。

 

「―――――――」

 

 数々の奇跡を引き起こしてきた太刀が、まるで英雄の心を現すように、真っ二つに折れて――勝利し続けてきた黄金が、今、ここに、砕け散った。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 平安京の中に存在する、小さな隠れ家のような神秘郷――『山小屋』。

 

 永劫の転生を繰り返していた妖怪・葛の葉が、一時の休息を得る為に作り出した、この小さな空間に――今、濃密な妖力が充満している。

 

 その発生源たる妖狐は――葛の葉の望まない転生体でありながら、本体である葛の葉を取り込み、真なる葛の葉として覚醒した『狐の姫君』。

 

 妖狐・化生(けしょう)(まえ)は、妖怪の王座に腰を掛けるに相応しい覇気を振り撒きながら、百鬼夜行の歴々と相対する。

 

「……あなたは、何を望むの? ――化生の前」

 

 羽衣は、己が母親を取り込んだ妖狐に――『妹』に向かって、問い掛ける。

 

「『葛の葉(おかあさん)』を手に掛けて、妖力も――そして、欲しかった『愛』も手に入れたのでしょう?」

 

 これ以上、何を望むの? ――そんな『姉』からの問いに、化生の前は妖艶に微笑みながら返す。

 

「……そうね。確かに、今、私はかつてないほどの――生まれて初めての、転生して初めての充足感に満ちているわ。これが本来の自分であるという感覚……でもね、それでも、私には『愛』は分からないのよ」

 

 化生の前は、豊満な己の胸部に手を当てて、その中にある――否、結局埋まらなかった、見つからなかった、何かについて語る。

 

「恐らくは、疑似転生体『化生の前』として、『葛の葉』とは異なる自我を確立しすぎたせいかしらね。妖力や異能などは簒奪できたけれど、葛の葉としての記憶、そして『愛』といった感情は、『化生の前』には引き継がれなかった。――これこそが、本当の生まれ変わりというものかしらね」

 

 妖怪・『葛の葉』としての妖力的な繋がり――『平将門』や『羽衣』との『不死の呪い』などの繋がりは引き継げたが、その源泉となった『愛』などの感情記憶は引き継げなかった。

 

「……幾度の転生を繰り返してきた不死の妖怪が、有り得ざる、()()()死の恐怖に直面して尚――それでも、最後の最期まで、『葛の葉』は『愛』だけは手放さなかった」

 

 本当に恐ろしい妖怪(おんな)ね――そう、化生の前は、己が取り込み、己が殺した『母』たる妖狐について語る。

 

 羽衣は、そんな『妹』に、冷たい視線を向けながら言う。

 

「……なら、あなたは、今度こそ本当に『愛』を知る為に。引き続き、平太くん達――『箱』を狙うつもりだということ?」

 

 空気が、固まる。

 山小屋の裏に隠れている二人の童が震え、そして、羽衣の隣に立つ鴨桜等の敵意が高まる。

 

 羽衣は気付いていた。

 化生の前は、残された葛の葉の最後の欠片である『羽衣(あね)』を取り込み、完全体となることを宣言した。

 

 そして――()()()()()()()()、平太ら『箱』へと向ける執着も、些かも衰えていない。

 

「――いいえ。確かに、私は『箱』をまだ欲している。けれど、『愛』については、もういいわ。……なんというか、そんなにいいものだとは思えなくなっちゃたから。ないならないで、知らないなら知らないで――もう、いい」

 

 愛というものが、女というイキモノを、あんなにも悍ましい化物へと変えるというのならば。

 

 私は、愛よりも、野望を以て――葛の葉(はは)を超えると、化生の前は宣言する。

 

「愛や感情記憶は引き継げなかったけれど、妖力と一緒に、『葛の葉』からは情景記憶は引き継ぐことは出来たの。お姉ちゃんは知っていたかしら。『葛の葉(はは)』が大陸で遊んで(ヤンチャして)いた前世(かこ)があるということを」

 

 狭い島国たる日ノ本よりも遥かに進んだ文明、長い歴史、広大な土地が広がる――大陸。

 

「他には、そうね。今現在、藤原道長が訪れているという月なんかもいいかもしれないわ。――ねぇ、お姉ちゃん。世界は広いのよ。どこまでも広がっているの。こんな狭い国の小さな都なんかでいつまでも争っているの――とっても、馬鹿馬鹿しいとは思わないかしら」

 

 化生の前は、こうして見上げるととても狭い、息苦しい程に狭い、神秘郷の天井を見上げて、首を傾けながら――真っ赤な月のような瞳で、羽衣を見遣る。

 

「どうせ、これから永劫を生きるのですもの。『葛の葉(おかあさん)』では出来なかったことを、『葛の葉(あのおんな)』が出来なかったことを成し遂げて――『真なる外来種』すらも超える力を手に入れて――」

 

 世界征服――なんて、面白いと思わない?

 

 そう、化生の前は、口が裂けるような妖しい笑みを携えて、うっとりと言った。

 

「……本気で言っているの?」

「座敷童が手繰り寄せた運命の流れ――それがどれほどの力を持つのかは分からないけれど、試してみるのも一興よね。果たして、それがどれだけの世界改変力を持つのか、どれほどの奇跡を起こすことが可能なのか。いずれにせよ、そんな面白そうな玩具を使うのは私でありたいものだわ」

 

 そう言って、狐の尾を伸ばそうとする化生の前に――くだらねぇと、そう言って吐き捨てる半妖がいる。

 

「テメェの老後の楽しみに、(うち)仲間(かぞく)を巻き込まれてたまるかよ」

 

 お前に永劫の時なんざねぇよ――そう、鴨桜はドスの白刃を突き付けて言う。

 

「お前の物語はここで終わり(シメェ)だ。大陸編も、月面編も存在しねぇ」

 

 この狭え神秘郷(せかい)が、お前の終着点(はかば)だ――と。果敢にも、真っ直ぐに殺意を向けてくる若造に、生まれ変わりたての妖狐は、楽しげに微笑んで。

 

「ならば、かかってきなさいな。私が山小屋(ここ)を、あなた達の終着点(おはか)にして差し上げましょう」

 

 空間が歪むような、圧倒的な妖力。

 しかし、鴨桜を初め、百鬼夜行の歴々は戦意を絞り出すように高めて震えずに相向かう。

 

「――お願いします、百鬼夜行の方々! 化生の前を倒せば、魔人の不死も、妖怪大戦争の終結も叶う――私に、その為の秘策があります!!」

 

 羽衣が尾を展開し、叫びながら戦闘態勢を取る。

 

 そして、鴨桜を、ぬらりひょんを横に、百鬼夜行を背後に率いるようにして、先頭に立って、戦闘に臨む!!

 

「これが最後の戦いです! 行きましょう!!」

 

 こうして、妖怪大戦争の大ボスたる『狐の姫君』――葛の葉として覚醒した化生の前との最終決戦が勃発して。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 そして――――百鬼夜行は壊滅した。

 

 

 

 

 




用語解説コーナー82

・黄金の太刀

 藤原の始祖たる『藤原鎌足(ふじわらのかまたり)』から代々受け継がれてきた『星の宝剣』。

 藤原秀郷が『星に選ばれた戦士』である証であり、『星の力』の結集体。

 これが折れるということは――藤原秀郷が、『星の戦士』たる資格を喪失したことを意味している。
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