魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
アフームが締めました。
「レイ、君は一体どこまで知っていたんだ?」
アースラに帰還後、クロノがそんなことを言った。
「何のことや?」
「今回の君の動き、初めからプレシアの目的や状態が分かっていなければ動きようがない。極めて不自然だ」
「私が教えた、では不満ですか?」
リニスが口を挟む。
「プレシアだけならそれでいい、問題はアリシアを蘇生させた件だ。何故的確に処置できた?」
「ふむ、その疑問は最もや。ようござんしょ、答えましょか」
レイが居住まいを正すと同時に、全員がレイに注目する。
「ふむ、どこから話したらよいものか、それは今年の1月のことやった。うちのベランダに1匹に猫が倒れとった。余りにも不自然な上、魔術的作用が施されておったから誰かの使い魔かと思うた。俺は回復した猫、リニスから次元世界と魔法について聞いた」
「あの時は驚きました、私を使い魔と見抜いたと思ったのですから正体を表したら驚かれまして。地球の使い魔は変身することがないと知ったのはその時です」
「俺はリニスから事情を聴き、回復するまでうちに置くことに決めた。別に彼女の思惑なんて知ったこっちゃないし、手伝う気もなかった。フェイトが介入してくるまでは」
「プレシアがジュエルシードを求めていたことは知っていました。私としては当初、ジュエルシードを回収しに来た管理局の船に乗ってプレシアを止めに向かう心算でした」
「フェイトの介入によってプランが大きく崩れた。同時にこれは俺達にとってチャンスやった。上手くいけばプレシアの元へと一直線に行けるかもしれんかったからな。問題はフェイトとどう接触するかやった。ま、それも管理局の介入で不可能になったんやけどな」
「同時に私が表に出るタイミングを逃してしまったのです」
「さて、俺はこの時期にアリシアと接触しとる。ああ、意味わからんという顔をしとるな。正確にはアリシアの生霊と接触しとったんや」
「い、生霊?」
ユーノが声を上げる。
「うむ、フェイトそっくりの生霊やったから驚いた。聞けば、アリシアこそ今回の事件の要やないか。このままいけば間違いなくプレシアと接触することになる可能性が高い。そしてプレシアは一流の科学者と聞く。そこで俺は計画を立てた。今回の一件をまるっと解決することでプレシアから魔法技術をいただく計画をな」
「そのタイミングで私とレイの間に共闘関係が結ばれたのです」
「プレシアに恩を売る方法は2つ、彼女の病気の回復とアリシアの蘇生、この2つを実現することやった。俺はリニスからプレシアの体の状態を事細かく聞き、プレシアの病気が内部魔力の異常であるとこまで突き止めた。アリシアの蘇生についても同様や、生霊やから肉体はかろうじて生きていることが分かる。過去の蘇生の実例からいくつか参考になりそうな事例をピックアップして準備をしただけや」
「一つ疑問がある。アリシアのことを生霊と言った。肉体が死んでいないと言った。なぜ彼女は生きていたんだ?」
クロノの問いにレイは顎に手を添える。
「ふむ、これは俺の推測なんやけど、アリシアは生まれた時からリンカーコアに異常があり魔法が使えなかったと聞く。ヒュードラ事故の際、発生した高密度の魔力線がアリシアのリンカーコアに好影響を及ぼしたのかもしれん。そして彼女が本来持っていた魔力が彼女の肉体を生かし続けていた。と考えるんが自然やろな。何しろ昔の事や、誰も知らん」
レイはふうとため息をつく。
「そのヒュードラの事故やけど、どうも偶然とは思えん。人為的なミスの可能性がある」
「何だって!」
クロノが声を上げる。
「俺はヒュードラ事故のことをリニスから聞いた時、プレシアがこう発言したのを聞いたそうや。『納期が近いのに何考えてんのよ』『あんな材料と構造で実験なんて馬鹿げてる』とな」
「それが一体何だというんだ」
「これが真実だとすると、恐ろしい真実が浮かび上がってくる。ヒュードラは人為的なミスによって引き起こされた人災や、ということがな」
「それは、本当なのか」
「俺の推理を裏付ける資料がプレシアの書斎にある。ヒュードラの設計図や。当初の計画と実際の施工の2枚がある。プレシアに問いただしてみい。きっと俺と同じことを言うで」
「それが真実だとするならば、プレシアは司法取引で減刑される可能性がある。君はそこまで読んでいるのか!?」
「テスタロッサ家には幸せになってほしいからなあ。幸せのおすそ分けや。それに、誰が損をしたというん? 管理局も、テスタロッサ家も、もちろん俺も含めて」
「……恐ろしい奴だよ、君は」
「はっはっは、何のことやら」
「……結局どういうことなの?」
なのはが声を上げる。
「誰も損せずみんなハッピーエンド。それか今回の事件の結末や、ってこと」
「そう! それはよかったの!」
なのはが満面の笑みを浮かべる。
「ああ、やめて、そんな目で私を見ないで。この知識欲で薄汚れた私を見ないで……」
レイがなのはから目線を逸らし、一人芝居を打つ。
((((((何やってんだコイツ……))))))
アースラクルーの心は一つになった。
数日後、本局へ向けて出航することになったアースラの見送りのため、海浜公園へとなのはたちは集まっていた。
「俺たちが一番最後か」
「その様じゃな」
そこへレイとアフームが到着する。
下半身キャタピラのサイボーグとなって。
「「「「「「わああああああ!!!」」」」」」
「どうしちゃったのその体!?」
リンディが2人に声をかける。
「せっかくの見送りやからな、おしゃれの一環や」
「そんなおしゃれ聞いたことないわよ!」
それを聞いた2人はしぶしぶ元の体に戻るのだった。
「
リンディの呟きに誰もが苦笑いするしかないのだった。
そこへプレシアがレイに話しかける。
「あの、ありがとう。私たちのためにここまで骨を折ってくれて」
「何のことや? 俺は今まで世のため人のために働いたことは一度もないで」
「そこまで謙遜することはないじゃない……。でもあなたが動いたおかげで私は多くのものを失うどころか、得ることが出来たわ。娘を、家族を、寿命をね」
「あんさんが満足ならそれが何よりです。僕の信条に従って動いたまでですから」
「信条?」
「救える命は可能な限り救う。力ある者の責任でもありますから」
「強いのね、あなたは」
「まだまだです、まだまだ、発展途上ですよ」
「いいえ、強いわあなたは。心が強い。そしてちょっと変な子。私は死ぬまで恩を忘れないわ」
「貰うもんは貰いました。それ以上は受け取れませんえ」
「本当に魔法と次元世界の知識でいいの? とてもあなたの年ごろの子が欲しがるものじゃないようだけど」
「僕にとっては値千金の品物です。魔術師であり、物理学者でもある僕が喉から手が出るほど欲しいもの。全力を尽くしますわ」
「素直じゃないのね」
「さあ、何のことやら」
一瞬の沈黙が2人を包む。
されど、この沈黙に不思議と気まずさはなかった。
「そうそう、お返しするものがあります」
「? 何かしら」
「リニスを、お返しします」
「!? いいの?」
「そういう契約ですから。それに、リニスも古巣の方がいいでしょう。うちは人手が足りているんで」
「……そうね、うちはこれから忙しくなるからね。でもいいの? 貴重な魔法知識の情報源よ」
「それは、プレシアはん、あんさんから頂きました。もう十分足りてます」
「そう、あなたがそれでいいというのなら、リニスにも確認しないと」
「もういますけどね」
そういうとレイは背後を振り向く。
プレシアも続いて振り向くと、そこにはリニスがいた。
「リニス、あなた」
「プレシア、もう一度、あなたに仕えてもよろしいのでしょうか?」
「ええ、ええ、勿論よ。あなたは私たちの家族なのだから」
「ほんなら、マスター契約の譲渡を」
レイとプレシアの間に契約の譲渡が行われる。
「ほんなら、僕はこれで、積もる話もあるでっしゃろ」
そう言うとレイはなのはたちの方へと向かう。
プレシアはその背中がいやに大きく感じるように見えた。
「レイ!」
レイがなのはたちのところへ向かう途中で、クロノとリンディに呼び止められる。
「おや、執務官殿、提督殿」
「良かったわ、出向前に話すことが出来て」
「なにか、問題でも? 外交ルートの件で? それとも報酬の件で?」
「そっちじゃないわ。単純にお礼が言いたかったのよ。あなたのおかげで随分私たちの思惑を超えてハッピーエンドにさせてくれたから」
「俺は職務を全うしただけにすぎません」
「でも本当に報酬がデバイス作成キットとデバイスの材料、炎熱変換と氷結変換用のソフトウェアで良かったのか?」
確認するクロノにレイは静かに答える。
「なのはとアフームは特に欲しがりませんし、俺も欲しいもんは手に入りました。あともう二人、資質のある子たちがおるんで、その子たちのためのデバイスを作ってやった方が建設的です」
「完成品をこちらで用意することもできるけど?」
「作ってみたいんですよ、デバイスを。それにこっちでデバイスの整備が出来た方がお互い楽になると思いますえ?」
「……そうだな、君の言う通りだ」
「そろそろよろしいですか? フェイト達に挨拶せんと」
「これだけは言わせて頂戴、今回の件でのご協力感謝します」
「こちらこそ、色々無理言って申し訳ありまへんでした」
「エイミィから連絡を預かっている。レイくんのおかげでバックヤードがすんなり動きました、本当にありがとう、だと。僕からも言わしてもらおう、ご協力感謝する」
「いえいえ、こちらこそ」
3人は敬礼する。
レイは敬礼を解くと、フェイト達の方へと歩いていくのだった。
「レイ! 遅いではないか!」
「すまん、色々あってな」
アフームが遅れてきたレイをなじる。
「みんなあらかた言いたいことは言ってしもうた、あとはレイだけじゃ」
「さよか、ほんなら挨拶していきますかね」
レイがフェイト、アリシアの前に立つ。
「レイ! ありがとう! お母さんを治してくれて」
アリシアがいの一番にレイのお礼を言う。
「いやいや、これもビジネスや」
「だとしても! レイのおかげで皆ハッピーになれたんだから! だよね、フェイト」
「うん、レイがいなかったら、こんな気持ちになることはなかった。本当にありがとう」
「そうか? そんなら良かった。頑張った甲斐があったもんや」
満面の笑みを浮かべるフェイトとアリシアに笑顔で返すレイ。
「そうそう、渡すものがあるんや」
そういうとレイは懐から何かを取り出す。
「旅立ちのお守り、カルロス・サンタナや」
レイが取り出したのはおっさんの顔をした怪獣の人形だった。
((なにコレいらない))
「「あ、ありがとう」」
引き攣った笑顔でカルロス・サンタナを受け取るフェイトとアリシア。
「ボタンを押すと喋るで」
「謝れー! 俺に謝れー!」
((本気でいらない))
謎のアイテムに困惑するフェイトとアリシア。
その様子になのはは困ったような笑顔を浮かべるしかない。
「何かもらってばかりだね」
フェイトがそう呟く。
「いやいや、こっちもプレシアはんから仰山もらいましたさかい、お見送りの引き出物くらい心地よく受け取ってくださいな」
「けど私達だってお礼がしたいよ」
「それは出世払いでええて。俺は気にせん」
「じゃあ、将来レイが困っていたら助けてあげるからね」
「私も、レイの助けになりたい」
フェイトとアリシアの言葉にレイはそっと微笑む。
「じゃあ、そん時はそん時な。無論、俺も2人が困ってたら助けるけどな」
「じゃあ、お相子じゃん」
「友達ってそういうもんやろ?」
レイの言葉に2人ははっとする。
「そうか、友達かあ」
「友達、何だね、私達」
「あら? 嫌やった?」
「「全然! すごく嬉しい!」」
「ならよかった」
全員で笑い合う。
しかし、別れの時というものはやってくるのもである。
「そろそろ時間だ」
クロノが出航時間を告げる。
それぞれが思い思いの別れを告げる。
なのは、レイ、アフームを残し、全員が転送陣へと乗る。
「また会おう、次元世界の友人達よ」
レイが声をかける。
それと同時に転送が始まる。
フェイト達が手を振る。
なのはたちも手を振り返す。
レイとアフームに至っては帽子から『See you again』という横断幕を掲げている。
転送陣の光が強くなり、全員の転送が完了する。
3人は空を見上げる。
「行きますか」
「……そうだね」
3人は歩き出す。
5月ももう終わろうとしていた。
初夏の風が3人の間をすり抜けていった。
祝、第1部第1章完!
次回は話の都合上入れざるを得なかった話を入れ、それから第2章へと入ります。
第2章はAs編です。
全2章で第1部は終了します。
皆さん、応援ありがとうございます!
まだまだ謎の多い作品ですが、これからも読んでいってください!