魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 ダンレボとゼビウス。


第3話 模擬戦

「それでは、模擬戦を開始します」

 

 レイとアフームに相対するは、シグナムとヴィータ。

 2人はこの役目を自分から引き受けてくれたのであった。

 レイとアフームの実力を、脅威を直接肌で感じるいい機会だからだ。

 シグナムもヴィータもレイとアフームの脅威は伝聞でしかわかっていない。

 

(どれだけ恐ろしい相手か見極めさせてもらうぞ)

 

 シグナムは気合十分といった面持ちでレイとアフームを見据える。

 一方のレイとアフームはあくまで自然体を崩さない。

 レイはピアノの前に座り、アフームはスタンドマイクの前に立っている。

 

「「いつでもどうぞ」」

(((((((何の準備だ!?))))))

 

 リンディは引きつった顔のまま、号令をかける。

 

「それでは、始め!」

 

 号令と同時にシグナムとヴィータは距離を詰めてくる。

 

((絶対に距離を開けたら、弾幕で袋叩きにされる!))

 

 それが二人の共通認識だった。

 それをレイが想定していないわけがなかった。

 

「「音色『星色くじら12号の出航』!」」

「「!!!」」

 

レイとアフームは距離を詰め切られる前に後退し、スペルカードを発動する。

 シグナムとヴィータに鯨を模した弾幕が襲い掛かる。

 

「これをいつも避けてんのかよ!」

「道理で回避能力が化物になるわけだ……!」

 

 高密度の弾幕にヴィータは悪態をつき、シグナムは感嘆し、管理局高官たちは見とれていた。

 計算された弾幕の配置に誰もが息を呑む。

 

(普通ならここまで芸術性を高める必要性はない。全く持って無用の長物さね。それをあえてやる、そこがハジケているね)

 

 モーリーンは弾幕をこのように評価していた。

 

「わあ、きれいですね、これ何か意味はあるんでしょうか?」

 

 ニオが思わず感嘆の声を漏らす。

 

「何もないよ、きっと。ただ魅せるためにやったんだろうさ。全く持って無意味だよ」

「無意味って……」

「そう、無意味さ。相手をしとめるならあんなに弾幕を張る必要は無い。それをあえてやっているんだ、全くハジケてるねえ」

 

 やがて弾幕が終了する。

 シグナムとヴィータは肩で息をしながら、レイとアフームを見据える。

 

「どうだ、耐えきってやったぞ」

 

 シグナムの一言にレイは拍手をもって答える。

 

「お見事、この程度では倒れんと思うておりました。本気で仕留めるんなら、もっと難易度を上げるんですが、それをやるんはあまりに無粋。こっからは楽しい楽しい殴り合いと行きましょか」

「心配するでない、妾達はどの距離も戦えるのでな」

「すぐにそんな口聞けないようにしてやるよ! シュワルベフリーゲン!」

 

 4弾の鉄球がレイとアフームに襲い掛かる。

 

「「なんの! 紙符『紙ヒコーキ風に乗って』!」」

「「「「「「無理でしょ! 紙ヒコーキって!」」」」」」

 

 レイとアフームの両手から4機の紙ヒコーキが放たれる。

 紙ヒコーキと鉄球がぶつかり合い、爆発する。

 

「「相殺!」」

「うおおおおおおお!」

 

 ヴィータが吠え、アフームに突撃する。

 

「来るか! 鉄槌の騎士! ならばこちらもハンマーで相手してやろう!」

 

そう言ってアフームが取り出したのは、2尾のサンマだった。

 

「「「「「「それサンマーーー!!!」」」」」」

 

 ハンマーとサンマが交錯する。

 

「テートリヒ・シュラーク!」

「味覚『大根おろしは控えめに』!」

 

 十字に交差されたサンマとグラーフアイゼンの柄がぶつかり合う。

 火花が散り、互いの視線が交差する。

 

「くっ、わざわざ懐に潜り込んでくるとか、正気じゃねえ」

「正気ならずんば大業ならず。妾達はいつでも本気でハジケておるのじゃぞ」

 

グラーフアイゼンの柄とサンマが弾け合う。

上にかちあげられるグラーフアイゼン。

 それを隙と言わんばかりに、アフームが仕掛ける。

 

「魚雷『サンマミサイル』!」

 

 手に持っていたサンマをヴィータに投げつける。

 

「うおっ!」

「サンマだけに?」

 

 ヴィータはそれを展開した盾で防ぐ。

 サンマは着弾すると、爆発する。

 爆風が晴れると、そこには無傷のヴィータがいた。

 

「やはりこの程度では倒れぬか」

「当たりめーだ! ベルカの騎士を舐めるなよ!」

「ならばこう返そう。金剛=ダイヤモンドを舐めるな、とな」

 

 見合って、再び両者は激突した。

 

 

 

 

 

 一方、レイとシグナムの戦いは膠着していた。

 レイは飽きたのか、けん玉をしている。

 

(隙だらけに見えて、まるで隙が無い。厄介だ)

 

 シグナムはレイを冷静に分析できた、それ故、手を出すことが出来なかった。

 

(シュトゥルムヴィンデで牽制するか? 否、躱され、カウンターを喰らうのがオチだ。ここはシュランゲフォルムで行く!)

 

 シグナムはレヴァンテインを蛇腹剣、シュランゲフォルムに変える。

 そして刃でレイの周りを取り囲む。

 

「ほう、そう来ましたか」

 

 レイに焦る様子はない。

 

「どうした、自慢の機動力を潰されたのだぞ」

「この程度で俺を封じたとでも? 片腹痛いわ」

 

 レイは破顔する。

 

「その余裕いつまで続くか!」

「ならば踊りましょう、フロイライン。リードは俺に任せて」

「ほざけ!」

 

 連結刃がレイに襲い掛かる。

 しかし、レイは最小限の動きでそれを躱し続ける。

 変幻自在の連結刃が六方からレイを苦しめんとする。

 しかし、レイは涼しい顔だ。

 シグナムの方が苦しい顔をするくらいだ。

 

「当たれ! 当たれっ!」

「ほれほれ、鬼さんこちら、ここまでおいで、てな」

 

 レイにはシグナムを挑発する余裕すらある。

 しかし、シグナムがここでにやりと笑う。

 レイはそれを見逃さなかった。

 

「かかったな! シュランゲバイセン・アングリフ!」

 

 連結刃に魔力が走り、広範囲の破壊を生み出す。

 連結刃で囲んだ空間内はシグナムの生み出した爆発で包まれた。

 

「これなら効くはず……!」

 

 シグナムは確信していた。

 回避不能の攻撃ならば、レイを仕留めることが出来るのではないか。

 それも、幾多もの敵を屠ってきたこの技なら、という自信もあった。

 爆発による煙が晴れる。

 そこにはレイの姿はなかった。

 

「!?」

 

 シグナムは辺りを見回す。

 そこにはレイの腕が飛んでいた。

 

「……は?」

 

 シグナムの判断が一瞬飛んだ。

 もしかして勢い余って殺してしまったのではないのだろうかという疑念が沸き起こった。

 しかしそれもすぐに立ち消えてしまった。

 

「怪奇『ゾンビ殺人事件』! 体バラバラになって逃げさせてもらいました!」

「「「「「「バラバラでも生きてるーーー!?」」」」」」

「貴様本当に人間か!?」

「失敬な! 俺は何処からどう見ても人間やろ!」

((((((そうは見えないんだよ!)))))))

 

 全員から総ツッコミをもらったレイ。

 レイの体は頭手足胴体に分かれ、空中を自在に飛んでいた。

 

「合体!」

 

 レイの頭の掛け声と共にレイの体が集まっていく。

 

「完成!」

「「「「「「手足バラバラ!」」」」」」

 

 レイの体は肩に足が、腰に腕がくっついたりとバラバラに合体していた。

 

「くっ、まさかあのような方法で避けるとは」

「どうします? 諦めます?」

「まさか、何としてでもお前に一太刀入れてやる」

「そう来なくては」

 

 レイの口角が吊り上がった。

 シグナムはそれに妙な寒気を覚えた。

 

 

 

 

 

 上下左右にグラーフアイゼンが振るわれる。

 アフームはそれを危なげなく回避していく。

 その顔には余裕すらある。

 一方のヴィータは顔に焦りが出ている。

 特異な距離であるはずのショートレンジやクロスレンジでこうもあっさり躱されると、流石に腹が立つ。

 

「いい加減、当たれよ!」

「じゃが断る」

 

 だがアフームはヴィータの怒涛の攻撃に回避しか出来ていない。

 アフームとしても攻撃を入れたいところではあったが、その隙を作らせてくれないのである。

 アフームは後退しながら、冷静に攻撃できるチャンスを窺う。

 一方のレイとシグナムの戦いも同様の状況になっていた。

 シュベルトフォルムへと戻し、高速の連撃でレイを追い詰めんとするシグナム。

 冷静に回避しながら決定的なチャンスを窺っているレイ。

 後退に後退を重ね、やがてレイとアフームの背中がくっつきあう。

 

「あら」

「なんと」

 

 シグナムとヴィータによる挟み撃ちが完成してしまう。

 2人はカートリッジをロードしていく。

 

「もう逃げられんぞ」

「これで年貢の納め時ってな」

 

 しかし状況が悪くとも、レイは不敵にも笑っていた。

 

「レイ、どうする?」

「ああ、こらピンチやな。どないしましょ」

 

 シグナムとヴィータはそれぞれの愛機を構え、必殺の一撃を放つ。

 

「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」

「飛竜一閃!」

 

 巨大化したハンマーと、砲撃相当の斬撃がレイとアフームを襲う。

 2人を中心に爆発が起こる。

 やがて爆風が晴れていく。

 そこには、透明な輝くオーラを纏ったレイが立っていた。

 アフームはいない。

 

「まさか、俺に兄気を使わせるとは。流石は守護騎士といったところか」

 

 レイはグラーフアイゼンを片手で支えている。

 

「な、何だよそれ、何しやがった!」

「兄気とは一体!?」

「兄気とは、兄貴の修業によって身につく、妹への思いの具現化! 俺の兄気の性質は『金剛』! 一定時間、俺は相当な身体能力を得る!」

((((((意味わからん……))))))

 

 未知の技能に困惑する管理局高官たち。

 その中でモーリーンだけが静かに爆笑していた。

 

「まったく意味の分からないことしやがって! 益々欲しくなるじゃないか! これで外交官でなかったらねえ」

 

 シグナムはやっとあることに気付く。

 

「シルバーは何処だ!?」

 

 レイはそっと天を指す。

 シグナムとヴィータが上を見上げると、そこにはスペルカードを構えたアフームがいた。

 

「この瞬間を待っていた! 風雷符『風神雷神ゲートウェイ』!」

 

 上空より雷と風の弾幕が3人に襲い掛かる。

 シグナムとヴィータは盾を展開して防がんとする。

 レイは何の気なしに避けていく。

 硬化してくる弾幕の密度は今までのものとは比べ物にならず、モニターではほとんど何も見えなくなっていた。

 

「捕まえた」

 

 レイがシグナムとヴィータの腕をつかむ。

 そして一気に加速しながら落ちていった。

 

「まさか、貴様!」

「そのまさかよ!」

 

 シグナムの言葉に狂気的な笑みで答えるレイ。

 

「「やめろー!」」

 

 シグナムとヴィータの声がシンクロする。

 レイは狂気的な笑みを浮かべながら落下の加速度を上げていく。

 

「墜落『平成のバブル崩壊パニック』!」

 

 高速で地面に衝突する3人。

 上から降り注ぐ弾幕と相まって、辺りには土煙がもうもうと立ち上る。

 やがて土煙が晴れると、そこには動けなくなったシグナムとヴィータ、頭から地面に突っ込んだレイが現れた。

 

「「「「「「相打ちーーー!?」」」」」」

「最後に立っているのは妾のみ。よってこの勝負。妾とレイの勝ちじゃな」

「そこまで! 模擬戦を終了します!」

 

 リンディの掛け声と共にレイとアフームの実力計測は終わったのだった。

 

 

 

 

 

「ハラオウン提督さんよ、ちょっといいかい」

 

 模擬戦終了後、モーリーンがリンディに話しかける。

 

「ちょいとあの子たちにねぎらいの言葉をかけてやりたいんだがいいかい?」

「え、ええ構いませんが」

「そうかい! あの子たちは非常に優れた虚空戦士(ハジケリスト)だからねえ。仲良くしておきたいんだよ」

 

 モーリーンは優しそうな笑みを浮かべるのだった。




 ここのところ暖かい日が続いていますが、急激な気温の変化に体がついていきません。
 しばらくは書き溜を放出する日々となりそうです。
 なかなか執筆が進まないなあ。

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