魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 兄気、開放。


第4話 邂逅

 リンディに案内され、モーリーンとニオはレイとアフームの控室に向かっていた。

 

(第6地上本部長、モーリーン・クロフォード。彼女もまた虚空戦士(ハジケリスト)。ならレイくんたちに興味を持つのも当然よね)

 

 リンディはモーリーンの目的を図りかねていた。

 引き抜きではないだろう。

 公的にレイとアフームは地球の外交官であることが確定しているからだ。

 リンディはモーリーンの目的が虚空戦士(ハジケリスト)としての興味だと思っていた。

 やがて、2人の控室につく。

 ドアからはどんちゃん騒ぎが漏れ聞こえてくる。

 

「朝までフィーバー!」

「ウルティマ、ウルティマ、マジック!」

 

 リンディはため息をつき、モーリーンは高笑いをした。

 

「元気だね! 全く。虚空戦士(ハジケリスト)はこうでなくちゃあ」

「はあ、全く。どうして2人はいつもこうなのかしら」

 

 リンディはドアを勢いよく開ける。

 

「2人共! もう少し静かにしなさい!」

 

 すると、中にいたのは、レイの体にシップを張るアフームだった。

 その様子に一切のフィーバーの様子はない。

 

「フィーバーしてないの……?」

 

 レイとアフームは打ち止め、打ち止め、と申し訳なさそうにする。

 

「おや、そちらのご婦人は」

 

 レイがモーリーンに気付く。

 

「なあに、ただのババアさ」

「何を言っているんですか。第6地上本部長、モーリーン・クロフォードさん」

 

 リンディの発言にレイとアフームは目を丸くする。

 

「第6地上本部長! いや、これはこんな姿で申し訳ありまへん。地球の国際魔術結社(IMS)の外交部のレイ=金剛=ダイヤモンドと申します」

「同じく外交部のアフーム=Z=シルバーですじゃ」

 

 レイは急いで上着を羽織る

 

「堅苦しい挨拶はいらないよ。あたしも虚空戦士(ハジケリスト)。今回は見事なハジケを見せてもらった礼を言いに来たのさ」

「いやいや、お見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ない限りです」

「そう、恐縮するもんじゃないさ。その年では見事なもんさ。これからの成長が楽しみだよ」

「そういって下さると幸いです」

 

 レイとアフームは頭を下げる。

 

「それよりもさ、お前さんの実家って宗教やってるんだろ? あたしもそうさ、宗教家なのさ」

「へえ、噂にはお聞きしてましたが、虚空教団でしたか? 次元世界第2位の」

「そうさ、お前さんとは宗教家としても話してみたかったところさ、如何だい、互いに問答と行こうじゃないか」

「望むところ!」

 

 そういうとレイとモーリーンはこけしの様な姿となり。ポヨンポヨンと跳ね回る。

 

「え?」

 

 リンディの驚愕をよそに、2人は接近する。

 

「リポミダン」

「F」

 

 問答終了。

 そしてポヨンポヨンと離れていくのだった。

 

「え?」

 

 リンディは状況がつかめない。

 

「まさか、ここまで一致するとはねえ」

「ええ、驚きです」

 

 モーリーンとレイの間でのみ何かが通じ合ったようである。

 

「まさか、ここまで家の教義と虚空教団の教義が一致するとは」

「全く同じ信仰を掲げているといってもいいだろうね。神々も同じとは驚きだよ」

「あの、一体何が」

「わからぬか提督殿。レイの実家の教義と虚空教団の教義がまるっきり同じということが判明したのじゃ。これは驚くべきことである」

「なんでわかるの?」

「わからぬか? 魂で」

「わからないわよ」

 

 リンディは理解することに匙を投げる。

 

「うちの伝承では、両家の初代は異邦人らしき記述があります。もしかしたらそちらからの次元漂流者だったのではないかと」

「ああ、その可能性は高いねえ。今となっては確かめようがないが」

「ええ、確かめようがありませんが」

 

 レイとモーリーンは互いに微笑み合う。

 

虚空戦士(ハジケリスト)は虚空教団の帰依者でなきゃいけないというルールはない。だがほとんどの虚空戦士(ハジケリスト)が帰依者だ。まさか、異郷の虚空戦士(ハジケリスト)が帰依者とはねえ」

「僕も驚きです。そもそも両親の実家の信仰が似ているだけでも驚きだというのに、次元世界でまさかルーツとなりうる事柄に出会うとは」

「この出会いは奇跡かもねえ」

「ええ、奇跡でしょう。両親へのお土産話が出来ました」

「別にあたしとしてはそちらに信仰にケチをつけるつもりはないさ。それどころか協力したいぐらいさね」

「僕も同意見ですが、こればっかりは両親と話をしないといけないことなので」

「ああ、そうだねえ、正式に外交を結んでからかねえ」

「では、交流していただけるので?」

「急いで内部をまとめるさ。なあに、うちは基本的にこういうことは早いのさ」

「助かります。まだ他の次元世界とはほとんど交流がないものですから」

「お互い、いい相手になるといいね」

「こちらとしても、そうありたいものです」

 

 レイとモーリーンは互いの国交について急速に話を進めていく。

 それは上手くいっているようであった。

 

「地球に我々の信仰があったとは、不思議な話ですね」

「……そうね、奇跡みたいな話ね」

「奇跡ですよ、これは」

 

 ニオとリンディの温度差は激しかった。

 感動するニオに対し、リンディはここまでの流れが全く分からなかった。

 

(第6地上本部、いや、第6次元文化圏は魔境と呼ばれる場所。虚空戦士(ハジケリスト)の巣窟。レイくんなら大丈夫かもしれないけど、他の人達はどうなんでしょうね)

 

 第6次元文化圏とは、第6管理世界ブリリアントを中心とした7つの管理世界の総称の事である。

 この文化圏での信仰は虚空教団が占めており、聖王教会が入り込む隙間はない。

 また、近代ブリリアント式魔法を使用すること、虚空戦士(ハジケリスト)が多数存在することで知られ、他の次元世界とは一線を画す世界なのである。

 ある種の独立性を保った文化圏であり、地上本部もまた独立性が高いのである。

 現在の第6地上本部長モーリーン・クロフォードは虚空教団の上級司祭でもあり、政教どちらの分野でも強権を握っている女傑である。

 

「言っとくけど、うちの上級管理職の連中は揃って上級司祭共さ。政治と宗教は切っても切り離せないんだよ。そこは理解してくれよ」

「ええ、最大限配慮します。僕の家も宗教ですから」

 

 この女傑に対して一歩も引かないレイの交渉力にリンディは舌を巻いていた。

 これがさっきまでハジケていた少年なのだろうか。

 リンディにはどちらの顔がレイの本性なのかわからなかった。

 

「さて、政治の話はここまでだ。あたしはお前さんに頼みがあってきたんだよ」

「頼み、ですか」

「ああ、お前さんほどの虚空戦士(ハジケリスト)ならきっとやってくれるんじゃないかと思ってね」

「それは一体?」

「キング・オブ・ハジケリストの称号を取ってきてもらいたいのさ」

「……僕は外部の人間ですよ」

「ほう? それが何なのかわかったみたいだねえ」

「恐らく、虚空戦士(ハジケリスト)の頂点を示す称号なんでしょう? ならば虚空教団に正式に属していない僕が取りに行くわけにはいきまへんよ」

「いや、お前さんはあたしたちと信仰を同じくするものだ。問題はないよ。いや、問題なんてないことにしてやる。異郷で信仰を保ち続けてきた一族の末裔だと言えばみんな諸手を挙げて賛成してくれるだろうさ」

「鷹揚なんですね、そちらは」

「だから、他の地上本部に比べて犯罪率が低いのさ。それより、引き受けてくれるかい?」

 

 レイは少し思案する。

 そこにアフームが口を挟んでくる。

 

「レイ、妾は引き受けてもいいと思うぞ。これはレイの信仰と実力を試すチャンスでもある」

「……アフームがそういうなら」

 

 レイは顔を上げると、モーリーンに向き直る。

 

「その話、お引き受けする方向性で行こうと思います。詳しい話は持ち帰ってから検討しますので」

「そうかい! それは有難いねえ。何しろキングの座は100年近く空位なのさ。キングにふさわしい虚空戦士(ハジケリスト)がいれば何としても唾をつけたいところさ」

「僕は外部の外交官ですよ。とられてもいいんですか?}

「おかしなことを言うね、お前さんは我々の同胞だろう? 信仰を同じくするね」

 

 レイとモーリーンの間に火花が散る。

 

「キングになっても手心は一切加えまへんで」

「そうでなくちゃあ。神々に誓ってそうしてくれ」

「ええ、神々に誓って」

 

 レイとモーリーンは互いに笑顔を見せた。

 リンディはそれを見て背筋に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな話があって、第6地上本部とは良好な関係を築けそうなんや」

 

 翠屋では新たにはやて、あすか、を加えたいつものメンバーがいつものようにお茶をしていた。

 今日の話題はこの前のレイとアフームの能力測定の話である。

 

「そういえば、レイくんの家って、どっちも宗教だっけ」

 

 すずかが思い出すように言う

 

「左様、母方が神社、父方がドルイドや」

「よく結婚できたなあ。こういう家って結婚相手に厳しそうなイメージあるけど」

 

 はやてが不思議そうに言う。

 

「それがな、父方の教義も母方の教義もそっくりやったから両家共にすんなり事が行ったんや。それに加え、今回の虚空教団ともそっくりと来た。偶然やないなこれは」

「ホント、偶然にしては出来過ぎよね。その教義が何なのか知らないけど」

 

 アリサがレイに同意する。

 

「そもそも、私達、レイがどういう宗教やってるのか知らなくない?」

 

 アリシアが声を上げる。

 

「確かに、それに、お寺と神社の違いもよくわかんないし、そういうのレイは詳しそうだよね」

「詳しいどころか、当事者やからなあ。よう知っとるで」

 

 フェイトの疑問にレイは自信満々に答えられると太鼓判を押す。

 

「お寺は仏教の施設。神社は神道の施設や。宗教が違うんや、宗教が」

 

 へえ、と声が上がる。

 

「うっとこの母方は神社やから、神道の家や。言うても日本は神道と仏教入り混じってしもうたからなあ。俺もお寺は行ったりするで」

 

 再びへえ、と声が上がる。

 

「違いは分かったけど、じゃあ、レイくんの家はどういう教えなの?」

 

 なのはが疑問を呈する。

 

「うむ、うっとこと虚空教団が同じ教義やイデオロギーを掲げているんはさっき話したな。

 固有名詞を虚空教団に合わせるんやけど、これらは同じ神話を伝えているんや」

 

「神話?」

 

 あすかが声を上げる。

 

「左様、それは非常にシンプルな神話でな、一説にはグノーシス主義の元になったとも言われているんやけど、それはどうでもええか。その神話によると、この宇宙を作った神様はこの宇宙を適当に作ったもんやから罰を喰らって封印されてもうたんや。そんで宇宙は適当に作られたもんやから混沌としていて、神々の世界の悪影響を及ぼしかねんかった。それを何とかしたのが、アタラ・ゾーという神様で、自らの6柱の娘を送り込んで宇宙に秩序をもたらしたんや。それが火の神クトゥグア、雷の神クトゥドェ、氷の神クトゥクヒ、風の神クトゥシャ、水の神クトゥピェ、土の神クトゥジィや。これらを秩序六神と呼ぶんや。ほんで宇宙に秩序がもたらされるわけやけども、それが気に入らんかったんが、宇宙を創造した神の子供たちや、彼らは新たにこの宇宙の内部で神を作り、この宇宙を混沌とさせようと暗躍したんや。それに対抗して秩序六神も生命が生まれる星に現れては悪い神々に対抗できる力を与えてきたんや。そしてとうとう、神々の戦争が始まってしまうんや。この戦いで秩序六神は敵の瘴気に中てられて、狂ってしまうんや。この時、わずかな理性をもって自分たちの一部を混ぜ合わせて、新しい神様を作るんや。しかしこの神様も狂ってしまったんで、仕方なく封印されることとなったんや。戦いは一応善い神々の勝ちで終わったんやけどその被害は尋常やなくてな、悪い神々は封印され、善い神々は引き籠ってしまいました。これがうっとこと虚空教団に伝わる神話や」

 

 へえ、と頷く声がする。

 

「これでもかいつまんで説明した話やで。大筋は合っとるけど」

 

 誰もが呆けたようにしている。

 

「アンタねえ、いつもこれくらい真面目でいなさいよ。あんたの神々はどういう教えしてんのよ」

 

 アリサが苦言を呈する。

 レイとアフームは顔を見合わせて答える。

 

「「汝、ハジケよ、と」」

 

 

 

 

 

 第6次元世界ブリリアント首都、ヘキサグラムは今夏である。

 次元船ポートではバカンスに出かける人、バカンスに来た人でごった返していた。

 そこに小学生の一団が現れる。

 入国管理官がパスポートの提示を求める。

 

「ヘキサグラムには観光で?」

「ええ、その様なものです」

 

 随分真っ白なパスポートだと管理官は思った。

 この年でスタンプまみれのパスポートというのも珍しいが。

 

「それではよい旅を」

「おおきに」

 

 銀髪銀眼の少年、レイが礼を言う。

 小学生の一団はポート内をきょろきょろと見回す。

 すると、ポート出口付近で見知った顔を見かける。

 

「皆さんようこそいらっしゃいました。ブリリアントへ!」

 

 モーリーンの秘書、ニオだ。

 

「しばらく、お世話になります」

 

 レイが代表して挨拶をする。

 ここに、キング・オブ・ハジケリストをめぐる物語が始まろうとしていた。




 ここのところ体調が優れません。
 執筆も思うようにうまくいかない日々が続きます。
 心身共に健康でないと執筆出来ないものですね。
 皆さんも体調には気をつけてください。

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