魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 今回から第2章開始!
 舞台も登場人物もガラッと変わるぞ!


第2章 NC0067 ゼスト隊
第1話 酸いも甘いも噛み分けた人妻達の午後


「厄介な奴をよこしてくれたな! レジアス!」

 

 ゼスト・グランガイツ一等陸尉は声を荒げる。

 その剣幕にオーリス・ゲイズは身をすくめるのだった。

 

「何なんだこいつらは! キング・オブ・ハジケリストだと! さらに管理外世界の外交官とはふざけているのか! 何故こいつらを隊に加えなければならん!」

 

 激しい様相のゼストに対し、この部屋の主であるレジアス・ゲイズ少将は苦々しい顔で静かに答える。

 

「上からの命令だ。とりわけ、第6地上本部長からのな」

「よその地上本部だろう。わざわざ干渉してくる理由がない」

「それがだ、キング直々に現場が見たいということだそうだ。しかもブリリアントでは特別扱いされるのが目に見えているから、他の地上本部で体験したいとのことだそうだ」

「それでここにお鉢が回ってきたという訳か!」

「……そうだ」

 

 ゼストは一つ大きくため息をつくと、感情を整える。

 

「何故うちだ?」

「わからん、上からお前のところに配属されるように言われた。恐らくカーテンの奥の奥からの指示だ」

「……最高評議会か」

「上の連中の考えていることは分からん。我々に出来ることはこの2人を無事に半年間預かることだけだ」

「彼らの実力はどうなんだ?」

「資料映像がある。オーリス、出せ」

「はい」

 

 オーリスがモニターを展開し、レイとアフームの映像を出す。

 

「映像は昨年撮影された、キング・オブ・ハジケリスト獲得直前のものだ。スペックは化物としか言いようがない。回避力、攻撃力はとんでもない上、実際の戦闘でも歴戦の騎士を翻弄するだけの実力を持ち合わせている」

「何なんだこいつらは……。常識外れだ」

「常識の欄外の存在だよこいつらは。虚空戦士(ハジケリスト)のトップだぞ。まっとうな奴のはずがあるまい」

「お前の嫌いなタイプだな」

「ああ、こういう才能の塊は駄目だ。地上の平和は多数の凡人で支えられているのだ。一部の天才が称賛され、凡人が埋もれるようではいけない」

 

レジアスは椅子にもたれかかる。

 

「全くもってその通りだ。彼らには世間の厳しさというものを味わってもらった方がいいかもな」

「思いきり味あわせてやってくれ。彼らには謙虚さが必要だ。天才という生き物にはな」

「任せてくれレジアス。この半年間で彼らを変えて見せるさ」

「頼りにしているぞ。地上の平和は我々が支えているということを思い知らせてやらねばな」

 

 

 

 

 

「本日は連絡事項が2つある。まずはアルピーノが育休から復帰した」

 

 ゼストの隣に立つメガーヌ・アルピーノが頭を下げる。

 それて同時に隊員達から拍手が起こる。

 その中には彼女の長年の相棒であるクイント・ナカジマもいた。

 

「続いて、本日から半年間、我が隊に出向してきた者たちがいる。2人共、挨拶しなさい」

 

 ゼストに促され、銀髪銀眼の少年少女が一歩前に出る。

 

「ニャニャーニャ、ニャーニャ」

 

 開口一番の猫語にゼスト以下隊員たちの力が抜ける。

 

「人間の言葉で話してくれ」

「もう、いけず何ですから。改めまして、キング・オブ・ハジケリストにして、第92管理外世界の外交官をしています、レイ=金剛=ダイヤモンドと申します。半年間という短い間ですが、よろしゅう御頼み申します」

「同じく外交担当のアフーム=Z=シルバーですじゃ。短い間ではあるが宜しく頼み申し上げる」

 

 メガーヌのときより力のない拍手が起きる。

 

「ふむ、反応が薄いですな。ここは一発ギャグでも」

「要らないからな」

「いけず」

 

 早速ハジケようとするレイを制止するゼスト。

 ゼストはこの少年が本当にかの天才少年なのかどうかわからなかった。

 言動こそふざけているものの、基本的には礼儀のしっかりした少年少女ではある。

 

(本性が掴めん)

 

「あの、キング・オブ・ハジケリストとは何でしょうか?」

 

 隊員の一人が手を上げ、質問する。

 ゼストはレイに目配せする。

 

「答えてやれ」

「はいな、キング・オブ・ハジケリストというんは虚空戦士(ハジケリスト)の頂点にして虚空教団の教主でもある唯一の称号なんです。すなわち、第6次元文化圏では僕は地上本部長と同等、いや、ある意味ではそれ以上の権力を持っとることになります」

 

 隊員達の中でどよめきが起こる。

 

「あの、何故うちに来たんですか? 普通なら第6地上本部に頼むはずなのに」

「ふむ、その意見ももっともです。その理由は僕が権力で特別扱いされるんが嫌いな人間やからです。特別扱いされるんなら僕個人の才能で特別扱いされたいんです。権力を振りかざすんは僕の主義に反します。それに僕はまだまだ未熟、さらに成長を促すためにも現場を知ることは必須と考え、関係各所に働きかけ、最前線であるこの隊に出向することになったのです」

「妾はレイと同じ景色を見たいが故についてきた。それに、世間を知ることは己を知ることにつながる。良き修業になると思うたのでな」

 

 ゼストは、この少年少女が才能に溺れるタイプではないように思えた。

 とはいえ、彼らの資質が異常であることもまた事実。

 今まで挫折したことがないのだろうとゼストは2人を評した

 

「質問は以上か? ではこれから訓練に入る。ナカジマ、お前は金剛=ダイヤモンドとシルバーにこの隊のやり方を教えるように。それでは始め!」

 

 

 

 

 

 レイとアフームの出向から1週間が経った。

 ゼストは2人の認識を改め始めていた。

 訓練は真面目に行うし、頭の回転が速いのか、連携もうまい。

 何より、今日まで力に任せた行動を一切取っていないというのは驚きであった。

 ただしちょいちょい挟まれるハジケた言動には悩まされてはいたが。

 なんだかんだで2人は隊に馴染み始めていた。

 

「今日の訓練は、模擬戦を行う。金剛=ダイヤモンドとシルバー対ナカジマとアルピーノで行う。他の者は模擬戦を題材にミーティングを行う。分かったな」

「「「「「「はい!」」」」」」

「それと金剛=ダイヤモンド、シルバーなんだその恰好は」

「「ホオジロザメです」」

 

レイとアフームはホオジロザメの着ぐるみを着ていた

 

「……模擬戦のときは脱ぐように」

「チッ、ツッコミは無しか」

「寂しいのう」

 

 レイとアフームはいそいそと着ぐるみを脱ぎながら、模擬戦の準備をする。

 その様子を見ながらゼストはため息をつくのだった。

 

(本性が分からん)

 

 

 

 

 

「こちらの準備は整ったわ」

「いつでもOKよ」

 

 クイントとメガーヌが準備が整ったことを告げる。

 

「こちらも準備万端です」

「後は火を入れるだけじゃ」

「「何の準備をしているの!?」」

「「BBQですが、何か?」」

 

 ゼストは呆れつつもこの戦いを見守っていた。

 この戦いでレイとアフームの本性が見抜けるかもしれないからだった。

 

(この戦い如何で敵か味方かがはっきりするだろうな)

「それでは、始め!」

 

 ゼストの号令と共に模擬戦が始まる。

 

「いつも通りいくわよ! ウイングロード!」

 

 クイントの掛け声とともに、緑色の帯状の魔力、ウイングロードが展開される。

 それに合わせてメガーヌが己の使い魔、インセクトを複数飛ばす。

 

「狙いは……成程、まずは蚊トンボから落とす」

 

 そう言うとレイの帽子が開き、空母のような甲板になる。

 

「第6空挺団! 作戦開始!」

「「「「「「アイアイサー!」」」」」」

「「何それ!? どうなってんのその帽子!?」」

 

 レイの頭上から飛行機が飛び立つ。

 

「「「「「「いざ勝負!」」」」」」

 

 しかし、第6空挺団のぼろ負けだった。

 

「「弱っ!」」

「うう、スターフォックスなら負けないのに」

「この雑魚共が!」

 

 第6空挺団の弱音にレイの一喝が響く。

 そこにクイントの拳が襲い掛かる。

 しかしその拳はレイによって防がれた。

 

「今のが隙だとでも? 読みが浅いですよ、奥さん。腕力『アームレスリング太郎の東海道五十三次』!」

 

 レイが腕をひねるとクイントがぐるりと宙を回転する。

 

「嘘! この子のどこにこんな力が!?」

「ガリュー!」

 

反対側からメガーヌの使い魔、人型の蟲ガリューが接近してくる。

 しかし、アフームもまた備えていた。

 

「ビ~チクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチク!」

 

 アフームがガリューの乳首と思しき個所を執拗に攻める。

 未知の感覚にガリューは困惑する。

 

「何なの今の技!?」

「人呼んで乳首の戦乙女、ビーチクガール」

「「何それ!?」」

「次はこちらが攻める番や。そちらの道を利用させてもらいましょか」

 

 そう言ったレイは首から下を車に変形させて発進する。

 

「「どうやったらそうなるの!?」」

 

その隙にアフームも車になり発進する。

 

「あの二人、まっすぐこっちに来る!」

 

 メガーヌが叫ぶ。

 

「先に後衛を潰そうってわけ? そうはさせないわ!」

 

 クイントがレイを追いかける。

 

「ガリュー! 女の子を追って!」

 

 ガリューは頷くがアフームを見失っていた。

 ガリューには変形したアフームを認識できなかったのだ。

 

「ああ、もう! だから虚空戦士(ハジケリスト)は! ガリュー、戻って!」

 

 ガリューは頷くとメガーヌの元へと戻る。

 しかし、レイとアフームの方が速い。

 

「風っ! 今俺達は風!」

「ヒャッハー!」

 

 メガーヌは世紀末スタイルの2人の突撃をじっくりと見据えている。

 2人と接触する寸前、メガーヌは横っ飛びで衝突を回避する。

 

「後衛だから動けないと思った!?」

「いや、計算通りや」

 

 そう言うとレイとアフームは急ブレーキをかけUターンする。

 狙いはクイントだ。

 

「クイント!」

「真っ向勝負ってわけ、面白い!」

 

 3者によるブルファイトとなった。

 近づいていく距離。

 

「「奥義『轢き殺し』!」」

 

 レイとアフームがスーパーカーに乗ってクイントを正面から轢く。

 

「バハマッ!!!」

「愛車に傷がついてしまったではないかー!」

「グハッ!」

「理不尽だ!」

 

 アフームの拳がクイントに入る。

 

「奥義『レイちゃんの高速人妻縛り術』」

 

 そこへレイがクイントを拘束する。

 

「まず1人」

「クイント! ガリュー! 行って!」

 

 メガーヌがガリューを送り出す。

 

「アフーム、任せた!」

「任された! 焼却『バーンオンファイア夏の虫』!」

 

 炎の弾幕がガリューとメガーヌに襲い掛かる。

 

「ちょっとコレ何この量! ガリュー! 避けて!」

「そうそう、弾幕といったら避けるものなんや。決して防ぐもんやない」

 

 レイが炎の弾幕を避けながらガリューに接近していく。

 

「! まさか狙いは!」

「気付いたところでどうします?」

 

 レイがガリューに肉薄する。

 手には六尺ほどの六角如意金剛棒が握られている。

 

「乱馬『火中天津甘栗拳 棍バージョン』!」

 

 高速の突きがガリューを襲う。

 ガリューは衝撃と共に吹っ飛び、炎の弾幕を浴びて動かなくなる。

 

「ガリュー!」

「おっと、人の心配をして大丈夫なのか?」

「そうそう、今動けるんはあんた一人だけやで」

 

 レイとアフームに挟まれる形になったメガーヌ。

 クイントは拘束から抜け出せない。

 ガリューは動けないくらいのダメージを負っている。

 

「……降参するわ」

 

 メガーヌは静かに両手を上げた。

 

 

 

 

 

「この戦いをどう見る?」

 

 模擬戦終了後のミーティングで、ゼストは隊員たちに問いかけた。

 隊員の一人が手を上げる。

 

「私は虚空戦士(ハジケリスト)が何をしてくるのかわからない点が、今回の勝敗を分けた点だと思います。戦いにおいて予測は大切な要素です。それを一切させない虚空戦士(ハジケリスト)の戦い方は非常に苦しいものがあると思います」

「だそうだ、ナカジマ、アルピーノ、お前達は戦ってみてどう思った」

「そうですね、悉くこちらの予想が当たらないものですから、思うがままにされていたと思います。それに、車で轢かれるなんて予想できます?」

 

 クイントが憤懣やるかたなしといった雰囲気で言う。

 

「私も、まさか同じ土俵に上がってくるなんて予想もしなかったわ。ウイングロードを利用して戦うなんて、事前にある程度打合せしていないと無理なんじゃない? ていうか、この子たちの前でウイングロードを使うの初めてよね。なんで対応できたの?」

 

 メガーヌが訳が分からないといった顔で言う。

 

「だそうだ。金剛=ダイヤモンド、シルバー、何か言うことはあるか」

「妾はただレイの指示通りに動いただけじゃ。具体的な作戦など妾にはわからぬ」

 

 アフームはレイに説明を丸投げする。

 

「ふむ、そうですな、今回の目的としてはまず各個撃破と、連携の分断というんが頭にありました。確か2人は学生時代からの仲だそうで、その2人の連携を崩すんには相手の予測を上回る必要があります。相手としては羽虫に気を取られている隙に挟み撃ちにするつもりやったんでしょう。なんで早々に羽虫には別の奴の相手をすることで、こちらは集中して警戒できたわけです。後は流れで」

「「「「「「流れでどうにかなる話!?」」」」」」

虚空戦士(ハジケリスト)とはそういうもんです。相手の策や土俵にあえて乗り、それを上回ることこそ俺の得意技なもんで」

 

 レイは得意げに鼻を鳴らす。

 

「じゃあ、車に変形したのも」

「流れです」

「先にクイントさんを狙ったのも」

「流れです」

「最後の弾幕も」

「流れじゃ」

 

 隊員たちはぽかんとする。

 それもそうだ、戦いのほとんどをその場の流れで片付けられては考察のしようがない。

 

「じゃあ、戦う前に決まっていたことって、何?」

 

 隊員の一人が質問する。

 

「初めての相手と戦うときにすることは2つ、様子見と地形確認!」

「全く持ってその通りだ」

 

 ゼストが頷く。

 

「今回の戦いは終始金剛=ダイヤモンドが支配していたと言えよう。戦いはその場の空気を支配したものが勝つ。みんなも心に留めておくように」

「「「「「「はい」」」」」」

 

 ゼストの言葉に全員が頷く。

 

「それにしても翻弄されたわ。流石はキング・オブ・ハジケリストね」

「ホント、なんでわざわざうちに来たのよ、もっと活躍できるところはありそうなのに」

「最前線でなければ意味がないんです」

 

 レイを評価するメガーヌとクイントにレイは意味ありげな笑顔を浮かべるのであった。




 大分体調が回復してきました。
 近いうちに執筆再開できそうです。
 ……感想来ないなー。

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