魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
帰れない、2人を残して。
「これは緊急の極秘任務だ。終わっても誰かに話してはならない。分かったな」
ゼストの声がブリーフィングルームに響く。
誰もが緊張した面持ちでゼストの話を聞いている。
その中にレイとアフームがいる。
2人の顔は妙に青い。
(死亡フラグがビンビンに立ってますがな)
レイはこの事件に嫌な予感を感じていた。
むせかえる死臭にレイは吐き出しそうになる。
しかし、それをぐっとこらえ、ゼストの話を聞く。
「目標地点に到着したら、隊を二つに分ける。私が率いる潜入班と、地上班だ。潜入班のメンバーは……」
レイは潜入班、アフームは地上班だ。
(のう、レイ、気付いているかの)
(気付かんはずがあるか。死亡フラグやろ)
(ああ、ビンビンじゃ)
(ビンビンやな)
(どうする? 妾達に何が出来る?)
(一応警告はしとく、後は野なれ山となれとしか言いようがないわ)
(適当じゃな)
(仕方ないやろ)
作戦の説明が終わる。
「以上が本作戦の説明だ。何か質問はあるか」
レイが手を上げる。
「この作戦には何か嫌な予感がします。何か良くないことが起きる、そう占術にも出ています」
「それは確かなのか。根拠はあるのか」
「僕の占術はよう当たるんです。とりわけ、悪いことに関しては的中率が96%です」
「……心に留めておこう。全員、気を引き締めるように。相手はS級次元犯罪者で違法研究者、ジェイル・スカリエッティだ。どんな手を使ってくるか分からない。気をつけろよ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「他に質問はあるか」
ひとしきり質問が終わった後、ゼストは一時解散を促す。
「それでは、一時解散とする。1時間後に転移だそれまでに集合しておくように」
隊員たちが席を立つ。
レイとアフームはむせかえる死臭に我慢できず、トイレに駆け込む。
トイレでえずきながらレイは決意を固める。
(絶対に死者は出さん。何としてでも、死者を出してなるものか)
「大丈夫か?」
隊員の一人がレイに声をかける。
「ええ、大丈夫です。ちょっと悪い想像が働いたもんで」
「そうか、あまり考えすぎるなよ」
「ええ、おおきに」
そう言うとレイはトイレから出てくる。
背後に悪霊を引き連れながら。
「「何か取り憑いてるーーー!!!」」
「心配してくれてほんにおおきに」
「「気付け! 背中に何かいることに」」
「もう、気分はすっきりしました。仕事しましょ」
「「大丈夫なのか!?」」
悪霊と共にレイはトイレを去る。
残された隊員二人は顔を見合わせるのだった。
第8無人世界。一面砂漠のこの世界に、不審な人工物が発見されたことが、今回の任務の発端である。
打ち捨てられた研究施設に明かりがともっていること、そこで発見された謎の機械、それがスカリエッティ製である可能性が高かったのだ。
それ故どうも、ジェイル・スカリエッティにかかわる施設らしいことが分かり、一刻も早い確保をするために、ゼスト隊に極秘緊急任務として送られてきたのである。
「あれか……」
「その様じゃな」
アラビア風の衣装に身を包んだレイとアフームが砂山越しに双眼鏡で施設を眺める。
「その恰好はなんだ」
「「雰囲気作りです」」
「いらん」
「「いけず」」
ゼストに冷たいツッコミを受け、渋々元の服に戻る2人。
「ここから先は敵地だ。気を引き締めていけ」
声を出せないため、静かに頷く隊員達。
静かに研究施設へと突入していく。
一見すると、研究施設はもぬけの殻のようではあった。
しかし、レイの観察力はそれを見逃さなかった。
「砂が払われとる。最近までここに居た用やな」
「本当か」
ゼストが確認に来る。
クイントやメガーヌも寄ってくる。
「ええ、これを見てください。一件カモフラージュされとりますが、これはハッチです。下と繋がっとるはずです」
「ここから入れるか」
「どうでしょう。大きさとしては機械の出入り用みたいですし、人用の入り口があるはずです。探してみましょ」
そう言うと全員で入り口を探す。
「む、これではないか」
アフームが出入り口のハッチを見つける。
「ナイス。大きさ的にもそれっぽいで。開け閉めできるフックもついとる。連中慌てて逃げたか? 随分とおざなりやな」
「何でもいい、スカリエッティに繋がるかもしれないんだ、急ぐぞ」
ハッチが開けられ、レイ、ゼスト、クイント、メガーヌ含む潜入班が次々と中へ入っていく。
アフーム達地上班はそれを見守りながら。周辺の警戒をする。
アフームは天を仰ぎながら、不安そうに呟く。
「天気がいい。なのに随分と嫌な風が吹く」
「気のせいじゃないの?」
「だといいのじゃが」
隊員の一人に気のせいといわれても、アフームの心は晴れなかった。
地下を進むゼスト達隊員たちは、電気をつけることなく進んでいた。
全員暗視魔法を使用している。
ゆっくりと、だが確実に彼らはこの施設の容貌を明らかにしていた。
打ち捨てられた機械類、地を覆う埃、錆びついた配管、全てがこの施設の不気味さを演出していた。
ふと、ゼストが何かに気付く。
「見られているな」
「隊長殿も気づきましたか。見張られていますね」
レイもその気配に気づいたようである。
「数は1、現れたり消えたりする。実に不思議な手合いや」
「全員、気をつけろ。ここには何かある」
生唾を飲む音が聞こえる。
全員気を張っているのがレイには感じられた。
(ううむ、良くない傾向やな。みんな硬くなっとる)
レイとしてはここで一つハジケたいところであったが、そこをぐっとこらえる。
この任務がどれだけ重要なものか、わかっているからだ。
かろうじて理性が今は勝っているが、まるで酸欠になったフグの様にレイはハジケを欲していた。
(ああ、ハジケたい。思いっきりハジケたい)
レイはもうすぐ禁断症状が出るんじゃないかと不安になった。
「おや、あれは」
見ると、大部屋への入り口のようだ。
気を付けながら中へと入っていく。
どうやら主要研究施設なのか、様々な機械類が所狭しと並んでいる。
「金剛=ダイヤモンド、解析を」
「はいな」
そう言うと、レイは巨大なモニターの前に立ち、電源を入れる。
(あー作業すると落ち着く)
レイはデータを抜き取る作業に没頭することで、何とか精神の安定を図っていた。
(なんか面白いもん見つからんかなあ)
隊員たちは周囲の機械類を眺めながら、データ発掘が終わるのを待っている。
レイは一つ大きなため息をつくと、コンソールを叩くのであった。
レイは用意したハードディスクにデータを移していく。
それと並行しながら、面白そうなデータを探していた。
「結構長く使っとったみたいですな、データが多い多い」
「いくつか見れるか」
「待ってください、どうぞ」
レイはいくつかデータのウインドウを開く。
「……うむ、やはり戦闘機人プラントだったか」
「戦闘機人というと、あの?」
「ああ、戦闘用に改造された人間。ジェイル・スカリエッティの研究テーマでもある」
「検体名SEINですか、ここで作られたのはこの子だけみたいですね」
「でもいないということは完成している可能性が高い」
ゼストとクイント、メガーヌがモニターを眺めながら呟く。
「! これは……」
「レイくん、何を見つけたの」
「これを見てくんさい」
レイはウインドウを開く。
その内容にゼスト以下隊員たちは驚愕の表情を浮かべるのだった。
地上ではアフーム達が周辺警戒をしていた。
しかし、何も起こらないせいか、隊員たちの気に緩みが見え始める。
アフームは天を仰ぐ。
(良くない傾向じゃな、緩みが見える)
ふと、アフームの第六感が働く。
「誰じゃ! そこにおるのは!」
アフームの一言で全員の気が引き締まる。
「何故バレたの? 私のシルバーカーテンは完璧なはず」
茶髪に眼鏡の少女が突然現れ、驚愕の声を上げる。
彼女の前に、紫髪短髪の女性と銀髪長髪眼帯の少女がいる。
彼女たちも驚愕の表情を浮かべている。
「なに、ただの勘じゃ」
「勘って、そんな非科学的な!」
「正確に言えば、気配がするのに姿が見えなかったのでな、やはり幻術の類であったか」
「ただの術じゃないわ」
「その様じゃのう、解除のアクションが異様に短い。異能力じゃな?」
「わかったところで何の意味があるの? あなた達はここで死ぬの、何にもできずにね」
「そうか、魂胆が見えぬが、恐らくスカリエッティの関係者じゃな?」
「フン、答える理由はないわ。死になさい」
茶髪の少女がそう言うと、建物が震え、轟音が響く。
「いかん! 建物ごと潰す気か!」
「わかったところで何ができる!? そのまま無様に死になさい!」
「全員、妾のそばに集まれ! 早く!」
アフームに促され、近くによる隊員達。
それと同時に、建物が崩れ、全員生き埋めになるのであった。
上から轟音がする。
振動が部屋を包む。
「やられた! 連中、俺らを生き埋めにする気や!」
レイが叫ぶ。
「生き埋めだと! じゃああのハッチは」
「もう使えないでしょう」
「ならば上をぶち抜いて」
「建物の残骸がなだれ込む可能性があります、お勧めできません」
「じゃあどうしろと!」
ゼストが大声を上げる。
「どうもできないよ」
聞き覚えの無い少女の声がする。
その声はいつの間にか現れた、セミロングの水色の髪の少女から発せられていた。
「何者だ!」
「戦闘機人セイン、ドクターの命であんた達を監視していた」
場に緊張が走る。
「あんたたちは何もできないまま、生き埋めになる運命しかない。諦めたら?」
歯噛みする隊員たち。
しかし、レイだけは静かに口を開く。
「アンタは? どうやってここから出るん?」
「心配いらないよ、出る方法はあるから」
「ということはあんた一人だけ助かる方法がある、ということやな。成程、監視役としてぴったりや」
「レイくん! 今は雑談している場合じゃないでしょ!」
クイントがレイをたしなめる。
建物崩壊による振動が収まっていく。
「これは完全に埋められたね、これで助かる方法は無くなったよ」
「まだ、通信で助けを呼べれば……」
「そうそう、この周囲には強力なAMFと通信ジャマー結界を張っているから、助けは呼べないよ」
絶望が隊員たちの間で広がった。
「それじゃあ私はこれで失礼するね」
セインが地面に吸いこまれていく。
「ちょい待ち」
レイが呼び止める。
帽子が開いており、中には掃除機を持った老婆が立っている。
「……何それ」
「おそうじばあさん! スイッチオン!」
「はいな!」
掛け声とともに恐ろしいまでの掃除機の吸引が始まる。
すさまじい吸引力がセインを地面から引きはがそうとする。
「くっ、だけどこのまま潜れば」
だが、それは叶わない。
セインは潜ることが出来ず、地面に下半身を留め置かれた状態になった。
その状態で状況は拮抗する。
(くっ、体が引き千切られそうだ。あの掃除機にどんな力が)
セインは全身の力を込めて、潜ろうと試みる。
しかし、体はびくとも動かない。
ふと、セインはレイの方を見る。
レイはボウリング球を構えていた。
「え?」
セインの頭は理解が追い付かず、真っ白になる。
「あの、レイくん? 何する気?」
メガーヌがレイに尋ねる。
レイは真っ黒な笑顔を浮かべる。
「目の前にピンがあるやろ? 人間ボウリングの時間や」
「ひっ」
レイはにちゃあと気味の悪い笑顔を浮かべる。
「ちょっとそれは残酷すぎるわよ!」
「やめなさい! それは人に向けるもんじゃないわ!」
クイントとメガーヌがレイを制止しようとする。
「うるへー! 今の今までハジケられんかったんや! ここでハジケんで何時ハジケる! レッツボウリング!」
セインは慌てて潜ろうとする。
しかし、体はびくとも動かない。
(動け! 動け! 私の体!)
しかし、無情にも刑の宣告はなされてしまう。
「ええい、邪魔や!」
レイの目からビームが放たれ、クイントとメガーヌを攻撃する。
「「きゃあ!」」
「さあ! レッツボウリング! な・か・や・ま律子さんー!」
ボウリング玉がセインに向かっていく。
「いやああああああ!!!」
ボウリング玉がセインの腹部に激突する。
「おぶ!!!」
その瞬間、セインの体が浮き始める。
そして、セインの体が地面から離れていく。
「ああああああああ!!!」
セインは、掃除機に吸い込まれていくのだった。
「「「「「「吸い込んでどうする気だ!?」」」」」」
隊員たちが一斉にツッコむ。
「そら、まあ、馬鹿と鋏は使いよう、ってね」
レイがくるりと隊員達の方を振り向く。
「「「「「「あ」」」」」」
「うおおおおおお!」
言うまでもなく、隊員たちはゼスト含め全員掃除機の餌食となったのであった。
全員を吸い込んだ後、一人レイは周囲を確認すると、にやりと口角を上げた。
急激に暖かい日になりましたね。
皆さん、体調は大丈夫でしょうか。
僕は宜しくありません。
皆さんも気を付けてくださいね。