魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 帰れない、2人を残して。


第3話 虎穴に入らずんば虎子を得ず

「これは緊急の極秘任務だ。終わっても誰かに話してはならない。分かったな」

 

 ゼストの声がブリーフィングルームに響く。

 誰もが緊張した面持ちでゼストの話を聞いている。

 その中にレイとアフームがいる。

 2人の顔は妙に青い。

 

(死亡フラグがビンビンに立ってますがな)

 

 レイはこの事件に嫌な予感を感じていた。

 むせかえる死臭にレイは吐き出しそうになる。

 しかし、それをぐっとこらえ、ゼストの話を聞く。

 

「目標地点に到着したら、隊を二つに分ける。私が率いる潜入班と、地上班だ。潜入班のメンバーは……」

 

 レイは潜入班、アフームは地上班だ。

 

(のう、レイ、気付いているかの)

(気付かんはずがあるか。死亡フラグやろ)

(ああ、ビンビンじゃ)

(ビンビンやな)

(どうする? 妾達に何が出来る?)

(一応警告はしとく、後は野なれ山となれとしか言いようがないわ)

(適当じゃな)

(仕方ないやろ)

 

 作戦の説明が終わる。

 

「以上が本作戦の説明だ。何か質問はあるか」

 

 レイが手を上げる。

 

「この作戦には何か嫌な予感がします。何か良くないことが起きる、そう占術にも出ています」

「それは確かなのか。根拠はあるのか」

「僕の占術はよう当たるんです。とりわけ、悪いことに関しては的中率が96%です」

「……心に留めておこう。全員、気を引き締めるように。相手はS級次元犯罪者で違法研究者、ジェイル・スカリエッティだ。どんな手を使ってくるか分からない。気をつけろよ」

「「「「「「はい!」」」」」」

「他に質問はあるか」

 

 ひとしきり質問が終わった後、ゼストは一時解散を促す。

 

「それでは、一時解散とする。1時間後に転移だそれまでに集合しておくように」

 

 隊員たちが席を立つ。

 レイとアフームはむせかえる死臭に我慢できず、トイレに駆け込む。

 トイレでえずきながらレイは決意を固める。

 

(絶対に死者は出さん。何としてでも、死者を出してなるものか)

「大丈夫か?」

 

 隊員の一人がレイに声をかける。

 

「ええ、大丈夫です。ちょっと悪い想像が働いたもんで」

「そうか、あまり考えすぎるなよ」

「ええ、おおきに」

 

 そう言うとレイはトイレから出てくる。

 背後に悪霊を引き連れながら。

 

「「何か取り憑いてるーーー!!!」」

「心配してくれてほんにおおきに」

「「気付け! 背中に何かいることに」」

「もう、気分はすっきりしました。仕事しましょ」

「「大丈夫なのか!?」」

 

 悪霊と共にレイはトイレを去る。

 残された隊員二人は顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 第8無人世界。一面砂漠のこの世界に、不審な人工物が発見されたことが、今回の任務の発端である。

 打ち捨てられた研究施設に明かりがともっていること、そこで発見された謎の機械、それがスカリエッティ製である可能性が高かったのだ。

 それ故どうも、ジェイル・スカリエッティにかかわる施設らしいことが分かり、一刻も早い確保をするために、ゼスト隊に極秘緊急任務として送られてきたのである。

 

「あれか……」

「その様じゃな」

 

 アラビア風の衣装に身を包んだレイとアフームが砂山越しに双眼鏡で施設を眺める。

 

「その恰好はなんだ」

「「雰囲気作りです」」

「いらん」

「「いけず」」

 

 ゼストに冷たいツッコミを受け、渋々元の服に戻る2人。

 

「ここから先は敵地だ。気を引き締めていけ」

 

 声を出せないため、静かに頷く隊員達。

 静かに研究施設へと突入していく。

 一見すると、研究施設はもぬけの殻のようではあった。

 しかし、レイの観察力はそれを見逃さなかった。

 

「砂が払われとる。最近までここに居た用やな」

「本当か」

 

 ゼストが確認に来る。

 クイントやメガーヌも寄ってくる。

 

「ええ、これを見てください。一件カモフラージュされとりますが、これはハッチです。下と繋がっとるはずです」

「ここから入れるか」

「どうでしょう。大きさとしては機械の出入り用みたいですし、人用の入り口があるはずです。探してみましょ」

 

 そう言うと全員で入り口を探す。

 

「む、これではないか」

 

 アフームが出入り口のハッチを見つける。

 

「ナイス。大きさ的にもそれっぽいで。開け閉めできるフックもついとる。連中慌てて逃げたか? 随分とおざなりやな」

「何でもいい、スカリエッティに繋がるかもしれないんだ、急ぐぞ」

 

 ハッチが開けられ、レイ、ゼスト、クイント、メガーヌ含む潜入班が次々と中へ入っていく。

 アフーム達地上班はそれを見守りながら。周辺の警戒をする。

 アフームは天を仰ぎながら、不安そうに呟く。

 

「天気がいい。なのに随分と嫌な風が吹く」

「気のせいじゃないの?」

「だといいのじゃが」

 

 隊員の一人に気のせいといわれても、アフームの心は晴れなかった。

 

 

 

 

 

 地下を進むゼスト達隊員たちは、電気をつけることなく進んでいた。

 全員暗視魔法を使用している。

 ゆっくりと、だが確実に彼らはこの施設の容貌を明らかにしていた。

 打ち捨てられた機械類、地を覆う埃、錆びついた配管、全てがこの施設の不気味さを演出していた。

 ふと、ゼストが何かに気付く。

 

「見られているな」

「隊長殿も気づきましたか。見張られていますね」

 

 レイもその気配に気づいたようである。

 

「数は1、現れたり消えたりする。実に不思議な手合いや」

「全員、気をつけろ。ここには何かある」

 

 生唾を飲む音が聞こえる。

 全員気を張っているのがレイには感じられた。

 

(ううむ、良くない傾向やな。みんな硬くなっとる)

 

 レイとしてはここで一つハジケたいところであったが、そこをぐっとこらえる。

 この任務がどれだけ重要なものか、わかっているからだ。

 かろうじて理性が今は勝っているが、まるで酸欠になったフグの様にレイはハジケを欲していた。

 

(ああ、ハジケたい。思いっきりハジケたい)

 

 レイはもうすぐ禁断症状が出るんじゃないかと不安になった。

 

「おや、あれは」

 

 見ると、大部屋への入り口のようだ。

 気を付けながら中へと入っていく。

 どうやら主要研究施設なのか、様々な機械類が所狭しと並んでいる。

 

「金剛=ダイヤモンド、解析を」

「はいな」

 

 そう言うと、レイは巨大なモニターの前に立ち、電源を入れる。

 

(あー作業すると落ち着く)

 

 レイはデータを抜き取る作業に没頭することで、何とか精神の安定を図っていた。

 

(なんか面白いもん見つからんかなあ)

 

 隊員たちは周囲の機械類を眺めながら、データ発掘が終わるのを待っている。

 レイは一つ大きなため息をつくと、コンソールを叩くのであった。

 レイは用意したハードディスクにデータを移していく。

 それと並行しながら、面白そうなデータを探していた。

 

「結構長く使っとったみたいですな、データが多い多い」

「いくつか見れるか」

「待ってください、どうぞ」

 

 レイはいくつかデータのウインドウを開く。

 

「……うむ、やはり戦闘機人プラントだったか」

「戦闘機人というと、あの?」

「ああ、戦闘用に改造された人間。ジェイル・スカリエッティの研究テーマでもある」

「検体名SEINですか、ここで作られたのはこの子だけみたいですね」

「でもいないということは完成している可能性が高い」

 

 ゼストとクイント、メガーヌがモニターを眺めながら呟く。

 

「! これは……」

「レイくん、何を見つけたの」

「これを見てくんさい」

 

 レイはウインドウを開く。

 その内容にゼスト以下隊員たちは驚愕の表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 地上ではアフーム達が周辺警戒をしていた。

 しかし、何も起こらないせいか、隊員たちの気に緩みが見え始める。

 アフームは天を仰ぐ。

 

(良くない傾向じゃな、緩みが見える)

 

 ふと、アフームの第六感が働く。

 

「誰じゃ! そこにおるのは!」

 

 アフームの一言で全員の気が引き締まる。

 

「何故バレたの? 私のシルバーカーテンは完璧なはず」

 

 茶髪に眼鏡の少女が突然現れ、驚愕の声を上げる。

 彼女の前に、紫髪短髪の女性と銀髪長髪眼帯の少女がいる。

 彼女たちも驚愕の表情を浮かべている。

 

「なに、ただの勘じゃ」

「勘って、そんな非科学的な!」

「正確に言えば、気配がするのに姿が見えなかったのでな、やはり幻術の類であったか」

「ただの術じゃないわ」

「その様じゃのう、解除のアクションが異様に短い。異能力じゃな?」

「わかったところで何の意味があるの? あなた達はここで死ぬの、何にもできずにね」

「そうか、魂胆が見えぬが、恐らくスカリエッティの関係者じゃな?」

「フン、答える理由はないわ。死になさい」

 

 茶髪の少女がそう言うと、建物が震え、轟音が響く。

 

「いかん! 建物ごと潰す気か!」

「わかったところで何ができる!? そのまま無様に死になさい!」

「全員、妾のそばに集まれ! 早く!」

 

 アフームに促され、近くによる隊員達。

 それと同時に、建物が崩れ、全員生き埋めになるのであった。

 

 

 

 

 

 上から轟音がする。

 振動が部屋を包む。

 

「やられた! 連中、俺らを生き埋めにする気や!」

 

 レイが叫ぶ。

 

「生き埋めだと! じゃああのハッチは」

「もう使えないでしょう」

「ならば上をぶち抜いて」

「建物の残骸がなだれ込む可能性があります、お勧めできません」

「じゃあどうしろと!」

 

 ゼストが大声を上げる。

 

「どうもできないよ」

 

 聞き覚えの無い少女の声がする。

 その声はいつの間にか現れた、セミロングの水色の髪の少女から発せられていた。

 

「何者だ!」

「戦闘機人セイン、ドクターの命であんた達を監視していた」

 

 場に緊張が走る。

 

「あんたたちは何もできないまま、生き埋めになる運命しかない。諦めたら?」

 

 歯噛みする隊員たち。

 しかし、レイだけは静かに口を開く。

 

「アンタは? どうやってここから出るん?」

「心配いらないよ、出る方法はあるから」

「ということはあんた一人だけ助かる方法がある、ということやな。成程、監視役としてぴったりや」

「レイくん! 今は雑談している場合じゃないでしょ!」

 

 クイントがレイをたしなめる。

 建物崩壊による振動が収まっていく。

 

「これは完全に埋められたね、これで助かる方法は無くなったよ」

 

「まだ、通信で助けを呼べれば……」

「そうそう、この周囲には強力なAMFと通信ジャマー結界を張っているから、助けは呼べないよ」

 

 絶望が隊員たちの間で広がった。

 

「それじゃあ私はこれで失礼するね」

 

 セインが地面に吸いこまれていく。

 

「ちょい待ち」

 

 レイが呼び止める。

 帽子が開いており、中には掃除機を持った老婆が立っている。

 

「……何それ」

「おそうじばあさん! スイッチオン!」

「はいな!」

 

 掛け声とともに恐ろしいまでの掃除機の吸引が始まる。

 すさまじい吸引力がセインを地面から引きはがそうとする。

 

「くっ、だけどこのまま潜れば」

 

 だが、それは叶わない。

 セインは潜ることが出来ず、地面に下半身を留め置かれた状態になった。

 その状態で状況は拮抗する。

 

(くっ、体が引き千切られそうだ。あの掃除機にどんな力が)

 

 セインは全身の力を込めて、潜ろうと試みる。

 しかし、体はびくとも動かない。

 ふと、セインはレイの方を見る。

 レイはボウリング球を構えていた。

 

「え?」

 

 セインの頭は理解が追い付かず、真っ白になる。

 

「あの、レイくん? 何する気?」

 

 メガーヌがレイに尋ねる。

 レイは真っ黒な笑顔を浮かべる。

 

「目の前にピンがあるやろ? 人間ボウリングの時間や」

「ひっ」

 

 レイはにちゃあと気味の悪い笑顔を浮かべる。

 

「ちょっとそれは残酷すぎるわよ!」

「やめなさい! それは人に向けるもんじゃないわ!」

 

 クイントとメガーヌがレイを制止しようとする。

 

「うるへー! 今の今までハジケられんかったんや! ここでハジケんで何時ハジケる! レッツボウリング!」

 

 セインは慌てて潜ろうとする。

 しかし、体はびくとも動かない。

 

(動け! 動け! 私の体!)

 

 しかし、無情にも刑の宣告はなされてしまう。

 

「ええい、邪魔や!」

 

 レイの目からビームが放たれ、クイントとメガーヌを攻撃する。

 

「「きゃあ!」」

「さあ! レッツボウリング! な・か・や・ま律子さんー!」

 

 ボウリング玉がセインに向かっていく。

 

「いやああああああ!!!」

 

 ボウリング玉がセインの腹部に激突する。

 

「おぶ!!!」

 

 その瞬間、セインの体が浮き始める。

 そして、セインの体が地面から離れていく。

 

「ああああああああ!!!」

 

 セインは、掃除機に吸い込まれていくのだった。

 

「「「「「「吸い込んでどうする気だ!?」」」」」」

 

隊員たちが一斉にツッコむ。

 

「そら、まあ、馬鹿と鋏は使いよう、ってね」

 

レイがくるりと隊員達の方を振り向く。

 

「「「「「「あ」」」」」」

「うおおおおおお!」

 

 言うまでもなく、隊員たちはゼスト含め全員掃除機の餌食となったのであった。

 全員を吸い込んだ後、一人レイは周囲を確認すると、にやりと口角を上げた。




 急激に暖かい日になりましたね。
 皆さん、体調は大丈夫でしょうか。
 僕は宜しくありません。
 皆さんも気を付けてくださいね。

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